アイディア欠乏の処方箋「オズボーンのチェックリスト」とその活用法
製造現場では、主な業務以外にも作業効率や品質の向上、それを実現するための労働環境の整備などを目的に、常に改善のアイディアが求められます。改善に終わりはなく、QCサークル活動や社内ミーティングの場では、常に次なる改善アイディアが求められます。
しかし、誰しも過度に多忙なときや難しい仕事に集中しているときには、アイディアが出尽くしたかのような感覚や、発想力が低下したかのような感覚に陥ってしまう場合があります。そんなときに活用したいのが、「発想法」です。
今回は、項目に沿って思考を整理し、効率的にアイディアを出す発案法「オズボーンのチェックリスト」やそのメリット・デメリット、活用方法などについて解説します。
- この記事でわかること
オズボーンのチェックリストとは
ブレインストーミング(ブレスト)という言葉は、誰もが耳にしたことがあると思います。その生みの親であるアレキサンダー F. オズボーン(Alexander Faickney Osborn)氏が発想法として考え出したのが、「オズボーンのチェックリスト」です。
項目に沿ったチェックリストをあらかじめ用意して、それらに答えることでアイディアを発想するという手法です。具体的には、アイディア出しの対象やテーマを決め、チェックリストの項目のそれぞれに対してアイディアを出していくというものです。この発想法は、「チェックリスト法」とも呼ばれます。
この手法は、まったく新しいものを創造することが主な目的ではありません。今すでにある物事を改善・改良したり、応用・転用したりを検討する問題解決型のアプローチであるため、製造現場における既存の業務・環境の改善と相性が良いといえます。
チェックリスト9か条と、その考え方・利点
オズボーンは、チェックリストのために以下の9か条を考案しました。それぞれの考え方における代表的な例とあわせて紹介します。
チェックリスト9か条と考え方
1.転用(Other uses):改変・改良すれば(またはそのままで)、他に用途はないか?
2.適合・応用(Adapt):他にこのようなものがあるか? 過去に匹敵したものは何か?
3.変更(Modify):色・形・音・匂い・意味・動きなど、新しいアングルはないか?
4.拡大(Magnify):大きさ・時間・頻度・高さ・長さ・強さを拡大できるか?
5.縮小(Minify):より小さくできるか?携帯化できるか?短くできるか?省略できるか?軽くできるか?
6.代用(Substitute):他の材料・他の過程・他の場所・他のアプローチ・他の声の調子・他の誰か・異なった成分など、他の何かに代用できないか?
7.再配置(Rearrange):要素・成分・部品・パターン・配列・レイアウト・位置・ペース・スケジュールなどを変えられないか?原因と結果を替えられないか?
8.逆転(Reverse):逆(正反対)にできないか? 後方(前方)に移動できないか? 役割を逆にできないか?ターンできないか?反対側を向けられないか?マイナスをプラスにできないか?
9.結合(Combine):組合わせられないか?目的や考えを結合できないか?一単位を複数にできないか?
意外と身近にある、9か条の考え方の実例
9か条と一致する考え方によって、わたしたちにとって馴染みの深い製品が数多くうまれました。その例をいくつか挙げます。
- 電子レンジ: 開発の背景は、「1.転用」の考え方に相当します。軍事用レーダーの研究を行っている最中に、異なる用途への転用に気づいたことがきっかけとなりました。
- レーダー:着想のきっかけは「2. 適合・適用」の考え方です。こうもりは超音波によって闇夜でも餌を感知して捕らえます。その原理がレーダーに適用されました。また、レーダーの電波を光で「6.代用」したLiDER(ライダー)は、自動車の自動運転技術やスマートフォンを使ったAR(拡張現実)の精度向上などに活用されています。
- 本の装丁:「3. 変更」が売上に影響した例も。1952年初版の太宰 治著『人間失格』は、55年経った2007年におしゃれな新装丁に変更すると、再び大ヒット書籍に。
- ミラーレスカメラ:「5. 縮小」の最たる例かもしれません。ミラーを省略し、筐体サイズを縮小。スマートフォン内蔵カメラの高機能化で、一眼カメラにも高い携行性が求められるなか、新しいレンズ交換式デジタルカメラのスタイルとして浸透していきました。
軍事用機器から白物家電への転用など、上記は極端な例ですが、現場改善や品質の改良においては、もっと小さな振り幅でも大きな効果が得られることでしょう。
チェックリストのメリット・デメリット
このチェックリストは、あらゆる状況・条件、使い方に対して万能というわけではありません。使い方によってメリットや副作用のようなデメリットが生じることがあります。それぞれの例を下記に挙げます。
チェックリストのメリット
- 複雑な問題と向き合うとき、検討事項の漏れを防ぐことができる。
- 過去の経験もふまえて整理していくことで、内容を充実させていくことができる。
- 他の人と意見交換においても、項目に沿うことで視野や発想を広げることができる場合がある。
チェックリストのデメリット
- 項目だけに頼っていると、それ以外の問題を見落とす可能性がある。
- 事案の性質を理解せず、不必要な項目までチェックすると、余計な時間がかかってしまう。
- 自分がチェックしやすい項目ばかりに注力してしまう。それにより、視野が狭くなって、かえって発想の機会を損なってしまう。
オズボーンのチェックリストを製造現場で活用する
前途のデメリットでも挙げたように、実際の製造現場では、9か条を幅広く網羅することは、かえって非効率になることが多いでしょう。
そこで、課題に沿って9か条からまず優先すべき項目を絞り込むことで、使い勝手が良くなります。その例を下記に示します。
製品や工程、業務などの改良・改善を目的とする場合の例
- 縮小(Minify):
-
- ロットを分割したらどうか
- 工程を圧縮したらどうか
- 材料を薄くすればどうか
- 代用(Substitute):
-
- 他の素材は使えないか
- 他の部品に変更できないか
- 他の工程でできないか
- 再配置(Rearrange):
-
- 他のパターンやレイアウト、順序にできないか
- 原因と結果を置き換えたらどうか
装置や道具、治具などの用途を検討する場合の例
- 転用(Other uses):
-
- 一部改変・改良することで(またはそのままで)新しい使い道はないか
- 他の製造ラインで使い道はないか
- 適合・応用(Adapt):
-
- これに似たもの(機構)はないか
- 過去に類似するものはなかったか
- 何か真似できないか
- この方法はあの工程にも使えないか
- 代用(Substitute):
-
- 他の素材・材料は使えないか
- 他の部品に変更できないか
- 他の工程で代わりに使ったらどうか
- 他の動力を使ったらどうか
- 他の作業方法で使えないか
このように、アイディアが求められる対象(課題)によって、優先して検討すべき項目をリストから選定し、組み合わせてスモールスタートすることが効率的です。また、いくつかの優先項目を網羅すれば、次に着目すべき項目が自然と見えてくるはずです。そのなかでアイディアを紡いだり、錬磨したりといったことが可能になります。
もちろん、オズボーン氏も手当たり次第に9か条を用意したわけではありません。上記のように優先順位も整理しながら他の項目での検討を進めていくことで、新鮮な観点とアイディアが得られます。
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