キーエンス開発プロジェクト

3Dプリンタ AGILISTA

キーエンスの開発に固定観念はない。実験環境すらゼロから始まった3Dプリンタ。

鈴木 秀行 [マーキング事業部]

今でこそ市民権を得てきた「3Dプリンタ」。3D-CADデータを元に1個単位から精細な造形ができるため、実用に向けて世界的に大きなムーブメントが生まれつつある。そんな3Dプリンタを開発しようという話が持ち上がった。まだ、ユーザーとしての立場でもビギナーで、既存商品とはほとんどオーバーラップしない分野である3Dプリンタの開発は、キーエンスにとっても前例なき未知への挑戦だ。すべてがゼロからのスタート。しかし、ビギナーでも使いやすく納得のいくものとは何か?そんな思いで鈴木は、雲を掴むようなプロジェクトを牽引していくことになった。

全部署から最適な開発者を結集したプロジェクトチーム。

3Dプリンタ「Agilista」の開発プロジェクトは、これまでのFAを主体とした製品開発とは大きく異なった。造形専用樹脂素材や造形の際のサポート材までもが開発対象。化学メーカーではないので、素材調達にも一苦労だ。そもそもAgilista自体の製品サイズもキーエンスの開発の経験値からは規格外のビッグサイズ。何もかもに課題は山積みだった。それゆえ、プロジェクトチームは全部署の開発から適性のある人が厳選された。全社を挙げての開発チームを結成し、実験環境も知識もない状態からモノを作り上げる挑戦が始まった。他のグループからは顔を合わせるたびに「大変だな…」と言われつづける毎日。「でも、苦しいと思ったことは一度もなかった!」と鈴木は笑う。先が見えない。お手本にできるものもない。だが、それでもやり遂げられたのは、そういった状況でのモノづくりを誰もが開発者精神で楽しめていたから。「これ以上にないほどのポジティブな空気感で、チャレンジングな毎日を楽しむことができた。」鈴木はプロジェクトへの充実感をにじませながら、開発の裏舞台を語り始めた。

最高の開発環境!気づけば「凝りすぎてしまう」開発者たち…

様々な部署からメンバーが集められたおかげで、Agilista開発チームには各部署の文化が融合され、類を見ないほど柔軟性に富んだチームができていた。それぞれの文化に触れることで、互いに新しい領域へと成長し合うメンバーを見て、キーエンスの開発者のレベルの高さを実感した。「これほど個性豊かで優秀なメンバーたちだ。方向性さえ共有できれば、あとはそれぞれその個性を発揮して流れにのって進んでいける」と鈴木は確信した。責任者として商品コンセプトを定めたあとは、とにかく自主性に任せてみることにした。

そして、キーエンスという環境は、違った側面からも総合力を発揮した。開発環境としては、最高以外の何物でもなかった。初めて経験する物理現象を測定するための機材もすぐに揃う。顕微鏡、圧力計、流量計など何でも手に入ると同時に、その開発者までいるから何かあれば一流のアドバイスがもらえる。最適なセンサを装置内に組み込むことさえできる。そんな環境だからこそ、ついついメンバーが仕事を「凝りすぎてしまう」こともしばしば。鈴木の唯一の苦労はそこだった。少しでも良い性能を出すために、お客様の満足度を上げるために、あれやこれやと開発者魂で突き進んでしまうのだ。しかし、かけられる時間と費用には限りがある。メンバーの意志を尊重しながらも、こだわり過ぎを指摘してコントロールするというのはなかなか複雑な心境だった。「でもこれくらい情熱にまっすぐになれることが、チームにとって最良の状態なんだと思う」当時を思い返す鈴木の脳裏には、幾度となくメンバーとの掛け合いの一コマが鮮やかによぎっていた。

徹底したユーザー視点、市場の反応はいかに…?

このプロジェクトで一番の味方は、「3Dプリンタを使うのは、自分たちと同じ開発者たち」だということだった。自分たちが使える性能で、かつ使いやすくなければまず売れないという仮説は、決して揺らぐことはなかった。「自分たちが欲しいと思うものを作ろう」をコンセプトに、仕様もすべて自分たちで決められた。迷った時は、自分たちで自問自答すれば良かった。妥協することもなく、ユーザー目線で本質的な改善ポイントと向き合いつづけた。潜在的なニーズは何なのか?それに応える仕様とは?をとにかく追求した。一つひとつの課題を解決することでクオリティが上がっていく実感は大きく、多くの仕様がニーズにマッチする商品になったという自負もある。「その反面、技術力不足による弱点も自分たちでよくわかっている。でもそれって、今後の新商品開発のモチベーションにもなるんだよね」とすべてが次なるステージへつづいていく。ここにはゴールなんてものはないのだ。

市場では、3Dプリンタは様々な業界でその柔軟性の高さが発揮され、アジャイル型開発の現場においてPDCAをショートスパンで回せる非常に有用な商品だと認知され始めていた。安易に作れなかったハードウェア試作モデルを造形によって実現できることで、設計などの早い段階で課題抽出ができ、製品の最終クオリティの向上、さらには製品の競争力向上にもつながっている。こうした「開発の仕方・流れ」さえも変えていくことができれば、モノづくりの現場に大きな革命が起きると鈴木はAgilistaの手ごたえを感じている。さあ、ここからは使い方の提案次第だ。

あり得ない柔軟性。だからゼロから革命児が生まれる。

3Dプリンタ「Agilista」の開発プロジェクトは、キーエンスの総合力、底力を強く感じたものだったが、それを牽引した鈴木はキーエンスの可能性の新たな側面を見出したといっても過言ではない。決して小さくはないこれだけの規模の企業でありながら、これほどの柔軟性を持って開発ができる環境をチームで創り出すことができる。それは、高いレベルの開発者の存在と、その企業風土があってこそだ。

だが鈴木は、満足はしていない。3Dプリンタは、世の中でもまだまだ始まったばかり。実際には、まだまだ有効利用されているとは言い難い。自問自答で性能を上げてきたからこそ、さらなる改善が必要なことも見通しが立っている。「もっと使える装置になったら、確実に世界のモノづくりが変わる。Agilistaはその可能性を秘めていると感じているからこそ、まだまだ道半ばなんだ。人に例えれば、まだ幼稚園児くらい。一足飛びに大人にはなれないが、急成長させて次は中学生くらいかな」と笑顔で語る鈴木の追求は、どうやらこれからが勝負のようだ。

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