食品や医薬品の生産には、微生物が活用されています。それは、微生物を使った食品の発酵や医薬品などは、人体にとって有益であるためです。その一方で、意図しない微生物の繁殖が生じた場合、腐敗や汚染によって製品の品質を損ねたり、消費者の健康を害したりする恐れがあります。
ここでは、カビ(糸状菌)や細菌(バクテリア)などの基礎知識から、食品や医薬品の品質管理や品質保証、研究開発を高度化・効率化する、4Kデジタルマイクロスコープを使った微生物の観察・解析の最新事例までを紹介します。

微生物(カビやバクテリアなど)の観察・解析の効率化

代表的な微生物の種類

ここでは、食品・医薬品の生産に有効活用されたり、また、品質低下の原因となったりする代表的な微生物の種類について解説します。

細菌(バクテリア)

「細菌(バクテリア)」とは、1つの細胞から成る単細胞生物で、染色体(DNA)が細胞中にそのまま裸の状態で存在する「原核生物」の一種です。栄養源さえあれば、自分と同一の細菌を複製して増殖します。これを「自己複製能力」といいます。一般的な細菌のサイズは、1μm前後で、顕微鏡を使うことによって観察可能です。
ヒトに有用な細菌として、乳酸菌・納豆菌・酢酸菌などが挙げられます。一方、ヒトが病気を引き起こす原因となる細菌としては、大腸菌・黄色ブドウ球菌・結核菌などが代表的で、発病後にこれらの細菌を退治するための医薬品として、抗菌薬(抗生剤、抗生物質)があります。食品などの品質を調べるための検査では、病気を引き起こす細菌の有無や時間経過によってこれらの細菌がどの程度増殖するかを調べます。

真菌

カビや酵母、キノコなどが属する「真菌」とは、染色体(DNA)が膜に包まれた核の中に存在する「真核生物」の一種です。カビを総称として真菌と呼ぶこともあります。そのサイズは、5μm前後で、ヒトの細胞と細菌の中間程度の大きさです。

糸状菌

「糸状菌(しじょうきん)」とは、真菌の一種で、カビやキノコなどのように菌糸(きんし)が寄り集まった形態を持つ菌のことです。菌糸とは、菌類の体を構成する糸状の構造のことを指します。

酵母菌

「酵母菌」とは、糸状菌の一種でありながら菌糸の構造を持たず、丸い形状を持った菌のことです。その多くは酸素のない状態において糖をアルコールと炭酸ガスに分解する一方、酸素がある状態では各種アミノ酸を合成します。こうした性質を活かして古くから酒の醸造や味噌、醤油、パンの製造などに利用されています。実用されている種類としては、ビール酵母・清酒酵母・ブドウ酒酵母・パン酵母(イースト)・薬用酵母(乾燥酵母)などが代表的です。

麹菌

「麹菌(こうじきん)」は、東アジアや東南アジア発祥の糸状菌の一種で、麹(糀、こうじ)をつくるために用いられています。酵母菌と合わせて酒の醸造などに使用されています。麹菌が米・麦・大豆などを分解して、糖やアミノ酸を作り、その働きによって酵母菌が糖やアミノ酸を分解します。日本では古くから麹菌の特性を活かして酒や味噌、醤油、食酢などを製造してきました。

芽胞形成菌

「芽胞(がほう)形成菌」とは、熱処理に対して耐熱性を有する細菌で、耐熱性細菌ともいわれます。そのなかでも芽胞を形成する食中毒菌の代表的なものとしてセレウス菌・ウエルシュ菌・ボツリヌス菌が挙げられます。芽胞は、菌体内に作られる硬い殻を持った構造物です。高温・乾燥・栄養状態が悪いといった菌の生存に適さない環境になると芽胞が形成されます。そのため、洗浄・調理・加熱殺菌などを経た食品の中にも芽胞が生残していた場合は、製品の変敗や食中毒を引き起こす恐れがあります。

微生物(細菌・真菌)のサイズと観察・解析での課題

細菌や真菌、ヒト細胞のサイズ比較を下図に表しています。シンプルな構造を持つ単細胞生物である細菌は、複雑な構造を持つヒトの細胞のわずか1/10の大きさです。また、膜に包まれた核に染色体を内包する真菌は両者の中間程度のサイズです。

A:細菌 B:真菌 C:ヒト細胞 D:ウイルス
A
細菌
B
真菌
C
ヒト細胞
D
ウイルス

微生物の観察・解析での課題

細菌や真菌はいずれも1~5μmと微小な微生物であるため、これを評価するには、増殖した様子を顕微鏡で拡大観察したり、形成された微小なコロニーを正確にカウントして菌数を算出したりといった緻密かつ難易度の高い作業が必要となります。
それには、まず最適な照明条件下、高倍率で鮮明に対象物を捉えた画像を取得する必要があります。しかし、微生物の多くは透明度が高いことで背景とのコントラストが低くなります。また、糸状菌は立体的な形状に成長するため、全体にピントを合わせて鮮明に観察することが困難です。さらに、サイズの小さい細菌(バクテリア)では、高倍率観察での条件出しや正確かつ定量的な解析の難易度がより高くなります。

従来、これらの作業には観察者・解析者のスキルや経験が問われ、慣れた人であっても条件出しから解析結果を得るまでに多くの手間や時間が必要です。こうしたことから、人材確保や工数管理が容易でないことが課題となります。

微生物の観察・解析での4Kデジタルマイクロスコープの活用事例

これまで難易度が高かった微生物の鮮明な画像での観察やバラつきのない解析。
キーエンスでは、従来の諸課題を解決し、高度な観察や解析を簡単な操作で実現する次世代のマイクロスコープを開発しました。
超高精細4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、光学顕微鏡の20倍以上の被写界深度と高分解能を両立した最先端の光学系や4K CMOS、そして多彩な機能とそれらを簡単な操作で活用することができる独自の観察システムを採用しました。

ここでは、「VHXシリーズ」を活用したバクテリアやカビ、酵母菌など微生物の観察・解析事例を紹介します。

バクテリアの観察

大腸菌や黄色ブドウ球菌など、人体に取り込まれると健康を害する恐れがある単細胞の細菌(バクテリア)は、1μmと小さく、その増殖を示すコロニーの観察には高倍率観察と高いコントラストが求められます。しかし、バクテリアは、その透過性により照明の条件出しが難しく、観察には高い技術と多くの時間が必要とされてきました。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、1台で多彩な照明条件を実現することができます。加えて、ボタンを押すだけで全方向からの照明で撮像した複数の画像データを自動取得する「マルチライティング」機能を搭載。目的に合った画像を選ぶだけですぐに観察を始めることができます。これまで難易度が高かった条件出しを簡易化すると同時に、条件出しにかかっていた時間を劇的に短縮します。
背景とのコントラストが低く、観察が困難だったバクテリアも、透過偏光照明や同軸片射照明などを活用できます。
また、シャッタースピードが異なる画像を複数取得し、高階調の画像を取得する「HDR(High Dynamic Range)」機能を活用することにより、従来は得られなかった高精細かつ高コントラストな4K画像でのバクテリア観察が実現します。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」でのバクテリア観察
透過偏光照明(×200)
透過偏光照明(×200)
同軸片射照明 + HDR(×2500)
同軸片射照明 + HDR(×2500)

バクテリアの観察と自動解析

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、高精細な4K画像でのバクテリアの高倍率観察から、シームレスに自動解析を実行することができます。
「自動面積計測・カウント」機能では、範囲を指定するだけで、バクテリアの正確なカウントをはじめ、面積・周囲長・最大径・最小径のほか、選択範囲内のバクテリアの面積の平均・標準偏差・最大値・最小値・面積率など、詳細な数値を自動的に計測・算出して一覧表示します。
選択範囲に含まれる不要な対象物の除外や重なり合う対象物を分離でき、任意のしきい値での2値化が可能であるため、精度の高い分析と定量的な評価が簡単に実現します。

さらに、「VHXシリーズ」にExcelを直接インストールすることが可能であるため、PCを使わずに任意のテンプレートを用いて画像や数値を出力・レイアウトしたレポートを自動作成できます。
これらの機能により、これまで多くの手間と時間を要した一連の作業の大幅な合理化が実現します。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」でのバクテリアの観察と自動解析
観察画像:透過照明(×1000)
解析画面: 自動面積計測・カウント
左=観察画像:透過照明(×1000)/右=解析画面: 自動面積計測・カウント

カビやその胞子、菌糸の観察

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」であれば、1台でさまざまな観察条件に対応することができ、高精細な4K画像で観察を行うことができます。また、「マルチライティング」機能を活用することにより、ボタンを押すだけの簡単操作でさまざまな照明条件での観察が可能です。さらに、深い被写界深度により、胞子や菌糸など立体的な対象物全体にピントを合わせることができます。
ここでは、「VHXシリーズ」が実現する多彩な照明条件や高性能なレンズ、4K CMOSを活用したカビやその胞子、菌糸の観察事例を紹介します。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」でのカビの高倍率観察
透過照明(×1000)
透過照明(×1000)
4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」でのカビの胞子の観察
リング照明(×200)
リング照明(×200)
4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」でのペットフードに繁殖したカビの観察
リング照明(×100)
リング照明(×100)
4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」での藻に生成した菌糸の観察
透過照明(×100)
透過照明(×100)

酵母菌の自動コロニーカウント

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、酵母菌が形成したコロニーのような微小な対象物でも、鮮明な高倍率4K画像を取得することができます。
取得した高解像度画像に対して「自動面積計測・コロニーカウント」機能を活用することで、指定した範囲の自動コロニーカウントや自動面積計測を正確にバラつきなく行うことが可能です。目的のしきい値での2値化処理はもちろん、任意の範囲内のコロニーの画像を1つずつ分割表示したり、面積ごとの分布を棒グラフで表示したりなど、さまざまな表示方法によって分析業務を大幅に効率化することができます。

また、PCを使用しなくても、本体にExcelを直接インストールし、データの出力が可能です。あらかじめテンプレートを用意することにより、出力されたコロニー数から菌数を算出して画像とともにレポートに自動で掲載することができます。
「VHXシリーズ」は、こうした多彩な機能を簡単な操作で実行可能であるため、1台で酵母菌の評価における一連の業務をスピーディに完結させることができます。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」での酵母菌の自動コロニーカウント・自動面積計測
透過照明(×2000)+ 自動面積計測・カウント
透過照明(×2000)+ 自動面積計測・カウント

液中の微生物観察

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、さまざまな試料形態においてその性能と機能を発揮することができます。
以下は、液中の微生物の4K画像での観察事例です。ガラスボトムディッシュなど光を透過する容器であれば、液中の対象物であっても内蔵のバックライトを活用し、微生物を鮮明に観察することができます。また、洗浄前の試料において、液中に微小な異物が多少混在する状態であっても、高いフォーカス性能により鮮明な4K画像を取得して観察することが可能です。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」での液中の微生物観察
透過照明(×700)
透過照明(×700)
4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」での液中(水道水浄化前)の微生物観察
透過照明(×700)
透過照明(×700)

微生物の観察・解析を高度化・効率化する4Kデジタルマイクロスコープ

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、さまざまなサイズや形状の微生物の観察・解析における課題を解決し、簡単な操作で高度な観察や定量的な解析を実現することができます。

従来は難易度が高く、手間と時間を要した観察での条件出しからピント合わせ、解析におけるカウントや計測、レポート作成まで一連の業務を1台でかつ自動で行うことにより、属人化の解消と劇的な工数削減を実現します。
こうした「VHXシリーズ」の高い性能や機能、ユーザビリティは、微生物の定量評価のほか、食品・医薬品の製造における品質管理・品質保証や研究開発など、あらゆる用途にも活用することができます。

ここで紹介した以外にも多彩な機能を持つ「VHXシリーズ」の詳細に関しては、以下のボタンよりカタログをダウンロード、または、お気軽にご相談・お問い合わせください。