現場改善のヒント

ポカよけは万全?当事者が中心の「m-SHELLモデル」で探るヒューマンエラーの背後要因

ポカよけは万全?当事者が中心の「m-SHELLモデル」で探るヒューマンエラーの背後要因

製造現場でポカミスなどのヒューマンエラーを完全に撲滅することは簡単ではありません。しかし、ミスが起きるさまざまな要因を当事者を中心に整理し、それらの関係性を見つけ出すことができれば、効果的なヒューマンエラー防止策を実施することができます。 今回は人によるミスやエラーの当事者と複数の要因の相関関係を可視化し、再発防止に有効な背後要因を探り出す「m-SHELLモデル」を解説。そして、製造現場で活用するためのポイントなども紹介します。

この記事でわかること

「m-SHELLモデル」とは

「m-SHELLモデル」とは、ヒューマンエラーの背後要因を洗い出すためのフレームワークです。m-SHELLは、management(管理)、Software(ソフトウェア)、Hardware(ハードウェア)、Environment(環境)、2つのLiveware(当事者/当事者以外)の頭文字を取ったものです。Lを1つだけにした「m-SHEL」という表記方法もあります。もともとは海外の航空業界で考案された「SHELLモデル」に、管理や監督といった意味を持つm=managementの要素を加えた構成です。この思考法は、製造業や建設業をはじめ、インフラ・交通関連や医療関連、航空・宇宙関連など、ミスやエラーの防止と安全性確保が重要となる幅広い分野で活用されています。
m-SHELLモデルの概念を図で示すと以下のようになります。

ミスやエラーを起こしてしまったL(当事者)を中心に置いたとき、それを取り巻く環境や物事、人物などとの相関関係を書き出すなどして可視化します。これにより、要素ごとの分析では気付きにくかった、ヒューマンエラーの背後要因を当事者とそれを取り巻く各要素との関係から分析することができます。

「m」だけが小文字である理由
ほとんどの場合、m-SHELLの6つの要素のうち、managementの「m(管理)」だけが小文字で表記されます。それは、管理の要因に観点が集中してしまうことを防止するためだといわれています。このことからも、現場の「L(当事者)」を中心に据えて、ヒューマンエラーの背後要因の洗い出しに取り組むことが大切であることがわかります。

製造現場における「m-SHELL」とは

製造現場でポカミス防止や安全管理を実施するにあたり、ミスやエラーの背後要因を探ることができるm-SHELLモデルの活用は有効です。まずは、m-SHELLの6要素がそれぞれどんな物事に相当するのか、製造現場での一般的な例とともに解説します。

m(management):管理・監督

組織や業務の方針・目標・管理体制などに関することです。生産数や工数などの目標達成において、作業者のヒューマンファクター(人的要因・特性)に配慮できているか、また、職場の雰囲気づくりや安全への取り組みが適切かどうかなども含みます。先に示したm-SHELLモデルの図のように以下のSHELLの各要素を包括しており、管理・監督の体制がどこかでエラーに関与していないかなどを検討します。

S(Software):ソフトウェア

各種作業をするための手順書やマニュアルなどに関することです。基本的な動作や操作、それらの教育・研修の体制などが適切かどうかも検討します。

H(Hardware):ハードウェア

作業者自身が関係する機械や装置、治工具など、モノに関することです。また、機械・装置を操作する場合は、操作盤やレバー、ボタンなど、それらを使用するためのユーザーインターフェースも含みます。さらに、設定やスペック、不具合、老朽化、故障といったハードウェアのコンディションにも注目します。

E(Environment):環境

作業する空間の明るさや温度、騒音、振動、臭い、汚れなど物理的な作業環境や、現場の雰囲気や社風など職場・現場の社会的な環境のことです。また、作業の非定常性や昼夜、天候、機械・装置の起動・停止などの作業特性も含めた、さまざまな環境を指します。

L(Liveware):当事者

作業を行う当事者の身体の状態や心理的・精神的状態、技能・知識・経験などに注目します。また、仕事だけでなくプライベートでの問題による影響にも着目します。
m-SHELLモデルでは、当事者は中心に位置します。業務量や疲労、加齢などによる体調やパフォーマンスの変化にも注目する必要があります。

L(Liveware):当事者以外

もう1つのLは、現場のチームメンバーや会社の同僚、先輩、後輩、リーダー、管理者、上司、部下など当事者の周囲の人々のことです。周囲とのコミュニケーションやチームワーク、リーダーシップが、当事者のパフォーマンスにどのように影響しているかなどを検討します。

製造現場での「m-SHELLモデル」の活用ポイント

次にm-SHELLモデルにおける各要素の関係性について考えます。L(当事者)と各要素との相互関係から要因を考察する際のポイントを製造現場での例を交えながら解説します。

Point 1:各要素の関係性を検討する際は、「変化」に注目する

冒頭で紹介したm-SHELLモデルの図からもわかるように、L(当事者)を囲むように「SHEL」の各要素がそれぞれ隣接して並んでいます。中心のL(当事者)と周囲の各要素の関係に問題が見つかれば、ヒューマンエラーが起こりやすい状態であるといえます。
L(当事者)の心身の状態だけでなく、それを取り巻く各要素も常に変化していることを念頭に置くことが大切です。各要素との関係性や注意すべき変化の例を以下に挙げます。

・S(ソフトウェア)とL(当事者)の関係性
業務において生産する製品の仕様や作業内容、手順書などの変更や更新はつきものです。マイナーチェンジであっても、そこにL(当事者)がヒューマンエラーを起こすような要因がないかどうか、検証することが大切です。
・H(ハードウェア)とL(当事者)の関係性
機械・装置・治工具などは、部品が劣化したり摩耗したりするなど、常に状態が変化しています。H(ハードウェア)に想定外の変化があった場合、L(当事者)がいつもの要領で作業していてもミスやエラーが生じる可能性があります。
また、梅雨など湿度が高い時期は、E(環境)が変化し、H(ハードウェア)である機械の部品や治工具にサビが生じ、L(当事者)がエラーを起こす要因となる場合もあります。
・E(環境)とL(当事者)の関係性
1日のうち、朝・昼・夕、または夜勤というように、時間帯によっても環境は変化します。窓や大きな搬入出口に近い場所では、季節によって日差しの傾きが、作業所の明るさ・眩しさ・温度などに影響します。また、極端な温度変化にも注意が必要です。寒さで作業者の手がかじかんでしまったり、暑さで意識がもうろうとしたりすることも、ミスやエラーにつながります。これらを言い訳として切り捨ててしまうと、ミスやエラーを根本から回避できない可能性があるため、慎重に検討する姿勢が大切です。
また、H(ハードウェア)においても温度変化による部品や材料の特性変化は、L(当事者)のエラーに関係する可能性があります。
・L(当事者以外)とL(当事者)の関係性
L(当事者)は社会人として人生の多くの時間をL(当事者以外)とともに過ごします。メンバーの定常性または非定常性などを含め、周囲の人による影響力は小さくありません。企業の規模や体制によって検討方法などが異なりますが、たとえば、コンプライアンスの遵守やハラスメントの防止は、集団を適切な状態に保つための基本姿勢であるといえます。このとき、m(管理)において、これらが周知および徹底できているかを定期的にチェックする体制づくりが求められます。

次はここに挙げたような関係性から導かれる、m(管理)のあり方やタスクについても説明します。

Point 2:各要素の関係性から「m(管理)」のタスクを明確化する

現場の管理者が主体となってヒューマンエラーの要因やその改善策を検討することが一般的でしょう。しかし、m-SHELLモデルではm(管理)が主体ではありません。あくまでL(当事者)を中心に据え、SHELの各要素との関係性を検討したとき、m(管理)のあるべき体制や実施すべきタスクが包括的に見えてくる仕組みといえます。
Point 1の例のL(当事者以外)との関係で、m(管理)がすべきことが挙がったように、S(ソフトウェア)では手順書のチェックが必要なタスクであることがわかります。また、H(ハードウェア)とE(環境)に注目すると、湿度の高い時期の機械の部品や治工具のサビによって、L(当事者)がミスやエラーを起こす可能性があります。このように要素どうしの関係性を考慮して点検のタイミングを見直すなど、求められる管理項目やタスクを明確化することができます。

m-SHELLモデルを活用してヒューマンエラーの要因や管理項目を抽出してみると、管理視点からの課題抽出やポカミス対策だけでは、盲点や限界が生じてしまう場合があることがわかります。
もちろん、製造現場において、L(当事者)は必ずしも製造工程の作業者である必要はありません。開発や設計、生産技術、品質管理、営業、経理など、さまざまな業務を当てはめて活用することも可能です。各要素との関係性からどのような管理・改善が必要かをm-SHELLモデルの図に書き出してみると、これまで気づかなかった新たな改善点が発見できるかもしれません。

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