位置決め治具・溶接治具の寸法測定
位置決め治具や溶接治具の寸法精度は、それらの治具を用いて製作する製品の加工精度に大きく影響します。通常、位置決め治具や溶接治具の位置や寸法はダイヤルゲージやコンベックスなどのハンドツールで、三次元形状はアーム式の三次元測定機で測定します。これらの測定機器は、測定するポイントに応じて使い分けますが、寸法精度を維持しつつ治具の大型化や施工期間の短縮などの要望に応えるには十分な注意を払う必要があります。
ここでは測定に必要な位置決め治具と溶接治具の基礎知識や、加工品質を大きく左右する治具の寸法測定の効率化に着目。 位置決め治具と溶接治具の寸法測定の必要性と測定ポイントについて説明し、その効率化の事例を紹介します。
- 治具とは
- 位置決め治具・溶接治具の役割
- 位置決め治具・溶接治具の寸法測定の必要性
- 位置決め治具・溶接治具の寸法測定
- 位置決め治具・溶接治具の寸法測定の課題と解決法
- 位置決め治具・溶接治具の寸法測定の効率化
治具とは
治具(ジグ)とは、加工や組み立て、検査などの工程において製品(ワーク)を固定し、製造を補助するために用いられる器具です。製品の位置決めや固定、ガイドに沿った加工、さらに加工精度の検査などを可能にし、省人・省力化によるコストダウン・生産性の向上・人的ミスの低減・ロボットや自動機による製造の自動化を実現します。
治具は、2種類に大別でき、1つは加工する製品を固定して加工をガイドする治具で、もう1つは機械加工において工作機械に製品を固定する治具です。
このように、治具は製品を固定して作業を助けるだけでなく、ロボットや自動機による作業の自動化において欠かすことができない役割を持つ装置です。
位置決め治具・溶接治具の役割
治具には、目的に応じたさまざまな種類があります。たとえば、製品(ワーク)の位置決めには「位置決め治具」といわれる治具が用いられます。位置決め治具で製品を定められた位置に正確に固定することで、自動機による切削や研磨、溶接など加工が可能になります。たとえば、「溶接治具」はロボット溶接機や自動溶接機による溶接を可能にします。
ここでは、この位置決め治具と、位置決め治具の中でも溶接の自動化に欠かすことができない溶接治具の機能について紹介します。
位置決め治具
位置決め治具とは、組み立てや加工のために製品を決められた位置に固定する治具で「固定治具」または「組立治具」ともいわれます。固定治具は文字通り製品を固定する治具で、バイス・クランプ・ブッシュなどが挙げられます。工具による加工をサポートする治具で、製品を位置決めして切削や研削などの加工を行います。
切削や研削以外にも、決まった大きさに材料を切断するための切断治具や、決まった位置に部品を挿入する挿入治具、塗装しない箇所を保護するための塗装治具などがあります。
これらの治具は、すべて省人・省力化によるコストダウンや、ロボット・自動機による製造の自動化はもちろん、加工時間の短縮や加工精度の向上、作業者のスキルに依存しない品質の実現をサポートするために利用されます。
溶接治具
溶接する製品を固定する治具は「溶接治具」といわれます。溶接治具は母材を定められた位置に固定し、正確で確実な溶接を実現するための治具です。
溶接作業の補助や溶接技術の向上のために用いられ、製品を固定して溶接作業中でも動かないようにすることができるため、個人の技術にかかわらず決まった形に溶接できます。特にロボット溶接や自動溶接では、特定のガイドに沿って溶接トーチの操作や溶接する位置などを案内する必要があるため、欠かせない治具です。
溶接治具には、溶接法に応じたさまざまタイプがあります。たとえばアーク溶接を自動で行う場合、仮溶接と本溶接では溶接時に必要となるクランパーなどの治具の位置や数が異なります。また、スポット溶接を自動で行う場合は、スポットガンが溶接箇所にアクセスができるような工夫が必要です。
位置決め治具・溶接治具の寸法測定の必要性
位置決め治具や溶接治具は、高精度に作り込めば以降の加工や検査で多くのメリットを実現する治具です。しかし、治具の寸法や設置の精度によっては逆効果になりかねません。また、製造を続けていると製品(ワーク)の重量や加工時の負荷などによって徐々に治具の寸法が変化し、製品の基準面のバラつきや基準座の位置・高さのバラつきの原因になります。
このようなトラブルを避けるためにも、治具の寸法や治具の設置位置の測定は重要です。また、工作機械を使用しているうちに変化する平行度や直角度を測定し、治具で調整することで工作精度を維持することができます。このため、治具自体はもちろん、設置時の寸法測定や、設置後の定期的な寸法測定は欠かせません。
位置決め治具・溶接治具の寸法測定
位置決め治具と溶接治具の寸法測定に当たり、留意すべきポイントを紹介します。
測定のポイント
治具の位置決め精度は、加工や組み立て精度に直結するため、固定した際の平面度・平行度が重要な測定のポイントとなります。また、溶接治具ではX・Y・Zの座標位置の精度が重要です。
位置決め治具の平面度・平行度測定
切削加工やプレス加工など、加工負荷が発生する製品の位置決め治具は、加工負荷の方向に対して受け側となるように配置することで、安定した位置決めが行えます。 たとえばX・Y方向の位置決めでは、X・Y方向の基準座の平面度や平行度の精度が低いと、加工圧により製品に不要な回転力が発生し不安定な状態になります。このため治具には回転力に負けない大きなクランプ力が必要となり、加工精度が下がってしまう可能性があります。また、X・Y方向の基準座の位置精度が低いと加工精度も低くなるため、基準座の平面度や平行度の測定は重要な測定のポイントとなります。
溶接治具のX・Y・Zの座標位置の精度
溶接治具に求められる機能には、製品の定位置を固定することや、一定の角度を保ったまま固定することなどが挙げられます。しかし、溶接作業中の製品には大きな加工圧が働きます。このため、溶接治具には加工圧を考慮したX・Y・Z軸の位置決めが必要です。また、溶接後の製品の仕上がり精度が低い場合は、治具のベースやブランケット、位置決めピンを加工して調整し、X・Y・Zの座標位置の精度を高める必要があります。
溶接後の製品の仕上がり精度が低いと、溶接の手直しに大きな工数を割く必要が出てきます。このため、溶接治具の座標位置の精度は、溶接工程だけでなく、溶接の後工程の作業効率化にもかかわる重要な測定ポイントです。
位置決め治具・溶接治具の寸法測定の課題と解決法
製品(ワーク)を定められた位置に正確に固定する必要があるため、位置決め治具・溶接治具の寸法測定では治具の各固定部品の位置はもちろん、平行度や直角度などの幾何公差を厳しく検査する必要があります。これらの測定はコンベックス・長尺ノギス・ダイヤルゲージなどのハンドツールやアーム式の三次元測定機で行っていました。
しかし、ハンドツールでは測定者による測定値のバラつきや、測定に複数の人員が必要で長い時間を要するなどの問題があり、幾何公差の測定においては座標を求めることができません。また、アーム式の三次元測定機は測定範囲が狭いため、測定機を移動させての測定が必要であり、さらに測定機の操作には熟練が必要です。
これらの問題を解決すべく、最新式の三次元測定機が活用されるケースが増えてきました。キーエンスのワイドエリア三次元測定機「WMシリーズ」は、ワイヤレスプローブで広範囲の治具も高精度で寸法測定が可能です。測定範囲内なら奥まった部分にも自由にアプローチでき、測定したい治具にプローブを当てるだけの操作なので、1人で簡単に測定することができます。また、コンベックス・長尺ノギス・ダイヤルゲージなどのハンドツールに比べて測定結果がバラつくことなく、定量的な測定が可能です。また、仮想線を基準とした三次元的な寸法を直接測ることができるので、平行度や直角度を高い信頼性で保証することができます。
位置決め治具の平面度・平行度測定
大型製品の位置決め治具の測定距離は数メートルに達するため、コンベックス・長尺ノギスで位置を測定します。また取り付け角度や平面度はダイヤルゲージや角度ゲージなどで測定します。しかし、これらハンドツールの場合、測定器具を当てる角度や強さ、位置によって測定値が変わるため、測定者による測定値のバラつきが発生します。
「WMシリーズ」なら、測定箇所にプローブを当てるだけで、1人でバラつきのない定量的な測定が可能です。治具の取り付け角度もプローブを当てるだけで測定は完了。三次元的な位置座標が測定できます。形状公差である平面度や姿勢公差である平行度などの幾何公差も正確に測定することができるので、従来は代替手段で測定していたような管理寸法でも、モニタ上で測定箇所を直観的に確認しながら測定することができます。
さらに、持ち運びが可能なポータブルタイプなので、一般的な三次元測定機では不可能な、現場で設置精度を三次元測定したいといったニーズにも対応することができます。
溶接治具のX・Y・Z座標位置とCAD比較測定
溶接治具は、溶接時の部品配置がそのまま溶接後の成形品の仕上がり精度に影響します。このため、設計したCADの図面どおりに仕上がっているかの確認が重要です。コンベックス・長尺ノギス・ダイヤルゲージなどのハンドツールでは三次元的な位置座標の測定は困難であるため、CADの図面との比較は行えません。また、測定者による測定値のバラつきも課題です。アーム式の三次元測定機は測定範囲が狭いため、測定機を移動させての測定が必要であり、さらに測定機の操作には熟練が必要です。
「WMシリーズ」なら、1人で測定ポイントにプローブを当てるだけで、バラつきのない三次元的な位置座標が測定可能です。X・Y・Z座標位置はもちろん、位置度や平面度などの幾何公差も直接測定することができます。従来は代替手段で測定していたような管理寸法でも、モニタ上で測定箇所を直観的に確認しながら定量的に測定することができます。
また、3D CADファイルから読み込んだ形状と、測定対象物の形状を比較測定が可能。測定しているその場でCADの図面との差分を確認することができます。さらに、3D CADデータとの差分をカラーマップ表示することができるため、視覚的な確認も可能です。
位置決め治具・溶接治具の寸法測定の効率化
「WMシリーズ」なら、ワイヤレスプローブを当てるだけの簡単な操作で位置決め治具・溶接治具を1人で測定することができます。さらに、これまでに紹介した以外に、以下のようなメリットがあります。
- 広範囲を高精度に測定可能
- 最大測定範囲25mの広範囲なエリアを、高精度に測定可能。測定の手順を記憶させ、同じ箇所を測定することができる「ナビ測定」モードも搭載しているため、誰が測定してもデータがバラつきません。
- 測定結果を3Dモデルで出力できる
- 測定した要素は、STEP/IGESファイルとしてエクスポートできます。図面のない製品でも、現物の測定結果を基に、3D CADデータを作成可能です。
- わかりやすいインターフェース
- 三次元測定機のインターフェースというと、難解で馴染みにくいコマンドが多いイメージがありますが、「WMシリーズ」では、画像やアイコンなどで誰にでも親しみやすい操作性を追求し、直感的な操作を可能にしました。
- ポータブルで現場置きが可能
- 本体を台車に入れて、自由に持ち運べるポータブル仕様。現場に持ち込み、その場ですぐに施工状態を測定することが可能です。
「WMシリーズ」は、位置決め治具の寸法測定はもちろん、3D CADデータとの照合作業などを強力にサポート。治具の製造から設置・メンテナンスに欠かせない業務まで、飛躍的な効率化を実現します。