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カスタマーボイス

ラットの心臓の全体像から細胞単位まで
容易に観察可能

重症心疾患の「第3の治療法」として
世界から注目を集める細胞シート治療

大阪大学大学院 医学系研究科
外科学講座心臓血管外科学教授

澤 芳樹 氏

大阪大学大学院医学系研究科の外科学講座心臓血管外科で主任教授を務める澤芳樹氏。自ら臨床の最前線に立つかたわら、重症心疾患治療の研究に全力を尽くしている。2007年には、世界で初めて拡張型心筋症患者の心臓の機能を再生させる治療に成功。これは患者自身の脚の筋肉から採取した細胞を培養して細胞シートを作り、心臓に張りつけることで心臓の働きを再生させるという画期的な治療だ。従来の心臓移植や補助人工心臓といった治療法に加えて、重症の心臓病患者を救う、いわば「第3の治療法」として世界の注目を集めている。

01. 旧第一外科の伝統を継承し、最先端の医療を追究

 大阪大学大学院医学系研究科の外科学講座心臓血管外科(旧第一外科)は、日本における外科学の発展をリードしてきた伝統を誇る。初代教授のFritz Hertel氏や、実質的な創始者といえる小沢凱夫氏、2代目武田義章氏をはじめ、代々の主任教授が先進の外科治療を開拓してきた。半世紀も前に日本で初めて人工心肺による開心術を成功させた曲直部寿夫氏や、人工臓器や複雑心奇形の外科治療で世界的権威の川島康生氏、心臓移植の再開に尽力した松田暉氏など、心臓外科治療に関して時代の先端を拓くことに常に挑戦してきた歴史がある。

 また、心臓血管外科では重症患者の受け入れが多いにもかかわらず、開心手術の成功率は全国トップクラスの実績であるほか、日本経済新聞による心臓外科治療施設の格付けでは、最高ランク「AAA」を獲得している。

 こうした伝統を引き継ぎつつ、澤芳樹氏もまた主任教授として前人未到の領域を開拓している。めざしているのは、より安全な心臓外科手術の追求とともに、難治性心疾患の治療法の開拓だ。

 より安全な手術ということでは、人工心肺装置を用いずに心拍動下で行う低侵襲のバイパス手術や、ステント(網目状の金属製筒)を用いた動脈瘤の治療などを実現。「手術のすべてをメスで解決するのではなく、有用と考えられる新しい技術は、患者さんの立場で活用していきたい」という姿勢で治療に臨んでいる。

イメージ:重症心不全に対する治療戦略…

重症心不全に対する治療戦略。再生治療による普遍性の高い治療をめざす。

 また、難治性心臓疾患の治療では、「重症心不全の克服が一番のミッション」と語っているように、心臓移植と補助人工心臓の両面から治療法を追究している。しかし、こうした外科的な治療は心筋そのものの機能を回復するわけではない。この壁を克服すべく、澤氏が取り組んでいるのが、心筋の再生治療である。

02. 世界で初めて自己筋芽細胞のシートによる心筋再生治療に成功

 澤氏が当初試みたのが、患者本人の自己筋芽細胞を心臓に注入する方法であった。この方法は一定の治療効果があったものの、さらに効果を高めるには心筋細胞の投与方法が重要と考えた澤氏は、東京女子医大教授の岡野光男氏と共同で試行錯誤を重ね、8年かがりで新しい治療法を開発。それが自己筋芽細胞のシートによる心筋再生治療である。

イメージ:心筋シートによる心筋再生治療法の開発…

心筋シートによる心筋再生治療法の開発。培養した細胞を心臓の障害部位に移植して機能回復を図る。

 2007年5月、澤氏のチームは拡張型心筋症の患者に対して世界で初めてこの治療法を実施。患者本人の脚から筋肉細胞を抽出して培養した後、直径約4cm、厚さ約0.1mmのシート状にして心臓に張ることで心筋の機能を再生することに成功した。治療前には補助人工心臓を装着し、心臓移植が必要とされていた患者であったが、手術の3か月後には心臓の収縮率が改善し、さらに補助人工心臓を取り外すことができるまでに血液の送出量が回復。その年の12月に患者は退院することができた。

 この治療法は良好な細胞生着性を有することから評価は高く、心臓移植、補助人工心臓に続く「第3の治療法」といわれており、重症心不全患者に希望の光をもたらすことになったのである。

イメージ:骨格筋芽細胞シートによる治療…

骨格筋芽細胞シートによる治療。この技術は特許化されている。

イメージ:DCMハムスターに対する骨格筋芽細胞による…

DCMハムスターに対する骨格筋芽細胞による心筋再生。シート細胞(緑グラフ)の治療を受けたハムスターの生存率が格段に高い。

※筋芽細胞…筋肉の構成要素である筋繊維の元となる細胞。単核の筋芽細胞が増殖し、さらに細胞同士が融合することで筋管細胞となり、さらに筋繊維となる。

03. 再生治療の確立をめざす未来医療センター

 この快挙に至るまで、澤氏は再生治療の研究と併行して、治療体制の確立にも尽力している。2002年からトランスレーショナルリサーチを目的に、大阪大学医学部附属病院内に設置された「未来医療センター」の副センター長、に就任。この運営に深く携わることで、再生治療に必要な施設や人員組織を整えていった。(2006年にはセンター長に就任)

 再生治療に欠かせない自己筋芽細胞の培養に関しては、GMP(医薬品等の品質管理基準)に準拠したCPC(セルプロセシングセンター=細胞培養調製準備施設)を設立。また、必要な人材の育成と配置を行い、万全の治療体制を創り上げた。

 この経緯に澤氏は次のように語っている。

 これまでにだれも試みたことがない取り組みであっただけに、すべてが手探り状態からのスタートでした。国や製薬企業の支援を得て、ようやく体制を固めることができました。

 このセンターは、未来に向けた新規治療法を開発支援する、橋渡し役の臨床研究センター。附属病院の一施設であるため、基礎研究で終わるのではなく、あくまで臨床の視点から、代替治療が見込めない重症患者さんを救うための手段を探究しています。センターが最終的にめざしているのは再生治療をバックアップする細胞培養のファクトリーです」

イメージ:大阪大学医学部附属病院の未来医療センター…

大阪大学医学部附属病院の未来医療センターの取り組み。文字通り、未来の医療を見すえた研究を推進するとともに、トランスレーショナル・リサーチを重視した内容となっている。

04. 重症心疾患の患者を一人でも多く救いたいという思い

 新たな時代に向けた医療を追求する澤氏。そもそも医学の道をめざしたのは、医師であった祖父の影響を受けたことによる。さらに、高校時代にいとこが交通事故で亡くなったことも医師を本格的に志したきっかけとなった。

 その後、心臓外科医として開心術で腕を振るい、数多く患者を救ってきた一方、日本では心臓移植が長年にわたって認められなかったことから、救いたくても手を差し伸べることができないまま、亡くなっていった患者も多数目の当たりにしてきた。脳死移植が認められた今も、ドナー不足などを理由に移植手術に至るケースは限られているのが現状だ。外科医として再生医療の実現に打ち込んできた背景には、医師としての使命感をいかに果すべきか、という根源的な思いが強くあった。

 世界初の試みである細胞シートによる再生治療がゴールであるとは、澤氏は考えていない。さらに有効性の高い治療をめざすため、iPS細胞の活用も検討している。これをもとに心筋細胞をつくりだし、シート状にすることで、治療法を一層有望なものにしていく考えだ。

※iPS細胞…人工多能性幹細胞。体細胞をもとに作りだす分化万能性のある幹細胞。理論的には、iPS細胞から身体のあらゆる組織を作りだすことが可能とされている。

05. 研究成果をいち早く患者に活かすため、実験の効率化・省力化を重視

 心臓機能の再生治療の確立に向けて、精力的に研究を展開する澤氏。代替治療が見込めない重症患者を一人でも多く助けるため、治療法のスピード開発に向けた研究の効率化、省力化に余念がない。特に意識しているのが研究メンバーの育成と登用だ。

イメージ:澤氏

外来を受け持つ臨床医でもある澤氏。重症患者と真摯に向き合う中で、再生治療の必要性を強く感じている。

 「若手の人材を育てるとともに、適材適所で活かして各人のモチベーションを高めて、一たす一が三以上となるように、組織力を生かした研究体制を築くことが重要です」と語る。それとともに、重視しているのが研究の効率化に向けた設備や機器への投資だ。

 「研究活動における無駄をいかに省くかがカギ。特に世界規模の競争においてスピード感はますます大切になっています。そして、いち早く研究成果を出すことが患者さんのためになると肝に銘じています」と明言する。

 しかし一方で、未知の治療法を開拓するには、「導入することでのベネフィットとリスクの関係をいかにクリアするかが重要」とも指摘する。拙速は絶対に許されず、前臨床試験で治療の有意性と安全性を厳密に検証した上で、ファースト・イン・マン(人への初めての投与)への移行が可能となる。「動物実験の段階で客観性のエビデンス(証拠)が厳密に行われなければならない」と澤氏は強調する。

 若い頃、電子顕微鏡を用いた研究で博士号を取得した澤氏は、組織学の観点からのエビデンスを特に重視する。「細胞が増殖しているなど決定的な写真があるかどうかは、客観性を証明する決め手となります。もちろん、実験の数値データも重要でありますが、一つの写真が論文の価値を左右するといっても過言ではありません。それだけに、これからの時代は性能が優れていて、観察作業の効率化につながる顕微鏡を利用することが不可欠」と述べている。

06. ラットの心臓の全体像から細胞単位まで容易に観察可能

 澤氏の研究方針に基づいて、心筋機能の再生治療を研究しているのが、修士課程に在籍している三木健嗣氏だ。筋芽細胞から筋管細胞の形成過程に関する研究を手がけ、約一年にわたり毎日のようにラットの心臓の観察を行なっている。

 そこで利用しているのが、キーエンスの蛍光顕微鏡「バイオレボ」(BZシリーズ)だ。 特に多用しているのが、細胞の変化を時系列で撮影できる「多次元タイムラプス」機能。ラットの心臓に移植した筋芽細胞が心筋再生につながっていく様子を時間を追って撮影・保存することができる。また、縦軸方向の画像を撮影できるZスタック撮影も併せて活用しているという。

イメージ:実験室にて「バイオレボ」を…

実験室にて「バイオレボ」を操作する三木健嗣氏。

イメージ:左から心筋梗塞の心臓…

左から心筋梗塞の心臓、筋芽細胞を注入した心臓、シート細胞を張った心臓の比較画像。右のシート移植は良好な細胞生着性を示している。

イメージ:ブタ梗塞モデルに対する…

ブタ梗塞モデルに対する筋芽細胞シートの移植結果。心臓の機能が回復していることが分かる。

 三木氏が主に取り組んでいるのは、澤教授が成功させた細胞シートによる心筋再生治療をより効果的なものとする研究。そのため、従来の円形シートを改良してネット状のシートを新たに開発。これを重層化することで細胞が入り込みやすい環境を作り、再生効果の向上をめざしている。こうした研究の中で「バイオレボ」の利用メリットについて、三木氏は次のように述べている。

 「広範囲に分布する筋芽細胞の変化を時系列で観察することが欠かせないのですが、多点(最大30点)をタイムラプスで観察できるメリットは大きいです。しかも、何より画像がきれい。ほかの顕微鏡による観察画像を見ることも多いのですが、『バイオレボ』の鮮明度の高さは明らかに違うように思います」

 ラットの心臓は直径が約1cm。細胞の再生状況を把握するには、超弱角で心臓の全体像を観察した上で、細胞シートの中に筋芽細胞が何%存在するかといった拡大観察が欠かせない。「バイオレボ」を用いることで、こうしたマクロとミクロ両方に対応した二段構えの観察を容易に行なうことができるという。

 「これまで発表された研究論文を見ると、心臓の梗塞部分、さらにその境目だけといった局所的な画像が多かったのですが、心臓全体の画像を掲載することで、一層説得力のある論文をめざせます」

 三木氏によると、暗室が不要でデスクトップで簡便に使える点も大きな魅力とのこと。実験室の一角に設置して、使用したい時にすぐに利用できる利点は大きいようだ。また、オプション機能の「温度CO2制御チャンバ」の活用で長時間にわたる生細胞のタイムラプス観察が簡単に行なえるという。

07. 丸一日かかっていた画像処理が一時間で済むように

 「バイオレボ」は、観察の簡便さに加えて、撮影後の省力化でも威力を発揮する。三木氏は従来、撮影した画像を一旦パソコンに取り込んでから、画像処理ソフトを用いて、蛍光色の異なる画像を重ね合わせる作業を行っていた。大量の画像からピントのあった画像を選び出し、赤、青、緑とそれぞれの蛍光色の画像を重ね合わせていくのは、時間が際限なくかかる上に、必ずしもクリアな画像とはならずに苦労していたという。

 その点、「バイオレボ」の「ベストフォーカス・オートピック機能」を用いると、Zスタックで撮影した大量の画像の中からベストフォーカスのものを自動で抽出し、しかも時系列で編集することができる。「かつては画像の合成だけに丸一日を費やしたこともありました」と語る三木氏だが、「バイオレボ」の利用後は「一時間もあれば処理が済んでしまい、感覚的には1/10以上の省力化につながっています」と述べている。

 観察・撮影・後処理が大幅に効率化したことで、三木氏は「より高い精度で研究成果を追求できるようになりました」とも語っている。それというのも、一連の作業が簡便になったことで取り組める実験の幅が広がったからだ。従来、時間の制約から断念していた観察までも可能になり、研究成果を厳密に証明する画像をより多く撮影できるようになった。澤教授の求める「客観性の証明」を、三木氏は「バイオレボ」の利用で実行しているといえる。ちなみに、三木氏は実験記録用の画像も、学会発表用の画像も、すべて「バイオレボ」だけで撮影し、画質の良さは申し分ないそうだ。

イメージ:iPS細胞から分化誘導した心筋細胞…

iPS細胞から分化誘導した心筋細胞。細胞骨格がきれいに染まっている。
(キーエンス BZシリーズ「バイオレボ」にて撮影)

 現在、三木氏は新たな取り組みとして、iPS細胞を用いて大量の心筋細胞を作り出す研究も手がけている。現在、iPS細胞から心筋への分化誘導に向けた研究は世界中で行われているものの、分化誘導はできても数万程度の細胞数にすぎない。三木氏は再生治療用のシートを作製するために必要な、最低でも数百万の細胞を確保できる技術の確立をめざしている。大量の心筋細胞を得ることで、細胞シートによる再生治療は一気に現実のものとなっていくだろう。

08. 先進血管内治療学講座を通じて未来医療を模索

 臨床医として患者の治療に奔走するとともに、未来医療センターのセンター長として再生治療体制の確立をめざす澤氏。今後めざすのは、文字通り未来医療の方向性を指し示すこと。それは、極めて安全性の高い医療の提供と、現在は治療手段がない心疾患の治療法の開発だ。

 「そのためには外科、内科の境界を越えて、それぞれの良いところを取り入れ、融合をめざしていかねばなりません。いわば『外科系循環器講座』という概念のもとで、新たな医療を具現化していきたいと考えています。現在取り組んでいる心臓機能の再生治療はその一例。確実な基礎研究を踏まえて、未来の医療をいち早く可能にしてファースト・イン・マンにこぎ着けていきたい」

 2007年4月、澤氏は先進血管内治療学講座という寄附講座を作った。ここを通じて、外科、内科の垣根を越えた医療のあり方を示していく考えだ。患者を真ん中において、外科と内科が両側からしっかり支えて病気の治療にあたる。それこそ澤氏が理想とする医療体制なのだ。最先端の医学研究にとどまらず、医療の姿を大きく変えていこうとする澤氏の強い意志が感じられる。

(2008年12月現在)

<豆知識> 心筋症に対する遺伝子治療

心筋梗塞など虚血性心疾患によって壊死した心筋細胞は回復することはないというのが、従来の医学の常識であったが、近年、心筋細胞を心筋に移植することで機能を再生する研究が進んでいる。

心筋梗塞など虚血性心疾患によって壊死した心筋細胞は回復することはないというのが、従来の医学の常識であったが、近年、心筋細胞を心筋に移植することで機能を再生する研究が進んでいる。

プロフィール

澤 芳樹 氏

大阪大学大学院医学系研究科外科学講座心臓血管外科教授
大阪大学医学部附属病院未来医療センター センター長
医学博士

1955年生まれ。1980年、大阪大学医学部卒業、大阪大学医学部第一外科入局。1989年、フンボルト財団奨学生として、ドイツのMax-Planck研究所心臓生理学部門、心臓外科部門に留学。その後、大阪大学医学部第一外科助手、医局長、講師を経て、2002年に大阪大学医学部臓器制御外科(第一外科)助教授、付属病院未来医療センター副センター長に就任。2004年、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科副科長。2006年、大阪大学大学院医学系研究科外科学講座心臓血管・呼吸器外科教授および大阪大学医学部附属病院未来医療センターのセンター長に就任。

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