製品の微妙な色の違いは、品質を左右します。たとえば、ロットによって製品の色が異なったり、外装部品の色が一部異なったりすると、外観品質や信頼性を損ねます。また、機能性フィルムなどでは、部分的に色が異なったり、目視では判別できない異品種が混入したりすると、製品本来の機能や性能を損ね、不良品の流出につながる恐れがあります。
ここでは、色の測定方法や表色系の基礎知識、そして、4Kデジタルマイクロスコープを使ったRGB測定の事例などを紹介します。

RGB測定における4Kデジタルマイクロスコープの活用

色の測定方法

人は、目で物体を見たとき、環境光や明るさ、見る角度などによってその色の感じ方が異なります。また、見る人によっても色の感じ方はさまざまです。しかし、現代の工業での大量生産においては、人による色の感じ方の違いは、製品や部品、部材とそれらの品質・性能のバラつき、そして最終製品の品質低下につながってしまいます。
こうした不良の発生を防止するためには、色を正確に測定し、その数値から色を特定することが重要です。そのため、多くの製造現場では色の測定・数値化に「色差計」や「分光測色計」が利用されています。以下では、それらの特徴や違いについて説明します。

色差計とは

色彩計とも呼ばれます。人の目の網膜は、物体を見たときそれに反射した光(=可視光:400~700nmの波長)を赤(R)・緑(G)・青(B)の3種に分け、脳にその刺激を伝達することで色を判断しています。色差計も同様にこの3種の光の刺激を測定し、X・Y・Zの「3刺激値」として数値化します。
この測定方式は、「刺激値直読タイプ」と呼ばれます。このタイプの色差計は比較的安価かつ小型で取り扱いやすいため、製造現場での色検査などに広く用いられています。しかし、その反面、光源によって数値が変化してしまうため、次に説明する分光測色計で行うような高度な解析には向いていません。

分光測色計とは

光源から照射して対象物で反射した光を、受光部の複数のセンサで波長ごとに分光して反射率を測定します。3刺激値X・Y・Zの算出だけでなく、分光反射率によって色(波長)をグラフなどで解析することも可能です。
刺激値直読タイプの色差計とは異なり、さまざまな照明光源データを使用することによって、光源による見え方の違い(演色性)や特定の条件下で2つの色が同じに見える条件等色(メタメリズム)、対象物の表面状態の違いなども調べることができます。色差計に比べて高価ですが、より高度な色の解析が可能であるため、主に研究・開発などに活用されています。

CIE表色系とその種類

対象物の色を測定して定量的に評価するには、色という曖昧な概念に対して、共通の定義が必要となります。そこで、光と照明の分野での科学・技術に関するさまざまな国際基準を設けている国際照明委員会(CIE:Commission Internationale de l‘Eclairage)は、人が共通して色を正確に判別するための表色系を定義しました。それはCIE表色系と呼ばれており、多種多様な産業分野で幅広く活用されています。なかでも代表的な表色系である「RGB表色系」や「XYZ表色系」、「L*a*b*表色系」について解説します。

RGB表色系

CIEが最初に設けたものがRGB表色系で、実在するR(赤)・G(緑)・B(青)の3原色(3刺激・原刺激・色刺激ともいう)の混合比(加法混色)によって色を表すシステムです。3原色のスペクトルは、R=700nm・G=546.1nm・B=453.8nmとされています。ただし、RGB表色系での加法混色では表現することができない色もあります。たとえば、3原色をどのような比率で混ぜ合わせても、実際にあざやかなシアンをつくることができません。

RGB表色系での色の掛け合わせは、液晶モニタなどの色表示にも使用されているため、モニタ表色系とも呼ばれています。
3原色それぞれを0~255階調の濃淡で表し、組み合わせることにより、256の3乗=16,777,216通りの色を表すことが可能です。なお、3原色がすべて重なったとき、白を表示します。

RGB表色系

XYZ表色系

XYZ表色系は、さまざまな産業分野で幅広く用いられています。RGB表色系では色域の単色光を正確に再現できないという不都合を数学的な手法で回避するために考案されたシステムで、X・Y・Zを用いて示します。
R・G・Bは、実際に存在するスペクトルで、総天然色(true color)と呼ばれます。一方、この表色系におけるX・Y・Zは、数学的な手法で変換した光の色であり、実際には存在しない色もあるため虚色(false color)と呼ばれます。人が知覚する色の体系化ではなく、色の定量的表示を目的に虚色を使うことによって、あらゆる色をX・Y・Zの値で表現することが可能です。

XYZ表色系の3軸は、それぞれ下記のように割り振られています。
X :赤の量(明度を持たない)
Y :緑の量(唯一明度を持つ)
Z :青の量(明度を持たない)
図は、3次元的な相互関係にあるX・Y・Zのうち、あえてZを記載せずに2次元グラフで表したもので、「xy色度図」と呼ばれます。xを横軸、yを縦軸とした馬蹄形の図で、色相に相当する「主波長」と彩度に相当する「刺激純度」のみを表し、明度は示しません。
中央付近の点は「白色点」と呼ばれ、白色であることを示します。また、シアン(C)やマゼンタ(M)、イエロー(Y)の位置から印刷用のインクや絵の具などの色は、xy色度図においては彩度が低く、XYZ表色系がいかに広範囲をカバーしているかがわかります。

XYZ表色系

L*a*b*表色系

L*a*b* 表色系は、CIEが1976年に推奨した表色系です。L*a*b*は、エルスター・エースター・ビースターと読みます。
それぞれの軸で正・負の値によって示される度合いを以下の図とともに解説します。

L*軸:明るさを表す明度軸。プラス側は白く(明るく)、マイナス側は黒く(暗く)なります。
a*軸:緑~赤の彩度を表す軸です。マイナス側は緑、プラス側は赤が強くなります。
b*軸:青~黄の彩度を表す軸です。マイナス側は青、プラス側は黄が強くなります。

L*a*b*表色系

これら3軸で得られた値を色差計算式にかけることで、色差(=⊿E)を求めることができます。品質検査に多く用いられている色差計も、この方法で色差を算出しています。
この⊿Eを管理指標とすることで、各工業分野での色差管理における数値化、そして基準色との比較判定を可能とし、品質向上に役立てることができます。

色の測定を4Kマイクロスコープで効率化する事例

製造現場での品質管理において、ハンディタイプの色差計は手軽にN数を確保できますが、高精度な測定には不向きです。分光測色計は、正確な測定が可能で、広範囲の測定に適しています。しかし、製品の研究・開発や品質保証において顕微鏡で拡大しなければならないほど測定箇所が小さい、または測定対象や測定箇所が狭い場合は、いずれの計器も色判定には向きません。

キーエンスの超高精細4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」であれば、4Kの高解像度な拡大画像を取得し、正確なRGBの値が測定可能。微小な対象物や測定箇所に対する色管理が実現します。
「VHXシリーズ」では、現在エレクトロニクス分野を中心に、さまざまな業界で幅広く使われているsRGB(standard RGB)*を使用しています。測定値は、Excelのシートを使うことで、簡単にXYZ値に変換できます。なお、「VHXシリーズ」にExcelを直接インストールして使用可能です。

TipssRGBとは
国際電気標準会議 (IEC) が、1999年に定めた国際標準規格です。モニタやプリンタ、デジタルカメラなどを中心に、現代では幅広い製品がこの規格に準拠しています。また、モニタや他のカラーモードとの高い親和性を持ち汎用性に優れています。高度な色管理を簡易化できるため、画像の撮影や編集、印刷などの分野でも利用されています。

フィルムのRGB測定による色差評価

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、深い被写界深度と高分解能を両立した先進的な光学系と4K CMOS、多彩な機能を簡単な操作で活用できる観察システムを搭載しています。
「VHXシリーズ」なら、さまざまな表面状態を持つフィルムの鮮明な拡大画像を簡単にかつ素早く取得します。たとえば、表面に凹凸があっても深い被写界深度で視野全体への自動フォーカスを実現します。また、照明の条件出しが難しい光沢フィルムでも、ボタン1つで全方位からの照明を使った複数の画像を自動取得する「マルチライティング」機能を使うことで、条件出しを簡易化することができます。
こうした簡単な操作で取得した高解像度な4K画像を使うことで、高精度なRGB測定と色差評価を行うことができます。また、過去の画像を選択するだけで、そのときの条件を完全再現できるため、同品種の異なる個体に対しても同一条件でのRGB測定が素早く行え、定量的な色差評価を可能とします。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」でのフィルムの色差評価
リング照明 + RGB測定(×300)
リング照明 + RGB測定(×300)

RGB測定による異品種フィルムの同定

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、鮮明な4K画像と高精度なRGB測定により、目視では判別できない異品種フィルムの同定に役立てることができます。
「VHXシリーズ」であれば、正確なRGB測定値の違いはもちろん、通常はコントラストが低く確認が難しい、材質や加工の違いによる微妙なテクスチャの違いもクリアに捉えることができます。
また、対象物に忠実な表示を目的に専用設計された27型の大型カラー液晶モニタ上に画像を並べて比較することにより、フィルム品種の同定を簡単に行うことができます。
こうした基本性能の高さは、フィルムのRGB値を測定し、色差を調べたり品種判別したりといった運用だけでなく、従来は難易度が高かったフィルム表面の微小な欠陥・不良の高度な観察・解析も容易化します。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」でのRGB測定と異品種フィルムの同定
リング照明 + RGB測定(×200)
リング照明 + RGB測定(×200)

RGB値・XYZ値の変換とレポート自動作成

sRGBに準拠したRGB測定値をXYZ値に変換する例を以下の表に示します。なお、W.P.とは白色点のことです。

RGBの方式 3原色&W.P. XYZ ← RGB RGB ← XYZ
sRGB(D65) R (0.64, 0.33) X = 0.4124R + 0.3576G + 0.1805B R = 3.2410X - 1.5374Y - 0.4986Z
G (0.30, 0.60) Y = 0.2126R + 0.7152G + 0.0722B G = -0.9692X + 1.8760Y + 0.0416Z
B (0.15, 0.06) Z = 0.0193R + 0.1192G + 0.9505B B = 0.0556X - 0.2040Y + 1.0507Z
W (0.3127, 0.3290)

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、Excelを直接本体にインストールできます。それにより、1台で測定値の変換やレポート自動作成までを簡単に行えます。

「VHXシリーズ」でのRGB測定・XYZ値への変換・レポート自動作成

  • 過去の画像から撮影設定を完全再現できるため、照明やカメラの撮影条件の統一が簡単に行えます。
  • 外乱光を極力抑え、ホワイトバランスを適切に設定するだけで、正確なsRGB値を取得します。
  • 「VHXシリーズ」にExcelを直接インストールできるため、1台でsRGBの測定やXYZ値への変換、そしてレポートの自動作成が可能です。

RGB測定をはじめ、マイクロスコープを要するあらゆる業務を1台で効率化

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、事例にあるフィルム以外にも多種多様な対象物の定量的なRGB測定に活用可能です。また、Excelを直接インストール可能なため、1台でテンプレートに出力してXYZ値に自動変換し、レポートを自動作成でき、一連の作業を大幅に効率化することができます。
さらに、自動制御によりマイクロスコープに詳しくない人でも簡単に操作できるため、作業の属人化の回避も実現します。

「VHXシリーズ」の正確なRGB測定を支えているのが、マイクロスコープとしての高い性能と機能です。そのため、あらゆる業界での研究・開発や品質保証などにおける観察や2次元・3次元測定、そして自動面積計測・カウントなどの業務を1台でマルチに活用することができます。

「VHXシリーズ」の詳細に関しては、以下のボタンよりカタログをダウンロード、または、お気軽にご相談・お問い合わせください。