静電気トラブル対策ガイド
静電気とは、物体が帯電している状態、または帯電している電荷そのものを指します。さらに簡単に言えば、『物体が電気を持っている状態』また『物体が持っている電気そのもの』を静電気と呼んでいます。静電気を知るには、まず現象を引き起こす『電荷』と、電気を帯びる『帯電』という状態を理解することが大切です。
静電気の発生メカニズム
帯電には、主に『接触帯電』『誘導体電』『荷電粒子による帯電』という3種類があります。このほかにも帯電はありますが、こちらでは一般的な帯電のしくみを解説します。
接触帯電
帯電でもっともイメージしやすく、身近なのが『接触帯電』です。物体同士が接触すると、静電気が必ず発生します。物体(原子)は、プラス電荷の陽子とマイナス電荷の電子を持っています。通常は、電気的に中性を保っていますが、物体同士が接触すると電子の移動が発生し、静電気を帯びます。
物質が接触すると、電子を受け取った側はマイナスに帯電し、電子を放出した側はプラスに帯電します。このような接触によって帯電すること、また静電気を帯びる現象を『接触帯電』と呼んでいます。
接触帯電は、その接触の仕方によって以下のように分類されます。このほかにも接触方法によって、転がり帯電などさまざまな静電気の発生原因があります。
静電気によるトラブル
人間は接地(アース)していない状態で歩いたり、イスに座ったり、物に触れたり、作業をしたりすると帯電します。その帯電した電荷は、体に滞留し、半導体などの電子部品に触れると静電破壊を起こしたり、生産や検査をおこなう装置に触れると誤動作を起こしたりする危険性があります。電子部品を扱うときには致命的な静電気ですが、厄介なのが微弱な場合は認識が難しいことです。
よくある電圧例
よくある静電気の発生源と発生する静電気の電圧を紹介します。以下表を見ると、湿度によって発生する静電電圧が大きく異なることがわかります。このことから静電気を抑えるには、接地(アース)のほか、湿度管理も非常に重要なことがわかります。
以下の表は、アメリカ軍が作成した軍仕様書『Military Specification and Standards』、通称『MIL規格』のMIL-HDBK-263(電気および電子部品、組立て品および装置(電気的に起爆される爆発性デバイスを除く)の保護のための静電気放電管理ハンドブック)を参考に作成しています。
| 静電電圧 | ||
|---|---|---|
| 静電気発生源 | 相対湿度10〜20% | 相対湿度65〜90% |
| 絨毯の上を歩く人 | 35000 V | 1500 V |
| ビニールの上を歩く人 | 12000 V | 250 V |
| ベンチで作業する人 | 6000 V | 100 V |
| ビニールの覆い | 7000 V | 600 V |
| ベンチから取り上げたポリパック | 20000 V | 1200 V |
| ポリウレタンフォームを詰めたイス | 18000 V | 1500 V |
参考: MIL-HDBK-263
静電破壊とは
集積回路(IC:Integrated Circuit)などの電子部品は、微細な電気が流れるだけで回路に異常をきたして破壊や故障の原因につながります。静電気の放電によって電子部品が破壊される現象を『静電破壊』と呼んでいます。とくに近年のICは、高集積化(PLP/WLPなど)・微細化が進み、静電破壊のリスクが高まっています。

〈本来絶縁されている回路パターンが、放電によって発生した熱で破壊された例〉
「潜在不良」とは
半導体デバイスは、微細な電気が流れるだけでも静電破壊を起こすことを説明しましたが、やっかいなのが静電破壊(ESD)により起こる『潜在不良』という状態です。とくに近年の半導体デバイスは、高集積化・微細化が進み、静電破壊が起こりやすくなっています。
静電破壊により起こる潜在不良とは、完全に故障していないが、回路パターンなどに損傷を受けている状態です。この潜在不良で厄介な点は、損傷を受けているが機能しているということです。そのため、顕微鏡を使った目視試験や電気試験での判別が難しく、検査などを通過し、市場に流通する危険性が非常に高くなっています。
この潜在不良による故障は、半導体デバイスにおける故障全体の70%を占めるとも言われています。このような潜在不良により、一部損傷を受けた半導体デバイスは、市場流通後に「すぐ壊れる」「寿命が短い」「初期不良としての返品」といったクレームにつながります。これらのクレームは、対応の手間だけではなく、企業ブランドの低下にもつながります。
厄介なのが目視や電気試験で、その場ではわからない一部破壊状態です。(何回か電気が流れて断線)
一般的な静電気対策
静電破壊対策では、主に以下の3点が重要です。また、各業界で一般的とされる静電気の管理レベルは次のとおりです。具体的な対策としては接地や導電化、除電器です。とくに接地が取れない場合、また対象が絶縁体の場合などは、除電器(イオナイザ)が有効です。
静電破壊対策のポイント
- 1.静電気を発生させない(設計で対策)
- 2.静電気を除去する(アース、除電器など)
- 3.放電させない(導電マットなど)
各業界で一般的とされる静電気の管理レベル
- 半導体業界:±35 V以下 ※素子によって耐性に違いがあります
- 液晶業界:±100 V以下
- 先端半導体デバイス:±15V
接地
対象物が導体であればアースを接続するだけで静電気をなくすことができます。
生産設備でも同様の原理が活用されています。装置にアースを接続するだけで静電気はなくなります。
特長
- 接地するだけなので簡単。
- 金属などの導体には効果が大きい。
注意点
- 樹脂などの絶縁体には効果がない。
- 接地・接続部分の外れ、汚れなどに注意。
〈ローラーにアースを接続し、静電気対策をおこなっている例〉
導電化
電気を通しにくい絶縁体は接地(アース)しても効果が得られないので、『除電(静電気除去)』『帯電防止処理』『導電化処理』などが必要です。絶縁体の静電気対策の方法として、『導電化』について説明します。
特徴
- 導体化すれば、伝導体と同じように接地(アース)することで静電気対策が可能になる。
注意点
- 製品に金属やカーボンなどを練り込むため(帯電防止剤や導電性ポリマーによる被覆は表面のみ)、製品仕様が変わってしまうおそれがある。
- 導体化処理をしない通常製品に比べてコストが上がる。
絶縁体の場合

電気は流れません
導電体を練り込むと…

電気は流れます
湿度管理
空気中の水分が多いところに物体を置くと、表面にたくさんの水の粒が触れます。水は電気を通しますので、水分が物体の表面にたくさんつくと電気が通りやすい状態になります。
この状態でアースにつなげば静電気は逃げます。また、空気中に水分が多くなると、空気中の水分を伝って自然に静電気が逃げていきます。したがって、湿度管理は静電気がたまりにくい環境を作るための有効な対策となります。
特長
- 静電気がたまりにくい環境が作れる。
注意点
- 結露、サビの発生で、対象物・装置へ悪影響が出る可能性がある。
- 広い範囲を同じ条件で管理することはコストが高く難しい。
物体にたまった静電気は物体の表面についた水滴や空気中の水分を伝って逃げていき、最終的にはアース(地面との接点)から地面に逃がれます。
除電器
除電器(イオナイザ)は電気の力で空気にはたらきかけてイオンを発生させます。発生させたイオンという電気を帯びた粒を帯電したものにぶつけることで中和します。
特長
- 設置するだけで静電気を除去することができる。
- 導体、絶縁体どちらにも効果がある。
注意点
- 一定期間ごとにメンテナンスが必要。(一般的な除電器は一日2 V程度イオンバランスがずれる)

〈除電器(イオナイザ)〉
イオナイザ
除電器(イオナイザ)は、一体どのようにして、電気的にバランスの崩れた状態を中性に戻す(中和する)のでしょうか。その答えは「イオン」にあります。除電器(イオナイザ)は、イオンを発生させ、対象物にぶつけることで静電気を除去するのです。
では、イオンとは何でしょうか。
簡単に言うと、イオンとは「電気を帯びた粒」です。
バランスが良い状態、つまりそれは静電気がない状態です。除電器(イオナイザ)はプラスイオン、マイナスイオンの両方を発生させることができるので、対象物はプラスとマイナスのどちらに帯電していても静電気を除去することができます。
除電器(イオナイザ)の構造としくみ
これまでに紹介した電気の力を使った除電器(イオナイザ)は、正式には「電圧印加式除電器」といいます。電圧印加式除電器は、図のように電極針、高圧電源、アースから構成されています。
電源を使って針先に電圧を印加すると、コロナ放電という弱い放電が起きます。コロナ放電が発生すると、電極針の周りの空気がイオンに変化します。電圧印加式除電器は、こうして発生したイオンを帯電した対象物にぶつけて静電気をなくします。
コロナ放電とは、針のような細いものに電圧をかけて起こす放電現象です。放電現象というと危険なイメージを持つかもしれませんが、コロナ放電のエネルギーはごく弱いもので火花が出るようなことはありません。除電器(イオナイザ)は安全な機器なのです。
イオナイザ(除電器)の基本性能とは
■ 除電速度
「除電速度」とは、どれだけ速く、短時間で静電気を除去することができるか、その性能を指します。製造現場では、稼働中のラインのタクトタイムに影響を与えないよう、スピーディに除電する必要があります。除電にかかる時間が短いほど、性能が高いとされます。

■ イオンバランス
「イオンバランス」とは、帯電していない状態、つまり極性が±0 Vに近い状態を指し、いかにその状態まで静電気を除去できるか、また、除去した状態を維持できるか、その精度を示します。つまり、イオンバランスを0 V近くまで除電できるものほど除電精度、つまり性能が高いとされます。

■ メンテナンス性
製造現場において、除電性能の低下によるトラブル発生、それによるタクトタイムの低下・ライン停止・不良品流出は、大きな損失となります。そこで、除電速度や精度をいかに維持できるかが重要なポイントとなります。
性能を長時間維持できるか、つまり省メンテナンス性に優れているかも除電器(イオナイザ)の基本性能として欠かせません。
除電器(イオナイザ)の基本性能の評価は、「チャージプレートモニタ(CPM: Charged Plate Monitor)」と呼ばれる専用の測定機器を使用します。
静電気の管理方法や除電器(イオナイザ)の使い方などの規格として、アメリカのANSI/ESD規格やRCJ規格が有名ですが、これらの規格に対する性能評価にも「チャージプレートモニタ」が推奨されています。
イオナイザのタイプと選び方
■ 除電器(イオナイザ)のタイプと設置環境

●バー(棒)タイプ
幅のある棒状の除電器です。長いものだと幅3 m以上のものもあります。樹脂シートやガラスなど、広範囲への高速な除電に向いています。ここであげた3つタイプのなかで、最も基本性能が高いため、設置環境やワークの条件に合えばこのタイプを検討をおすすめします。

●スポット・ノズルタイプ
ヘッドが比較的小さいため、装置やワークのすき間など、入り組んだ場所に対して、ピンポイントに除電することができます。バータイプやブロアタイプが設置できないような、狭小箇所に対する除電に向いています。

●ブロア(ファン・扇風機)タイプ
ファン(扇風機)が内蔵されており、その風によってイオンを吹き出して除電するため、「ブロア(blower)タイプ」と呼ばれます。バー(棒)タイプに比べると1台で除電できる範囲は狭いですが、卓上にも設置できるほど小型です。レイアウトの自由度が高く、複数台を狙いの場所や角度で同時使用することで、広範囲かつ狙いに合った除電をおこなうことができます。

●ガンタイプ
エアを使用して対象物の表面に付着した異物を取り除きます。これにイオンを組みあわせることで除電をおこない、異物の再付着も防止します。
■ 除電器(イオナイザ)の選び方
タイプによる設置環境への対応は先述の通りですが、最適な除電器の選定に必要な要素として、「除電距離」「除電範囲」「除電速度」があげられます。これらはタイプごとに異なるため、複合的な条件から、目的に合った除電器(イオナイザ)を選定することが重要となります。
●除電距離(対象物と除電器〔イオナイザ〕の距離)で選ぶ
| 対象物との距離 | 除電器(イオナイザ)のタイプ |
|---|---|
| 1 m以上 | バータイプ |
| 1 m未満 200 mm以上 | ブロアタイプ |
| 200 mm未満 | スポット・ノズルタイプ |
●除電範囲(対象物の幅方向の長さ)で選ぶ
| 範囲(幅方向) | 除電器(イオナイザ)のタイプ |
|---|---|
| 1 m以上 | バータイプ |
| 1 m未満 | ブロアタイプ |
●除電速度(対象物が移動する速さへの対応力)で選ぶ
| 対象物の移動の速さ | 除電器(イオナイザ)のタイプ |
|---|---|
| 高速で移動 | バータイプ |
| 停止状態、または低速で移動 | 全タイプ |
キーエンス除電器ラインナップ
●マルチセンシングイオナイザ
SJ-F700シリーズ

- 除電速度
- 0.5秒
- イオンバランス
- ±1V
- 最大除電幅
- 1500 mm
※SJ-FB01使用時(本体のみ時は±3V)
●高精度・高速センシングイオナイザ
SJ-Qシリーズ

- 除電速度
- 0.1秒
- イオンバランス
- ±3V
- 最大除電幅
- 3080 mm
●エアレス・高速センシングイオナイザ
SJ-Hシリーズ

- 除電速度
- 0.4秒
- イオンバランス
- ±30V
- 最大除電幅
- 3000mm
無風でも除電可能なタイプ
●静電気監視型ノズルイオナイザ
SJ-LMシリーズ

- 除電速度
- 0.5秒
- イオンバランス
- ±10V
- 最大除電幅
- 700 mm
■ 静電気測定器

