レーザ式レベルセンサ
レーザ式レベルセンサは、超音波式レベルセンサや電波式レベルセンサに比べ、使用している波長が非常に短いのが特徴です。障害物の多いタンク内でもピンポイント測定が可能で、タンク等に覗き窓があれば外から測定が可能です。非接触、レーザという特徴を生かした使い方が考えられます。工業計測分野では、製品の購入からメンテナンス、廃棄に至るまでの費用をトータルで考慮し、このトータル費用削減が工業計測分野で求められるようになってきています。非接触型レベルセンサは、主にメンテナンス工数・メンテナンス費用が安いのが特徴です。
ここではレーザ式レベルセンサの原理や構造などを紹介します。
原理
レーザ式レベルセンサの測定原理の中で、工業計測で広く使われている、位相差検出方式、TOF方式、三角測距方式の3つについて紹介します。
位相差検出方式

- 位相差検出方式は、古くから土木、建築分野で光波測距計として使われてきました。
- 基本周波数(例:数100MHz)で振幅変調したレーザ光を物体に照射し、その物体から戻ってきた反射光との位相差を測定することから時間を求め、その時間に光速をかけることで、測定物までの距離を求めることができます。
- 位相差検出方式でリアルタイムに得られる位相差は僅かで、そのままでは計測困難なため、基本周波数で変調されている反射光とは、僅かにずれた局発周波数(PLL によって発生)とをミキシングして、ビートダウンし、位相差を拡大して精度良く測定しています。
- 更に、測定距離を伸ばし、分解能を上げるため、基本周波数は2~3種類切り替えて測定しており、それぞれから得られるデータをつなぎあわせて、1つの距離データとしています。そのため、測定時間は0.1s 程度に制限されますが、プロセス用タンクの液面制御であれば問題になることは少ないでしょう。
- 光源にはDVDやCDなどに使われる半導体レーザ(可視光)です。照射ポイントが肉眼で確認でき、設置時に大変便利です。
- レーザはスポット径が小さく、理想的な平行光が作れるため、狭いところでの測定やピンポイント測定に適しています。
TOF方式(Time of Flight方式)

- 位相差検出方式に比べ原理は簡単ですが、使用する回路や素子には高い技術が要求され、レーザを使ったレベルセンサの中でも比較的新しい製品です。
- 立ち上がり時間が数nsで、光ピークパワーが数10Wの超短パルスを測定物体に向けて照射し、その超短パルスが測定物体で反射して受光素子に戻ってくるまでの時間tを測定します。この時間tを測定して、物体までの距離をL、光速をcとすると、L=(c×t)/2・・・・(8.1.2)距離Lは式(8.1.2)から求まります。距離分解能1cmを得るには約70psの時間測定が必要で、電子回路、半導体レーザ素子、受光素子など、超高速性が要求され、位相差方式と比べて小型化や低コスト化は難しくなります。
- TOF方式のレベルセンサは大きな光ピークパワーが必要なため、赤外光のレーザが使われます。そのため測定ポイントの視認はできず、別途可視ガイドレーザ光やスコープが付いています。
三角測距方式

- 三角測量法を使って距離や変位を測定する方式で、主としてFAの分野で使われています。液体・粉体などの原料レベル計測というよりは、小さな物体までの距離や厚みなどの形状測定に使われることが多いです。
- 原理的に長い距離の測定には不向きですが、現在では、2mの測定レンジをもつセンサも登場し、FA用途のレベルセンサとしては、十分な測定レンジとなっています。
- 測定分解能は位相差検出方式、TOF方式に比べ優れており、0.1mm以下の測定が十分に可能な精度を持っています。また、応答性も1ms以下で十分に早いと言えるでしょう。
- 測定物にレーザ光を垂直に照射し、物体から乱反射して返ってくる光の一部をレンズで集光し、位置センサ(例:CMOS)上に結像させます。測定物までの距離が変わると、位置センサ上の受光位置も変わるため、この位置センサ上の受光位置を特定することで、測定対象物までの距離を求めることができます。
- 液体がきれいな水の場合、乱反射しないため測定が困難となります。また、液面が波立つと、レーザの反射光が受光レンズに入光しないため、測定が困難です。
構造

- 元々レーザ式変位計として、土木、建築、FAで発展してきたセンサのため、ネジやフランジなどのプロセス接続に対応していない機種が見受けられます。そのため、タンク等に取り付ける場合は、別途取り付け変換冶具を準備する必要があります。
- 内蔵のフィルターガラスやガラス製の投受光レンズが攪拌の振動や、ノッカー(粉用タンク)などの振動で割れる可能性や、投受光素子の光学配置がずれたり、はずれたりする可能性があります。振動対策に注意が必要です。
- センサ本体に半導体レーザを搭載しているため、高い温度での使用が制限されています。センサの温度スペックを確認し、センサ筐体の温度が使用温度範囲を超えないように、距離を離すなど対策が必要です。
選定方法
レーザクラス
レーザ式レベルセンサを選択する場合、レーザの危険性を十分認識しておく必要があります。レーザ製品の安全性を規定するIEC規格(IEC60825-1-Safety of Laser Product)でクラス基準及びクラス判定基準が改定されています。日本のJIS規格(JIS C6802)もこれに準じて規定されています。
レーザクラス分類(JIS C 6802:2011)
レーザクラス | クラスの位置づけ |
---|---|
クラス1 | 直接ビーム内観察を長時間行っても、またそのとき、観察用光学器具(ルーペ又は双眼鏡)を用いても安全であるレーザ製品。 |
クラス1M | 裸眼(光学機器具を用いない)で、直接ビーム内観察を長時間行っても安全であるレーザ製品。光学器具(ルーペ又は双眼鏡)を用いて観察すると、露光による目の障害が生じる可能性がある。クラス1M レーザの波長領域は302.5nm~4000nm の間に限られている。 |
クラス2 | 400nm~700nmの波長範囲の可視光を放出するレーザ製品であって、瞬間的な被爆の時は安全であるが、意図的にビーム内を凝視すると危険なレーザ製品。光学器具を用いても目に障害が生じるリスクは増加しない。 |
クラス2M | 可視のレーザビームを出射するレーザ製品であって、(光学器具を用いない)裸眼に対してだけ短時間の被ばくが安全なレーザ製品。光学器具(ルーペ又は双眼鏡)を用いて観察すると、露光による目の障害が生じる可能性がある。 |
クラス3R | 直接のビーム内観察を行うと、目に障害が生じる可能性があるが、そのリスクが比較的小さいレーザ製品。目に障害が生じるリスクは露光時間とともに増大し、また意図的に目に露光することは危険である。 |
クラス3M | 目へのビーム内露光が生じると、偶然による短時間の露光でも、通常危険なレーザ製品。拡散反射光の観察は通常安全である。 |
クラス4 | ビーム内観察及び皮膚への露光は危険であり、また拡散反射の観察も危険となる可能性があるレーザ製品。これらのレーザには、しばしば火災の危険性が伴う。 |
レーザ製品を扱う上で、ユーザとして具体的な安全対策を採らなければならない内容を以下に示します。
EN60825-1 レーザ機器使用者への留意事項
措置内容 |
---|
レーザ安全責任者 |
リモートインターロック |
キー制御 |
ビーム遮断機、減衰器 |
放射表示装置 |
警告サイン |
光路の位置 |
鏡面反射 |
眼の保護 |
防護限 |
訓練 |
医学的監視 |
管理区域 |
遠隔操作 |
措置内容 | レーザクラスの分類 | ||||
---|---|---|---|---|---|
クラス1 | クラス2 | クラス3R | クラス3B | クラス4 | |
レーザ安全責任者 | 不要 レーザビームを直接覗き込む必要性がある場合は推奨 |
可視光タイプは不要不可視光には必要 | 必要 | ||
リモートインターロック | 不要 | 部屋もしくはドアの回路と接続 | |||
キー制御 | 不要 | 使用していない時は、キーを抜く | |||
ビーム遮断機、減衰器 | 不要 | 使用中の不注意な露光を防ぐ | |||
放射表示装置 | 不要 | 可視光タイプは不要不可視光には必要 | レーザ運転中に表示 | ||
警告サイン | 不要 | 適切な警告標識を掲示 | |||
光路の位置 | 不要 | 使用光路の端を適切な拡散反射体又は吸収体で終端させる。終端させないビーム光路は、操作者の眼の高さより上方あるいは、下方に位置させる。 | |||
鏡面反射 | 不要 | 意図しない反射は避ける。 | |||
眼の保護 | 不要 | 可視光タイプは不要不可視光には必要 | 技術上及び管理上の方法で安全対策ができないときは、危険区域内においては適切な保護眼鏡が必要。 | ||
防護限 | 不要 | 時により必要 | 適切な保護着衣が必要 | ||
訓練 | 不要 | 全ての操作者およびメンテナンス要員に必要 | |||
医学的監視 | 不要 | 専門医による監視 | |||
管理区域 | 不要 | 管理区域内で使用 | |||
遠隔操作 | 不要 | 可能な限り 遠隔操作 |
※実際の適用については必ず規格原文を参照してください。
他の非接触レベルセンサとの比較
レーザ式レベルセンサと非接触式レベルセンサの超音波式、電波式との主要なスペックの比較表を掲載します。
スペック比較
項目 | 超音波 | 電波式 | レーザ式 |
---|---|---|---|
測定に使う物 | 超音波 | 電波 | 光 |
伝搬媒体 | 空気 | - | - |
速度 | 331m/s | 3 ×108m/s | 3 ×108m/s |
測定原理 | TOF | TOF FMCW |
位相差 TOF 三角測距 |
反射原理 | 音響インピーダンスの変化 | 特性インピーダンスの変化 | 屈折率の変化 |
温度変化 | × | ○ | ○ |
結露 | × | ○ | ○ |
スポット径 | 2~10cm | 数10cm | 数mm |
不感領域 | △ | × | △ |
タンク壁との影響 障害物 |
× | × | ◎ |
液体の変化(汚れ) | ○ | ○ | ○ |
透明な液体 | ○ | ○ | × |
波立ち | × | △ | × |
泡 | × | △ | × |
規格 | なし | 電波法 | レーザクラス |
レーザ式レベルセンサの各方式の特徴
レーザ式レベルセンサの各方式の特徴を以下に示します。測定方法により測定距離や精度、応答性、安全性も異なってくるので、アプリケーションを良く検討して選択する必要があります。
特徴比較
項目 | 位相差方式 | TOF方式 | 三角測距方式 |
---|---|---|---|
最大測定距離 | 10~100m | 100~500m | 1~2m |
精度 | ○ | ○ | ◎ |
分解能 | ○ | ○ | ◎ |
応答性 | ○ | ◎ | ◎ |
レーザ安全性 | ○ | ◎ | ○ |
価格 | △ | × | ○ |
主な用途 | PA、土木、建築 | PA、土木、建築 | FA |
注意点
フィルターガラス
レーザ放射口のフィルターガラスがが結露したり汚れたりすると、レーザ光が出射されなかったり、乱反射して検出できないため、エアパージなどの対策を講じる必要があります。
攪拌や液投入時などに、液が跳ねてフィルターガラスに付着するとご検出につながるため、十分な距離を離す必要があります。
泡・波立ち
液面が波立っていたり泡立っていたりすると、レーザ光が乱反射し、受光できない場合があります。導波管を使うなどして対策が必要です。
透明な液体
透明な液体はレーザ光の反射率が低く、測定が困難です。液面にフロート(浮子)を浮かべればそれを検出可能です。
乱反射・外乱光
サニタリ用などでタンク内部が鏡面仕上げの場合、レーザ光がタンクに当たり、その反射光が乱反射して測定不能になることがあります。また、直射日光や、蛍光灯、その他照明などの光源によって受光素子が飽和してしまうことがあります。
耐圧
レーザ式レベルセンサの耐圧使用はほとんどが大気圧使用に限定されます。もし、減圧/加圧タンクで使用するならば、ガラス窓越しなどタンクの外から使用します。
ガラス越し
レーザ式レベルセンサであればガラス越しの測定は、ガラス面での正反射光が受光素子に入らないように角度を調整する必要があります。そのセンサの光学配置を確認して、設置する必要があります。
まとめ
このページでは、レーザ式レベルセンサの原理や構造、選定方法・注意点について説明しました。
それらをまとめると、以下の通りです。
- レーザ式レベルセンサは非接触型レベルセンサで、メンテナンス工数・メンテナンス費用が安いのが特徴。
- 工業計測では、位相差検出方式、TOF方式、三角測距方式が一般的。
- 安定検出には、フィルターガラスの汚れや、タンク壁面や液面の波・泡立ちによるレーザ光の乱反射に注意する。
検出する液体によって、レベル検査の方法もさまざまです。最適なレベル検査を行うには、それらの特徴を知り、正しく検査することが大切です。
このページで紹介した内容や他のページに記載しているレベルセンサの知識や事例について、1冊にまとめた資料「レベルセンサ ハンドブック」は、下記からダウンロードできます。