原材料から追跡可能にする「トレーサビリティ」
トレーサビリティとは、トレース(追跡)とアビリティ(能力)を組み合わせた造語で、日本語では「追跡可能性」と翻訳される。部品や製品をロット番号などで識別、管理できるようにして、原材料や部品を調達するところから、加工や組み立てなど製造過程、流通や販売して消費者の手に渡り、廃棄するところまで追跡できるようにすることを指している。
2000年代に入って、BSE(狂牛病)問題、食品偽装問題など、社会では消費者の信頼を損ねる大きな問題が次々と起こり、トレーサビリティが重要視されるようになった。トレーサビリティの対象物とそれに紐づけられる情報は拡大の一途をたどっている。商品の品質に問題が発生した場合、メーカーはいち早く有効な対策を実施するように求められる。
トレーサビリティという言葉は、とても広い意味をもっているので、人によって捉え方が違うが、大きく2つの意味に分けられる。1つ目は、最初に示したように原材料から、生産、流通、小売りまで複数の段階での製品の移動を把握するチェーントレーサビリティ。2つ目は、1つの企業や工場内での部品や製品の移動を把握する内部トレーサビリティ。問題が起きたときに原因をすばやく突きとめ対応するには、2つのトレーサビリティのどちらもしっかりと整備しておくことが重要だ。
品質向上の構築にこそトレーサビリティを
トレーサビリティは、問題が起きたときに迅速に対応するためだけの仕組みと考えられがちだ。しかしこれからのトレーサビリティは、それに加え、いかにゼロディフェクト(不良品ゼロ)に向け、品質保証、品質向上につなげられるかがポイントとなる。
品質向上につなげるポイントは大きく3つある。
1つは個体識別。製品や設備の状態は常に変わるため、生産ラインの工程毎やロット単位ではなく、最小個体単位で生産ラインを通じての管理が重要になる。
2つ目は、どんな情報をその個体に紐付けるかだ。「いつ・どこで・誰が」という追跡のための情報だけでなく、各工程での測定値や検査結果などの「製品の状態」を管理することが必要だ。合わせて「生産設備の状態」をデータ収集し、それらをすべて個体情報に紐付けて管理できる仕組みにすることがポイントとなる。
3つ目は収集したデータを分析し、日ごろの改善活動に活用すること。
取得したデータは使わないと何の役にも立たないので、日常の改善活動に積極的に使っていくことがカギだ。例えば工程内で不良が見つかったときに、その不良品の全工程をトレースし、そのときの製品状態や設備の状態を押さえ、発生要因を正しく把握する。そしてそれを防ぐための予防措置を実施していく。市場不良だけでなく、工程内不良にも目を向けることで、歩留まり向上、そしてゼロディフェクトにつながっていくだろう。
人工知能(AI)技術が発展し、自動車や機械の自動運転、自動運用がさらに拡大していくと、製造元であるメーカーの責任がさらに大きくなることが予想される。不良が出てからの対応だけでなく、不良品や欠陥品を出さない高品質な製造体制を構築することがますます重要となっていくだろう。
