キーエンス開発プロジェクト

3次元測定機 VR

R&D 100 Awards受賞にもつながった開発チームマネジメント

廣瀬 健一郎 [マイクロスコープ事業部]

1963年から続く世界的権威のある技術賞の一つ「R&D 100 Awards」とは、技術革新のアカデミー賞として知られ、アメリカの工業技術専門誌「R&D」誌が世界の研究機関・民間企業から毎年、その前年に開発された最先端技術と製品100点を厳選して表彰するものだ。

VRシリーズは2014年に本賞を受賞。これほどのインパクトをもつ製品を世界に送り出すまでには様々な技術者との協働が不可欠であり、それこそが選出の決め手となる高い付加価値を創出したのだ。そしてその背景には、プロジェクトチームをいかにポジティブにマネジメントするかという大役が、ある若手開発者に委ねられていた。

“全てのパーツがまとまらなければ…”という命題

世の中に多様に存在する測定機。そこへ新たな製品を投入し、数ある測定機の中で確実に選ばれる存在となるには独自の個性がなければならない。今回キーエンスが挑むのは、非接触測定機の常識を超える性能。これまでにないほどの広範囲で、高速・高精度な3D測定結果を得られることが目標となった。まずは、高速な3D測定を行うために、対象に光を当ててその反射の様子から物の形状を測定する原理を採用。構成は、光源・レンズ・シャーシ・カメラ・信号処理・演算処理などの多くのパーツからなり、それらのどこが欠けても目標性能を実現することができない。

それぞれのパーツをそれぞれの専門家が、新たな商品を完成させるために力を注ぐ日々。しかし、人が多ければ、パーツが多ければ、それだけ連携は取りにくくなるものだ。誰が、今、何に取り組み、どんなことに困っているのか。それを知ることでスムーズにことが進んだり、その組み合わせでさらに発想を広げることもできる。これほど多くのパーツが最大のパフォーマンスを発揮しながら一つにまとまらなければ目指す性能には届かない。だからこそ、今回のチームマネジメントは新商品の命運がかかっている。そんな重大な責務を任された廣瀬は、ただただ途方に暮れていた。「自分より遥かに知識のある先輩達を束ねるなんて…」何をすればいいのか自分の役割を見出すことができず、「すべての構成要素を成り立たせなければならない」という難題に迫られ、流れていく日々に廣瀬は頭を悩ませていた。

このような高精度3D測定機では、組立時の環境の変化や、レンズに着いた肉眼では見えないような埃でも命取りになる。1台試作機を作るのも難しければ、それを工場で安定生産するのも当然難しい。量産製造部門や、資材調達部門、社外の関係者まで含めたメンバーの中で必要な情報を徹底的に議論するためには、まずそれぞれの部門とできる限り同じステージに立たなければ質の高い議論にはならない。だから廣瀬は、徹底的に情報を集めた。徹底的に、対話するための知識を集めた。すべては、プロジェクトを円滑に進め、必ずゴールに辿り着くために。多くの技術分野の情報をその担当者に教えてもらったり、本を読んで自分で勉強したり、あらゆる知識の吸収に奔走する日々。気がつけば、プロジェクトが終わるころには全システムを把握するほどになっていた。プロジェクト全体の情報整理を先導することで、必然的にメンバーも一つにまとまっていた。メンバー一丸となって全体最適が実現されていたのだ。

全員の責任感と一体感が生み出した“世界で賞賛される性能”

VRシリーズは、光学系やレンズ、ステージ、解析部やアルゴリズムなどのチューニングを経て、

1. 測定時間4秒で広視野範囲(200mm×100mm)を高精度3D測定
2. 操作は“置いて押すだけ”、人によってバラつきのない簡単な3D測定
3. 手軽に多彩な3D解析の実現

という性能を実装することができた。いかに速く、いかに正確に測定するかにこだわった結果、光の照射方法を調整することで、一般的な測定機には難しい金属や樹脂などにも対応できるようになった。これらを非接触で実現したことで角度も正確に測ることができ、しかも画像を面で撮ることができる。あらゆる性能を高精度で併せ持ったVRシリーズの用途はかなり広い。これまでの測定機にできなかったことができるようになり、その汎用性の高さから新たな場所にも導入してもらえるようになった。ゴムなどの触って測れないものや、肉眼では表面の凹凸がわからないものも測れるため、新たな業界への進出も見込まれている。

非常に嬉しいことに、このVRシリーズは試作機ができた途端、社内の多くの開発担当者が「そんな便利なものがあるなら使わせてほしい」と開発フロアに何人も現れた。おかげで今も、試作機はキーエンス社内で活躍中だ。また、全国の営業担当を集めて新商品説明会が開かれた際には、ベテラン営業担当が説明員のマイクを取り、突然この商品に対する賞賛を述べてくれたという出来事もあった。あの時、「この商品は絶対に世の中に受け入れられる!」と廣瀬の自信は、確信へと変わったのだった。

若手かどうかなど関係ない。誰もがプロジェクトの責任者だ。

廣瀬がこのプロジェクトを担当したのは、入社4年目のこと。「この時期に、ここまでの範囲を任される環境は珍しいと思う」と廣瀬は言う。キーエンスの開発では、新入社員だとしても自分の担当領域は“自分が専門家”として考え、似たような経験や役立つ情報などがあれば、社歴の長短に関わらず誰もがアドバイスをし合い、知識を共有する。営業との同行からユーザーの生の声を聴ける機会も十分にある。それらに真剣に向き合い、高い付加価値を求めてチーム一丸となり開発をする環境だからこそ、想像以上に大きな成長ができ、かつハイクオリティな商品が生み出せるのだ。

商品の性能を担保するためには、たくさんの人の仕事の方向性をそろえ、全体のスケジュールをハンドリングしてバランスを取ることが何よりも大切なのだと廣瀬は語る。このVRシリーズでも、非常に多くの管轄を超えた専門知識と細やかな行動力が必要だった。メンバー間での打合せはもちろん、関係部署とのやりとりにおいてもだ。このプロジェクトを通じて、「自分の意見は、プロジェクトの意見である」という責任感をもつことができるようになった。すべてを高い次元で実行・実現できたからこそ、この商品は生み出されたと感じている。若手であろうと、自分もプロジェクトの責任者だと自覚し、プロジェクトのためにすべきことを見つけ動くこと。廣瀬が手にしたものは、一つの成功談にとどまらない。「何でもやりたい。だからキーエンスに来たんだ」廣瀬の夢はまた一歩、手にした力を掲げながら遥かなる高みへと進みつづけている。

キーエンス開発プロジェクト