脳グループの研究における標本観察で役立つBZシリーズ

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カスタマーボイス
森下 竜一 氏

プロフィール

森下 竜一 氏

大阪大学大学院 医学系研究科 臨床遺伝子治療学
教授 医学博士

1962年生まれ。1987年、大阪大学医学部卒業。1991~94年、米国スタンフォード大学循環器科研究員。その後、大阪大学助教授大学院医学系研究科遺伝子治療学を経て、2003年より現職。1999年に創薬を目的としたベンチャー企業、メドジーン(現アンジェスMG社)を設立。その他、今までに知的財産戦略本部本部員をはじめ、経済産業省構造改革審議会知的財産部門委員、文部科学省学術科学技術・学術政策審議会委員などを兼任。受賞は「Harry Goldbratt賞(アメリカ高血圧評議会)」「日本医師会研究奨励賞」「日本循環器学会佐藤賞」など多数。

世界に先駆けて遺伝治療薬を開発。
難治性疾患の治療に向けた先進的取り組み

遺伝子治療の実用化に向けて世界に先駆けた研究を行っている、大阪大学大学院医学系研究科の教授、森下竜一氏。日本で初めて「臨床」の名称を冠した遺伝子治療の研究室を2003年に立ち上げ、基礎研究から創薬、臨床治療に至るトランスレーショナルリサーチを展開している。2008年3月には創薬ベンチャーを通じて、末梢性血管疾患の治療を目的とした遺伝子治療薬の承認申請を厚生労働省に行うなど、顕著な業績をあげている。現在、生活習慣病や免疫疾患、がん、遺伝病など、難治性疾患の治療に向けた研究が本格化している。

01. 世界初となるHGFによる遺伝子治療薬を承認申請

正常な遺伝子を体内に導入することによって病気の治療をめざす遺伝子治療は、1990年に米国において世界で初めて実施されたのを皮切りに、これまで多数の臨床試験が積み重ねられてきた。日本では米国の5年後から臨床試験が始まっている。

当初は先天性疾患の治療を主なターゲットとしたが、近年は感染症やがんなどの後天性疾患を対象とするようになり、さらには生活習慣病の治療への応用にまで広がりを見せている。

現在、有望な遺伝子治療の一つとして脚光を浴びているのが、血管新生の領域。そして、この分野で世界に先駆けた研究を進めているのが大阪大学大学院医学系研究科の教授、森下竜一氏だ。日本初の臨床遺伝子治療の研究室を立ち上げ、基礎研究から臨床応用に向けた、いわゆるトランスレーショナルリサーチ※を展開している。

大阪大学は、1999年に金田安史教授のもとで日本初の遺伝子治療学講座を開設し、基礎研究において多くの研究成果をあげてきた。森下氏の臨床遺伝子治療講座はこれらの成果を臨床段階で活かすことで、病気で苦しむ患者に役立つ医療の実現をめざしている。

現在、実用化に大きく近づいているのが、閉塞性動脈硬化症などの末梢性血管疾患を治療するための、HGF※(hepatocyte growth factor=肝細胞増殖因子)を用いた遺伝子治療臨床研究だ。

末梢性血管疾患とは、四肢の末梢血管が閉塞することで筋肉などが虚血状態に陥り、しびれや疼痛を引き起こすほか、下肢潰瘍となることもある病気。患者数は日本だけで約10万人、米国では約100万人にも上るとされている。

これに対して森下氏の研究室では、細胞や臓器の再生作用があるHGFを虚血局所に注入することで、血管の新生と虚血状態の改善を図る臨床研究を実施。優れた成果をあげたことから、東証マザーズ上場の医薬系ベンチャー企業、アンジェスMG株式会社を通じて、2008年3月にHGF遺伝子治療薬の承認申請を厚生労働省に行った。審査をパスすれば先進国で初の遺伝子治療薬となる。

トランスレーショナルリサーチ
基礎研究による成果を臨床応用に活かせるように「翻訳」していく研究。特に大学の研究成果を創薬につなげる上で重要となっている。新薬の開発にかかるコストが年々増大する中で、大学や創薬ベンチャー、製薬企業との連携が欠かせない。

肝細胞増殖因子(HGF=(hepatocyte growth factor))
肝臓の細胞の増殖因子として1980年代に日本で発見された。その後、肝細胞以外の細胞あるいは臓器にも再生作用があることが判明。肝臓をはじめとして、心臓、血管、脳、腎臓、消化器、肺、神経などの幅広い領域での疾患について臨床応用が進むと考えられている。現在、研究が進んでいるのは、血管および心臓の動脈硬化性疾患。HGFには血管を再生させる作用があるため、閉塞性動脈硬化症やバージャー病、狭心症、心筋梗塞などの虚血性疾患に対する効果が期待されている。

02. 臨床研究が進むおとり型核酸医薬による薬物ステント

血管の病気に関連して、森下氏がHGFとは別に取り組んでいるのが、おとり型核酸医薬(デコイ)による臨床研究だ。閉塞性動脈硬化症や狭心症、心筋梗塞には、狭くなった血管を風船のついたカテーテル(細長い管)で広げ、場合によっては金属ステント(編み目状の筒)を入れる治療法が広く用いられている。しかし、風船で血管を広げても、再び血管が狭くなる再狭窄という問題が起こるケースがある。

これを解消するために開発中なのが、デコイを用いた風船療法後の再狭窄予防だ。これは薬物ステントといわれ、バルーンカテーテルの先に核酸医薬デコイオリゴが塗布してあり、狭窄した患部に導入することで、再狭窄を引き起こす種々の遺伝子の活性化を抑えると期待されている。

すでに動物実験では優れた効果が出ている。この治療法が実現すれば、再狭窄によって生じる患者の肉体的、経済的な負担が大幅に軽減できることになる。

核酸医薬
遺伝子成分である核酸(DNAおよびRNA)を医薬品として用いるもの。おとり型核酸医薬(デコイ)はその一種。デコイそのものは遺伝子ではないが、遺伝子の発現を制御する効果がある。森下氏の研究室では、血管の再狭窄予防用としてE2FデコイとNFkBデコイの2種類について研究を進めている。

03. 血管新生から神経の機能再生へと広がる研究テーマ

すでに臨床段階を迎えている二つの研究に加えて、森下氏の研究室では次世代の血管新生治療に向けた挑戦を行っている。いずれも遺伝子治療の新たな可能性を秘めた研究だ。

その一つが抗菌ペプチド※という血管内皮増殖因子を末梢動脈疾患への分子治療に用いる研究である。分子スクリーニングの結果、血管新生作用を有する「AG-30」というペプチドを同定することに成功。これには血管新生の効果とともに、大腸菌や黄色ブドウ球菌などに対する抗菌作用があるとされ、血管新生に向けて、より安全で確実な治療法として期待されている。

また、HGFによる治療についても時代の先を見すえた研究が始まっている。従来の血管新生という効果に加えて、神経の機能再生という画期的なテーマである。HGFは神経細胞の突起を伸ばす作用があることが分かっていて、病気によって損なわれた神経回路の再構築、ひいては記憶力の改善に役立つのではないか、と考えられている。具体的にはアルツハイマー型認知症の治療に向けた研究が始まっている。

「血管の動脈硬化など主に従来の生活習慣病に着目した治療法の研究を続けてきましたが、アルツハイマー型認知症も実は生活習慣病の一つとしてとらえ、血管の病と見直すことで治療に向けた新たな可能性が見えてきました。私の研究室では今までになかった治療法の研究に挑んでいます」

下肢などの末梢性血管から心臓、そして脳へと、適用用途で広がりを見せるHGFによる治療。それによって、従来よりもメリットのある代替治療への道が拓かれようとしている。

抗菌ペプチド
生物の体内に存在する免疫機能には自然免疫と獲得免疫の二つがあるが、抗菌ペプチドは自然免疫の一種。抗菌作用に優れている上、耐性菌ができにくいなどの面から近年、注目を集めている。

04. 創薬のために大学研究におけるイノベーションを追求

遺伝子治療における数々の先進的な取り組みを通じて、研究成果の実用化をめざす森下氏。時代をリードする研究者として、基礎研究から臨床研究に至るあり方そのものを変革していこう、という志を胸に秘めている。特に強調するのは新たな時代における大学の使命だ。

「医療技術をみると、従来のアプローチからの進歩はそろそろ限界に近づいています。創薬のあり方を含めてイノベーションが必要なのです。しかし、製薬メーカーは従来の創薬の仕組みに適応しすぎていて、既成概念から脱するのに苦しんでいるように思います。一方、大学側は基礎研究面で良いものを生み出しているにも関わらず、創薬としての芽を伸ばしきれず、実用化になかなかこぎ着けられないのが現状です。こうした現状を打開するには、大学の役割がますます重要になっていて、より戦略的な研究を行っていく必要があります」

大学における研究を変えていくため、森下氏は研究手法や組織体制など「新しい枠組みをつくっていく必要がある」と語る。そして、研究員の意識変革も必要という。研究の現場で重視しているのが研究のスピード感だ。「何か新しいことを成し遂げるには、それを証明する価値を世界のどこよりも早く生み出していく必要があり、私たちの研究は時間との戦い」と森下氏。そのため、研究室の中では「時間=経済的価値」という意識が徹底している。

イメージ:森下氏
「新しいことを成し遂げるにはどこよりも早く結果を出す必要があり、研究のスピードが重要」と語る森下竜一氏。

また、研究員の育成という点でも、森下氏は時代の変化への対応を説いている。

「大学は先端技術を教える場であったのですが、日進月歩の時代にあっては先端といってもせいぜい半年程度のリードでしかありません。どんな技術でもすぐに陳腐化する現在、技術だけを教えればよいという時代ではありません」

そこで森下氏が指導に力を注いでいるのがプロジェクトマネジメントの能力だ。研究における目標の設定からゴールに向けた取り組み方までを、研究室の大学院生に熱心に説いている。「研究成果を出して外部の評価を得てこそ、研究者は次にステップアップできるわけです。競争的資金を得るという観点からも、正しい目標設定の方法と目標にたどり着くまでの手段を教えるように努めています」

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