熱電対の基礎

熱電対の基礎、選び方、使用時のポイントについて紹介しています。

熱電対とは

熱電対とは二種類の異なる金属導体で構成された温度センサのことです。
主に工業用として使用されるこの熱電対は、他の温度計(水銀計、サーミスタなど)と比較して下記のような特長があります。

  1. 応答が早い。
  2. -200°C~+1700°Cと広範囲の温度測定が可能。
  3. 特定の点や小スペースでの温度測定が可能。
  4. 温度情報が電気信号(熱起電力)として検出されるので情報処理・解析がシンプル。
  5. 安価で入手しやすい。

熱電対の原理

熱電対の原理

1821年、ドイツ人科学者ゼーベック(T.J.Seebeck)が、2つの異なる金属をつなげて、両方の接点に温度差を与えると、金属の間に電圧が発生し、電流が流れることを発見しました。
この現象を発見者の名前をとって「ゼーベック効果」と言います。この回路に電流を起こさせる電力を熱起電力(Thermoelectromotive force)と呼ばれ、その極性と大きさは2種類の導体の材質と両端の温度差のみによって定まることが確認されています。

熱電対は前述のゼーベック効果により、2種類の金属の接合部(測温接点)T1の温度と計測器側接点(基準接点)T0の温度差Tによる電圧を発生します。
熱電対を使用して温度を計測する場合、計測器でこの電圧を測定します。

計測器の測定方法としては、次の2種類があります。

計測器の測定方法
  1. 基準接点を0°C(冷接点補償)にして温度を直読する方法
  2. 基準接点の気温を測り(基準接点補償)、温度差ΔTに加算する方法

冷接点を測定中0°Cに維持するのは大変です。端子付近の温度を測定し、0°Cを基準とする熱起電力を加算することにより、測温接点の温度を求めることができます。これを基準接点補償と言います。

熱電対のセンサ部はどこ?

熱電対のセンサ部はどこ?

図は熱電対を熱い液体の入ったコップに挿入したイメージ図です。
液体の中の温度は均一に100°Cであると仮定します(温度勾配がない)。
この時、液体内の熱電対部分に熱起電力は発生しません。熱起電力が発生するのは温度勾配がある部分のみです。
熱電対のセンサ部は熱起電力が発生する部分ですので、この温度勾配部が熱電対のセンサ部になります。

熱電対とあわせて押さえておきたい

熱電対の選び方

測定温度で選定

熱電対には、二種類の金属導体の組み合わせ方で以下の8種類があります。

種類の
記号
構成材料 測定範囲
+極 -極
B ロジウム30%を含む
白金ロジウム合金
ロジウム6%を含む
白金ロジウム合金
+600~+1700°C
R ロジウム13%を含む
白金ロジウム合金
白金 0~+1100°C
S ロジウム10%を含む
白金ロジウム合金
白金 +600~+1600°C
N ニッケル、クロムおよび
シリコンを主とした合金
ニッケルおよびシリコンを
主とした合金
-200~+1200°C
K ニッケルおよびクロムを
主とした合金
ニッケルおよびアルミニウムを
主とした合金
-200~+1200°C
E ニッケルおよびクロムを
主とした合金
銅およびニッケルを
主とした合金
-200~+900°C
J 銅およびニッケルを
主とした合金
-40~+750°C
T 銅およびニッケルを
主とした合金
-200~+350°C

B/R/S熱電対は貴金属熱電対、N/K/E/J/T熱電対は卑金属熱電対と呼ばれます。
白金、ロジウムといった融点の高い金属が含まれる貴金属熱電対は+1000°C以上の測定に使用され、+1000°C未満の測定には卑金属熱電対が使用される傾向にあります。
以下、各熱電対の特徴を記載します。

B 熱電対 他の貴金属熱電対と比較してロジウムの含有量が多いので、融点および機械的な強度が増していて、長寿命です。起電力が極めて低く、低温領域の測定は不可能です。基本的にR/S熱電対で測定できないような、更に高温の領域を測定する場合に選定します。
R/S 熱電対 高温領域で耐久性が必要な場合に選定します。貴金属熱電対の中ではR熱電対が最も使用されます。
N 熱電対 安価に+1000°C以上の高温領域を測定したい場合に選定します。
K 熱電対 貴金属熱電対と比較すると安価ですので、現在工業用として最も普及しています。起電力特性の直線性が優れていて、耐熱・耐食性も高いので、まずはK熱電対を使用することから考えます。
E 熱電対 1°Cあたりの起電力が非常に高く、分解能が優れているタイプです。特に精度良く温度を測定したい場合に選定します。
J 熱電対 E熱電対についで1°Cあたりの起電力が高く、分解能が優れているタイプです。E熱電対よりも安価なのも特長です。
T 熱電対 低温領域(-200~+300°C)の起電力特性がいいタイプです。低温領域を精度良く測定したい場合に選定します。
【温度別熱電対選定例】
測定温度で選定
熱電対とあわせて押さえておきたい

環境性と応答性で選定

熱電対の素線は、酸化や腐食性雰囲気での耐久性を持たせるために、通常は外気から遮断します。
外気から遮断するため、金属の被覆と一対の熱電対素線の間に、粉末状の無機絶縁物を充填封入して加工した熱電対のことを、"シース型熱電対"といいます。

シース型熱電対の特長

シース型熱電対の特長
  1. 機械的強度が大きいことによる、優れた曲げ特性と耐衝撃性
  2. 耐食性、耐圧性に優れる

これらの特長から、十数年前に実用化されて以来、使用実績は徐々に拡大しています。

【シース熱電対の断面図】
シース型熱電対の特長

シース熱電対の測温接点

使用用途に応じて最適な接点形を選定します。

シース熱電対の測温接点には3通りあります
接地型
熱電対の素線をシースの先端部に直接溶接して測温接点を作ったシース熱電対です。応答性が早いのが特長です。素線がシースに接地していますのでノイズのある場所、危険な場所での使用はできません。
非接地型
熱電対の素線をシース部と絶縁し、測温接点を作ったシース熱電対です。応答性は接地型には劣りますが、長時間の使用に耐え、また、ノイズのある場所、危険な場所でも影響されずに使用可能です。
露出型
熱電対の素線をシースから露出し、測温接点を作ったシース熱電対です。応答性は3タイプの中では最も早く、わずかな温度変化も追従します。エンジンテストなど、早い応答性が求められる場合に使用します。ただ、強度は著しく低いので基本的には使い捨てで使用します。

熱電対使用時のポイント

補償導線とは

補償導線とは熱電対と温度計測器との間を接続するのに使用する導線のことです。
使用温度範囲(0°C~+60°C)においては熱電対とほぼ同等の熱起電力特性をもっていますので、主に熱電対の延長に使用します。

熱電対の延長はなぜ補償導線でないとダメなのか

下図のような温度勾配を考えます。

熱電対の延長はなぜ補償導線でないとダメなのか
20°C(基準接点補償)+30°C+25°C+25°C=100°C

感温部は温度勾配がある部分ですので、補償導線においても、その温度差に相当する熱起電力が発生します。計測器では発生した熱起電力の合計値を演算し、温度として表示します。

熱電対の延長はなぜ補償導線でないとダメなのか
20°C(基準接点補償)+0°C+0°C+25°C=45°C

上図のように補償導線を使用せず、仮に銅導線を使用すると、温度勾配のある部分であっても熱起電力が発生しません。その結果、温度の測定結果としては誤差が生じてしまいます。

温度勾配がなければ銅導線でもOK?

実際に温度勾配がない場合においては、熱起電力が発生しません。従って、熱起電力が発生しないような温度勾配のない部分の延長に関しては銅導線でも問題ありません。

熱電対と補償導線の接続

熱電対と補償導線の接続は、接続部の温度勾配がない場合、通常の端子台で問題ありませんが、仮に温度差が生じると正確な計測ができなくなります。その場合は使用する熱電対と同等の熱起電力特性をもつ、専用のコネクターを使用します。

熱電対の最大延長

熱電対自体は1km以上延長しても使用可能です。ただし、計測器には通常、配線できる入力信号抵抗値の最大値、"入力信号抵抗"が決まっています。熱電対の総抵抗値がこの値以上になると正確な計測ができなくなりますので注意が必要です。

熱電対の校正

定点法と比較法

熱電対の校正とは使用する熱電対が示す値と、真の温度との関係を決定する作業のことをいいます。校正は通常、半年に1回行います。校正方法は大きく分けて定点法と比較法があります。

定点法

定点法とは正確な温度値を温度定点で与えて校正を行う方法です。

定点法

図のように定点の温度を測定して校正します。
温度定点は物質の相平衡状態ですので、いつ再現しても温度は一定です。

定点 温度
窒素の沸点 -195.798°C
酸素の沸点 -182.954°C
氷点 0°C
水の沸点 99.974°C
水の三重点 0.01°C
錫の凝固点 231.928°C
亜鉛の凝固点 419.527°C
アルミニウムの凝固点 660.323°C
銀の凝固点 961.78°C
金の凝固点 1064.18°C
白金の凝固点 1768°C

水の三重点(0.01°C)とは

水の三重点とは液体、気体、固体が共存する温度で、一般に水の三重点セルと呼ばれるガラス製のセルで実現されます。
±0.001°Cと、最も良い精度が得られますので、定点法ではよく使用されます。

比較法

比較法とは任意に定めた恒温槽の温度を標準熱電対で計測し、同時に計測した被校正熱電対との誤差を求めて校正を行う方法です。

比較法

定点法と比較すると精度は落ちますが、任意の温度で校正できることが特長です。

熱電対の寿命

熱電対にも寿命があります。使用する温度や雰囲気で大きく変わりますが、一般的に酸化雰囲気中で常用温度以下で使うと貴金属熱電対で約2000時間、卑金属熱電対は約10000時間程度です。上限温度で使用すると約50~250時間と寿命は大幅に短くなります。熱電対が寿命に近づくと正常な温度を示さなくなり、最終的には断線します。正確な計測を行うために、熱電対の定期的なメンテナンス・交換を行うようにしてください。

熱電対計測トラブルシューティング

熱電対計測トラブルシューティング

熱電対を使用して温度を計測する際、正確な計測値が得られないことがあります。以下は熱電対計測において、陥りやすいトラブル事例をまとめています。
右記は正常に熱電対計測を行っている様子です。全体の熱起電力は1.00mV+3.00mV+10.00mV=14.00mVから測定値は100°Cとなります。
(熱起電力の各値は参考値とします)

熱電対、補償導線の極性が違う

熱電対、補償導線の極性が違う

熱電対、補償導線の極性を間違えると正確な計測ができません。
全体の熱起電力は-6.00mVとなり、計測器には間違った温度が表示されてしまいます。

補償導線に銅導線等を使用している

補償導線に銅導線等を使用している

温度勾配がある場合、補償導線の代わりに銅導線等を使用すると正確な計測ができません。
全体の熱起電力は11.00mVとなり、計測器には間違った温度が表示されてしまいます。

種類の異なる熱電対、補償導線を使用している

種類の異なる熱電対、補償導線を使用している

計測器とは異なる種類の熱電対、補償導線を使用すると正確な計測ができません。
全体の熱起電力は7.50mVとなり、計測器には間違った温度が表示されてしまいます。

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