細胞分裂のタイムラプス撮影と観察

生命の維持や成長、そして、その誕生の過程などで起こる細胞分裂。生細胞が分裂する過程を時系列で捉えて観察することは、さまざまな研究において大変重要です。ここでは、生細胞が分裂する様子を捉えるタイムラプス撮影の事例について、蛍光顕微鏡を使った実際のタイムラプス像とともに紹介します。

細胞分裂の過程を観察する目的

生物の細胞は、体細胞分裂*1を繰り返しながら増殖します。また、生殖細胞ではその形成の過程において減数分裂*2が生じます。生物の細胞に関わる研究では、多くの場合、こうした分裂の過程を時系列で観察して評価を行います。
たとえば、疾患や治療薬の研究(創薬スクリーニング)などにおいては、病的または治癒過程にある組織や器官の細胞挙動(分裂)の観察が行われます。再生医療の分野においては、さまざまな組織・器官を構成する細胞へと分化するiPS細胞といった多能性幹細胞の実験や研究が盛んに行われています。幹細胞の分化や細胞分裂の研究における実験結果の評価や発表において、生きた細胞の染色体の分裂過程をいかにクリアに撮影できるかは重要な課題です。
また、有性生殖の分子機構やその起源の解明といった基礎研究をはじめ、生殖細胞の形成不全や染色体分配の異常といった疾病の原因究明などを目的に、減数分裂の観察が行われています。そのほか、DNAから転写されたタンパク質の配列情報をコードするmRNA(メッセンジャーRNA)を導入する遺伝子発現実験では、減数分裂における分子機構や分裂時の制御因子を特定してmRNAの働きが安定化する条件の研究を目的に、生殖細胞が核分裂していく過程の観察が行われています。

*1:体細胞分裂とは、1つの母細胞が、2つの娘細胞にわかれて増えることです。動物細胞は、細胞周期において間期(G1期・S期・G2期)から分裂期(M期)の過程を経て増殖します。分裂期では、まず染色質が部分的に凝集して細い染色体になり、核膜が断片化。中心体の周りに小星状体を形成します(前期)。2つの小星状体から紡錘糸が中心に伸び、動原体に結合。同時に染色分体を形成します(前中期)。染色体が赤道面に配列されます(中期)。わかれた染色分体は娘染色体として両極に分離します。細胞質分裂で核膜と核小体をそれぞれ再び形成し、2つの娘細胞になります(終期)。それぞれの細胞は再び間期(G1期)に入ります。

*2:減数分裂とは、生殖細胞(精子・卵など)が形成される際に起こる細胞分裂のことです。2回の有糸分裂において、染色体数が半減する核分裂が生じます。還元分裂、または、動物の生殖細胞においては成熟分裂と呼ぶことがあります。第1分裂では、相同染色体が対合、分離して染色体の数が半減します。第2分裂は通常の核分裂が生じ、元の半数の染色体を持つ4個の細胞が形成されます。生殖細胞は受精によって正常な数の染色体を持つことになります。

細胞分裂のタイムラプス撮影の事例

一般に、細胞分裂の過程を観察する際、一定時間ごとに生細胞の蛍光像を撮影する「タイムラプス撮影」が用いられます。実験および撮影を成功させるには、蛍光観察において、生細胞にできる限りダメージを与えないことが重要です。

以下では、キーエンスのオールインワン蛍光顕微鏡 BZ-X800を用いて撮影した細胞分裂のタイムラプス像とともに、撮影のポイントやBZ-X800を使用するメリットを紹介します。

細胞分裂のタイムラプス像

細胞分裂のタイムラプス像(高倍率・蛍光)
撮影条件:×60油浸 / ガラスボトムディッシュ / 2分間隔で36分間撮影
ご提供:埼玉医科大学 中央研究施設形態部門細胞定量室 大島 晋先生

BZ-X800は、蛍光観察のタイムラプス撮影で生じやすい生細胞へのダメージを低減するために、撮影時以外は励起光のシャッターを自動制御します。
同時に、短波長から長波長までノイズを抑えてクリアに撮影できる高解像度モノクロ冷却CCDカメラを採用することで、励起光の照射時間を極力減らしながらも微弱な蛍光を長時間撮影することができます。

また、高倍率で染色体が分裂する様子をタイムラプス撮影していると、途中で細胞が視野の外に移動してしまう場合があります。BZ-X800なら撮影の途中でも撮影位置をX・Y・Z軸方向に調整可能です。撮影済みの画像を使って位置調整するため、励起光の照射による褪色や活性低下などの心配がありません。

さらに、わかりやすい操作画面を実現したインターフェースにより、蛍光顕微鏡の操作やタイムラプス撮影の設定に不慣れな人でも、容易に撮影を実行することができます。

マウス卵の初期胚発生のタイムラプス像

BZ-X800は、生細胞へのダメージを抑えながら高精細なタイムラプス像を得ることができます。褪色も軽減できるため、細胞の活性を損なわずにありのままの状態を撮影することが可能です。また、低倍率の広い視野で複数の細胞をタイムラプス撮影した際も、それぞれの細胞が分裂する過程をクリアに観察することができます。

1台で蛍光・明視野・位相差観察に対応するBZ-X800は、上の画像のように位相差画像と蛍光画像を1つの画面でリアルタイムに重ねることができる「リアルタイムオーバーレイ」を活用した撮影も可能です。観察方法や露光時間などが異なる撮影条件を個別のチャンネルに記憶することができるため、画像の調整や撮り直しにかかる手間と時間を省くことができます。
タイムラプス撮影を成功させるには、目的とする画像やシグナルが最後まで鮮明に映し出されるように、事前準備の段階で撮影条件をしっかりと追い込んでおく必要があります。しかし、長時間の条件出しによって実験時に褪色が生じないよう、事前準備は効率的に短時間で行うことが大切です。

オールインワン蛍光顕微鏡 BZ-X800を導入すれば