キーエンス開発プロジェクト

画像センサ IV

マーケットイン・プロダクトの真髄。最後発からのビッグヒットで"Wow!"

名越 敬祐 [アプリセンサ事業部]

IVシリーズは、これまでもキーエンスが十分にノウハウを持っていた画像処理分野における画像センサで、競合製品も多い分野だった。しかも、最後発。にもかかわらずこのIVシリーズは、結果的にビッグヒットとなる。一見すると、競合製品の中でもスペックが高いわけではない。いやむしろ、機能は絞り込まれている。それでもハイスペック品に打ち勝ち、ここまで市場に評価された理由とは一体何なのか?「それは、キーエンスの開発の真髄。キーエンスの開発者としての醍醐味だ!」と微笑む名越から聞かされた開発物語には、驚くべき戦略が隠れていた。

日欧米中、1日5社×30日。潜在ニーズの徹底的な追究。

名越らが目指したのは、「脱・画像処理装置」だった。画像処理装置の扱いは難しく、大企業でもそれを使いこなすスキルを持つ人はごく少数しかいない。製造の検査に必要なものだが、そもそも使えない人の方が多いという盲点。そこに気づいたのは、名越らプロジェクトメンバーもあえて画像処理装置専門外の者ばかりで構成されていたからだ。もっと使いやすいものを、もっと多くの人へ届けるためには、開発者も同じ目線でいることが重要だ。難しい操作を「難しい」とわかること、使いたいけれど「画像処理はちょっと…」と苦手意識を持つ人も「使いたい!」と望むものは何かを洗い出すことができること、それこそがこのプロジェクトの核。さあ、コンセプトは固まった。これまで使えなかった人が、ワンタッチで使える画像センサで世の中に革命を起こそう!名越の目は、静かに闘志を放ち始めた。

コンセプトが固まると、すぐ会社を飛び出した。何よりもユーザーの使い勝手が最優先なので、一人でも多く、一件でも多くの現場の声を集めるために。FAの現場において、国内と海外では要求や市場、仕様は全く異なるものだ。国内と海外の両方のニーズに合致する仕様を掴むため、企画担当と世界を回り1日5社のペースで30日以上にわたってユーザーの元を訪ね、その現場を徹底的に観察した。使いこなせていない機能はないか?本当はどう使いたいのか?これまでと同じことをしていてはダメだというよりも、これまで誰もが見逃していたことを見つけるために。最後発参入ということもあり、切り口こそが命運を分ける。現場と同じ目線でヒアリングを重ねれば重ねるほど、このコンセプトに間違いはないと自信が募った。

引き算思考によるシンプルなユーザーエクスペリエンスの開発

市場と競合製品を観察して気づいたことは、流通している製品がプロダクトアウト志向で開発された商品が多く、現場のニーズに完全にフィットしていないため、スペックとのマッチングの最適化がされていないということだった。過剰なスペックが煩雑さを生み、使い勝手の良さから遠ざかっていた。FAの現場で支持される商品になるためには、インラインでの取り付けやその操作性において適切なシンプルさを備え、ユーザーを選ばずに高精度のアウトプットができること。ワンタッチオートフォーカスやデジタルズーム、1分立ち上げ、設定はひとつまで、外光の影響をできる限り抑えること、輪郭の検出の精度向上など、ユーザーにとって"過不足ない"使用体験こそがインパクトになると確信した。

機能の取捨選択は、「あの人」を思い浮かべて…

徹底的にマーケットイン型のプロダクトに昇華させるため、プロジェクトメンバーも専門性とユーザー視点のバランスを取った。開発者たる者、機能を盛り込みたいという思いは必ずあるものだ。しかし本品のコンセプトは、徹底したユーザビリティ。「その機能、本当に誰でも簡単に使えるのか?」「ワンタッチ操作が可能なのか?」と機能一つひとつに厳しく問いかけた。極限にまで機能を絞り、どこまでも使い勝手の良さにこだわった。「それ、あの人も使えるかな?」と実際のユーザーを思い浮かべながら、何度も話し合って見極めた。「使いやすいものを!」を合言葉に、プロジェクトメンバー全員の開発軸として貫き通した。

短時間でも毎日全員で朝礼をしたり、打合せに参加するメンバーを頻繁に入れ替えたりするなど、意識や進捗の共有とともに開発環境の活性化にも名越は力を入れた。その結果、大規模の開発チームでありながら、終始明るいチームワークでブレない軸をもって開発を進めることができた。立ち止まることもあった。悩みに悩み抜いた部分もあった。でも、あきらめることは決してなかった。どんな時も考え続けていたからこそ、何気ない時ふいにアイデアが顔をのぞかせてくれることもあった。「個人的にも、時間を詰め過ぎることはなく、気分転換しながらでも考えつづけた。趣味のピアノを演奏している時にはよくアイデアが浮かんでくるから、ピアノの上にはメモ帳とペンが欠かせません」と名越は笑う。要は、自分の思考スタイルを机の上だけに縛り付けないことも大事だということだ。自分とアイデアの関係性をも理解する。多彩なメンバーが、それぞれの思考をフル回転して一つのゴールへと突き進んだことが、このIVシリーズの評価につながっているのだ。

ユーザー視点を直接感じてカタチにする。
新しさよりも、ビジネスでの有用性を見失わないこと。

キーエンスは代理店制を設けない。だから開発者も、直接ユーザーと接する機会が多くダイレクトにそのニーズを追究できる環境がある。今回は大規模なプロジェクトだったが、その中でもコンセプトを見失わずに開発を進めプロダクトとして実現できたのは、開発メンバー全員がマーケットイン視点を持てる環境が根底にあったからだと名越は言う。その結果、このIVシリーズは想定以上の評価を得て、驚くほどのビッグヒットとなった。特に海外での売上が目覚ましく、これまでキーエンスを知らなかったお客様のDoor openerにもなった。そんなクライアントにこのシリーズを見せると、"Wow!"という感嘆の声が止まらない。自分のつたない英語でも商品の良さが伝わるほど、商品そのものにユーザーをうならせる力があった。「ただ新しいことを追いかけるのではなく、ユーザーにとってビジネスとして何が必要かを捉えて開発をする。それが真のキーエンスらしさだと思うから。」誰にとって、何が必要かをユーザー目線で徹底的に考える。名越の背中には、世界中の希望が輝いていた。

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