神経病理学における患者の日常診断と臨床研究に最適なソリューション

フランク・ヘップナー博士

シャリテ・ベルリン医科大学
神経病理学研究所 所長

2007年からベルリンのシャリテ病院・神経病理学研究所の所長を務める。所員約55名を擁するドイツ最大の神経病理学研究所で、年間約17,000の患者サンプル検査を行っている。付属の医学研究部門は、神経筋研究、自己免疫疾患、神経腫瘍学、脳腫瘍およびリンパ腫、小児脳腫瘍、神経変性疾患について重点的に取り組んでいる。
また、研究所は2020年春から中枢神経系(CNS)におけるSARS-CoV-2感染の影響に関する研究も進めている。ウイルスの脳への侵入経路に関する初回の研究結果報告が、11月に Nature Neuroscience 誌 [1] に発表された。

蛍光顕微鏡の導入により設備の課題を解決

ベルリン・シャリテ医科大学病院は、ヨーロッパ最大規模の大学病院の一つであると同時にドイツでもトップクラスの研究機関に数えられている。シャリテはコア施設の方式で運営されている。大型機器や高価で高感度の測定機器を中央施設に統合することで、こうしたテクノロジーを効果的に利用できるよう図っているのだ。このため大学の各科に機器がすべて揃っているわけではない。

シャリテ・ミッテ・キャンパスに在る神経病理学研究所では研究部門と日常検査部門が二棟に分かれている。研究部門には旧式の蛍光顕微鏡は有るものの、この機器では有用な画像が得られないことが多い。そうなると研究所外の共焦点レーザー走査型顕微鏡に頼らざるをえないが、それには利用時間の予約が必要となる。

以前は、日常の医療診断に使用できる蛍光顕微鏡がなかったため、必要な場合、所員は利用予約を取って外部の顕微鏡を使用していた。ヘップナー博士は研究所のために蛍光顕微鏡を購入し、これまで多大な時間と周到な遣り繰りで埋めていた設備不足の課題をやっと解消することができた。

多くの基準をクリアしたキーエンスの蛍光顕微鏡BZシリーズ

個々の標本にはそれぞれに異なる課題があるが、ヘップナー博士の神経病理学科で使用する蛍光顕微鏡には、それらの課題すべてに対応できることが求められている。医療技術助手や修士課程の学生、そして研修医や研究者に至るまで、それぞれに解像度、特性、場所、そして何よりも使いやすさの点から要件があり、満たすべき基準は数多い。

神経病理学研究所では新しい蛍光顕微鏡の重要な基準として以下の点を決めていた。

  • 実用的で小型、持ち運びが可能であること
  • 研究所のコンピュータと互換性があること
  • 暗室が内蔵されており、使用場所を選ばないこと
  • 特定の標本で必要となる共焦点レーザー走査型顕微鏡と同等の高解像度であること
  • 蛍光ボケを除去できること
  • 連結機能が搭載されており、一つの標本を複数の視野に分けて撮像した画像を一枚に結合できること
  • 診断ワークフローに容易に組み込めること
  • 患者サンプルを簡単、かつ完全に文書化できること
  • 使いやすいこと

ヘップナー博士はインタビューでこう語った。「もし、私がこの研究所用の蛍光顕微鏡を設計するとしたら、キーエンスの蛍光顕微鏡BZシリーズが搭載しているすべての機能を入れます」。標本の全体像を素早く観るか、それとも一つの細胞を拡大して詳細を観るか、画像を連結するか、または光学セクショニングをおこなうか、操作性の良さか、あるいは可搬性か、BZシリーズはこうした選択肢をすべてカバーしている。つまり、蛍光顕微鏡BZシリーズはヘップナー博士向けのオーダーメイドも同然で、神経病理学的研究と診療におけるさまざまな要件を満たしているということだ。

設置場所を選ばず、効率を優先したセットアップが可能

研究部門と患者治療部門は二つの建物にまたがっているため、顕微鏡の設置場所には日常の診断用のディスカッション顕微鏡室が選ばれた。蛍光顕微鏡BZシリーズには暗室が内蔵されているため、実験を行う際も場所を選ばず効率を優先したセットアップが可能だ。ディスカッション顕微鏡室は常時全所員に開かれており、ネットワーク対応の研究所のコンピュータやプレゼンテーションモニタ等、数々のテクノロジー設備が整備されている。蛍光顕微鏡BZシリーズをこうしたハードウェアに接続することで、光学顕微鏡の標本の観察に用いるだけでなく、カンファレンスや診断といった目的にも蛍光画像を直接利用できるようになっている。ヘップナー博士は、「蛍光顕微鏡は導入初日からすぐさま利用されるようになり、最初の画像は既に新しい論文に使用されています。」と言い、さらにこう付け加えた。「これはBZシリーズの使いやすさのおかげです。経験の浅いユーザでも質の高い、有用な画像をすばやく生成できますから」。

図1 フランク・ヘップナー博士 蛍光顕微鏡BZシリーズを設置した顕微鏡検査カンファレンス室にて

標本に応じて異なる要件にも対応

日常の診断に加え、6つの研究グループを擁する大規模な大学の神経病理学研究所であるため、蛍光顕微鏡を用いることで解決すべき課題は多岐にわたる。標本の種類は、ヒトおよびマウスの脳や脳腫瘍組織切片、脳脊髄液サンプル、CNSや筋肉組織切片から、細胞培養、単一細胞にまで及ぶ。

日常診断の課題

たとえば、ヘップナー博士の診断研究所では種々の筋肉疾患が疑われる場合はアミロイド物質の検出のためFFPE切片にLCOs (発光性共役オリゴチオフェン)でマーキングしている。アミロイド物質は、アルツハイマー病のように脳に沈着するだけでなく、筋肉や脳の外の中枢神経系の神経にも沈着する。診断を左右する、生化学的な構造や形態の判断には蛍光測定が使用されている。日常の診療では、蛍光顕微鏡を用いた自己免疫性脳疾患患者の免疫グロブリン検出も標準的な検査手法である。従来は、今述べたような検査には別の建物にある研究設備を使わねばならず、それには利用時間の予約が必要だった。

日常診断において、キーエンスの蛍光顕微鏡BZシリーズを導入することによる利点は明らかだ。BZシリーズは、ディスカッション顕微鏡室に設置したことで誰でも常時アクセスでき、また(フル電動制御により)操作が簡単なため複雑で時間のかかるトレーニングが不要なのだ。蛍光観察対応のスキャナーを使用せずとも患者サンプルは即座に完全に分析、文書化できる。もう一つの大きな利点は、医師や研究員が常に使い方を実地習得できることで、個々の予定に合わせて習得が進められるようになったことだ。

研究と診断の流動的な境界

多重蛍光は主として神経病理学研究所での研究に使用されてきたが、現在は診断に使用される機会がますます増えている。異なる種類の細胞における対象構造の共局在化は、特にヘップナー博士の研究グループが現在進めている COVID-19 の研究の一部であり、SARS-CoV-2が嗅粘膜から脳へといかに広がるかについての知見を提供することになった。神経病理学研究所を始め、20を超える他の共同研究グループから得たトランスレーショナルな研究結果が2020年11月末にNature Neuroscience 誌 [1] に発表された。落射蛍光顕微鏡により嗅粘膜内のニューロン上でSARS-CoV-2のスパイクタンパク質が検出されている。ウイルスは嗅神経に沿って脳幹まで到達しているということである。多重蛍光画像により、少なくともこれまでのところ神経細胞内ではウイルスは検出できないことが示されている。これは、中枢神経系(CNS:Central nervous system)を通る細い血管を介することで、ウイルスは脳にも侵入できるということを示唆している。

しかし、ウイルスがまだ脳で検出されていないにも関わらずCOVID-19患者の中には、急性症状が治まった後でも、晩期のウイルス感染後神経障害(いわゆるLong-COVID)の症状を呈する人がいる。こうした障害については、たとえば、脳内で引き起こされた免疫細胞のサイトカインストームという観点から見ると、SARS-CoV-2に対する免疫応答によるものであろう。Long-COVIDの研究はまだ始まったばかりだが、中枢神経系(CNS)の役割はその中で重要な位置を占めている。

図2 COVID-19患者の嗅粘膜におけるSARS-CoVスパイクタンパク質の共局在化

研究課題

多発性硬化症は慢性の炎症性自己免疫性神経疾患である。神経病理学研究所のヘレナ・ラートブルッフ博士の研究グループはこの疾患を持つ患者の脳内における特定の免疫細胞の生存ニッチを研究している。使用している手法は、同一セクションで連続染色をおこなう手法と、空間分解によるトランスクリプトーム解析である。どちらも非常に時間と費用のかかる分析手法だが、蛍光顕微鏡BZシリーズを使用すれば、リソースを節約しながら効率的にこの手法に新しい染色を取り入れられるのが分かった。高速撮像と光学セクショニングによりにより、組織サンプルがそれ以上の分析に適しているかどうかを予め簡単に調べられるようになり、グリア細胞、ニューロン、血管、髄膜、および様々な免疫細胞サブタイプといった個々の脳組織に対する各抗体を個別に検証できるようにもなった。

過去数年にわたりヘップナー博士はアルツハイマー病の研究のため脳検体のバイオバンクを築いてきた。このバイオバンクからのサンプルは、脳内の変性沈着物によって引き起こされる高レベルの自家蛍光を示すのが普通である。アルツハイマー病の患者は高齢で死亡することが多いため、この問題は研究グループにとっては日常的なものとなっている。その生涯の中で、特に脳変性疾患を持つ患者であることから、高い自家蛍光を発する物質が多く沈着している可能性があるためである。特にこのような場合にヘップナー博士のチームが有難いと感じるのは、蛍光顕微鏡BZシリーズが蛍光ボケを除去して、オートファジー体やリソソームなどの個々の細胞構造を鮮明に映し出せる点だ。

図3 ミクログリアの画像

蛍光顕微鏡BZシリーズのおかげで神経病理学研究所の日々の研究や日常業務が大幅に簡素化されたとヘップナー博士は言う。フル電動制御の顕微鏡は蛍光画像を素早く生成する上、問題が発生した場合はキーエンスのカスタマーサポートを利用してリモートで解決することもできる。カンファレンス中、蛍光画像を見せる時にそそくさと部屋を暗くする必要もない。BZシリーズなら研究所の要件に合った高精細な画像が撮影できるため、共焦点レーザー走査型顕微鏡まで必要になるのは例外的な場合のみである。患者サンプルやアルツハイマー病の基礎研究に使用されるモデルマウスの脳半休の切片には、画像連結機能が広く利用されている。そして最後に、蛍光ボケが除去できるという点は、標本の大部分が観察の妨げとなる自家蛍光を発するものである神経学において、大きな利点である。要するに、顕微鏡に関してはベルリン・シャリテ医科大学病院・神経病理学研究所の条件は広範囲にわたるが、蛍光顕微鏡BZシリーズはそのすべてを満たしているのだ。

[1] Meinhardt, J., Radke, J., Dittmayer, C. et al. COVID-19患者における中枢神経系への侵入口としてのSARS-CoV-2の嗅神経経粘膜浸潤。Nat Neurosci 24、168–175(2021). https://doi.org/10.1038/s41593-020-00758-5