現場改善のヒント

ものづくり快適化計画 ―工場での寒さ対策とよくある間違い―

ひと工夫で、ものづくりの仕事を快適に。製造現場のさまざまな環境・条件において、体調維持と本来のパフォーマンス発揮のためのちょっとしたライフハックなどを紹介します。 今回のテーマは「寒さ対策」。ただ単に着こめばいいとは限りません。工場施設特有の寒さのなかでも快適に働ける工夫や間違いがちな防寒対策、現場によっては注意しなければならない事柄などを紹介します。

ものづくり快適化計画 ―工場での寒さ対策とよくある間違い―
この記事でわかること

製造現場で実施する寒さ対策と課題

地域やその年によって差はありますが、昨今は日本の多くの地域で1年のうち半分近い期間は汗ばむ気候、それ以外の期間は多かれ少なかれ寒さを感じる気候です。1日のうち多くの時間を過ごす職場の寒さは、体調だけでなく仕事のパフォーマンスやモチベーションにも影響しかねません。
高温環境やクリーンルームなどは別として、企業が寒い気候での労働環境への配慮に最善を尽くしていても、製造条件や工場施設の物理的な条件で改善が難しいというケースも少なくありません。寒さ対策が施されていても効果を得ることが難しい代表的な例を以下に挙げます。

現場の対策1:ビニールカーテン

工場施設の搬入出口にビニールカーテンを設置することは代表的な対策です。外の冷気を遮断しつつも視界を遮らず、安全性も確保できるため多くの工場施設で使用されています。

【課題】
ビニールカーテンを設置していても、人やモノの出入りが頻繁な場合は外の冷気が入り込みやすくなります。なお、大型のワークや材料を何度も出し入れする工場では、搬入出口の大きな扉を常時開けておく必要があるため、ビニールカーテンなどの設置自体が困難です。

現場の対策2:暖房機器や防寒マット

現場の条件によって安全性に問題のない場合は、暖房機器などを使用することがあります。また、冷えやすい作業者の足元に断熱マットを敷くなどの対策もあります。

【課題】
天井が高い工場施設では、暖房機器を使っても暖かい空気は天井側へのぼり、冷たい空気は人がいる床側におります。また、天井が高いほど冷気が下りて停滞する空間も増えます。工場施設の床のほとんどは冷たいコンクリートです。足元の小さなスペースだけをマットで断熱しても、動きの少ない作業では、足や膝、場合によっては全身が冷気に覆われて冷えたり、手がかじかんでしまったりすることがあります。

自分でできる製造現場での寒さ対策と注意すべきポイント

職場が実施する寒さ対策のほかにも、現場で働く多くの人が個々に工夫しています。市場にはさまざまな防寒性の高い衣類や防寒グッズがありますが、使い方や働く環境、条件によっては、逆効果になったり悪影響に転じたりする場合があります。代表的な防寒の手段とそれらを活用するうえでの注意点などを以下にまとめます。

対策1:重ね着

定められた作業着の中に防寒着を着こむ人は少なくないでしょう。寒がりな人だと重ね着で作業着が膨れて、窮屈になっていることもあります。トップスやタイツなどの防寒インナーの活用が代表的ですが、足が冷える人は靴下を重ね履きすることもあります。日常生活ではあまり意識しないかもしれませんが、現場や業務の条件によっては留意すべきポイントがいくつかあります。

要注意ポイント
  • サイズ選び

    意外と疎かにされがちなのが、重ね着する衣類のサイズ感です。防寒インナーは、タイトすぎると血流が悪くなって冷えにつながります。特に下半身の血流は冷えに直結するため、防寒タイツのサイズ感には注意が必要です。
    また、中にたくさん着こむと上に着る作業服が窮屈になり、動きやすさにも影響します。さらに、靴下の重ね履きでも靴のサイズ感が変わります。可能であれば夏と冬で異なるサイズの作業着や作業靴を用意するなどの対策も有効です。

  • 温度や作業内容の変化

    温度が異なる現場を行き来したり、モニターでの確認など動きの少ない作業と大きな動作が伴うなど活動的な作業が混在したりといった場合、汗冷えに注意が必要です。特に吸湿発熱素材のインナーは、汗によって発熱するとさらに発汗を促し、汗冷えしやすくなります。
    温度や作業内容に定常性がない場合は、インナーでの対策よりも作業着のジャケットのすぐ下に着脱しやすい防寒着を着て調節しやすくするなどの工夫が必要です。

  • 静電気とその影響

    重ね着する衣類や触れる物質の組み合わせは、冬の製造現場の天敵である静電気と大きく関係しています。帯電した人がモノに触れて放電する時、痛みや不快感がストレスとなるばかりか、工程や製品によっては異物の静電付着や静電破壊(ESD破壊)の原因にもなります。
    多くの現場では、イオナイザー(除電器)や導電マット、静電気防止床、リストストラップなどで対策します。しかし、製品を抜き取って検査や試験に運ぶ際、対策された場所を離れると、その限りではありません。

    自分でできる対策としては柔軟剤や静電気防止スプレーの使用が代表的ですが、それでも帯電しやすいと感じている人は、帯電の根源となり得る重ね着する衣類の素材や触れる物質の組み合わせにも注目してみましょう。下図は「帯電列」と呼ばれ、ここに記された物質同士の距離が遠いほど摩擦によって静電気を帯びやすくなります。

    帯電列

    帯電列

対策2:使い捨てカイロ

鉄粉が空気中の酸素に触れることで酸化反応により熱を発する使い捨てカイロ。粘着性のある貼るタイプを衣類に付けたり、粘着性がないものをポケットに入れたりして活用している人も多いでしょう。

要注意ポイント
  • あたためる場所

    左胸のポケットに入れたり心臓に近い場所に貼ったりすると、体に負担が生じる場合があります。血圧の高い人や心臓が弱い人は特に注意が必要とされています。
    カイロは上半身よりも、なるべく下半身(みぞおちよりも下)に付けると、負担なく、効率的に体をあたためられるといわれています。
    なお、使い捨てカイロは、低温火傷しないよう原則として素肌に直接触れないようにして使用しましょう。

  • 使用環境への配慮

    強い磁気を扱う場所では、万一摩擦などで袋に破れが生じていた場合、鉄粉が磁気に引き寄せられ、機械やワークに付着してしまうことがあります。現場によっては微量でも何らかのトラブルにつながる可能性も否めません。
    また、貼るタイプのカイロの粘着力が弱って知らないうちに機械の中などに落としてしまうと、不具合や事故につながる可能性があります。なお、現場の環境や条件によっては使用できない場合があります。他の持ち場に配置されたり急遽ヘルプ要員になったりした際は、使い捨てカイロの使用が可能かどうかを管理者に確認しましょう。

対策3:電熱ヒーターや2次電池を内蔵した衣類

電気であたためるヒーターが入った防寒ベストなども市場に数多く出回っています。リチウムイオン電池を搭載した充電式のものも多数あり、なかには大容量充電が可能でスマートフォンなどへの電源供給ができるものもあります。

要注意ポイント
  • 使用環境と安全性

    こちらも使い捨てカイロと同様に、現場環境によっては影響やリスクが生じる場合があります。特に、リチウムイオン電池はモノや扱い方によっては発熱・発煙のリスクがあるため、ガスや可燃性の材料を使う現場では大事故につながり大変危険です。
    屋内の製造現場では使用できない環境が少なくありません。必ず使用可能かどうか確認しましょう。

対策4:インナーダウンやフリースなど

作業ジャケットの中に着ることができる薄くて軽いダウンのベストやジャケットも手に入れやすいアイテムです。また軽量であたたかいフリース素材なども同様です。これらは、寒い製造現場での重ね着にもよく使われますが、実は製造する製品や工程によっては特別な注意が必要となります。

要注意ポイント
  • 異物混入の原因に

    ダウンが入った衣類は、フェザー(羽根)が突き出て、その穴からダウン(羽毛)が外に出てしまうことがよくあります。クリーンルームに限らず、異物に対してシビアな環境では、それらが空気中に舞って異物混入につながる恐れがあります。フリース素材も毛足の長いものに限らず、抜け毛や粉塵が舞って異物として混入してしまう場合があります。

    ダウンやフリースはそれ自体が発熱するわけではなく、そこに含んだ空気が着る人の体温を逃がさず留めることで防寒性を発揮します。近年はそれと同様の原理で、空気だけで衣類内部を膨らますことにより、保温性が得られる防寒具も注目されています。

便利な防寒アイテムも選び方や使い方が重要

製造業におけるテクノロジーの高度化と同様に、防寒対策の衣類やグッズも大きく進化しています。ここまでに紹介した以外にも、実に多種多様な製品があります。
ハイテクな製品だけでなく、リサイクル素材を使った防寒着や、繰り返し使えるオイルライター型のコンパクトなカイロなど、世界的なカーボンニュートラルなどへの取り組みを背景に、環境に配慮した製品も数多く見られるようになりました。

製造現場の寒さ対策は、環境によって安全性への特別な配慮が必要となります。そのため、実際に使う前に向き不向きの確認や相談をすることはもちろん、同じ現場の仲間から情報収集することも有効です。ちょっとしたコミュニケーションから、あなたが働く現場の環境に最適な寒さ対策が見つかるかもしれません。

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