ロボットの過去、現在、そして未来へ①

産業用ロボットの起源

 「ロボット(Robot)」という語は、1920年にチェコの作家、カレル・チャペック(Karel Čapek)が発表した戯曲『ロッサム万能ロボット会社(Rossumovi Univerzální Roboti)』を起源としている。ここで登場する"Roboti"の語源は、チェコ語で「(強制)労働」を意味する"Robota"だとされている。ちなみにこの戯曲のストーリーは、「ロボットにも心がある」とする人権団体が、その地位向上や権利保護を訴える、というものだ。

 さて、産業用ロボットは1954年に、アメリカの技術者ジョージ・C・デボル(George C.Devol)が、プログラム可能な物品搬送装置『ブレイクバックロボット』の特許を出願したことに始まる。そして1959年、彼は特許を買い取った事業家ジョセフ・F・エンゲルバーガー(Joseph F. Engelberger)とともに『ユニメーション社』を設立し、『ユニメート』を発表。これが、世界初の産業用ロボットとなった。

 同機の試作品には真空管が使用されたが、これは当時登場したばかりのトランジスタが、工場内の電磁波などのノイズの干渉を受けて、誤作動するのを避けたかったからだ、といわれている。

国産ロボットの誕生

 さらにエンゲルバーガーは、産業用ロボットの普及・発展を目指した世界戦略を推進。日本でも講演会をおこない、高度経済成長を背景とした人手不足も追い風となって、多くの製造業経営者が関心を示した。

 一方、1968年、神奈川のプレス機メーカが、独自に自動プレス機を開発。これが国産第一号の産業用ロボットだ。

 翌1969年には大手重機メーカが、エンゲルバーガー率いるユニメーション社との技術提携の下に、産業用ロボット1号機の製造販売を開始した。「汎用能力を持つ」という意味では、現在「これが国産初の本格的産業用ロボットだ」とするのが定説となっている。

 同機は、当時の価格で1,200万円。同年の大卒公務員の初任給は27,906円、牛乳23円、かけそば80円、ラーメン90円、喫茶店のコーヒーが100円だった。物価指数を考えあわせると、現在の価格に換算して約8,000万円と非常に高価な機械だった。しかし、ティーチングによって、汎用性を獲得した同機は「次々と新車種が登場しても対応が可能だ」と、モータリゼーションの到来を追い風に成長を続ける自動車業界を中心に、導入・重用されたのである。

そして、生産現場に不可欠な存在に…

 それから、半世紀の時が流れた。世界中のロボット産業の促進、強化、保護を進める非営利組織・国際ロボット連盟(IFR:International Federation of Robotics)は、「急速な自動化の波によって、人間と機械の協調関係は大きく変化。全世界の工場に導入された産業用ロボットは、2020年に約300万台に達した」と発表している(World Robotics Report 2020)。

 人手不足を補い、変化に対応しつつ、常に安定した生産力を実現させるものとして、産業用ロボットは、ますます生産現場に欠かすことのできない存在となっているのである。