ゴルジ染色したラット脳の神経組織観察

ゴルジ染色とは

ゴルジ染色(Golgi staining)とは、鍍銀染色法の⼀種で、脳の微細な神経細胞(ニューロン)の軸索や樹状突起を黒く染色してその構造(樹状突起スパイン)を可視化することができ、ラットやマウスなど動物の脳の切片を標本とした神経細胞の構造やその変化の観察に古くから用いられています。
ゴルジ染色は、神経組織の金属含浸(銀染色)などの実験に取り組んでいたノーベル生理学・医学賞の受賞者であるイタリアのカミッロ・ゴルジが、1873年に発表したもので、四酸化オスミウムと⼆クロム酸カリウムを含む固定液で固定した脳標本を硝酸銀⽔溶液に浸して染色すると、神経細胞の微細組織が黒色を示すことから「⿊い反応」と表現されました。その後、オランダの医師であるコックスが1891年に発表したゴルジ・コックス染色(Golgi-Cox staining)では、使用する化合物が改良され、⼆クロム酸カリウム・クロム酸カリウム・塩化水銀溶液で固定した脳切片をアンモニア⽔で黒く発⾊(⿊化)させることにより、以前よりも安定した結果が得られるようになりました。

ゴルジ染色/ゴルジ・コックス染色は、プロトコールに沿って行われますが、染色時間の短縮など標本作製に関わる作業効率の向上や安定性向上などを目的に、試薬にはさまざまな改良が重ねられ、現在も脳切片の組織染色による微細な神経組織の観察に用いられています。脳切片全体に対して特定の神経組織のみを染色することができるため、海馬内の樹状突起の形態や分枝の変化による認知や記憶形成への関与など、さまざまな研究に活用されています。

ゴルジ染色した脳切片の高解像度観察

脳は神経細胞それぞれが軸索をのばし、他の膨大な数の神経細胞がシナプスで互いに結合したネットワークによって、記憶や情動などの高次元機能を実現しています。実験や研究には動物の脳が用いられ、ゴルジ染色プロトコールに沿って温度管理しながらクライオスタットで複数の均等な厚みの切片にスライスし、染色のプロセスを経て複数の標本を作製して観察します。

標本として多く用いられるラットやマウスの脳はそれ自体が非常に小さく、神経細胞の軸索や樹状突起はきわめて微細で、顕微鏡での高倍率観察においては、厚みを持つ脳切片における微細な神経細胞全体にピントを合わせることが困難です。標本の僅かな傾きや段差もフォーカスに大きく影響するため、高倍率観察・評価時はもちろん、論文発表やカンファレンスなどで活用できるようなクリアな画像を取得することの難易度が高いことも課題の1つでした。また、高倍率で神経細胞の形状が鮮明に観察できることはもちろん、それが脳切片全体のどの部位であるかを常に正確に把握しておくことも重要です。必要な解像度を得るために高倍率にするほど視野は狭くなるため、脳切片の全体像を把握しようとすると膨大な数の視野を観察しなければならなくなります。神経細胞の形態まで確認できる高倍率画像と、切片全体が確認できる低倍率画像をシームレスに観察するために、画像の連結処理を行う場合がありますが、膨大な数の高倍率画像を記録・管理し、それらをマニュアルで連結する作業は煩雑かつ難易度が高く、非常に多くの時間と労力を要します。

脳切片の高解像度観察における課題解決

脳切片の染色標本作製はもちろん顕微鏡での観察においても作業者には高い技術が求められ、熟練者であっても注意を要し多くの労力を費やす必要がありました。
キーエンスでは、フォーカスやステージ移動など駆動系をフル電動化することで、顕微鏡観察におけるさまざまな煩雑かつ高度な処理をマウス操作のみに簡略化。膨大な数の画像撮影からその後の定量化などの解析処理までを圧倒的に効率化し、鮮明な高倍率画像と視野全体を把握できる膨大なデータ量を両立する、オールインワン蛍光顕微鏡 BZ-X800を開発しました。

全体像も高倍率も簡単かつシームレスに高解像度観察

下の写真は、BZ-X800で撮影したラット脳切片のゴルジ染色標本での神経組織の観察画像です。
従来、標本に厚みや傾き、段差がある場合は一部にしかピントが合わず、神経細胞の立体構造を把握するのは非常に困難でしたが、「Zスタック」によりZ軸方向に複数枚の画像を自動的に取得したうえで、「フルフォーカス」機能を用いてフォーカスの合っている部分だけを合成することで、Z軸方向すべての高さにピントのあったフルフォーカス画像を簡単に取得し、微細な神経細胞やゴルジ染色によって黒化した部分の形状をクリアに観察することができます。
また、高倍率では全体像が視野に収まらない脳切片に対して、撮影範囲の外周部3点を指定するだけで、ステージを電動でX・Y軸方向へ移動させながら高倍率・高解像度画像を多数撮影して連結する「イメージジョイント」により、全体像を高い解像度で捉えたフルフォーカス画像を簡単に取得することができます。
これらのフルフォーカス機能とイメージジョイントを同時に利用することもでき、脳切片のどの部位かを常に把握しながら、微細な神経細胞を高倍率で観察することが可能となりました。

「フルフォーカス」と「イメージジョイント」を活用した画像構築
Z軸方向に変化させた複数の画像からフォーカスが合った部分のみを合成するフルフォーカス機能で、視野全体にピントの合った画像を構築。また、ステージを移動させながら撮影した複数の高倍率画像を連結するイメージジョイントで、切片全体の高解像度画像も簡単に取得可能です。
  1. フルフォーカス画像構築

    Zスタック

  2. フルフォーカス画像構築

    フルフォーカス

  3. イメージジョイント

    イメージジョイント

フルフォーカス画像構築

使用対物レンズ:CFI Plan Apo λ10x
イメージジョイント:16枚×13枚

正確なカウント・測定をそのまま実行

BZ-X800は、クリアに観察できるだけでなく、その画像を使って素早く定量測定・解析が可能です。
切片全体をマスク領域として設定し、その中に含まれる細胞を色の違いや輝度情報を基に抽出して定量化を行う機能を備えた「ハイブリッドセルカウント」により、脳切片全体に占める神経細胞の割合を自動計算し、表計算式でデータ出力することができます。培養神経細胞を解析する場合も、背景の輝度ムラの影響を受けず、培養細胞を抽出してカウントできる位相差モードを搭載しているため、正確な定量解析が可能です。
また、ハイブリッドセルカウントによる測定条件を他の多数の画像に対して一括処理できる「マクロセルカウント」を活用することにより、測定時間を大幅に短縮することも可能。従来、マニュアル操作による定量解析では、多くの手間や時間を要するだけでなく、測定担当者によって測定条件がバラついてしまうことも課題とされていましたが、ハイブリッドセルカウントを用いれば、短時間で条件のバラつきによる誤差のない信頼性の高いデータを取得可能です。

1台でオールマイティに活用可能

BZ-X800は、オールインワン蛍光顕微鏡の名のとおり、高感度・高解像度なモノクロ冷却CCDカメラや暗室を搭載し、蛍光・明視野・位相差での高度な観察・解析に対応することができます。ゴルジ染色した脳切片はもちろん、マルチウェルプレートにも対応し、1台でさまざまな標本をクリアに撮影できるだけでなく、正確でバラつきのない測定・評価も実現します。さまざまな標本の観察解析に1台で対応することができるため、機材の省スペース化にも有効です。

オールインワン蛍光顕微鏡 BZ-X800を導入すれば