製造業の労災対策
労災事故ランキングと取り組み事例4選

ものづくりの現場では、切削やプレス、研磨など、様々な工程で機械や設備を扱います。そうした際に、不注意や誤りから起こる「ヒヤリハット」を経験した方も少なくないのではないでしょうか。
労災について理解を深めることは、安心して安全に働くための第一歩です。
今回は、製造業の労災の基本から、起こりやすい事故の種類、現場ですぐに取り組める対策までを紹介します。毎日の作業での安全意識向上に、ぜひ役立ててください。
- この記事でわかること
製造業における労災事故の発生状況
製造業は様々な機械・設備を扱うことから、労働災害(労災)が一定数発生している業種でもあります。厚生労働省の統計をもとに、国内における労災の発生状況を整理してみましょう。
労災における死傷災害の2割を製造業が占めている
厚生労働省が発表している「労働災害発生状況(令和6年)」によると、労働災害による「休業4日以上の死傷者数」は近年増加傾向にあります。令和6年は、13万5,000人を超す人々が労働災害によって死傷したと明らかになりました。
そのうち約2割(2万6,000人以上)が製造業に従事する方々でした。これは建設業や運輸業など、多くの業種と比較しても高い水準となっています。
なお、10年前の同調査においても23%の死傷者を製造業が占めており、業界にとって長年の課題であることが読み取れます。
また外国人労働者に限れば、労災による死傷者のおよそ半数が製造業で発生しているという結果も示されています。人材確保の観点から外国人労働者の活躍が広がる中で、安全教育をしっかり整えることが重要になるでしょう。
製造業は、多様な製品や部品を生み出す現場であり、日々多くの工程が並行して進みます。こうした環境だからこそ、事故を防ぐための取り組みや安全意識の共有が欠かせません。従業員一人ひとりが安全を意識し、チーム全体で連携して作業を行うことで、安心して働ける職場づくりにつながります。
製造業で発生する労災事故ランキング
ここからは、製造業における労災事故の中でも、特に発生しやすい上位5パターンについてそれぞれ解説します。
1位. はさまれ・巻き込まれ
2位. 転倒
3位. 無理な動作・反動のある動作
4位. 墜落・転落
5位. 切れ・こすれ
1位.はさまれ・巻き込まれ
設備や機械に体の一部がはさまれたり、回転部に巻き込まれたりする事故です。重大なけがにつながる恐れがあるため、特に注意が必要です。
厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」では、以下のような事例が紹介されています。
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- 木材加工所での保守作業中にリングバーカーにはさまれた
- プレス機械とフォークリフトに載せた金型の間にはさまれた
- 修理中に回転するスクリュー羽根に巻き込まれた
原因としては、設備の誤作動や作業手順の誤り、経験の浅い作業者が単独で操作する状況などが挙げられます。設備の状態確認や複数人での作業体制など、基本的なルールを守ることが防止につながります。
2位.転倒
床の滑りや凹凸、障害物などが原因で発生する事故です。工場では日常的に起こり得るため、注意が必要です。
具体的には、次のような事例があります。
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- 脚立から降りる際に床面の部品に足を取られて転倒
- 段ボールの積み下ろし中に足を滑らせて転倒
- フォークリフトから降りる際に転倒
原因は、清掃不足や照明の不十分さなど、環境要因が多くを占めます。整理整頓や点検を習慣化することが有効です。
3位.無理な動作・反動のある動作
重量物を無理な姿勢で持ち上げたり、反動を伴う動作を行ったりすると、腰や背中を痛めることがあります。代表的な事例は以下のとおりです。
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- リフトに製品を載せる際にバランスを崩して腰をひねった
- 中腰で金属製品を抱え、腰に痛みが生じた
- かご台車での納品作業で肩や腰を痛めた
不安定な姿勢で作業をすると、けがのリスクだけでなく、他の事故につながる場合もあります。作業手順を見直し、補助具を活用することが大切です。
4位.墜落・転落
墜落・転落には、以下の違いがあります。
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- 墜落:何にも接触せずに落下すること
- 転落:特定の物体に接触しながら落下すること
以下は、墜落・転落による労災事故の一例です。
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- 積み込み作業中にトラックの荷台から転落した
- ベルトコンベアの修理中に墜落した
- 暗い工場内で歩行中にピットへ墜落した
墜落・転落を防ぐためには、落下防止の足場や命綱の設置はもちろん、正確な作業手順と安全教育を徹底することが大切です。
5位.切れ・こすれ
「切れ・こすれ」は、刃物や工具、機械との接触によって発生します。
以下はよくある事例です。
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- アルミ板切断中にのこ歯に接触
- 鋼板のバリ取り作業中に回転する砥石に接触
- カッター機清掃中にベルト部分に接触
防止のためには、機械への安全器具の設置や作業者の保護具着用が有効です。基本的なルールを守ることが、安全確保の第一歩となります。
現場で実践できる5つの労災防止対策
労働災害は「設備や環境の不安全状態」と「人の不安全行動」が重なって発生すると考えられます。不安全な行動の背景には、マニュアルの徹底不足やルールの習慣化不足などがあります。
ここでは、現場で実践できる労働災害防止の基本対策を5つ紹介します。
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- 5Sの徹底
- KYT(危険予知トレーニング)の実施
- ヒヤリハットの記録と共有
- マニュアルの整備
- 機械・設備の定期メンテナンス
5Sの徹底
5Sとは「整理・整頓・清掃・清潔・躾」の頭文字を取った活動です。徹底することで作業環境の改善と安全性向上が期待できます。
5Sとは?防ぐことができる事故
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- 整理
必要な物だけを残し、不要な物は処分します。作業効率が高まり、転倒や物の落下などのリスクを減らせます。 - 整頓
必要な物を取りやすい位置に配置します。無理な姿勢を避けられ、腰の負担や衝突事故を防止できます。 - 清掃
ゴミや汚れを取り除き、異常の早期発見を可能にします。床の濡れや滑りを防ぐことで転倒防止にも有効です。 - 清潔
整理・整頓・清掃を維持することです。チェックリストを活用すれば異常に気づきやすく、事故防止に直結します。 - 躾
決められたルールを守る習慣を定着させます。日常的にルールを実行することで安全文化が根付きます。
- 整理
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KYTの実施
KYTとは「危険予知トレーニング」を指す言葉で、作業現場に潜む危険を事前に察知し、安全意識を高めるための取り組みです。従業員の危険感受性を養い、事故を未然に防ぐ力を育成することを目的としています。
KYTは通常5〜6人のグループで行い、次の4つのステップを順に進めます。
KYT 4つのステップとポイント
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- 現状把握
イラストや写真で再現された作業現場を見ながら、潜んでいる危険を各自で発見し、グループで共有します。この際、危険の内容だけでなく、発生しうる現象や影響も明確にすることが重要です。 - 本質追求
発見した危険の中から特に重要と思われるものにチェックを入れ、グループで話し合って「危険ポイント」を決定します。ここでは1〜3点程度に絞り込むのが効果的です。 - 対策樹立
決定した危険ポイントを解消するために、複数の対策をグループで検討します。内容はできるだけ具体的で、すぐに実行できるものが望ましいでしょう。 - 目標設定
対策の中から必ず実施するものを「重要実施項目」として選定し、グループ全員で合意します。そして実行に向けた「行動目標」を設定し、唱和することで意識を高めます。
- 現状把握
これらのステップを終えた後は、実際の現場で行う指差呼称の項目をグループで決定します。3回の指差し唱和を行い、その後タッチ・アンド・コール※で最終確認することで、KYTが完了します。
※タッチ・アンド・コールとは:「手を重ね合う」「円陣を組む」など、連帯感を出しながら行う唱和を指します。
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ヒヤリハットの記録と共有
労働災害や事故には至らなかったものの、そうなってもおかしくない危険を感じた事例を「ヒヤリハット」と呼びます。労働災害や事故を防止し、現場の安全意識を向上させるには、このヒヤリハットを記録し共有することが大切です。
ヒヤリハットに関する「ハインリッヒの法則」というものがあります。これは、1件の重大事故の裏には、29件の軽微な事故があり、さらにその裏に300件の事故に至らなかったが危険な事案つまりヒヤリハットが隠されている、というものです。
小さな出来事を軽視せず、共有・対策を積み重ねることが安全文化の醸成につながります。
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マニュアルの整備
労災防止にはマニュアルの作成が重要です。マニュアルがあれば、機械操作などの安全を確保できます。しかし、紙や文字だけの分厚いマニュアルだと読まれずに形骸化する恐れがあります。
そこで以下のような工夫を凝らすと、誰でも理解しやすいマニュアルになります。
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- 写真・図・イラストなどを盛り込む
- 動画やタブレット端末で確認できる形式にする
新人や経験の浅い作業者も安全に作業でき、誤操作防止につながります。
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機械・設備の定期的なメンテナンス
「はさまれ・巻き込まれ」などの事故を防ぐには、設備そのものの適切な管理が欠かせません。点検やメンテナンスは安全確保の基本であり、事故の未然防止に直結します。
まずは、機械が正常に動作しているか、安全装置や付帯装置が正しく機能しているかを定期的に確認します。その際にはチェックリストを用い、抜け漏れを防ぐことが重要です。
点検・メンテナンスを行う際には、必ず機械の運転を停止し、起動装置を施錠したうえで「点検中」の表示板を掲示しましょう。結果的に、誤って稼働させてしまう事故を防ぐことができます。
さらに、設備そのものの管理だけでなく、危険を伴わない作業手順へ切り替えることも有効です。作業プロセスを見直し、より安全な方法へ改善していくことが労災防止につながります。
こうした点検・メンテナンスは、始業前や終業前に習慣的に実施することが理想です。日常のルーティンとして定着させることで、安全な職場環境を維持できます。
労働災害防止に向けた取り組み事例4選
ここからは、労災事故の発生防止に向けた具体的な事例を、以下4パターンに分けて紹介します。
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- はさまれ・巻き込まれ対策の取り組み事例
- 転倒対策の取り組み事例
- AIの活用でヒヤリハットをデータベース化した事例
- 動画マニュアルを整備した事例
はさまれ・巻き込まれ対策の取り組み事例
「はさまれ・巻き込まれ」の事故に対しては、以下のような取り組み事例が挙げられます。
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- 機械・設備を安全柵で囲う
- 機械内部に手を入れることを禁じるポスターの掲示
- 機械を稼働させた状態での別の作業を制限するセンサの設置
はさまれ・巻き込まれを防止するうえでは、「危険が考えられる場所への立ち入りを制限する」「立ち入る場合には、機械・設備を停止させる」という原則の遵守を徹底する必要があります。
転倒対策の取り組み事例
転倒事故防止に向けては、以下のような取り組み事例が挙げられます。
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- 階段に滑り止めを設置する
- 段差への注意喚起としてカラーテープを貼る
- 用具の保管場所に枠を設け、床面に障害物がある状態を避ける
転倒による労災事故を防ぐためには、「障害物となるものを床面に置かない」「こまめな清掃を実施する」といった基本に加え、適切な明るさになる照明の設置やストレッチ・準備体操なども大切です。
AIの活用でヒヤリハットをデータベース化した事例
ある化学製品メーカーでは、安全対策の一環として、労災情報やヒヤリハットの記録を紙から電子データに移行しました。さらにAIを導入し、誰もが簡単に情報へアクセスできる仕組みを整備しています。
工場内設置のパソコンに作業場所や作業内容を入力すると、過去にあった類似の労災事例が抽出されます。こうしたデジタル化は安全対策に留まらず、属人化解消や技能承継の観点から見ても有効です。
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動画マニュアルを整備した事例
ある精密機器メーカーでは、若手従業員向けに安全衛生カリキュラムを動画化しました。
入社したばかりの従業員は業務の経験・理解がまだ浅いため、安全意識の向上を図るうえで効果的です。
同社では、例えば製造現場で使用するアルコールの取り扱いについて、手順や注意点を動画で共有しています。危険の背景や理由をわかりやすく伝えることで、新人や外国籍の従業員にも浸透しやすい仕組みとなっています。
まとめ
製造業の現場では、身近なところに労災のリスクが潜んでいます。だからこそ、5SやKYTといった基本の徹底や、ヒヤリハットの共有が大切です。設備点検やマニュアル整備も、日々の安全を守る大きな力になります。
近年ではAIや動画の活用といった新しい取り組みも広がりつつあり、現場の工夫次第で事故のリスクを減らすことが可能です。日々の些細な工夫と心がけが、事故を防ぎ、自分自身や仲間の安全を守ることにつながります。
