製造業のペーパーレス化で見落とされがちな
“落とし穴”とは?成功のコツも紹介

製造現場において、日々の作業や管理に追われていないでしょうか?ペーパーレス化は、現場の作業効率を高め、ミスや紛失を防ぐための有効な手段です。本記事では、すぐに実践できるペーパーレス化のメリットや具体的な導入方法をわかりやすく解説します。
- この記事でわかること
製造業におけるペーパーレス化の必要性と現状
そもそもペーパーレス化とは、紙の書類を電子化し、データとして保存する取り組みです。
SDGsの観点などから、企業の管理部門・バックオフィスを中心に進められています。
そのペーパーレス化が、昨今では製造業の現場でも求められるようになりました。はじめに、その理由と製造業の現状について見ていきます。
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製造業でペーパーレス化が求められる理由
製造業でペーパーレス化が求められる主な理由として、次の3つが挙げられます。
- 作業の効率を上げるため
- 費用を削減するため
- 特定の人だけが詳しい状態を防ぐため
近年、製造業全体で人手不足が大きな課題となっています。少ない人数で効率よく仕事をこなすには、ペーパーレス化の取り組みが欠かせません。紙で書類を作ったり管理したりする手間が省けるため、作業効率が大きくアップするでしょう。
また、ペーパーレス化された書類はデータで保存するため、用紙代やインク代、印刷代といった費用がかからなくなります。これまで紙の書類作成や管理にかかっていたコストを減らせる点は、大きなメリットです。
さらに、作業マニュアルなどを電子化すると、仕事に必要な知識や技術が誰でも簡単に確認できるようになります。「特定の担当者しか業務内容を知らない」という状態を解消できることも、製造業でペーパーレス化が必要とされる理由の一つです。
製造業でペーパーレス化を進められる業務は多い
以下のように、製造業の現場では多くの紙が使われているのではないでしょうか。
- 日報
- マニュアル
- 作業指示書
- 請求書
- 見積書
- 点検票
- 伝票
- 設計図
これらは、いずれもペーパーレス化でデータ保存できる書類です。
紙から電子データでの管理に切り替えることで、書類を作る手間が省けるだけでなく、紛失や破損のリスクも減らせます。
なお、書類のデータ入力といった定型業務は「RPA」と呼ばれるソフトウェアロボット技術の導入で、自動化が可能です。紙の書類を電子データにまとめるだけでも仕事の改善につながりますが、こうしたツールを使うとさらに効率よく作業を進められるでしょう。
外国人労働者の増加とペーパーレス化の関係
ペーパーレス化が求められる背景には、外国人労働者の増加も関係しています。
経済産業省の発表によれば、製造業における2024年の外国人労働者は約59.8万人でした。これは2008年の19.3万人と比べると、16年間で40万人以上増えている数字です。
マニュアルをはじめとする各書類を電子データ化すると、翻訳作業もスムーズに行えます。書類の内容を母国語で理解できれば、外国人労働者も本来のスキルを発揮し、仕事の効率が向上するでしょう。
外国人労働者の活躍が広くみられるようになった昨今では、円滑な業務遂行のためにもペーパーレス化が求められているのです。
製造業でペーパーレス化が進まない背景と課題
ペーパーレス化は、様々な業種で着実に進んでいます。しかしながら、製造業においては中々進んでいないのが現状です。その背景としては、以下のような点が挙げられます。
- 紙媒体への慣れによる抵抗感
- デジタル化に対する習熟度不足
- 初期導入コストへの懸念
ものづくりの現場では、紙や口頭による指示を行う文化が根強く残っており、紙から電子データへ転換する必要性を十分に理解できていないケースが少なくありません。「電子化すると、不満・混乱が生じるのでは」といった抵抗感が、まず挙げられる理由の一つです。
また、デジタル化に対応できる人材が不足している背景もあります。ペーパーレス化のためには、対応するシステムの導入が必要です。デジタル技術に対する扱いに不安があると、ペーパーレス化はスムーズに進まなくなります。
なお、ペーパーレス化の実施にあたっては、システム導入費用などの初期コストが発生します。導入にかかる費用・浸透までの時間といった負担も、ペーパーレス化を遅らせる要因です。
製造業でペーパーレス化を導入すべき4つのメリット
製造業では進んでいないとされるペーパーレス化ですが、導入には多くのメリットがあります。ペーパーレス化を進めるメリットを、以下4点に分けて見ていきましょう。
- 業務効率化および生産性の向上
- 人手不足の解消
- データ管理による情報伝達の強化と
セキュリティ対策の強化 - ヒューマンエラーの防止
業務効率化および生産性の向上
紙の書類を使った業務では、「作成→印刷→配布→回収」といったサイクルが発生します。
ペーパーレス化は、こうした工数の削減に有効です。特にクラウドベースのシステムを活用すれば、部門をまたいだ同時編集や情報共有ができるようになります。
経済産業省の「ものづくり基盤技術の振興施策」では、デジタル技術の導入による効果を調査しており、6分野以上で活用している企業の8割以上が「作業負担の軽減や効率改善」を実感していると回答しました。
点検記録や見積書の発行といった日常業務の省力化に加え、書類探しや保管の手間も削減されます。
人手不足の解消
製造業の就業者数は、2002年の1,202万人から、2024年には1,046万人まで減少しています。(令和6年度 ものづくり基盤技術の振興施策より)
工数の削減による業務効率化は、少ない人員で仕事を回していくうえでも効果的です。
「ものづくり基盤技術の振興施策(令和5年度)」においても、「人手不足の解消」に大企業が54.9%、中小企業でも40.3%がデジタル技術活用の効果を実感しています(※6以上の分野で活用している企業の場合)。
ペーパーレス化は、単に「紙をなくす」というだけの取り組みではありません。多くの製造業の現場が悩む人手不足の課題を解決に導く、有効な手段であるといえます。
データ管理による情報伝達の強化とセキュリティ対策の強化
紙で保存していた書類を電子データ化すると、「紛失してしまった」「汚れてしまった」など、紙媒体特有のリスクを払拭できます。機密情報や重要データに関しては、暗号化などのセキュリティ対策も行えるため、情報漏えいの防止にも有効です。
またクラウド上に保存しておけば、災害などでオフィスが被害を受けた場合でも、データの安全性を確保できます。
ペーパーレス化した書類では入力情報をリアルタイムで共有でき、複数媒体での共有も簡単です。従業員のアクセス権限を適切に管理し、情報伝達・セキュリティ対策を強化しましょう。
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ヒューマンエラーの防止・保管コスト削減
電子データ化した書類には、保管のためのスペースが必要ありません。紙媒体と異なり、印刷コストやインク代、郵便料金などがかからない点もメリットです。
ペーパーレス化を進めると、先述した書類の紛失がなくなるほか、「違う仕様書を持ってきてしまった」といったヒューマンエラーの防止につながります。書類の保管場所やコストなど、紙の書類の管理に課題を感じている場合は、ペーパーレス化を積極的に検討しましょう。
製造業のペーパーレス化でよくある失敗パターンとその対策
紹介したように多くのメリットを持つペーパーレス化ですが、計画的に進めなければ思うような効果を得られません。ここでは、ペーパーレス化に関するよくある失敗例を、以下の2パターンに分けて紹介します。
- 「とりあえず紙をなくすこと」から
始めてしまう - 目的が紙をなくすことに変わっている
「とりあえず紙をなくすこと」から始めてしまう
ペーパーレス化を進める前に大切なのは、どのような姿を目指すのかを明確にすることです。
これらが曖昧なままだと、「とにかく紙をなくせば良い」という方針になりがちで、失敗につながる可能性が高まります。まずは書類管理について、現場での問題を見つけ出し、チームで話し合いながら現状を分析することから始めましょう。
目的が紙をなくすことに変わっている
ペーパーレス化の本来の目的は、「業務効率化」「コスト削減」「生産性向上」などです。あくまで「業務改善のための手段」であり、「紙をなくすこと」自体は最終目標ではありません。
紙を減らすことばかりに目が向いてしまうと、業務の見直しや作業効率の改善につながらず、現場の納得も得にくくなります。導入後にどのような姿を目指すのか、ゴールを明確にしたうえで、目的を現場全体に共有することが大切です。
成功事例から学ぶ!製造業のペーパーレス化成功のポイント
ここからは、製造業でペーパーレス化に成功した事例を紹介します。ペーパーレス化を実現した以下3つの分野から、成功のポイントを学びましょう。
- 検査履歴のペーパーレス化
- 在庫管理のペーパーレス化
- データ管理のペーパーレス化
事例1|検査履歴のペーパーレス化
A社ではこれまで、検査工程の作業記録を手書きで記入し、のちにPCへ入力していました。この作業は毎回30分から1時間を要し、入力ミスが発生することもあったといいます。
こうした課題を受け、同社は文字認識機能付きのハンディターミナルを導入しました。作業と同時に記録・入力を行えるようになり、PC入力の手間をなくしました。業務の効率化とヒューマンエラーの削減を実現した事例です。
事例2|在庫管理のペーパーレス化
B社では以前、現場帳票の内容を紙で記録し、あとからExcelに転記する作業を行っていました。この工程に毎回2時間程度を要し、管理者の大きな負担となっていたそうです。また、生産や進捗の管理で手一杯となり、データを使った分析や改善が後回しになりがちでした。
そこで同社は、製造日報や帳票の電子化を進めるツールを導入します。集計作業は2時間からわずか1分に短縮され、蓄積データを活用した分析にも取り組めるようになりました。業務プロセス全体を、データ重視のスタイルへと変えた事例です。
事例3|データ管理のぺーパーレス化
C社では2022年より「脱属人化・DX化」を推進しています。一週間で1,200枚ほど印刷していた紙資料のペーパーレス化を含め、約1年間で定型業務を中心とした23の業務の自動化に成功しました。
導入したのは、AIを活用してPC作業を代行するツールです。現場での納期遅延リストや伝票の作成・入力などを自動化することで、作業負担の軽減とともに生産性の向上を達成しました。紙の削減にとどまらず、業務全体の見直しにもつながった事例です。
製造業のペーパーレス化成功のためのポイント
ペーパーレス化成功のポイントを、実施前~実施後の各ステップごとに見ていきましょう。
ペーパーレス化実施前:目的の明確化
まずは「現状の書類管理のどこに課題を感じているか」「ペーパーレス化によってどのような効果が期待できるか」といった、「目的の明確化」が必要です。積極的にコミュニケーションを取りながら、現場の課題について共有しましょう。
現場の足並みを揃えるためには、ペーパーレス化のメリットに目を向ける姿勢が欠かせません。作業負担の軽減やミス防止など、ペーパーレス化による「現場目線の」メリットを共有しながら、着実に導入を進めていくことが重要です。
ペーパーレス化実施時:現場にマッチしたシステムの選定
システムを導入する際には、積極的にペーパーレス化を進めたい分野に優先順位をつけましょう。「既存の紙書類をデジタルデータで保管したい」「入力業務を効率化したい」など、ペーパーレス化の目的に応じて導入するシステムも変わります。
高い費用を投資しても、現場にマッチしたシステムでなければ、思うような効果を得られません。例えばデジタル技術の扱いに不安がある場合には、シンプルで操作性の良いものを選ぶ必要があります。無料トライアル期間なども活用しながら、機能・操作性を確認していきましょう。
ペーパーレス化実施後:改善点の共有と効果の「見える化」
実際にペーパーレス化を進めていくと、「かえってわかりにくい」「〇〇の分野はやはり紙の書類のほうが使いやすいのではないか」といった課題・疑問が生じます。こういった点は積極的に共有し、改善を目指しましょう。
取り組みに対するモチベーションを維持するためには、「印刷代が〇〇円削減された」「△△分かかっていた業務が平均〇分短縮された」など、「見える化」した効果の共有が大切です。現場全体で効果を実感しながら、分析・改善を繰り返します。
やみくもに紙をなくすのではなく、紙媒体が使いやすい作業にはペーパーレス化を適用しない点もポイントです。デジタルとアナログを併用しながら、業務改善を実現していきましょう。
まとめ
本記事では、製造業の現場でペーパーレス化に取り組むメリットや、成功に向けたポイントなどを紹介しました。コスト削減や業務効率化、セキュリティ対策の観点など、ペーパーレス化を実施すべき理由は数多くあります。
まずは現状の業務プロセス・業務課題を洗い出し、はじめは紙媒体を併用しながら段階的にペーパーレス化を推進していきましょう。
