「使いやすくコンパクトな」顕微鏡で研究の効率化を促進

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カスタマーボイス
竹内 昌治 氏

プロフィール

竹内 昌治 氏

東京大学 生産技術研究所 教授
バイオナノ融合プロセス連携研究センター センター長

1995年、東京大学工学部機械情報工学科を卒業。2000年、同大学院、工学系研究科機械情報工学専攻、博士課程を修了。その後、日本学術振興会の特別研究員、東京大学生産技術研究所助教授などを経て、2007年に東京大学生産技術研究所の准教授に就任。さらに2008年から同研究所のバイオナノ融合プロセス連携研究センターにてセンター長を兼任。2014年には東京大学生産技術研究所の教授に就任。研究分野はナノバイオテクノロジーをはじめ、マイクロ流体デバイス、MEMS、ボトムアップ組織工学など。これまでに文部科学大臣表彰・若手科学者賞(2008年)、日本学術振興会賞(2009年)を受賞。

細胞を「部品」ととらえたモノづくり。
生体材料を工業的に活用して、新産業の創造をめざす

「取り扱いにくい生体材料を工業部品のように扱いやすくする」という研究に取り組んでいるのが、東京大学 生産技術研究所の竹内昌治氏だ。「生体と機械工学の融合」をテーマに掲げて、物づくりにおける未知の領域を開拓しようとしている。これまでに人工脂質二重膜の形成などナノバイオ分野で画期的な研究で成功を収めてきた。近年は生体適合材料としてのハイドロゲルの微細加工を提案することで、体内埋め込みデバイスや細胞の三次元組み立てといった新領域の開拓に挑戦している。研究の先に見すえているのは人工細胞の開発だ。これによって医療の分野での貢献、そして新産業の創造をめざしている。そのために、基礎研究に加えて産学連携による応用研究にも積極的に取り組んでいる。

01. 大学時代、昆虫の動きを工学の視点で探究

東京・駒場の東京大学・生産技術研究所にある竹内昌治氏の研究室。その前に掲げられているキャッチフレーズは「Think Hybrid」である。その意図は「さまざまな研究分野を、ごちゃ混ぜにして新しいものを創る」ことにある。まさしく理念の通り、研究室内には機械をはじめ、電気、情報、生物、化学、材料といった各種分野の若手研究者はもちろん、メディアアーティストまでもが集まり、先進的な研究の推進と社会との対話に挑んでいる。

イメージ:研究室のスタッフの一員である…
研究室のスタッフの一員であるメディアアーティストが描いた、人工細胞で構成した心臓のイメージ図。研究内容を分かりやすく広報することで、社会の理解を広める活動を行なっている。

「生体と機械工学の融合」を探究する竹内氏の原点は、大学時代、昆虫の動きを模倣したロボットの開発を手がけたことに遡る。当時、切り取った昆虫の足に電極をさして電気信号を流すことで足が伸縮する実験を行なったという。さらに大学院では、昆虫の体にデバイスを搭載して動きを操作する実験を行なった。一連の研究を通じて生体の優れた機能を機械に活かすことで今までにないデバイスを創り出すことができるのではないかと考えたのである。その際、微細な機械を生み出す技術であるMEMSに関心を抱いている。

イメージ:蛾の性ホルモンの匂いを嗅ぎ取る細胞…
蛾の性ホルモンの匂いを嗅ぎ取る細胞を生きたままセンサー化した装置。匂いに応じて首を振るロボットを製作。研究成果は『米国科学アカデミー紀要』に掲載され、学術誌『Cell』にも紹介された。

竹内氏の発想の飛び抜けた点は、機械としてのMEMSにとどまらず、生体適合性に富んだ材料を積極的に用いて、細胞やたんぱく質のレベルで機械づくりを志向したところにある。めざしているのは「生体とインタラクティブできる機械」であり、「遺伝子レベルで使える機械」だ。これをもとに10年後、20年後の医療分野での貢献を模索している。また、革新的な技術を通じて製造業にインパクトを与えることも重要な使命と考えている。
「これまでの発想では機械の材料というと、シリコンや金属、プラスチックが主流でした。これに対して、当研究室が取り組んでいるのは細胞やたんぱく質を材料に用いるということです。これに向けた設計加工論を確立するのが課題です」と竹内氏は語る。

02. 神経細胞の人工培養と脳との結合に成功

さまざまな種類の細胞がある中で、当初から研究テーマとして取り組んでいるのは神経細胞だ。これを工学的な発想のもとで大量に培養し、脊髄損傷の治療など神経機能の回復に役立つことをめざしている。

「今まで神経の再生に向けた治療は、神経幹細胞を体内に注入して、細胞を自発的に増殖させるという、いわば自然治癒に任せていました。これに対して、私たちの研究室では神経細胞の挙動を正確に制御して神経ネットワークの修復を図りたいと考えています」

竹内氏をはじめとする研究グループは、マウスを使った実験において、神経細胞を培養することで立体的な神経組織を作り出した。さらに、それを脳の表面に組み込むことで、培養した神経組織の樹状突起がマウスの脳と結合させることに成功している。この研究については2010年に『Biomaterials誌』に発表後、NHKや日本経済新聞の記事で取り上げられ、再生医療に向けて大きな可能性があると報じられた。

イメージ:微小な試験管に作られた人工神経ネットワーク…
微小な試験管に作られた人工神経ネットワークの、ラットの脳への移植(転写)。人工神経ネットワークが、脳と結合して信号のやりとりを行なう。
(M. Kato-Negishi et al.Biomaterials, 2010)

竹内氏によると、脳神経の再生に関する研究は、脳の外部から電気信号をキャッチする非接触方式のアプローチと、脳の神経に電極をさして脳神経から直接、電気信号を読み取る侵襲方式の2種類があるという。非接触型は安全性に優れている反面、信号を正確に読み取る感度に難がある。一方、侵襲方式は細胞に直接、人工物を挿入するため生体への負担が懸念される。

これに対して、竹内氏のアプローチは両者の中間に位置するもの。それは生体材料で人工的に細胞をこしらえ、それを電極として脳の神経組織に埋め込むという発想である。人工細胞を電極にすることで安全性を確保できる上、神経を制御しやすいというメリットがある。竹内氏は生体材料によって手がける電極を「ハイブリッド電極」と呼んでいる。

03. 細胞をシャボン玉のように大量生産できる技術の確立をめざす

現在、竹内研究室では、生体材料を用いて神経細胞をはじめとする人工細胞の開発に挑戦している。もちろん、自然界の細胞を人の手でつくり出すにはまだまだ数多くのハードルを越えていく必要がある。ここでは細胞の器となる細胞膜を、MEMSの技術を応用して「シャボン玉」のように大量生産する方法を編み出している。

イメージ:シャボン玉法による球体の膜を生成する技術…
シャボン玉法による球体の膜を生成する技術。DNAや酵素などを簡単にカプセル化することができることから、人工細胞の開発に向けた有力なツールとなる可能性がある。

「細胞のカプセル化技術を確立していくことで、将来は医療の現場で必要とする細胞を大量に生産して、それらを三次元で組み立てて治療に必要な臓器に仕立てることが可能と考えています。また、人工細胞の研究が進めば、細胞を自在にデザインして新薬の開発に役立てたり、さらには微生物を用いて石油をつくるといったことも、けっして夢物語ではないと思います」

竹内氏が見すえる日本の未来はモノづくりをベースにした「ライフサイエンス立国」だ。MEMSや医学などさまざまな学術分野が融合することで、日本の強い製造技術に立脚した医療や健康に貢献する新産業が立ち上がると考えている。

「これまで工業の世界では、細胞などの生体をモノづくりの材料に用いるという発想はほとんどありませんでした。それは何より扱いが難しかったからです。しかし、細胞を規格化して機械部品のように扱うことが可能になれば、生体材料を工業的に活用する道が開けるはずです。たとえば、細胞を大量生産して、それをメーカーにブロックとして提供すれば、メーカーではブロックを組み立ててさまざまな製品に仕上げることができるようになるでしょう」

ちなみに、人工細胞という言葉の響きには、人類の夢としての側面と、神の領域に踏み込むことの是非を問う側面がある。竹内氏も自身の研究が社会にもたらすインパクトの大きさを十分に承知している。そのため、研究当初からさまざまな科学分野の研究者と共同研究を行なってきたほか、哲学者と研究に関する議論を重ねてきた。また、研究室のスタッフにはメディアアーティストが在籍していて、研究の取り組みをビジュアルに幅広く伝える活動を行なっている。

「たとえば遺伝子操作の関連研究というだけで、社会から『なんとなく怖い』と思われるかもしれません。そのため、研究を進める一方、活動内容を社会に正しく伝えていくことも大切だと考えています」

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