ヌスミをすばやく正確に測定する方法

ヌスミをすばやく正確に測定する方法

機械部品には、設計上の性能を機械・装置が実現するために、厳しい寸法・精度に加えて、高い強度といった品質が求められます。同時に、これらの条件は機械・装置のコストに大きな影響を与えます。一般に機械・装置は、機械部品を1つ1つ積み上げたものです。しかし、機械・装置の性能を優先するために、機械部品の設計段階におけるコストダウンの検討は疎かにされるケースが多く見られます。
ヌスミは、このような機械部品の公差設定を緩和しつつ加工を容易にし、同時に品質を維持しながらコストダウンを実現するための設計テクニックです。ここでは、ヌスミとは何かから、加工後のヌスミの測定方法までを解説します。さらに測定方法については、従来方法の課題とその解決方法について詳しく紹介します。

ヌスミとは

ヌスミとは
A
ヌスミ

ヌスミとは、切削加工において刃物がピン角を削れない場合、角の部分に設ける加工です。ヌスミを設けることで加工コストを低減し、加工時間を短縮することができます。
ヌスミに対して「逃げ」という加工がありますが、ヌスミがピン角などの部分的な加工であるのに対し、逃げは広範囲の加工を意味します。つまり、ヌスミは逃げの中に含まれており、ヌスミのことを逃げという場合もあります。

ヌスミの例

ヌスミや逃げは、はめ合い公差が不要な場所や内歯加工後のバリの発生を抑えたい場合や、ピン角処理の加工工数を削減したい場合など、さまざまな場面で有効な設計技術です。

はめ合い公差が不要な場所でのヌスミ

不必要に厳しい公差を指定すると、機械部品の加工コストが上昇します。たとえば、下図はベアリングをシャフトに挿入する図面ですが、Beforeの図面にはシャフト全体に厳しい公差が指定されています。このような設計を行うと、シャフトの加工とベアリングの挿入が共に難しくなり、コストアップの原因になります。

このような場合は、Afterの図面のようにシャフトとベアリングとの嵌合部分にのみ厳しい公差を指定し、他の部分の公差には幅を持たせるといったヌスミを指定します。これにより、加工も組み立ても容易になり、トータルとしてコストを低減することができます。

Before
Before
A
シャフト
B
ベアリング
After
After
A
シャフト
B
ベアリング
C
ヌスミ

ポケット加工の時間を短縮するヌスミ

工具の形状を考慮した設計で、ヌスミを指定する場合があります。たとえば、下図のようなポケットをフライス加工すると、Beforeの指示では隅に必ず刃物のRが残ります。この場合は、さらに小径の工具で角のRを小さく加工する必要があります。しかし、小径工具による加工は時間を要するため、コストアップの原因となります。また、嵌合部などで直角形状のポケット加工が必要な場合は、フライス加工の後に追加加工が必要になり、さらなるコストアップが発生します。

この場合、Afterの図のように角にヌスミを設けると、加工時間を短縮することが可能です。角にヌスミを設けると、工具径による角のRを無視でき、加工に適した径の工具を使用することができます。これにより加工時間を短縮でき、直角形状の製品の嵌合部であっても追加加工が不要になるので、大幅なコストダウンが実現できます。

Before
Before
After
After
A
ヌスミ

ヌスミの測定の実際

ヌスミを設けることで、コストダウンを実現することができます。しかし、ヌスミの大きさや形状は、設計図面で指示されている公差内であることは当然です。特に精密加工部品のヌスミでは、0.5mmオーダー以上の厳しい公差が指示されていることが多くあります。また、その位置は入り組んだ奥にあり、ヌスミとはいえ形状は複雑です。このヌスミを正確に測定し、設計どおりであることが確認できて、はじめてコストダウンが可能になるのです。
下図は、ヌスミまたは逃げを設けた図面の例です。実際にはこのように多くの指示がなされており、加工後の製品はこのすべてが公差内であることを確認するための測定が必要です。

ヌスミの測定の実際

従来のヌスミの測定課題

これまで、ヌスミの測定は輪郭形状測定機で行ってきました。
輪郭形状測定機とは、スタイラスと呼ばれる触針を用いて対象物の表面をなぞることで、その輪郭形状を測定、記録する装置です。
近年は触針の代わりにレーザーを用いて、非接触で輪郭をなぞることで複雑な形状の測定に対応した機種もあります。また、機種によっては上下両面の測定が可能なものもあります。

輪郭形状測定機でのヌスミ測定の課題

輪郭形状測定機でのヌスミ測定の課題

輪郭形状測定機によるヌスミの測定には、以下のような課題がありました。

輪郭形状測定機でのヌスミ測定の課題
  • 対象物を治具に固定したり、水平出ししたりなどの作業に時間がかかってしまいます。また、正確に水平出しするためには、輪郭形状測定機に関する知識やスキルが必須です。
  • 奥まった部分のヌスミの場合、測定位置にスタイラスの触針を通しにくいため、微妙に針の位置がズレ、測定値がバラついて正確に測れません。
  • 円筒の最大点を通るプロファイル線を引くのが困難です。
  • 触針は、触針アーム上の支点を中心に上下に円弧運動し、触針先端位置はX方向にも動くため、X軸データにも誤差が発生します。

ヌスミ測定における課題解決方法

従来から使用されている一般的な測定機には、立体的な対象物・測定箇所に対して点や線で接触しながら測定している、測定値の信頼性が低い、という課題があります。こうした測定の課題を解決すべく、キーエンスでは、ワンショット3D形状測定機「VRシリーズ」を開発しました。
対象物の3D形状を非接触で、かつ面で正確に捉えることができます。また、ステージ上の対象物を最速1秒で3Dスキャンして3次元形状を高精度に測定することができます。このため、測定結果がバラつくことなく、瞬時に定量的な測定を実施することが可能です。ここでは、その具体的なメリットについて紹介します。

メリット1:複雑形状の小さなヌスミも測定可能

広範囲の形状を「面」で測定し、データを収集。全体の形状を把握し、目的の部分を測定するため、針を通しにくい奥まった場所の小さなヌスミも正確に測定できます。また、測定データはすべて保存され、保存したデータ同士を比較したり、3D設計データと比較することもできます。

ベアリングのヌスミ測定
ベアリングのヌスミ測定

「VRシリーズ」なら従来の測定機と異なり、これまで多くの手間と時間を要した針を通しにくい位置のヌスミも正確に測定できます。

メリット2:測定結果にバラつきが生じない

ツールを使ったヌスミ測定
ツールを使ったヌスミ測定

スキャンした3D形状のデータに対して、パソコンの画面上で多彩な補助ツールを使い円筒の軸を簡単に抽出できるので、プロファイル線が一意に決まります。任意の位置に正しく垂直なプロファイル線を引くことができるため、測定結果にバラつきが生じません。

「VRシリーズ」なら従来の測定機と異なり、これまで多くの手間と時間を要した形状のヌスミも正確に測定できます。また、一度ワークをスキャンすれば、過去の測定時とは異なる箇所のプロファイル(断面形状)を測定することも可能です。わざわざ同一の個体を再び用意して再測定する必要はありません。また、過去のデータを活用して、ロットや加工条件、材料などが異なる同一形状のワークとの差分チェックも簡単に実現します。

まとめ:測定しづらいヌスミ測定を飛躍的に改善・効率化

「VRシリーズ」なら、高速3Dスキャンにより非接触で対象物の正確な3D形状を瞬時に測定可能。奥まった位置の小さなヌスミの深さや幅などの難しい測定も最速1秒で完了。従来の測定機における課題をすべてクリアすることができます。

  • 面で測定するので、複雑な形状のヌスミも簡単に測定可能。最高点・最低点も測定することができます。
  • 人による測定値のバラつきを解消し、定量的な測定が実現します。
  • 位置決めなどなしに、ステージに対象物を置いてボタンを押すだけの簡単操作を実現。測定作業の属人化と測定値のバラつきを解消します。
  • 簡単・高速・高精度に3D形状を測定できるため、短時間で多くの対象物を測定することができ、品質向上に役立てることができます。

他にも、過去の3D形状データやCADデータとの比較、公差範囲内での分布などを簡単に分析できるため、製品開発や製造の傾向分析、抜き取り検査などさまざまな用途で活用することができます。