コラムエレクトロニクス業界に革命をもたらす?基板を試作できる3Dプリンタが登場
2015年11月10日 英国ダイソン社では「ジェームズ ダイソン アワード 2015※1」の「国際最優秀賞」を発表した。10回目の開催となる今年は、カナダのウォータールー大学の学生チームによる、電子回路のプリント基盤を製作する3Dプリンタ「Valtera V-One」が選ばれた。
今回は、この「Valtera V-One」の実力にフォーカスし、今後のエレクトロニクス分野における3Dプリンタの役割について探ってみよう。
- 1 ダイソン社の創業者であるジェームズ ダイソン氏が設立した慈善教育団体「ジェームズ ダイソン財団」が主催する「次世代のデザインエンジニアを称え、支援し、育成する」ための国際デザインエンジニアリング アワード。
回路のプリントのみならずハンダ付けも可能
「Valtera V-One」は導電性の高い銀ナノ粒子インクを用いて、最大2層までプリント基盤を、わずか数分で作成することが可能だ。また、ハンダペーストを塗布するディスペンサーと、550Wのヒーターを用いたリフロー機能により、基盤上に部品をハンダ付けすることもできる。つまり、電子回路製作のほぼ全てが、この一台で実現可能となる。
回路の設計には様々な試行錯誤が必要だ。しかし細かな修正が発生するたびに外部の製作会社に試作を発注していては、それに掛かるコストも時間も膨大なものになる。だが、この「Valtera V-One」のような3Dプリンタが登場すれば、回路のプリントから部品のハンダ付けまでを、外部に頼ることになく、ものの数分で製作が可能となる。この点が、アワードのテーマである「問題を解決するプロダクト」に合致していると評価され、今回の受賞に至ったとのことだ。
エレクトロニクス分野における、3Dプリンタの現状と将来の展望
今後、「Valtera V-One」のような3Dプリンタの利用が広がれば、回路設計の現場はもちろん、若い学生達や小規模のベンチャーですら、手軽にプロトタイプの製作が可能となる。そしてそれは、新たなるイノベーションを生み、エレクトロニクスの業界に大きな変革をもたらすものとなるだろう。
しかし、残念ながら現時点における実用性については、まだまだ大きな課題が残るのも事実である。例えば、プリントされる素材の問題。「Valtera V-One」では銀インクを用いているが、一般的な回路では銅箔を用いる。精密な回路であればあるほど、素材が持つ導電性の差によって結果に違いは生じてしまう。もし実際の製品とかけ離れたテスト結果しか得られないとなれば、試作に掛かるコストや時間の削減が達成できたとしても、あまり意味はないことになる。
とはいうものの、3Dプリントの技術は今まさに日進月歩で進化している最中である。この素材の問題を解決する、まったく新しい技術や製品が登場する日も決して遠い未来ではないだろう。
参考
ジェームズ ダイソン アワード公式ホームページ
http://www.jamesdysonaward.org/ja/
i-MAKER.news「 電子回路基板の3Dプリンタがジェームズダイソンアワード2015を受賞」
http://i-maker.jp/voltera-v-one-3d-print-8516.html
ITmedia Life Style「ジェームズ ダイソン アワード2015 国際最優秀賞が決定」
http://www.itmedia.co.jp/lifestyle/articles/1511/10/news108.html
Voltera V-One公式ページ
http://voltera.io/index.html#top