コラム「安定期に入った試作のための3Dプリンタ」3Dプリンティング技術の今とこれから
2015年8月 米国の調査会社であるガートナーは「先進テクノロジのハイプサイクル※1 2015年版」を発表した。 その中には3Dプリント技術である、コンシューマー向け、企業向け、臓器移植用、ライフ・サイエンスR&D用3Dについての言及があった。 今回は、この報告の内容を元に、3Dプリント技術における現状と将来の方向性を占ってみる。
- 1 ハイプサイクル:ガートナー社によって生み出された、特定技術の成熟度・採用度・社会への適用度を示す図のこと。注目が集まり関心が高まる「黎明期」、世間の注目が高まり過度な期待が生じる「流行期」、期待に応えきれずに関心が失われる「幻滅期」、啓蒙の坂を登りながら利点と適用方法が理解される「啓蒙活動期」、技術が安定して広範に受け入れられる「安定期」の5段階から構成される。
「期待のピークを過ぎた」コンシューマー向け3Dプリンタ
様々なメディアに取り上げられ、広く一般に向けての認知も進んだ3Dプリンタ。
ものづくり分野に新たな風を吹き込む存在として大きな期待が寄せられていたが、昨今の風潮には若干の変化が生まれつつある。
ガートナーの報告では、特に話題の中心となったコンシューマー向け3Dプリンタは「過度な期待のピーク」を過ぎて「幻滅期」に入り、今後は多くの課題が浮き彫りになるだろうと予測している。
一時期、大きな話題を呼んだ安価なコンシューマー向け3Dプリンタだったが、その多くはFDM(熱溶解積層)方式によるものであり、利用できる素材が限られている。また現時点では、造形速度や精度の面でも過度に膨れ上がった期待を満足させるものではなかった。
今後、技術の進化と共に安定期に向かう可能性は高いとは思われるが、3Dプリント技術のメインストリームとなるまでは、まだ時間がかかりそうだ。
啓蒙の坂を登り始めた「工業用3Dプリント技術」
一方、企業が使用する工業用3Dプリント技術は、幻滅期から脱却して「啓蒙活動期」に入ったと報告されている。その中でも「試作のための3Dプリントは、既に安定期に入った」とされている。
より精巧で実物に近い試作による検証は、テストの工程を最小限に抑えることが可能となり、製造工程の大幅なスピードアップやコスト削減につながる。グローバル化への対応が急務である昨今の製造業では、3Dプリント技術を用いた試作の活用は、ものづくりの現場において必須のものとなりえる存在だ。
なお昨今では3Dプリント技術によって、試作ではなく製品そのものを製造する(DDM:Direct Digital Manufacturing)動きも生まれつつある。これらの中には航空機やロケットの部品、手術のシミュレーションに利用する臓器モデルなど、すでに利用が開始されているものや将来の活用が期待されている技術も数多い。だが現状、これらは「黎明期」にある技術であり、安定期に入るまでは5~10年は必要と考えられている。
現状、最も活用が進んでいる3Dプリント技術は、活動期から安定期に入った「試作のための3Dプリント」であり、この流れは今後、しばらくは続くことだろう。
参考
ガートナー社プレスリリース「先進テクノロジのハイプ・サイクル:2015年」
https://www.gartner.co.jp/press/html/pr20150827-01.html