リチウムイオン電池は、小型・薄型化する電子機器や大容量・安全性が求められる車載用バッテリー、住宅用の蓄電システムなど需要が拡大し、重要な産業分野となりました。リチウムイオン電池の蓄電容量や充電速度が高まる一方で、発熱・発煙・発火など軽視できないリスクもあります。そのため、研究開発・品質保証・品質管理のいずれにおいても、安全性の確保が重要な課題です。
また、激しい競争下、製品サイクルが速いため、観察・解析・評価・レポートの迅速さが問われる分野でもあります。ここでは、リチウムイオン電池の基礎知識から、話題の次世代電池、そして飛躍的な効率化を実現する最新の観察・解析の事例までを解説します。

リチウムイオン電池・次世代電池における最新の観察と解析

リチウムイオン電池の基本構造・種類・材料

リチウムイオン電池(LiB二次電池)は、スマートフォンやタブレット、ウェアラブルデバイス、ノートパソコンなど小型・薄型化する電子機器をはじめ、EV(電気自動車)・HEV(ハイブリッド自動車)の車載用バッテリー、住宅用の太陽光発電・燃料電池の蓄電システムなどに幅広く使われています。用途の拡大に伴い、さまざまな構造や形状のリチウムイオン電池が生産されています。その基本的な構造や代表的な形状などについて解説します。

リチウムイオン電池の基本構造

リチウムイオン電池の基本構造の代表的な例を下図に示し、各部とその役割などについて解説します。

リチウムイオン電池の基本構造
  • A)負極(カソード):銅箔に対し導電性が高い炭素系材料(黒鉛、チタン酸リチウムなど)を塗布したものです。
  • B)正極(アノード):アルミ箔にリチウム複合酸化物(リチウム・マンガン・コバルト・ニッケル・リン酸鉄など)を塗布したものです。
  • C)セパレータ:ポリオレフィンと呼ばれる化合物(ポリエチレン〈PE〉やポリプロピレン〈PP〉など)でできた微多孔膜で、表面に1μm以下の微細な穴を持ちます。セパレータは正極と負極を絶縁し、両極の接触による発火を防ぎます。
  • D)電解液:リチウム塩を有機溶媒で溶かしたものです。
  • E)充電
  • F)放電
  • G)集電体:発電した電気を集める電気導電体としての役割と、支持体としての役割を持ちます。正極にはアルミ箔が、負極には銅箔が使用されます。
  • H)バインダー:集電箔に混合した材料を結着させます。
  • I)活物質:容量や電圧、特性に大きく関与します。材料(例:コバルト酸リチウム・マンガン酸リチウム・リン酸鉄リチウムなど)の選定や混合、攪拌方法は多種多様です。

リチウムイオン電池の形状(形態)の種類

リチウムイオン電池のセル内部の構造は先述の通りですが、ケースの形状やパッケージの形態、その材質は多種多様です。その中でも代表的なリチウムイオン電池の形状(形態)3種類を図に示します。

円筒型
A:正極端子 B:負極端子 a:正極 b:負極 c:セパレータ
  • A:正極端子
  • B:負極端子
  • a:正極
  • b:負極
  • c:セパレータ

円筒型のリチウムイオン電池は、もっとも低コストで容量密度が高いといわれています。ただし、ケース内部で複数のセルを組み合わせるタイプの場合、セル間に隙間ができるため、密度が低くなります。

角型
a:正極 b:負極 c:セパレータ
  • a:正極
  • b:負極
  • c:セパレータ

角型のリチウムイオン電池では、アルミ製のケースが多く採用されています。素材が鉄かアルミかで、角型電池の極性が変わります。鉄製ケースはヘッダー部がプラス極、アルミ製ケース部はマイナス極になります。

ラミネート型(リチウムポリマー電池)
A:正極端子 B:負極端子 a:正極 b:負極 c:セパレータ
  • A:正極端子
  • B:負極端子
  • a:正極
  • b:負極
  • c:セパレータ

ラミネート型は、リチウムポリマー電池とも呼ばれます。フィルムでラミネートしたセルを用いることにより厚みを抑えることができ、スマートフォン・タブレットなど低背化が求められる機器に用いられます。
一般に電解液は、ポリエチレンオキシド(PEO)・ポリプロピレンオキシド(PPO)・ポリフッ化ビニリデン(PVdF)などのポリマーを加えてゲル化したものです。

リチウムイオン電池の正極材・負極材の種類と特徴

リチウムイオン電池に用いる正極材や負極材によって、特徴や用途はもちろん、コストも変わります。その代表的な種類と特徴について解説します。

コバルト系
正極材:コバルト酸リチウム LiCoO2 / 負極材:黒鉛 LiC6
最も普及したリチウムイオン電池で、モバイル機器を中心に幅広く使用されています。コバルトが高価で、熱暴走の危険もあるため、車載用としての安全性には課題があるといわれています。
ニッケル系
正極材:ニッケル酸リチウム LiNiO2 / 負極材:黒鉛 LiC6
ニッケル系リチウムイオン電池は、最も大容量です。従来は安全性に課題がありました。しかし、ニッケルの一部をコバルトで置換し、アルミニウムを添加した「NCA系」は安全性が向上し、プラグインハイブリッド自動車用としても流通しています。
マンガン系
正極材:マンガン酸リチウム LiMn2O4 / 負極材:黒鉛 LiC6
マンガン系リチウムイオン電池(LMO 系)は、マンガンが安価(コバルトの約1/10)であること、そして強固な結晶構造により熱安定性に優れ、安全性が高いことから車載用電池の主流となりました。
リン酸鉄系
正極材:リン酸鉄リチウム LiFePO4 / 負極材:黒鉛 LiC6
リン酸鉄系リチウムイオン電池は、電池内部で発熱しても結晶構造が壊れにくく、高い安全性を持ちます。また、鉄が原料のマンガン系よりもさらに低コストで製造できることも利点です。一方で、エネルギー密度が低いことがデメリットです。
三元系
正極材:ニッケルとマンガンでコバルト酸リチウムの一部を置換 Li(Ni-Co-Mn)O2 / 負極材:黒鉛 LiC6
三元系リチウムイオン電池は「NCM系」とも呼ばれ、コバルト・ニッケル・マンガンの3種類の原料を使用することで安全性を高めています。NCA系と同様に、プラグインハイブリッド自動車に採用されています。
チタン酸系
正極材:マンガン酸リチウム LiMn2O4 / 負極材:チタン酸リチウム Li4Ti5O12
チタン酸系リチウムイオン電池は、負極に黒鉛を使用する従来型のリチウムイオン二次電池に比べ、約6倍の長寿命と急速充電を実現しています。ただし、エネルギー密度が低いことが欠点として挙げられます。

期待される次世代電池・リチウムイオン電池など、二次電池の観察・解析における課題

リチウムイオン電池の改良・性能向上と並行して、各企業で次世代の二次電池の開発が進められています。普及や実用化が期待されている代表的な次世代電池の種類と特徴を紹介。そして、各社が激しい競争を繰り広げている二次電池業界における観察・解析の課題についてまとめます。

普及・実用化が期待される次世代電池

EV(電気自動車)など用途の拡大に伴い、さらなる大容量化と安全性の高さを実現する次世代の二次電池。その研究開発は、今後のビジネスの明暗を隔てる課題として、規模を問わず多くの企業が盛んに取り組んでいます。その中でも代表的な次世代電池を紹介します。

リチウム空気電池
理論容量密度は1万Wh/kgを超える可能性が指摘されており、実際の試験でも約600Wh/kgの達成が確認されています。金属リチウムを負極に用いますが、それが析出しやすいため、空気中の水分と反応した際の安全性や特性の悪化が課題といわれています。
全固体電池
リチウムイオン電池のような電解液は持たず、固体電解質をセパレータとして用います。形状の自由度が高く、液漏れの心配がないことが利点です。理論容量密度は2000Wh/kg以上といわれています。これは理論上の値であり、現段階では500Wh/kg以上を目標として実用化に向けた研究開発が進められています。充放電が速く、そのサイクルを重ねても劣化しにくいことも利点です。
固体の電解質には硫黄系と酸素系があります。ただし、前者のほうが優れた特性を持つ一方、発火や浸水時に硫化水素が生じる危険性があります。電子機器に搭載できる小型なものから生産が始まっています。
次世代リチウムイオン電池
負極材にシリコンやグラフェンを採用することにより、既存の製造工程を活かしながら容量を増大させることを目的に研究開発されています。電解液の変更による充放電の高速化も注目されている研究項目です。
リチウム硫黄電池
全固体電池を上回る理論容量密度2500Wh/kgで、コバルトなど高価な材料を使用しないため、低コスト・大容量が期待されています。一方、導電性や安定性の低さ、充放電サイクルによる特性悪化が課題として挙げられています。
ナトリウムイオン電池
容量密度は、現在のリチウムイオン電池と同等もしくは少し劣りますが、レアメタルを必要とせず、既存の製造設備を応用できるため、低コストで製造できることがメリットです。析出時の反応性が高いことなど安全性への課題や充放電による特性悪化は、既存のリチウムイオン電池と同様です。

従来の顕微鏡でのリチウムイオン電池など二次電池の観察・解析における課題

各社がより高性能でより安全性の高いリチウムイオン電池を競って研究開発しています。速い製品サイクルに対して品質保証や品質管理が伴います。また、次世代電池の研究開発と特許出願においても、多くの企業や研究者が優れた技術をいち早く実現できるよう日々競い合っています。
そのため、二次電池の研究開発や改良における試験、品質保証のいずれにおいても、観察・解析、定量的な評価はもちろん、そのスピードも重要であり、成功の鍵であるといえます。
一方で、従来の顕微鏡を使った観察・解析では、下記のような課題がありました。

  • 試料が立体的であったり、微細な傷はコントラストが低かったりするため、ピント合わせや照明の条件出しが難しく、人によってピントを合わせる位置が異なり、評価がバラついてしまいます。
  • 光沢が異なる素材が混在している箇所の観察ではハレーションが生じる場合があります。適切な照明設定による観察が困難なため、解析ミスが生じやすくなります。
  • 試料の位置合わせやアングルの変更に時間と手間がかかってしまいます。
  • 工業規格に準拠したコンタミカウントや異物の詳細観察を実施するには、設定が煩雑で多くの手間と時間を要します。また、正確な解析結果と定量的な値を得るには高い習熟度が求められます。
  • 測定値やカウントを数値データとして保存できないため、解析や評価、レポート作成などの後作業に多くの手間と時間を要しました。

次項では、最新の4Kデジタルマイクロスコープを用いて、これらの課題を解決し、簡単な操作でスピーディかつ正確な観察・解析を実現した事例を紹介します。

リチウムイオン電池の観察・解析・評価を効率化する4Kデジタルマイクロスコープの最新事例

近年は、デジタルマイクロスコープの技術進歩により、従来の顕微鏡の諸課題を解決し、簡単な操作で二次電池各部をより素早く、より鮮明に拡大観察できるようになりました。また、最新のデジタルマイクロスコープは、寸法測定やコンタミ(異物)解析、画像・数値データを活用したレポート作成など、作業効率を飛躍的に向上します。
キーエンスの超高精細4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、最先端の高解像度HRレンズ・4K CMOS・照明・画像処理技術による鮮明な画像と寸法測定で、二次電池の観察・解析・評価の効率化を実現しました。
以下では「VHXシリーズ」を用いたリチウムイオン電池の観察・解析事例を紹介します。

異物のカウント(ISO規格に準拠したコンタミ解析)

「VHXシリーズ」は、自動車業界向けの清浄度規格ISO16232/VDA19に準拠したコンタミ測定が可能です。高機能な内蔵照明を用いた高解像度かつ被写界深度の深い画像を用いた正確な自動面積計測・カウント機能を搭載しています。凹凸のあるワークにおいても高精度なコンタミ(異物)のカウント・測定を簡単に行うことができます。
また、「詳細解析モード」では、メンブレンフィルタ全体の画像から、任意のコンタミを選択するだけで、自動でステージ移動し、そのまま高倍率での詳細観察が可能です。これにより従来の顕微鏡に比べ、異物同定が簡単かつ短時間で完結します。さらに、深度合成や3D高さ測定を併用することで、対象物が凹凸形状であっても詳細観察や3次元寸法の数値化が可能です。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」での異物のカウント
カウント前:リング照明 (×50)
カウント前:リング照明 (×50)
カウント後:リング照明 (×50)
カウント後:リング照明 (×50)

セパレータの傷観察

「VHXシリーズ」のハイレゾリューション(HD)ヘッドは、レンズを自動で切り換えながら20~6000倍をレンズ交換作業不要で、シームレスに拡大することができます。また、内蔵照明(電動絞り)を搭載し、明視野・暗視野・偏光・微分干渉(DIC)など多彩な観察方法をカバー。あらゆる対象物の観察に自動で対応することができます。
たとえば、従来は観察が難しかったセパレータ表面の微細な傷も、微分干渉を用いた4K高解像度画像で簡単かつスピーディに可視化することができます。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」でのセパレータの傷観察
微分干渉(DIC)画像(×400)
微分干渉(DIC)画像(×400)

負極材剥がれ観察

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、深い被写界深度を持つため、観察箇所全体にピントが合った鮮明な4K高精細画像での観察を可能にします。
また、内蔵の照明ユニットでさまざまな撮像条件に対応できるため、光沢が異なる素材が混在していても、鮮明に観察することができます。

さらに、「マルチライティング機能」を使えばボタンを押すだけで、全方位の照明での撮像データを自動で取得。その中から観察に最適な画像を選ぶことで、簡単に観察画像が得られます。選択した画像以外も保存されているため、異なる照明条件の画像でも観察できます。過去の観察画像と同じ条件を完全再現して異なる個体を観察することもできるため、人による観察・評価のバラつきを抑えることが可能です。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」での負極材の剥がれ観察
内蔵の同軸落射照明を使った観察(×2500)
内蔵の同軸落射照明を使った観察(×2500)

電池ケース溶接部の観察

角型ケースの蓋(リッド・カバー)封止などにおける溶接品質はリチウムイオン電池の安全性確保において大変重要です。

「VHXシリーズ」は、微細形状を際立たせる、まったく新しい観察方法「Opt-SEM(Optical Shadow Effect Mode)」を実現しました。多方向からの照明で撮影した画像の変位(コントラスト)を解析することにより、表面の微小な凹凸を検出し、SEM(走査電子顕微鏡)に迫る観察画像を取得することができます。
このOpt-SEM画像にカラー情報を重ね合わせて、凹凸情報とカラー情報を同時に表現したり、さらに凹凸情報の色分け(カラーマップ)表示により、より凹凸情報をわかりやすく可視化することも可能です。

なお、観察後であっても保存された画像から凹凸形状の3次元測定や任意の箇所のプロファイル測定も可能です。そのため、後でより詳しい分析が必要になっても、再び同一試料をセットして同一箇所や観察条件の再現に時間を割く必要がありません。
また、パソコンと同様、「VHXシリーズ」に表計算ソフトを直接インストールすることが可能です。取得した観察画像や測定値を定型フォームに自動で流し込むことができるため、レポート作成工数を大幅にカットできます。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」での電池ケース溶接部の観察
Opt-SEM画像(×20)
Opt-SEM画像(×20)
カラーマップ画像(×20)
カラーマップ画像(×20)

リチウムイオン電池・次世代電池の研究開発や品質保証・品質管理の常識を変える4Kマイクロスコープ

高精細4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、4K高解像度画像でしか得られない鮮明さ、高精度な2次元・3次元寸法測定、コンタミのカウントや解析による数値データの取得を簡単に行うことができます。高精細画像と定量的な数値データによって、従来の測定・検査の課題を解決し、作業効率を飛躍的に高めることができる強力なツールです。

観察・解析から評価、レポート作成まで一連の作業性の向上により、工数も短縮することができます。それにより、熾烈な競争が繰り広げられている二次電池市場において非常に重要となった、スピーディなワークフローが実現します。

「VHXシリーズ」に関する詳細は、以下のボタンよりカタログをダウンロード、または、お気軽にご相談・お問い合わせください。