エマルションの高解像度撮影

コロイド分散系におけるエマルションの位置付けやその種類、特性やダブルエマルションとそのメリット、評価方法などについて解説します。

エマルションとは

エマルションの定義

エマルション*(emulsion)とは、分散媒にそれよりも粒子が大きい分散質(分散相・分散体)が分散しているコロイド分散系において、液体の分散媒に液体の分散質が互いに溶解せずに分散しているものを指します。このように液体中に液体を分散させることを乳化といいます。一般に、不安定な乳化状態を安定させるために、水になじみやすい性質と油になじみやすい性質を併せ持つ界面活性剤(乳化剤)が用いられます。
*エマルションは、emulsionの読み方によってエマルジョンと表記されることがあります。JIS(日本産業規格)の界面活性剤用語(K3211:1990)では、「互いに溶解しない二液体の一方が微粒子となって他方の液体に分散した系」を「エマルション」と表記されていることから、産業分野においては多くの場合、エマルションと表されます。一方、JISの別の規格(JIS A 6804)では「エマルジョン」とも表記されています。

エマルションとサスペンションの違い
エマルションと同様に液体を分散媒とする分散系として、サスペンション(suspension:懸濁液)があります。サスペンションとエマルションの大きな違いは、エマルションは分散質が液体である一方、サスペンションの分散質は固体であることです。たとえば、泥水・墨汁・一般的な塗料・歯磨きペースト、食品では一般的なスープ・ソースなどがこのサスペンションに属します。なお、液体の分散媒に気体が分散質として分散しているものはフォーム(foam:泡)と呼び、炭酸飲料・メレンゲ・シェービングフォームなどがこれに属します。
エマルションにおける界面活性剤のミセルとその性質
分散質の構造において、多数の小さな分子が集まって1つのコロイドのサイズとなったものが会合コロイド(ミセル:micelle)です。ミセルの構造を持つものとして石けんが代表的です。洗剤などに含まれる界面活性剤の分子は、ある濃度を超えると会合して棒状や板状などのミセルとなります。
界面活性剤に用いられるミセルの構造として、水中で疎水基どうしを向け合って会合し外側に親水基を配した「ミセル(正ミセル)」や、油中で親水基を向け合って会合し外側に疎水基を配した「逆ミセル」があります。これらのミセルを形成することによってエマルションの乳化性、または洗浄性や可溶化性など、両親媒性分子の性質を付与することができます。たとえば、洗剤や洗顔料が油汚れを落とす性質は、ある一定の濃度において疎水基が油汚れを中央に取り囲み、ミセルを形成(乳化)することによるものです。一方、乳液では、逆ミセルの親水基が水分を取り囲んで乳化することにより、肌の保湿などを行うことができます。

エマルションの種類

互いに溶け合わない水と油を混ぜ合わせた(乳化した)エマルションでは、どちらが分散質/分散媒であるかによって分類されます。
水の分散質が油を分散媒として分散しているW/O型(Water-in-Oil type:油中水滴型)エマルション、そして油の分散質が水を分散媒として分散しているO/W型(Oil-in-Water type:水中油滴型)エマルションです。乳製品のバターやマーガリン、化粧品のクリームなどはW/O型エマルション、マヨネーズや生クリーム、化粧品の乳液などはO/W型エマルションです。
W/O型エマルションとO/W型エマルションを撹拌や温度変化、または界面活性剤によって入れ替えることを「転相」といい、たとえば、生クリームからバターを作るときなどにこの転相が生じます。また、液液界面に吸着する性質を持つ固体粒子で安定化(ピッカリング)することにより、O/O型エマルションやW/W型エマルションなどさまざまな構成を実現することも可能です。なお、エマルションの安定性や粘度の向上を目的に、乳化助剤が用いられる場合もあります。
さらに近年は、後述のW/O/W型やO/W/O型というように二重乳化したダブルエマルション(複合エマルション、マルチプルエマルションとも呼ばれます)の合成技術が利用されています。加えて、ダブルエマルションの内水相と同等サイズの微細な乳化粒子を持つマイクロエマルションも注目を集めています。このように互いに溶け合わない物質どうしで多様なエマルションを制御・構成する技術は、化粧品や食品、医薬品などさまざまな分野で活用されています。化粧品業界では、皮膚親和性や外観、感触などを制御して、肌用の保湿クリームや乳液などに活用され、食品関係では風味やカロリーなどをコントロールする研究が進んでいます。医薬品業界においては、エマルションを薬物キャリアとして利用することで、体内での薬物の動きを精密に制御して狙った場所に届ける、ドラッグデリバリーシステム(Drug Delivery System:DDS)への活用を目指した研究が盛んに行われています。

ダブルエマルションの活用例とメリット

エマルションの分散質の乳化粒子を大きくすればするほど、その成分の特性を強く出すことができます。たとえば、食品においては、乳化粒子の大きさを制御することで、風味まで制御することが可能となります。一般に、O/W型エマルションでは乳化粒子である油分を大きくすればするほどコストが上がるケースが多く、また、低カロリーな食品や飲料の需要が高まる中、意図通りの風味を実現しても油分の使用量が増えることによって高カロリー化してしまうという課題もあります。このような課題を解決する方法としても、ダブルエマルション(二重乳化)を活用することができます。

たとえば、油分の乳化粒子の中にさらに水分を入れることで、見かけ上の乳化粒子を大きくすることができます。O/W型エマルションの中にさらに水分を閉じ込める構造であることから、W/O/W型(Water-in-Oil-in-Water type)エマルションと呼ばれます。味わいを損ねることなく油分の総使用量を減らすことができるため、カロリーを下げると同時にコストダウンが可能です。一方、O/W/O型(Oil-in-Water-in-Oil type)エマルションは、より多くの水分量を含むことができるためスキンケア化粧品など油性感を抑えたさっぱりした使い心地を実現することができます。
ただし、ダブルエマルションを活用した製品は、生産条件の調整の難易度が高く、加熱処理によって安定性を失い二重乳化が崩壊してしまう場合もあります。生産時はもちろん消費者が製品を食べたり使用したりするときにも安定した乳化状態を保つには、高度な研究開発と生産技術、安定した生産条件の確立が要求されます。

エマルションの安定性評価

エマルションは医薬品や化粧品、食品などさまざまな分野の製品に広く活用されています。こうした製品は、製造時はもちろん出荷後、消費者によって使用される期間、その分散状態を維持しなけばなりません。特に開封後、一定期間使用される化粧品や調味料などの製品においては、長期の安定性が求められます。ここでは、エマルションの安定性における課題や対策、評価方法について解説します。

エマルションの安定性における課題

一般にエマルションのような分散系は、非平衡状態にあります。互いに溶け合わない液体どうしの界面自由エネルギーが高く不安定である場合が多く、時間の経過に伴って成分が分離してしまうことが、エマルションを活用した製品の品質維持において課題となります。こうしたエマルションの崩壊は乳化崩壊と呼ばれます。その原因として、エマルションの分散質(内相)と分散媒(外相)の密度差によって、乳化粒子が沈殿または浮上して部分的に濃縮される現象(クリーミング)があります。乳化粒子が凝集・クリーミングするとき、界面膜の強度が低いと破壊されて合一し、乳化粒子が大きくなることによりエマルションの水相と油相が分離します。

エマルションの安定化

高いエネルギーを持つエマルションの安定性を長期間保つには、乳化崩壊を防ぐための対策が必要となります。たとえば、分散質と分散媒の密度の差によって生じる沈殿または浮上する速度を把握し、分散媒の粘度を調整したり分散質の粒子サイズを小さくしたりなど、密度差を解消することでクリーミングを制御することが重要です。また、電解質(イオン性の界面活性剤)を活用し、静電反発によって分散粒子のイオン吸着による凝集を抑制したり、O/W型エマルションでは乳化助剤を用いて乳化粒子の界面膜の破壊を防ぎ、合一を抑制したりといった対策があります。エマルションの型やその構成は多種多様であるため、製品の品質を維持するにはさまざまな対策によって安定化を図る必要があります。

エマルションの安定性を評価するには

エマルションの安定性は、その外観を観察することで評価することができます。たとえば、分散質の粒子径や透明度などの観察は重要な評価基準の1つです。
ただし、食品や医薬品、化粧品などほとんどの製品は長期にわたる乳化分散安定性が求められます。たとえば、1年間の安定性を評価するために、同じだけの時間をかけていては、研究開発や品質管理に多大な時間を要してしまうため、その製品が乳化崩壊しやすいストレスを意図的に与えてできるだけ安定性評価の短期化を行うなどの方法を取る必要があります。たとえば、乳成分を含んだ液状の食品や飲料であれば、遠心分離によって凝集力の強さ、加振によって再分散するかなどを濁度を測定して評価することができます。加えて、一定時間経た後に分散系の下層の濁度を測定することにより分散安定性を評価するといった手法などが考えられます。もちろん、ストレスを加えたり、一定時間が経過したとき、どのような分散状態か外観を観察したり、測定・解析することによって、より詳しい評価が可能となります。次項では、エマルションやダブルエマルションの安定性評価に欠かせない観察・解析の方法、その課題と解決方法について解説します。

エマルションを観察するには

乳化分散安定性に関する研究開発や安定した生産条件を導き出すため、あるいは各種処理を加えたときの状態を正確に知るためには、エマルションの状態を顕微鏡を用いて直接観察する必要があります。しかし、構造を正確に捉えるには高い解像度が必要であり、特に非常に微細な内水相を有するダブルエマルションにおいては、一般的な光学顕微鏡では分解能が足りず、観察が困難な場合がありました。水相と油相で構成された二重乳化の状態は、真空引きを必要とする走査電子顕微鏡(SEM)での観察も困難です。
近年登場したマイクロエマルションは、分散質の直径がサブミクロン単位から数μm程度と、W/O/W型ダブルエマルションの内水相と同等程度のサイズです。しかし、分散質が広いエリアに分散しているマイクロエマルションに対して、ダブルエマルションは油滴内に内水相が比較的凝集した状態で存在しているため、観察対象のサイズが同等であるものの、ダブルエマルションのほうが圧倒的に観察の難易度が高いといえます。
また、視野全体に球体が分散しているエマルションは、収差の影響を受けやすく、従来の収差が大きいレンズでは視野外周部で色ズレが生じたり輪郭が歪んで見えたりするため、形状観察やサイズ測定を正確に行うことが難しいことも課題でした。

蛍光顕微鏡を使ったエマルション・ダブルエマルションの観察

キーエンスのオールインワン蛍光顕微鏡 BZ-X800は、光学顕微鏡用対物レンズの中でも最もNA(開口数)が高く、収差の少ないプランアポクロマートの油浸100倍レンズを利用することで、カバーガラスからZ方向100μmの位置にある物体からカバーガラスの真裏にある物体まで高分解能で観察することができます。それにより、エマルションの分散状態や、さらにダブルエマルションの微細な内相の輪郭と形状まで正確かつ高精細に観察することが可能です。
また、BZ-X800は、染色を用いた場合にも高いコントラストでの観察に対応します。たとえば、エマルションの油相をオイルレッド、水相を食用色素などで染色すれば、それぞれの相を高コントラストに見分けることが可能です。油相のみを染色した際は、乳化粒子の内水相以外の領域のみを赤色の蛍光でクリアに観察することができます。
さらに、視野内の乳化粒子の数・長径・短径・面積はもちろん、ダブルエマルションの微細な内相の粒子サイズまでも簡単かつ高精度に測定・解析することが可能です。これにより、研究開発や生産時の品質保証・管理において、定量的かつスピーディな乳化分散安定性評価が実現します。加えてBZ-X800は、1台でさまざまな観察方法や定量解析に対応することができるため、設備の省スペース化にも有効です。

オールインワン蛍光顕微鏡 BZ-X800を導入すれば