MDS(骨髄異形成症候群)研究においてBZシリーズの導入を決めた理由

ノルベルト・ガッターマン博士

デュッセルドルフ大学病院
大学がんセンター(University Cancer Center、UTZ) エグゼクティブディレクター
血液内科、腫瘍科、臨床免疫科 上級医師

デュッセルドルフの大学がんセンター(University Cancer Center、UTZ)でエグゼクティブディレクターを務める。MDS(骨髄異形成症候群)として知られる、前白血病を中心とした骨髄の悪性疾患を主に研究している。また、MDSの特定の型では赤芽球(赤血球の成熟した前駆細胞)のミトコンドリアに顕著な鉄過剰が見られることから、鉄代謝に関連する特定の問題にも着目している。

デュッセルドルフ大学病院は、30年以上にわたってMDSの研究を行っていることで知られる。大規模なMDSレジストリがある同大学病院では、病気の経過を長期にわたって詳細に記録することに重点を置いており、疫学、診断、リスク評価における研究の貴重な基盤となっている。ガッターマン博士らは大量の骨髄や血液のサンプルを長年にわたって収集し、MDSレジストリの生体材料データベースに保存してきた。それらは現在、分子生物学的解析に利用できるようになっている。

骨髄のパンチ生検や三次元細胞培養の組織マイクロアレイは、顕微鏡観察において特に困難な課題

MDSの作業グループは修士課程の学生2名、研究医1名、および生物学テクニカルアシスタント(BTA)1名で構成されている。

「蛍光顕微鏡BZシリーズを使ってみて、そのコストパフォーマンスの高さはもちろん、さまざまなモジュールを使って拡張できる点にも感銘を受けました。規模の小さい私たちのワーキンググループでも財団から資金を得て購入できたので、とても感謝しています。少しずつですが、新しいモジュールを組み込んでいけるでしょう」とガッターマン博士は語る。

3つの病巣について細胞レベルの研究を行っている血液腫瘍グループのメンバーは、すでに正立蛍光顕微鏡を標準機材として使用しており、最大7つの蛍光染料を用いたOpalマルチプレックスIHCアッセイを成功させている。しかし、この顕微鏡は彼らの要求をすべて満たすものではなく、それが蛍光顕微鏡BZシリーズを導入する理由のひとつとなった。

この研究グループ独自の成果として、特別に開発したMDSの骨髄パンチ生検のTMA(組織マイクロアレイ)がある。このTMAには、AML(急性骨髄性白血病)患者の生検と正常対照者の生検が含まれており、直接比較することができる。TMAに関する免疫組織化学的研究を評価するうえで、蛍光顕微鏡BZシリーズの大きなメリットとしては、TMA上のひとつのサンプル、あるいは複数のサンプルをまとめて1枚の画像に収めることができる点が挙げられる。

図1:TMA連結 DAPI+Rループ、編集済み
図2:TMAセクション連結 DAPI+Rループ、編集済み
図3:TMAスポットの概要

ガッターマン博士は、「2 mmのコアを1枚の画像で表示するためには、画像連結機能が特に重要です」と説明する。

画像連結機能は骨髄前駆細胞のin vitro培養の評価にも有効となる。たとえば赤芽球のミトコンドリアを対象構造として研究する際の準備において、蛍光顕微鏡BZシリーズの大きなメリットはもちろん倒立型の光学系であり、それによって細胞培養の位置決めと評価を簡単に行える。またサイモン・ブリル氏(BTA)はこう付け加える。「この顕微鏡とソフトウェアは実に直感的に使えます。解析ソフトウェアを使えば、さまざまな方法で画像を素早く簡単に処理できます」

1.鉄芽球性貧血の病態生理

鉄芽球性貧血とは、赤血球生成前駆細胞のミトコンドリアに大量の鉄が過剰に蓄積された特殊なMDSである。この疾患は1950年代から知られていたが、そのメカニズムはまだ解明されていない。数年前、鉄芽球性貧血患者の75~80%にSF3B1遺伝子のスプライセオソーム変異が見られることが判明した。つまり、ミトコンドリアが鉄を吸収しても、フェロケラターゼという酵素が鉄をプロトポルフィリンに効率よく取り込ませることができず、鉄がミトコンドリアのマトリックスに蓄積してしまうのである。その結果、ヘム合成が極端に少なくなってしまう。ヘムがないと、細胞は「鉄がまだ足りない」という信号を送り、ミトコンドリアに鉄がさらにあふれることになる。過剰な鉄はミトコンドリアを酸化させ、損傷させる。

ミトコンドリア膜でのタンパク質間相互作用

ガッターマン博士らは、鉄とポルフィリンがうまく結合しない原因を探るため、ミトコンドリアの内膜やマトリックスでのタンパク質間相互作用について研究を進めているという。蛍光顕微鏡BZシリーズを使って、タンパク質間相互作用をPLA(近接ライゲーションアッセイ)で蛍光シグナルとして可視化することで、膜複合体に構造異常がないか調べているのだ。またセクショニング機能を使えば、蛍光ボケのない鮮明な画像が得られる。焦点が合った平面からの信号のみが抽出され、フルフォーカスの画像を作成できる。研究対象のタンパク質間相互作用には、フェロケラターゼと「ミトコンドリアのヘム代謝複合体」の相互作用パートナーが関わっており、そのうちの一部は一過性のものである。

図4:近接ライゲーションアッセイ

「ある作業グループを訪ねたときに、たまたまBZシリーズのプレゼンテーションを目にしました。このコンパクトな装置に備わったあらゆる機能に、すぐに魅了されましたね」と、ファテメ・マジディ研究医は振り返る。

2.三次元細胞培養による骨髄異形成症候群の病態生理

骨髄前駆細胞の挙動を再現して理解するために、ガッターマン博士とその作業グループは現在、研究室内で三次元細胞培養技術を確立している。これまでは、通常の二次元コロニー形成アッセイを行っていた。これは、造血前駆細胞が半固体の培地の中でコロニーを形成し、その状態で研究できる方法である。しかし、三次元細胞培養によって顕微鏡への要求はさらに高まり、蛍光顕微鏡BZシリーズのZスタック機能や画像連結機能、セクショニング機能が真価を発揮するようになってきた。これらの機能が蛍光顕微鏡BZシリーズ導入の決め手となったのである。ガッターマン博士らは、三次元細胞培養における免疫組織化学や核染色、DNA-RNAハイブリッド構造の検出などの用途に向けて、まったく新しい可視化方法を開発している。

3.医薬品開発:NEDD化抑制剤

効果がまだ十分に検証されていないNEDD化阻害剤については現在、臨床試験が進められている。ガッターマン博士の作業グループは、この新薬が造血前駆細胞とその分化にどのような影響を与えるかについても研究している。その中でもEGFR(上皮成長因子受容体)のPLA(近接ライゲーションアッセイ)は細胞表面での受容体のホモ二量体化を検出し、その結果、細胞内部で受容体のリン酸化反応が起きるため、細胞増殖の観点からのシグナル伝達効果がある。インタビューを行った時点では初期の結果がまだ発表されておらず、より正確な情報を提供することはできなかった。

ガッターマン博士の作業グループにとって、蛍光顕微鏡BZシリーズの導入は大きな前進である。デュッセルドルフ大学内のトランスレーショナルプロジェクトにより、他の研究者もBZシリーズを使用できるようになる予定だ。