コラム~一世を風靡した安価な3Dプリンタ~その今と未来について
2013年から2014年にかけて相次いで登場した格安3Dプリンタ。10万円を切るような低価格の製品も数多く登場したことから、中小企業から個人クリエイターまで利用が広がることが期待され、ものづくりの変革をもたらす存在として大きな注目を集めていた。
そんななか、2016年3月31日、一つのニュースが飛び込んできた。$599(約68,200円)という低価格の3Dプリンタを開発・販売して話題を呼んだ米国のSolidoodle社が事業の停止を発表したのだ。
ここでは、一時期大きなブームとなった格安3Dプリンタの現状と、その将来について考察する。
個人ユーザーへの広がりはやや期待外れに
2015年8月、米国の調査会社ガートナーは「3Dプリンティング技術に関するハイプ・サイクル2015年版」の中で「コンシューマーの3Dプリント技術は、過度な期待のピーク期を過ぎ、幻滅期へと移行しつつある」と発表した(コラム:3Dプリンティング技術の今とこれから)。
ものづくりを活性化する存在として大きな期待が寄せられたコシューマー向けの格安3Dプリンタ。それが市場で伸び悩んだ要因としては、主に以下の2つが考えられる。
ひとつは、安価な3Dプリンタのほとんどが熱溶解積層法式か面露光方式であること。
熱溶解積層方式はFDMとも呼ばれ、熱可塑性プラスチックを高温で溶かして積層する方法で、手軽に使える単純な構造が特長。一方、面露光方式は、その名の通り面状に広げた樹脂に光を当てて硬化させ造形する方式で、造形速度と表面状態の美しさが特長である。そして双方とも、利用できる寸法に制限があり、かつ一番大きいのが精度において課題が残ることだ。
もうひとつは、3Dデータの作成が容易ではないこと。
3Dプリンタで造形するには、CADソフトなどを用いて3Dモデルのデータを用意しなくてはならない。そしてそれには、相応の技術と知識が必要である。
これら課題が解決されない限り、安価な個人向けの3Dプリンタは趣味の域を出ない存在でしかなく、ものづくり市場を活性化するまでには至らないだろう。
ビジネス利用には精度が必須
現状、ものづくりの現場における3Dプリンタの活用は、その大半が「試作品」の成形である。その大きな目的は、試作品を用いて様々な検証を重ね、設計の精度を高め、手戻りを防ぐことにある。
単純な形状の確認だけならば、安価な3Dプリンタでも対応は可能かもしれない。ただ、設計としての精度を高めるためには、実際の製品と同様に部品を組み立てた試作品を用いて、見た目はもちろん、動作の検証も可能なレベルでなければならない。となると、やはりある程度の機能と精度を持つ3Dプリンタが必要となる。
もちろん、技術の進歩によって、安価でも十分な精度を持つ3Dプリンタが登場する可能性もある。その時にこそ本当の意味で「ものづくりのイノベーションが個人レベルにまで広がった」と言えるのかもしれない。ただ現在の状況から判断する限り、それには今少しの時間を必要とするだろう。
参考
世界の3Dプリンタニュース
「Solidoodleが事業を停止」
ガートナー社プレスリリース
「先進テクノロジのハイプ・サイクル:2015年」