医療現場で、注射用の薬剤保管やシリンジへの充填に多用されている「アンプル」や「バイアル」といった薬剤容器。高い密閉性と信頼性が求められるこれらのガラス容器の品質は、薬剤の保存性や安全性に大きく関わります。
ここでは、アンプルやバイアルに関する基礎知識や品質における注意点、そして品質管理・品質保証に有効な4Kデジタルマイクロスコープを用いた最新の観察・測定事例を紹介します。

アンプルやバイアルの高度かつ効率的な観察・測定

アンプルとは

アンプル(ampoule)とは、注射剤などの保管に使用される容器のことです。注射容器としては、もっとも低コストながら高い密閉性を持つ容器といわれています。アンプルは、ガラスの筒に薬剤を入れた後に先端を熔封して製造されます。注射剤として使用する際は、容器の頭部を折って開封し、注射針を入れて薬剤をシリンジに吸い出します。また、近年は、開封の簡易化を目的に、カット線で頭部が簡単に折れるよう加工された「ワンポイントカットアンプル」と呼ばれるものが主流です。主に小容量の液剤の容器として用いられ、遮光を目的にガラスが着色されたものもあります。

A:頭部 B:頸部 C:胴部 D:ポイントマーク E:カット線
A
頭部
B
頸部
C
胴部
D
ポイントマーク
E
カット線

アンプルの品質における注意点

  • アンプルは異物混入を防止するため、入念に洗浄する必要があります。そして、内包する薬液は澄明な状態で充填し、熔封される必要があります。
  • 使用時、開封するために頭部を折ることにより微少なガラス片が生じると、注射剤の中にそれが異物として混入する可能性があります。安全に開封できるようカット線の加工品質などには注意が必要です。
  • ガラスに気泡やクラック、割れなどが生じていた場合、アンプルの保管品質および内包する薬剤の品質に影響します。不良品流出を防止するためには、出荷される前に外観の検査や拡大観察による不良原因の特定と改善が必要です。

バイアルとは

バイアル(バイアル瓶:vial bottle)とは、注射剤などの保管に使用される容器です。広口の無菌ガラス容器に薬剤を充填後、開口部にゴム栓で打栓し、アルミニウムキャップなどでゴム栓と開口部を巻締めたものです。
ゴム栓に対して複数回刺針して注射器のシリンジにバイアル内の薬剤を取り込むことが可能です。そのため、薬液を複数回にわけて採取できるというメリットがあります。
たとえば、注射時にアンプルから取り出した生理食塩水でバイアルの薬剤を希釈して使用するといった運用を行います。その過程では、汚染を防止するために異なる注射針を用意して使いわける必要があります。

A:ゴム栓 B:アルミニウムキャップ C:無菌ガラス容器
A
ゴム栓
B
アルミニウムキャップ
C
無菌ガラス容器

バイアルの品質における注意点

  • ゴム栓に対して注射針を刺す際に、ゴム栓が削り取られてバイアル内の薬液中に異物として混入する「コアリング」が生じることがあります。通常は使用者が正しい方法で刺針すればコアリングは生じません。しかし、ゴム栓の品質や打栓時の異常は、刺針の技術にかかわらずコアリング発生につながる可能性があるため注意が必要です。
  • 注射投薬時、医師が希釈後に異物が混入していないか目視確認を行いますが、開封前のバイアル内に異物がないことが大前提となります。製造時にバイアル内部に異物が混入すると、薬液の品質や安全性に影響するため、薬剤充填前の瓶やゴム栓に付着した異物やゴム栓の打栓時など各工程で注意が必要です。
  • ガラス容器にクラックや傷、気泡、黒斑などがあると、保存性の低下や内包の薬剤の品質に影響する場合があります。これらを防止したり、原因を特定して再発を防止したりするには、外観の詳しい観察が必要となります。

アンプルやバイアルの観察・測定課題と4Kデジタルマイクロスコープを使った事例

アンプルやバイアルは多くの場合、材料としてホウケイ酸ガラス(ホウケイ酸-硬質ガラス)が使用されています。クラックや傷、気泡などガラス容器の不良は、液剤の品質や安全性に影響をおよぼす可能性があるため、自動全数検査以外にも品質管理・品質保証の業務においては、顕微鏡を使った緻密な観察や評価が求められます。
しかし、ガラス特有の透明性・透過性・光の乱反射などにより、加工箇所のチェックや微小な外観異常の拡大観察や測定は、難易度が高いことが課題です。

キーエンスの超高精細4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、最先端の高解像度HRレンズと4K CMOS、そして多彩な機能を簡単な操作で活用できる観察システムを搭載。鮮明な4K画像での観察と非接触での2次元・3次元寸法測定を実現し、観察・測定を高度化・効率化します。
以下では「VHXシリーズ」を用いたアンプルやバイアルといったガラス容器の観察・解析事例を紹介します。

アンプルのカット線の観察・3D測定

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、これまで照明の条件出しが難しかったガラスに対しても簡単な操作で素早く鮮明に観察することができます。ボタンを押すだけで全方位からの照明による複数の画像を自動取得する「マルチライティング」機能を搭載。自動取得した画像から目的に合った画像を指定するだけで、すぐに観察を始めることができます。それにより、これまで条件出しにかかっていた時間を劇的に短縮します。
また、シャッタースピードが異なる複数の画像を合成し、高階調の画像を取得する「HDR(High Dynamic Range)」機能を搭載。背景とのコントラストが低く観察が難しかったアンプルのカット線も、ハレーションなくテクスチャを高精細かつ高コントラストに観察することができます。この機能は、観察が難しかったガラス容器の微小なクラックや傷などの観察にも有効です。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」でのカット線のHDR画像
同軸落射照明 + HDR(×300)
同軸落射照明 + HDR(×300)

さらに、「VHXシリーズ」は、ピント位置の異なる複数の画像を瞬時に合成し、テクスチャや表面の粗さまでを捉えた3D画像を表示することができます。これにより、ステージ上のサンプルやレンズの角度を動かすことなく、画面上に3D表示された画像を回転させて自由な角度から観察することを可能としました。
加えて、任意の箇所を選択するだけで、プロファイル測定が可能。非破壊・非接触でカット線の断面形状や凹凸の測定値をサブミクロンオーダーで取得することができます。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」でのカット線の3D表示・プロファイル測定
同軸落射照明 + HDR(×300) + 3D表示・プロファイル測定
同軸落射照明 + HDR(×300) + 3D表示・プロファイル測定

アンプルやバイアルの不良箇所の観察

アンプルやバイアルなど高い密閉性が求められるガラス容器にクラックや破断、気泡といった不良や欠陥があった場合、製品の耐久性や安全性、信頼性を損ねてしまいます。しかし、こうした不良はガラスの厚みに対して立体的に生じるため、従来の顕微鏡での高倍率観察では一部にしかピントが合わず、全体を鮮明に観察することが困難でした。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、光学顕微鏡の20倍以上深い被写界深度と高分解能を両立した光学系を搭載しています。それにより、奥行きのある対象物であっても全体にピントが合った高精細な画像で観察することができます。また、複数のフォーカス画像を瞬時に合成する「深度合成」機能を搭載しています。これにより高倍率であってもガラス厚内で奥行きを持つ微小な破断や気泡なども、視野全域にフルフォーカスした4K画像により、その全体像を鮮明に観察することができます。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」でのガラスの破断観察
リング照明 + 深度合成(×200)
リング照明 + 深度合成(×200)
4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」でのガラスの気泡観察
リング照明 + 深度合成(×150)
リング照明 + 深度合成(×150)

アンプルやバイアルの品質管理・品質保証を1台で効率化する4Kデジタルマイクロスコープ

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、安定して高い密閉性と信頼性が求められる液剤用ガラス容器の品質管理・品質保証を高い性能と多彩な機能で高度化・効率化します。

ガラス特有の透明性や光の乱反射により、これまで多くの時間と高い習熟度が求められてきた照明やシャッター速度などの条件出し、これまで不可能だった視野全域へのピント合わせを簡単な操作で実現。スピーディな観察と評価を可能とします。
また、従来の顕微鏡や測定機器では不可能だった、表面状態まで捉えた3D画像での観察や微小な加工箇所の非破壊・非接触での2次元・3次元寸法測定、断面形状の可視化とプロファイル測定をシームレスに実行できます。
ここで紹介した以外にも「VHXシリーズ」は、さまざまな観察や解析の要求に応える機能を備え、さらにレポートの自動作成までも実現。1台で業務の効率化を強力にサポートします。

「VHXシリーズ」に関する詳細は、以下のボタンよりカタログをダウンロード、または、お気軽にご相談・お問い合わせください。