プレキャストコンクリートの寸法測定
これまで、RCセグメントや擁壁などのプレキャストコンクリートの寸法は、長尺ノギスやコンベックスで測定し、施工後はトランシットで測定していました。しかし、寸法精度を維持しつつ、構造物の大型化や施工期間の短縮などの要望に応えるには、これらの測定器具では不十分でした。
ここではプレキャストコンクリート業界を取り巻く近年の品質に対する要求の変化や、品質を大きく左右する寸法測定の効率化に着目。 RCセグメントやプレキャスト製品を例に寸法測定の必要性と測定ポイントについて説明し、その効率化の事例を紹介します。
- プレキャストコンクリートとは
- RCセグメントの寸法測定の必要性
- RCセグメントの寸法誤差の影響とJIS規格
- i-ConstructionとBIMによる建設現場のデジタル化
- RCセグメントの寸法測定
- RCセグメントの寸法測定の課題と解決法
- プレキャストコンクリート製品や型枠の測定
- 統計解析と検査成績書の発行
- プレキャストコンクリートの寸法測定の効率化
プレキャストコンクリートとは
コンクリートの二次製品であるプレキャストコンクリート製品は、工場で製品の状態で製造し、現場に運んで使用します。製品には擁壁やボックスカルバートなどがあり、トンネル工事のシールド工法で使われるRCセグメントもプレキャストコンクリートです。
この中でも、RCセグメントはコンクリートを主材料としたセグメントであり、トンネルでシールドマシンが掘り進んだ後の壁面にRCセグメントを組み付けて覆工を作るシールド工事には欠かせないプレキャストコンクリート製品です。
RCセグメントの寸法測定の必要性
RCセグメントには、鉄筋を入れて補強した鉄筋コンクリート(RC)製やプレストレストコンクリート(PC)製があります。
プレストレストコンクリート(PC)は、鉄筋コンクリート(RC)の引張力に対する強度を増したコンクリート製品です。RCに比べてひび割れが発生しにくく、水密性に優れたセグメントの製造を可能にしています。
RCセグメントには土砂や地下水などによる大きな圧力からトンネルを守るために高い強度が求められるため、出来形はもちろん継手やシール溝などにも厳格な寸法精度が要求されます。
RCセグメントの寸法誤差の影響とJIS規格
覆工は、トンネルの長さを数m間隔で輪切りにし、搬送や組み立てを容易にするために半径方向に分割したRCセグメントを繋いだリングを、さらにトンネルの長さだけ繋いで作ります。1つのリングを構成するセグメントの数はトンネルの直径に比例し、トンネル全体としては膨大な数になるため、1個のわずかな寸法誤差が施工後には大きなズレになる可能性があります。
施工中に誤差が発生した場合、その補正には多くの工数を要し、さらに継手接合の不良による強度や防水性の低下の原因になります。このため、RCセグメントの寸法測定は重要であり、厳しく管理する必要があります。
なお、材料や製造方法の通則、検査や性能試験の方法について、JISでは以下の規格で定めています。
JIS A 5365:2016「プレキャストコンクリート製品-検査方法通則」
プレキャストコンクリート製品について、製造された製品の検査方法の一般的事項について規定しています。
JIS A 5371:2016「プレキャスト無筋コンクリート製品」
無筋コンクリート製のプレキャストコンクリート製品について規定しています。
i-ConstructionとBIMによる建設現場のデジタル化
建設現場の状況は、国土交通省が導入したi-Constructionにより大きく変わろうとしています。一方で、同省が建築分野にて進めていた3Dモデルの活用の取り組みが「BIM(Building Information Modeling)」です。
ここでは、i-ConstructionとBIMの基礎知識について説明します。さらにこれらを建設現場に取り入れるためのヒントを紹介します。
i-Constructionとは
i-Constructionとは、国土交通省が進めている建設現場にコンピューターやネットワークなどの情報通信技術を取り入れようという取り組みです。i-Constructionには、以下の3つの取り組みがあります。
- ICTの全面的な活用(土木)
- 規格の標準化(コンクリート工)
- 施工時期の平準化
「ICT技術の全面的な活用(土木)」とは、土木の現場において、ドローンによる3次元測量やマシンコントロール/マシンガイダンスシステムを搭載したICT建設機械による施工などで、高速かつ高品質な建設作業を実現していく取り組みです。「規格の標準化(コンクリート工)」とは、プレキャストコンクリートと現場打ちを、それぞれのメリットを活かし使い分けることで施工の効率化を図り、コンクリート工全体の生産性向上を実現することです。
「施工時期の平準化」は、発注計画を作成し施工時期をできるだけ平準化することで、建設現場における収入の安定化や休暇を取得しやすくする取り組みです。
i-Constructionは、これらの取り組みにより生産性の向上と経営環境を改善し、魅力的な建設現場にすることを目的としています。
BIM(Building Information Modeling)とは
BIMとは、国土交通省が進めている建築分野において計画・調査・設計の段階から3Dモデルを導入し、その後の施工・維持管理の段階においても3Dモデルを連携・発展させていこうとする取り組みのことです。
BIMでは、3Dモデルを活用することで、作業スピードの向上や関係者間の情報共有が容易になります。たとえば、BIMでは「BIMモデル」といわれる現実と同じ建物をコンピューター上に再現します。BIMモデルはオブジェクトの集合体です。BIMモデルで作成した建材パーツには、幅・奥行き・高さ、さらに材質や組み立てる工数なども盛り込むことができます。これにより、図面以外の多くのデータを引き出すことができます。
BIMにより、従来2D図面での作業が行われていた建築現場に3Dモデルを導入することで、さまざまな業務の効率化や品質向上を実現することができます。
i-Construction・BIM実現へのヒント
i-ConstructionやBIMの実現するためには、さまざまな工程でのデジタル化が必要です。たとえば、プレキャストコンクリートの製造や施工状態の確認に不可欠な寸法測定のデジタル化もその1つです。
測定器具をコンベックスや長尺ノギスなどのハンドツールから三次元測定機に更新することで、測定結果のデジタル化や測定工数の削減が可能となります。また、わかりやすい写真付きの検査証明書の発行もできる機能を持つ三次元測定機なら、顧客とのコミュニケーションの質も向上します。
三次元測定機の建設現場への導入は、i-Construction・BIMの実現に欠かすことができない技術革新であるといえます。
RCセグメントの寸法測定
現場で打設する工法に対し、プレキャストコンクリートであるRCセグメントは、製造時の各工程での変形はもちろん、施工時に発生する重量によっても変形する可能性があります。これらの変形が、公差内であるかを測定することで、施工全体の品質を高めることができます。
寸法測定のポイント
RCセグメントでは、幅や長さやR径、反り・うねり・ねじれ・弧長といった出来形はもちろん、セグメント継手・リング継手、さらに止水シール溝の寸法形状なども重要な測定項目です。直径15mを超えるようなリングでも許容誤差は4mm以下であるため、施工現場でスムーズな組み立てが行えるように精度を厳しく検査します。
なお、RCセグメントの形状には平板形や中子形など多くの種類があり、さらに継手やシール溝も多種多様ですが、ここでは代表的な平板形のRCセグメントを例に説明します。
出来形
セグメントの幅は、トンネルの止水性の向上や継手金物およびシール材の節約、トンネルの単位長さ当たりの組立時間の短縮を実現するために拡大する傾向にあります。一方でセグメントの幅が拡大すると、1個のセグメントの重量および1個のリングが負担する土圧が増加するため、リング継手が受けるせん断力が増大します。これにより、圧縮応力への耐久性が低下し、セグメントに割れ・欠け・ひずみが発生しやすくなります。このため、組立前のセグメントの出来形はもちろん、施工後のリングの形状も欠かせない測定要素となります。
セグメント継手
セグメントとセグメントを繋ぐセグメント継手には、ボルト・ナット・ワッシャー締結タイプやインサートボルトタイプ、楔型金具タイプなどがあります。このうち、RCセグメントで多く用いられているのは、ボルト・ナット・ワッシャー締結タイプで、直ボルトを用いるタイプです。このタイプではボルトは継手板に設けられており、ボルトのおねじとめねじ位置や角度が重要な測定ポイントになります。
なお、P&PCセグメントの場合、セグメント間やリング間にプレストレスを導入できるため、基本的にボルトなどセグメントに引張強度を与える継手はありません。
リング継手
RCセグメントの一種であるKL(Key Lock Type Segment)セグメントの場合は、リングどうしを繋ぐ緩衝キーの精度が重要です。緩衝キーはリング継手の全周にわたって曲率の異なる円弧状の凹凸であり、応力を放射状に分散させる効果があります。緩衝キーの寸法精度が低いと、せん断力に対する耐力が不十分になり、継手付近に集中応力が働いてひび割れの原因になります。特に応力の集中度はリング継手部の近くで大きく、セグメントの幅の中央部で小さい傾向にあり、リング継手部の寸法測定は最も重要であるとされています。
止水シール溝
止水シール溝は寸法精度が低い場合、シール材の接面応力により端部が欠けやひび割れの原因になります。特に水膨張性シール材を採用する際は、セグメントを組み立てた後の膨張圧の影響などによりセグメント端部に損傷を与える可能性があります。このため、止水シール溝はシール材の形状・種類を考慮し、位置や寸法・形状を測定する必要があります。
かぶり厚さ
コンクリート表面から内部に埋め込まれている鉄筋表面までの厚さであるかぶり厚さは、鉄筋の耐食性に大きな影響を与えます。かぶり厚さが不十分である場合、コンクリートの中性化やひび割れなどにより内部に水分が侵入して鉄筋が錆びてしまい、設計上の強度を得ることができません。かぶり厚さは建築基準法や日本建築学会の鉄筋コンクリート工事標準仕様書などで規定されており、必要な厚みは構造物の部位に応じて指定されています。
RCセグメントの寸法測定の課題と解決法
RCセグメントのようなプレキャスト部材では完成品の寸法測定はもちろん、施工中の設置角度などの測定も重要です。従来、これらの測定はコンベックスやトランシットで行い、施工時の誤差はシムを入れて調整していました。しかし、測定や調整に時間がかかり工期が伸びるといった課題がありました。また、コンベックスや長尺ノギスといったハンドツールでは三次元的な形状を直接測定することができません。このため、測定できる箇所の値から演算によって三次元形状の寸法を間接的に得るしかない、といった根本的な問題も抱えています。
これらの問題を解決すべく、最新式の三次元測定機が活用されるケースが増えてきました。キーエンスのワイドエリア三次元測定機WMシリーズでは、ワイヤレスプローブでRCセグメントのような大型ワークも高精度測定が可能です。測定範囲内ならワークの奥まった部分にも自由にアプローチでき、1人でもプローブを当てるだけの簡単操作で測定することができます。また、長尺ノギス・コンベックス・トランシットなどの測定器具に比べて測定結果がバラつくことなく、定量的な測定が可能です。
大型ワークの寸法測定効率化、現場における施工精度の保証
通常、大型のRCセグメントはコンベックスや長尺ノギスを使って2人で測定します。また、測定箇所が多いため、測定には非常に多くの工数が必要です。
しかし、「WMシリーズ」なら、数メートルにおよぶ大きな製作物の寸法でも1人で簡単に測定できます。また、ワイヤレスプローブによる自由なアプローチは、ワークの奥まった部分の測定を可能にします。出来形はもちろん、セグメント継手のボルト間ピッチや止水シール溝の形状も測定できます。さらに、持ち運びが可能なポータブルタイプなので、一般的な三次元測定機では不可能な、現場で施工精度を三次元で測定したい、といったニーズにも対応することができます。
大きなRや弧長の測定、反り・うねりの管理
大きなRや弧長は、コンベックスや長尺ノギスでは測定が困難です。また、反りやうねりは複数箇所の測定値から演算して算出するしかなく、正確な測定はできません。
このようなワークも、「WMシリーズ」なら簡単に測定することができます。最大25mサイズのエリアで、測定したい箇所に手持ちのプローブを当てていくだけで、Rや弧長、切り出しの角度のような三次元の測定項目まで、簡単に1人で測定することが可能です。また、反りやうねりは高低差をカラーマップ表示でき、面の状態を一目で確認することができます。これにより、従来は実際に施工してみるまで発見することが困難だった接合の不良や、組み上げ時の危険性を事前に評価することができます。
プレキャストコンクリート製品や型枠の測定
プレキャストコンクリート製品では、各セグメント間や他の部材を高精度でつなぎ合わせる必要があります。また、プレキャストコンクリートを製造する型枠は、寸法精度に大きく影響するため、劣化状況の確認は欠かせません。そのため、プレキャストコンクリート製品の品質を向上させ、施工後の不良率を低下させるためには、仕上がり製品の寸法測定はもちろんのこと、型枠自体の寸法をしっかりと管理していくことが望まれます。
接合面の平坦度とワイヤーピッチの測定
セグメント間やリング間などの接合面の精度は、平面度を測定することで確認します。また、セグメントを他の部材と接合するためのワイヤーのピッチの精度は、接合部分の強度に大きく影響するため、正確な寸法管理が必要です。
コンベックスや長尺ノギスでは、複数箇所を測定することで平面度を確認します。しかし、この方法だと、測定を実施していない箇所に寸法不良があった場合は不良を見落としてしまい、正確な確認とはいえません。また、2人で長い時間を要するため、効率的ではありません。
「WMシリーズ」なら、測定する面にワイヤレスプローブを当てていくだけで簡単に平面度を求めることができ、高低差はカラーマップ表示機能で視覚的に確認することができます。また、単純な直線距離以外にも、対角寸法や面の角度などの立体的な寸法の測定も可能です。さらに、i-Constructionで要求される測定箇所の写真データも測定時に保存できます。
「WMシリーズ」での測定イメージ
プレキャストコンクリート製品の測定画面イメージ
型枠の測定
プレキャストコンクリート製品は、型枠にコンクリートを流し込み、振動を与えてコンクリートの粒を硬く締めることで成型します。
型枠は、多くの製品を成型しているうちに、締め固め作業で発生する振動と圧力・コンクリートとの摩擦などで変形します。型枠が変形すると製品の寸法も変わってしまい、寸法不良の原因になります。このため、型枠を組む時にその寸法を測定できれば、不良品の流出を未然に防ぐことができます。しかし、型枠は大きく測定箇所が多いため、コンベックスなどでの測定では2人以上による長時間の作業が必要です。
「WMシリーズ」なら、大きな型枠でも測定したい点と点にワイヤレスプローブを当てるだけの簡単操作です。もちろん1人で測定することができ、作業時間も従来の測定方法に比べて飛躍的に短縮することが可能です。
統計解析と検査成績書の発行
i-ConstructionやBIMを実現するためには、寸法精度の管理や工程能力といった品質管理が重要です。また、測定結果をデジタルデータで取得し、決められたルールで保管する体制や、測定箇所の写真を撮影して測定結果と紐づけて管理する仕組みが求められます。
統計値の確認と品質管理
コンクリートセグメント製品の品質管理には、OK数やNG数、最大値、最小値、平均、σ、3σ、6σ、Cpkなど主要な統計値が必要です。また、これらの推移を示すグラフ(トレンドグラフ)やバラつきを示すヒストグラムは、製品の予兆管理に使われる重要なグラフとなり、型枠の消耗状態を把握し、安定した品質でコンクリートセグメントを製造するにあたり欠かせない情報です。
検査成績書の発行
i-Constructionでは、測定箇所の写真データが求められています。検査成績書に測定値と測定箇所の写真が添付されていれば、測定状況も一目瞭然。納品や受け入れ時の確認作業の簡略化にも、大きく貢献します。
「WMシリーズ」なら、測定結果は、自動的にハードディスクドライブに保存されます。保存したデータから品質管理に必要なデータを自動で抽出し、各種統計値を簡単に確認することができます。また、測定結果を自動的に検査成績書に変換できます。検査成績書は写真付きでわかりやすく、フォーマットはリッチテキスト形式のため編集も自由自在です。
プレキャストコンクリートの寸法測定の効率化
「WMシリーズ」なら、ワイヤレスプローブを当てるだけの簡単な操作でRCセグメントの正確な寸法を1人で測定可能です。さらに、以下のように多くのメリットがあります。
- 広範囲を高精度に測定可能
- 最大測定範囲25mの広範囲なエリアを、高精度に測定可能。測定の手順を記憶させ、同じ箇所を測定することができる「ナビ測定」モードも搭載しているため、誰が測定してもデータがバラつきません。
- ポータブルで現場置きが可能
- 本体を台車に入れて、自由に持ち運べるポータブル仕様。現場に持ち込み、その場ですぐに施工状態を測定することが可能です。
- 3D CADデータと照合ができる
- 3D CADファイルから読み込んだ形状と、測定対象物の形状を比較測定できます。また3D CADデータとの差分をカラーマップ表示することもでき、自由曲面、輪郭度測定に対応しています。
- 測定結果を3Dモデルで出力できる
- 測定した要素は、STEP/IGESファイルとしてエクスポートできます。図面のない製品でも、現物の測定結果を基に、3D CADデータを作成可能です。
「WMシリーズ」は、RCセグメント各部の形状測定や施工後のリング形状の測定はもちろん、データ解析や検査レポートの作成までを強力にサポート。RCセグメントの製造からシールド工事に欠かせない業務まで、飛躍的な効率化を実現します。