水門(ゲート)の寸法測定

水門(ゲート)の寸法測定

近年の相次ぐ大規模災害による被害を受け、国家レベルで防災意識が高まっています。なかでも洪水・高潮・津波による被害は大きく、政府が発表した国土強靭化計画ではその対策として水門・堰・樋門などの増設と性能向上が求められています。
水門(ゲート)・堰・樋門が備える扉体は重要部品であり、その形状・寸法精度は性能に大きな影響を与えます。また、設置件数の増加に対し、生産の効率化は急務とされています。
ここでは水門(ゲート)が備える扉体の形状・寸法測定に注目し、構造や種類などの基礎知識から、従来の測定方法の課題とその解決法を紹介します。

水門(ゲート)とは

水門(ゲート)とは

水門とは、河川や運河、用水路、湖沼、貯水池、港湾などに設けた、流水を制御するための構造物です。河川堤防を横断するように設置されており、流水量を調整すると共に、閉めたときには堤防としての機能を持ちます。
水門は、堰や樋門と混同されることがありますが、堰には堤防としての機能がありません。また、樋門は堤防の中に埋設される水門を指します。

水門(ゲート)の構造

水門の構造と各部の役割りを知ることは、寸法測定をするうえで重要です。
水門の構造は用途によってさまざまですが、なかでも代表的な水門であるスライドゲートの構造と各部の役割りを以下に示します。

水門(ゲート)の構造
A:巻き上げ機
扉体を上下させる装置です。扉体とは「スピンドル」といわれるねじが切られた棒で連結されており、巻き上げ機のハンドルを回すことで、扉体を開閉することができます。開閉装置には平巻き上げ式・ベベル式・ウォームギヤ式などがあり、油圧や電動モーターで開閉させます。
B:戸当たり
扉体のレールとなる部分です。H型鋼や折り曲げ材が用いられます。ダムなどに設置する大型の水門では、コンクリートに埋設されます。
C:扉体(ひたい)
扉体(ひたい)とは

流水を止める扉です。フレームとなる主桁(a)・端桁(b)と、スキンプレート(c:水をせき止める部分)で構成されています。

D:水密ゴム
扉体と戸当たりの間で、水密性を高めるガスケットのような役割りを持つ部品です。P型や平型などの種類があります。

水門(ゲート)の種類

水門の扉体の開閉方法にはいろいろな種類があり、開閉方法によって巻き上げ機を使うタイプとヒンジを支点に開閉するタイプがあります。これらは、大きさや必要な機能によって使い分けられます。ここでは、この2つのタイプのなかでも代表的なものを説明します。

巻き上げ機を使うタイプ

「巻き上げ機」といわれる装置で扉体を上下させ、流水を制御します。

スライドゲート(スルースゲート)

上部に設置した巻き上げ機で、扉体を上下にスライドさせて止水するゲートです。
最も一般的な形状の水門で、扉体には鋼製・ステンレス製・アルミ合金製などがあります。

ローラーゲート

スライドゲートの扉体と戸当たりの間にローラーを取り付けたゲートです。
扉体が大型であったり扉体にかかる水圧が高かったりする場合、扉体の重量や戸当たりとの摩擦により、扉体の引き上げに大きな力が必要になります。ローラーゲートは扉体と戸当たりの間にローラーが付いているため摩擦が小さく、小さな力で扉体を引き上げることができます。

ヒンジを支点に開閉するタイプ

扉体の一方をヒンジで固定し、そこを支点に扉体を開閉させ、流水を制御します。

フラップゲート

外水の逆流を防止するためのゲートです。 ゲート前後の水位差により動作するため開閉装置が不要で、無人・無動力での運用が可能です。扉体には鋼製・ステンレス製・アルミ合金製などがあります。

スイングゲート

河川や海岸に隣接した堤防の出入口、工場建屋などの出入口に設置する防潮扉(水密扉)に用いられるゲートです。側部ヒンジを中心に扉体を回転させることで、水路を開放/閉鎖させます。扉体には鋼製・ステンレス製・アルミ合金製などがあります。

水門(ゲート)の寸法測定の必要性

水門には、止水性や経済性のほか、災害などの緊急時のすばやい動作性が求められます。また、設置後、長期間にわたって使用されることから、耐久性や水密性も重要です。なかでも扉体は流水を直接受け止める重要部品であり、形状・寸法精度は動作性・耐久性・水密性に大きな影響を与えます。
扉体は、主桁・端桁・スキンプレート・水密ゴムなどで構成されています。製造工程では、主桁・端桁・スキンプレートを仮組立して寸法を測定し、組み立て精度を確認します。
組み立て精度が確認できたら、各部を溶接し完成品の寸法精度を確認します。溶接ではひずみが発生する可能性があるため、溶接後は各部の寸法を測定し、公差から外れている場合はひずみ取りを行い、公差内の寸法に収まっていることを確認します。
このように、水門の製造ではさまざまな工程で何度も寸法測定を繰り返さなければならないため、寸法測定機には精度はもちろん効率的な操作性も強く求められます。

水門(ゲート)の寸法測定

水門の測定項目や測定方法は、国土交通省や農林水産省などが発行している施設機械工事等施工管理基準に扉体・戸当たり・開閉装置など分類して規定されています。

寸法測定のポイント

測定のポイントは、扉体の全幅・全高・厚さ・水密幅・扉体の平面度、さらにローラーゲートなら水密ゴム受座から主ローラー踏面までの距離などが指定されています。また、測定方法についても指定されています。
ここでは、三方水密ローラーゲートを例に、代表的な測定のポイントと留意点を紹介します。

寸法測定のポイント
aL、aR
扉体の全幅
b
扉体の全高
c1
主桁の高さ
c2
端桁の高さ
c3
水密ゴム受座面から主ローラー踏面までの距離
d
基準点対角長の差
eL、eR
水密幅
f
主桁間隔
g
扉体の平面度

出典:施設機械工事等施工管理基準 農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/nousin/seko/kyotu_siyosyo/k_skizyun/pdf/160328_skanri2_1.pdfを加工して作成

水門(ゲート)

水門(ゲート)

施設機械工事等施工管理基準に示されている、すべての箇所が測定ポイントです。特に溶接を行った部分は、ひずみが発生している場合があるので入念な測定が必要です。測定結果が公差から外れている場合はひずみ取りを行い、再度測定を行います。

仮組立

仮組立では、主桁・端桁・スキンプレートの組み立て精度を確認します。主桁や端桁は平行度を、スキンプレートは平面度を測定し、同時にボルト止めの穴の間隔なども測定します。どうしても寸法が公差内に収まらない場合は、たとえばH形鋼ならウェブやフランジ面の反りやゆがみ、梁せいなどを測定する必要があります。また、仮組立後は溶接で本組立を行うので、溶接が可能であることを確認するために、継手や各部品のクリアランスも重要な測定ポイントです。

水門(ゲート)の寸法測定の課題と解決法

コンベックスによる測定
コンベックスによる測定
写真提供:(株)アッセンブリー・プラント・グローリー 様

扉体の寸法測定では完成品はもちろん、仮組立時の組み立て精度やメンテナンス時の精度の確認も重要です。従来、これらの測定はトランシットやコンベックス、長尺ノギスなどで行っていました。しかし、測定者による測定値のバラつきや、ひずみの傾向などがわかりにくく、測定に時間がかかるといった課題がありました。

これらの問題を解決すべく、最新式の三次元測定機が活用されるケースが増えてきました。キーエンスのワイドエリア三次元測定機「WMシリーズ」は、ワイヤレスプローブで大形水門の扉体も高精度な寸法測定が1人で可能です。測定範囲内ならワークの奥まった部分にも自由にアプローチでき、プローブを当てるだけの簡単操作で測定することができます。また、トランシットやコンベックス、長尺ノギスなどの測定器具に比べて測定結果がバラつくことなく、定量的な測定が可能です。

ワイドエリア三次元測定機 「WMシリーズ」
ワイドエリア三次元測定機 「WMシリーズ」
「WMシリーズ」による測定イメージ
「WMシリーズ」による測定イメージ

水門(ゲート)の溶接ひずみ・スキンプレートの平面度測定

扉体の面積は、小形水門でも10m2未満、大形水門では50m2に達します。このため、コンベックスや長尺ノギスによる測定では2名以上による作業が必要です。
しかし、コンベックスや長尺ノギスの場合、当てる角度や強さによって測定値が変わるため、作業者による測定値のバラつきが発生します。また、溶接のひずみ確認ではひずみ取りのたびに測定を繰り返さなければならないため、測定作業は長時間におよびます。
「WMシリーズ」なら、測定ポイントにプローブを当てるだけで測定できます。大形水門の全長・全幅・対角の長さはもちろん、スキンプレートの平面度もプローブを当てるだけで測定は完了。ひずみの形状がカラーマップで表示されるので、寸法の修正も正確かつ容易に行えます。
また、長尺の寸法でも短時間かつ1人で測定でき、作業者による測定値のバラつきはありません。


「WMシリーズ」による測定イメージ
「WMシリーズ」による測定イメージ
「WMシリーズ」による
スキンプレートの平面度測定画面イメージ
「WMシリーズ」によるスキンプレートの平面度測定画面イメージ

仮組立での寸法測定

主桁・端桁・スキンプレートの組み立て精度を確認する仮組立では、桁の間隔や部品間のクリアランスを測定し、本組立が可能であることを確認します。主桁・端桁に溶接が施されている場合は溶接によるひずみが発生していないか、スキンプレートに反りやうねりがないかを確認します。
長さが数メートルにおよぶ主桁・端桁の測定には複数名の作業者が必要で、コンベックスによる測定では定量化が困難です。また、スキンプレートの平面度や三次元的な座標位置などは、コンベックスや長尺ノギスのようなハンドツールでは測定することができず、レーザートラッカーなどの三次元測定機を活用する必要があります。三次元測定機は、複雑な測定項目が正確に測定できる反面、オペレーションには習熟した技能者が必要なケースがあります。このため、測定者は用途とコストに応じて、柔軟に測定器具や測定機を選定する必要があります。
「WMシリーズ」なら、測定ポイントにプローブを当てるだけで、1人で定量的な測定が可能です。大形水門の桁の溶接によるゆがみやひずみはもちろん、スキンプレートの平面度もプローブを当てるだけで測定は完了。三次元的な位置座標が測定できます。また、設計値に対する公差値の判定も瞬時に確認することができます。

「WMシリーズ」による測定画面イメージ
「WMシリーズ」による測定画面イメージ

水門(ゲート)の寸法測定の効率化

「WMシリーズ」なら、プローブを当てるだけの簡単な操作で水門(ゲート)の正確な寸法や形状を1人で測定可能です。さらに、ここまで紹介してきた以外に、以下のような多くのメリットがあります。

広範囲を高精度に測定可能
*最大測定範囲
広範囲を高精度に測定可能
最大測定範囲25mの広範囲なエリアを、高精度に測定可能。測定の手順を記憶させ、誰でも同じ箇所を測定することができる「ナビ測定」モードも搭載で、誰が測定してもデータがバラつきません。
ポータブルで現場置きが可能
ポータブルで現場置きが可能
本体を台車に入れて、自由に持ち運べるポータブル仕様。現場に持ち込み、その場ですぐに施工状態を測定することが可能です。
わかりやすいインターフェース
わかりやすいインターフェース
三次元測定機のインターフェースというと、難解で馴染みにくいコマンドが多いイメージがありますが、「WMシリーズ」では、画像やアイコンなどで誰にでも親しみやすい操作性を追求し、直感的な操作を可能にしました。
写真付きの検査成績書が残せる
写真付きの検査成績書が残せる
どこを測定したかが一目でわかる写真付きの検査成績書が自動で作成可能です。取引先との信頼につながるだけでなく、測定結果をデジタルデータで残すことができるので、社内のデータ管理の効率化にもつながります。

「WMシリーズ」は、工場でも製造現場でも、水門(ゲート)の形状・寸法の測定はもちろんデータ解析や検査レポートの作成までを強力にサポート。水門の製造から設置・メンテナンスに欠かせない業務の飛躍的な効率化を実現します。