機上測定の課題と効率化
大型製品の製造において、機上測定は切削加工の品質向上や工程のムダ削減など、効率化の切り札として期待される重要な作業です。しかし、機上測定は5軸加工機や五面加工機・各種旋盤など工作機械上で測定するため、測定に要する時間は稼働率に直接影響します。このため、機上測定は可能な限り短時間で行う必要があります。
ここでは、短納期化と品質の向上が求められる大型製品の製造工程における機上測定のメリットやデメリット、測定のポイントや課題を説明。さらに、機上測定の効率化に欠かせない最新の三次元測定機による測定課題の解決事例を紹介します。
機上測定とは
機上測定とは、工作機械上で製品の形状を測定することで、「機上計測」ともいわれます。各種旋盤・フライス盤・一般的なマシニングセンタはもちろん、5軸加工機や五面加工機などの工作機械から、加工中の製品を取りはずすことなく測定します。
工作機械上で製品の寸法を測定することで、製品の脱着に伴う位置合わせや芯出しの作業が省略でき、追加工による精度の追い込みが可能になります。
なお、機上測定は、JIS規格のJIS B 6190で工作機械試験方法通則として数値制御による位置決め精度試験や回転軸の幾何精度試験、対角位置決め精度試験方法などが規定されており、対応する国際規格にはISO 230があります。
機上測定のメリットとデメリット
通常の製造工程の寸法検査は、加工工程で加工した製品の寸法など加工精度を測定し、公差外の製品を不具合品とします。しかし、機上測定では加工工程の工作機械上で、加工中の製品の加工精度を測定します。
ここでは、製品を工作機械から取りはずすことなく寸法を測定することによって得られる機上測定のメリットとデメリットについて紹介します。
メリット
機上測定のメリットとしては、加工品質の向上・運搬作業や測定作業のムダの解消が挙げられます。これにより、作業時間の短縮や作業者の負担軽減などを実現することができます。
不具合品が次工程に流出することを防ぐことができる
通常の測定が検査工程での検査の後に追加工などを行うのに対し、機上測定では加工中の製品を測定して追加工を行います。加工工程で加工精度を検査し、追加工で精度を追い込むことで、不具合品が次工程に流出することを防ぐことができます。
運搬のムダを解消できる
製造現場で、念頭に置いておきたい言葉に「7つのムダ」があり、このなかに「運搬のムダ」があります。運搬のムダとは不必要な運搬のことです。工作機械上の製品の寸法を測定する機上測定では、工作機械から製品を取りはずして測定室に運搬し、測定後に再度工作機械まで運搬するといったムダを解消できます。また、測定室の測定機の空きを待つ「手待ちのムダ」を解消することもできます。
測定作業のムダを解消できる
さらに機上測定では、「動作のムダ」を解消することもできます。機上測定で解消できる動作のムダとは、測定のための位置決めや原点出しを指します。機上測定では加工原点を利用して測定するため、測定のための位置決めや原点出しは不要となり動作のムダを解消することができます。
デメリット
デメリットとしては、工作機械上で寸法を測定することによって発生する工作機械の稼働率低下や測定プログラム作成の負担、測定精度などが考えられます。
工作機械の稼働率が低下する
機上測定に時間を要すると、工作機械の稼働率が低下する恐れがあります。ノギス・ダイヤルゲージ・シックネスゲージといったハンドツールでの測定では複数人での作業が必要であり、測定箇所が多い場合は非常に工数がかかるため、この傾向が顕著に表れます。したがって、機上測定では可能な限り測定時間を短縮できる、効率の良い測定機を用いなければなりません。
測定プログラム作成の負担
近年では機上測定機能を搭載した工作機械が開発されています。しかし、機上測定するプログラムは作成しなければなりません。
プログラムの作成には専用のソフトウェアが必要で、3D CADソフトウェアのオプション機能を用いる場合でも、加工に関する高い知識とプログラミングの能力が必要です。さらに、新たな製品を測定する場合は、プログラムも新たに作成する必要があるため、多品種少数ロットを扱う場合はプログラマーに大きな負担を強いることになります。
測定精度
工作機械の機上測定機能を用いた測定では、駆動部のバックラッシュなどの影響で誤差が生じることが問題視されます。さらに、加工機自身の駆動系を用いて測定するので、真の意味で客観的な測定ができているとはいえない、という根本的な問題を抱えています。
なお、近年では手軽に機上測定のメリットを得ることができ、上記のようなデメリットを抑えることができる三次元測定機が開発されています。
機上測定のポイント
機上測定はさまざまな工作機械で行いますが、ここでは五面加工機・立旋盤・横中ぐり盤での加工で留意すべき測定のポイントについて説明します。
五面加工機:位置決め・削りしろ
五面加工機は、形状が複雑だったり±0.01mmの寸法や厳しい平行度・平面度などが求められる製品を加工します。五面加工機では、製品は動かず工具軸取り付け部が動作して製品の前後左右面と上面を加工します。
本来、五面加工機は3軸加工機と比べて高精度な加工が可能です。しかし、多くの加工軸を工具軸が複雑に動作しながら加工するため、製品の位置決めに誤差があると3軸加工機より大きな加工誤差が発生する場合があります。
削りしろは、材料のうち切削加工によって削り取られる部分のことです。材料の表面を削って仕上げるときに削り落とす部分として、仕上がり寸法よりも余分に取っておく部分なので、削りしろの量を把握しておくと、加工中のミスにも気づきやすくなります。万一、削りしろより削り過ぎた場合、その製品は廃棄するしかないため、加工前に必ず測定すべきポイントです。
立旋盤(ターニング):芯出し
一般に、立旋盤は大型旋盤のなかでも大きな製品を旋削加工する場合に用いられます。「ターニング」ともよばれ、垂直方向に回転軸を持ったろくろのような回転テーブルに製品をセットし旋削加工します。製品の重量を利用して回転テーブルに固定できるので、大型の丸物製品を安定して回転させ、旋削加工することができます。また、横旋盤に比べて重力や遠心力による振れが少ないため、高い旋削加工精度を得ることができ、面板に固定する方法が容易であるため高精度が求められる薄肉リング品などの加工に対応することができます。
このようなメリットを持つ立旋盤ですが、製品をチャックから取りはずすと基準がリセットされるため、芯出しが必要になります。このため、追加工を行う場合は、前回加工したときと同じ位置に芯出しできていることを確認するための測定が必要です。
横中ぐり盤:穴ピッチ・穴径・位置度
横中ぐり盤は、切削工具の回転軸を水平方向に設けた中ぐり盤です。立型の中ぐり盤に比べて多くの切り屑を排出できるため、大きな穴や深い穴の加工が可能です。また、切削工具の回転軸を動かして加工するため、製品を動かす必要がなく、大型製品の製造に適しています。
このようなメリットを持つ横中ぐり盤ですが、製品をチャックから取りはずすと基準がリセットされます。このため、加工前の位置決めや追加工を行う場合は同じ位置にセットできていること、芯出しできていることを確認するための測定が欠かせません。
機上測定の課題と解決法
大型製品では、完成品はもちろん製造中の加工状況の確認も重要です。これらの測定はノギス・ダイヤルゲージ・シックネスゲージといったハンドツールで行い、三次元形状は測定室に製品を運搬して測定していました。しかし、測定や運搬・工作機械へのセットに時間がかかり、納品や立ち上げに時間を要するといった課題がありました。
これらの問題を解決すべく、最新式の三次元測定機が活用されるケースが増えてきています。
キーエンスのワイドエリア三次元測定機「WMシリーズ」は、工作機械にセットした大型製品もワイヤレスプローブで高精度な測定が可能であるため、機上測定に適しています。測定範囲内ならワークの奥まった部分にも自由にアプローチでき、1人でもプローブを当てるだけの簡単操作で測定することができます。また、ハンドツールに比べて測定結果がバラつくことなく、定量的な測定が可能です。
五面加工機上での位置決めや削りしろの測定
五面加工機で加工する大型製品を門型の三次元測定機で測定するには、五面加工機から製品を取りはずして測定室に運搬するという大変な作業を大勢で行う必要があります。機上測定を行う場合でも、ハンドツールでは複数の作業者による非常に長い時間が必要であるため、五面加工機の稼働率を低下させてしまうという問題があります。
また、仕上がり精度を確認しながら追加工を行うには、五面加工機から降ろしての測定は好ましくなく、五面加工機に設置した状態での寸法測定が求められます。そのため大型製品の寸法測定では、場所を取らず自由に移動ができ、五面加工機上で広範囲を測定できる三次元測定機が理想といえます。
「WMシリーズ」なら、大型製品も五面加工機から降ろすことなく1人で三次元測定ができます。ワイヤレスプローブによる操作で、加工前の製品の基準面や加工原点を正確に測定できるので、位置決めも簡単。段取り時間を大幅に短縮することができます。
また、加工前に削りしろを含んだ形状を測定し、加工誤差を補正することで、最終的な追い込みの加工作業の効率を向上させることができます。さらに、その場で測定箇所の写真付きの検査成績書が作成できるため、納品前の精度保証を高い信頼性の下に実施することが可能です。
立旋盤(ターニング)上での大型フランジの内径・平面度・直角度測定
圧力容器に各種サポート材やフランジを取り付けるボルト穴の位置は、設置後の強度や安定性に関わる重要な測定項目です。このため、フランジの内径・平面度・直角度は、製造時はもちろん、納品時にも測定する必要があります。
これらの測定をハンドツールで行うと数人での作業が必要であり、奥にあるボルト穴の中心径などは他の部品が妨げとなって測定できず、測定値も安定しないため設計値との照合も困難です。
「WMシリーズ」なら、測定ポイントにプローブを当てるだけで、1人で定量的な測定が可能です。ワイヤレスプローブによる自由なアプローチは、ワークの奥まった部分の測定が可能で、フランジの内径・平面度・直角度もプローブを当てるだけで測定は完了。三次元的な位置座標が測定できます。
さらに、持ち運びが可能なポータブルタイプなので、一般的な三次元測定機では不可能な、現場で施工精度を三次元で測定したいといったニーズにも対応することができます。
横中ぐり盤上での穴ピッチ・穴径・位置度の測定
横中ぐり盤で加工するフランジを他の部品と接合するためのねじ穴ピッチ・穴径・位置度の精度は、接合部分の強度に大きく影響するため、正確な寸法管理が必要です。穴ピッチ・穴径は、コンベックスや長尺ノギスで測定することで確認します。しかし、測定箇所が多いため、ハンドツールでは2人以上による長い作業時間が必要です。また、位置度はデータムからの距離を測定する必要があるため、ハンドツールによる測定は困難です。門型の三次元測定機で測定するには、横中ぐり盤から製品を取りはずして測定室に運搬するという大変な作業を大勢で行わなければなりません。さらに追加工のために横中ぐり盤に設置する際は位置決めなどの設定が必要です。
「WMシリーズ」なら、横中ぐり盤から製品を降ろすことなく測定する面にワイヤレスプローブを当てていくだけで、ねじ穴ピッチ・穴径・位置度を簡単に求めることができます。また、単純な直線距離はもちろん、対角寸法や面の角度などの立体的な寸法も測定することができます。さらに、3D CADファイルから読み込んだ形状と測定対象物の形状を比較測定したり、測定結果をCADデータとして出力したりということも可能です。
機上測定の効率化
「WMシリーズ」なら、ワイヤレスプローブを当てるだけの簡単な操作で、さまざまな工作機械で機上測定することができます。さらに、これまでに紹介した以外に、以下のようなメリットがあります。
- 広範囲を高精度に測定可能
- 最大測定範囲25mの広範囲なエリアを、高精度に測定可能。測定の手順を記憶させ、同じ箇所を測定することができる「ナビ測定」モードも搭載しているため、誰が測定してもデータがバラつきません。
- ナビゲーション測定機能
- 1度測定した測定対象物のデータを測定手順書として保存できます。同じ形状の対象物を複数個測定する際には、ナビ画面に従ってプローブを当てるだけで測定とOK/NG判定ができます。
- データをまとめる統計解析機能
- ナビゲーション測定実行後の測定結果は、自動的にハードディスクドライブに保存されます。保存されたデータを抽出して統計値確認・トレンドグラフ・ヒストグラムなど、各種統計解析ができます。
- わかりやすいインターフェース
- 三次元測定機のインターフェースというと、難解で馴染みにくいコマンドが多いイメージがありますが、「WMシリーズ」では、画像やアイコンなどで誰にでも親しみやすい操作性を追求し、直感的な操作を可能にしました。
「WMシリーズ」は、機上測定において各部の寸法や形状の測定はもちろん、3D CADデータとの照合作業などを強力にサポート。さまざまな加工品の製造から設定・品質管理に欠かせない業務まで、飛躍的な効率化を実現します。