杭打機と鋼管杭の寸法測定の効率化

杭打機と鋼管杭の寸法測定の効率化

近年の相次ぐ数十年に1度といわれる大規模災害による被害を受け、国家レベルで防災意識が高まっています。なかでも地震や台風による被害は大きく、政府が発表した国土強靭化計画ではその対策として建築物の土台である基礎工事の強化と精度向上を求めています。
基礎工事の主要部品である杭や施工に使用される杭打機の寸法精度は性能に大きな影響を与えます。また、施工件数の増加に対し、製造の効率化は急務とされています。
ここでは杭打機と杭の寸法測定に注目し、杭打機の仕組みや工法といった基礎知識から、従来の測定方法の課題とその解決法を紹介します。

杭打機とは

杭打機とは

杭打機は建築物の基礎工事において杭を地中に打ち込むための建設機械で、「パイラー」や「パイルドライバー」などともいわれます。杭を打ち込む方法には打撃・圧入・掘削によるものなどがあり、さらに打撃と圧入を組み合わせた方法があります。なかでも、圧入による杭打ちは「圧入工法」といわれ、代表的な圧入工法としてはオールケーシング工法*が挙げられます。圧入工法は、振動や騒音などの建設公害が発生しないことからさまざまな工事現場で適用されています。また、打撃や掘削による杭打機も、騒音低減装置を備えるなど周辺環境への配慮が施されています。

オールケーシング工法:
「ケーシングチューブ」といわれる鋼管杭を掘削孔全長にわたり回転・圧入し、それで孔壁を保護しながら掘削する工法です。掘削によりケーシングチューブ内にたまった土砂はハンマーグラブなどで排出し、できた孔にコンクリートを打設します。

杭打機と杭の構造

杭打機には、以下に示す3つのタイプがあります。

打撃
大型の打撃ハンマーで杭を打撃または振動させて杭を打ち込みます。
圧入
杭打機の自重を利用し、油圧で杭を打ち込みます。
掘削
オーガドリルなどのスクリュー型のドリルで地盤を掘削して杭を打ち込みます。

杭には鋼管杭やH型鋼などが用いられます。ここでは、代表的な杭打機である油圧式杭打機と鋼管杭の構造について説明します。

油圧式杭打機(油圧パイルハンマー)

油圧式杭打機は「油圧パイルハンマー」ともいわれ、ラムを油圧ハンマーの力で押し下げて加速し、杭を打つ杭打機です。ラムの重力だけで打ち込む杭打機に比べてハンマーの全長を短く抑えることができます。また、1回の打撃での貫入量が大きく打撃数も多いため、施工期間の短縮が可能です。

例:油圧式杭打機
例:油圧式杭打機
A
油圧ハンマー
B
ラム
C
鋼管杭

鋼管杭

鋼管杭は、SKK400またはSKK490を材料に製造された鋼管です。地盤を掘削する必要があるため、先端部には転石・岩盤などが掘削できる硬質な刃が取り付けられており、精密な円筒形でなければなりません。
たとえば、オールケーシング工法で用いられる鋼管杭であるケーシングチューブの掘削方向にはファーストチューブが取り付けられており、ファーストチューブの先端には「カッティングエッジ」といわれる刃が取り付けられています。深層まで、まっ直ぐ正確に掘り進めて行くためケーシングチューブは正確な円筒形をしており、ファーストチューブ先端のカッティングエッジには転石・岩盤などを砕くタングステンカーバイドなどでできた超硬ビットが取り付けられています。

A
ケーシングチューブ
B
ファーストチューブ
C
カッティングエッジ

杭打機と杭の寸法測定の必要性

杭打機の各部品は、製缶工場で作られます。多くの部分はロボットや自動機により素材の切断・加工・溶接などが施されますが、微細な部分は熟練者による手作業で作られます。これらの作業の後、大型五面加工機などで加工され、組み立てられます。このように、杭打機は多くの工程を経て製造されるため、たとえば溶接時には溶接熱、切削時には加工圧などによって部品の寸法が変化する可能性があります。
また、杭の寸法精度は杭の打ち込み精度に大きな影響を与えます。たとえば鋼管杭は圧延した鋼板を管状に成形し、溶接により接合しますが、圧延時の成形不良や溶接熱による変形の可能性があります。杭の変形は打ち込みの精度のみならず、建築物の強度にも影響するため、杭の不具合が工事現場で発覚した場合は工事の中断といった大きなトラブルになりかねません。
以上から、杭打機や杭の製造工程における寸法の測定と検査は、スムーズな施工と強度の高い基礎工事には欠かせません。

杭打機と杭の寸法測定

杭打機は、杭をまっ直ぐ正確に打ち込みます。長さ数メートルの杭を地盤に打ち込むため、わずかな位置のズレや傾きが上層構造物の大きな誤差になります。また、杭も同じで、杭の場合はこれに加えて杭先端の破損や強度の低下の原因にもなります。

寸法測定のポイント

ここでは、杭打機とケーシングチューブの寸法測定のポイントについて説明します。

杭打機

杭打機は、チャックした杭を保持するレールの寸法を測定します。チャック上下のレールの平行度、ガイドパイプの穴ピッチ、ガイドローラ取り付けフレームに取り付けるガイドローラ支持フレームのボルト穴のピッチを測定します。

ケーシングチューブ

オールケーシング工法で用いられる鋼管杭の場合は、ケーシングチューブの反り・面間距離・角度を測定します。ケーシングチューブ・ファーストチューブ・カッティングエッジが反りなく正確に組み立てられているかを厳しく測定します。

杭打機と杭の寸法測定の課題と解決法

杭打機および杭の製造では、完成品はもちろん製造中の各工程での寸法測定が重要です。各部分の寸法測定はコンベックスや水糸といったハンドツールで行い、三次元形状や幾何公差は、門型やアーム型の三次元測定機で測定します。
しかし、ハンドツールでは精度に欠け、門型やアーム式の三次元測定機では運搬・測定機へのセットに時間がかかり、納品や工期の遅れの原因になるという課題がありました。これらの問題を解決すべく、最新式の三次元測定機が活用されるケースが増えてきています。

大型マイクロメータによる測定
大型マイクロメータによる測定
写真提供:(株)東洋製作所様
コンベックスによる測定
コンベックスによる測定
写真提供:(株)アッセンブリー・プラント・グローリー

キーエンスのワイドエリア三次元測定機「WMシリーズ」は、測定範囲内ならワークの奥まった部分にも自由にアプローチでき、片手で持ったプローブを測定したい箇所に当てるだけの簡単操作で測定することができます。コンベックスや水糸、ダイヤルゲージなどのハンドツールに比べて測定結果がバラつくことなく、定量的な測定が可能です。また、測りたい場所で測りたいときに測れるため、ワークを移動させることなく測定することができます。

ワイドエリア三次元測定機「WMシリーズ」
ワイドエリア三次元測定機「WMシリーズ」
「WMシリーズ」による測定イメージ
「WMシリーズ」による測定イメージ

杭打機のチャックの上下レールの平行度測定

杭打機のレールは、杭との隙間が狭いほど振動が小さくなるため、スムーズに動作することができます。しかし、寸法が正確でない場合、部品間の隙間を狭くすると杭との間に摩擦が発生し、スムーズに動作できなくなります。また、ラムを保持するレール間の平行度が正確でないとラムが正常に動作できず、十分な力を杭に与えることができません。
レールの平行度はダイヤルゲージによる倣い測定や、定盤とレールの隙間を隙間ゲージで測定します。しかし、距離が長いため複数人での測定が必要であり、ダイヤルゲージや隙間ゲージを当てる角度や強さによって測定値が変わるため作業者による測定値のバラつきが発生します。また、三次元的な距離や座標は門型やアーム式の三次元測定機で測定しますが、門型の三次元測定機の場合はワークを測定室に運搬しなければならず、アーム式の三次元測定機では測定範囲が狭く測定に時間を要します。

「WMシリーズ」なら測定したい箇所にプローブを当てるだけで、レールの平行度はもちろん、レール間の平行度や設置後の平行度もプローブを当てるだけで測定できます。測定作業に不慣れな方でも短時間かつ1人で測定でき、作業者による測定値のバラつきはありません。
三次元的な距離や座標も、直接測定することができ、最大測定範囲25mの広範囲なエリアを高精度に測定することができます。さらに、持ち運びが可能なポータブルタイプなので、一般的な三次元測定機では不可能な「現場で設置精度を三次元で測定したい」「加工機上で測定したい」といったニーズにも対応することができます。

「WMシリーズ」による測定イメージ
「WMシリーズ」による測定イメージ
「WMシリーズ」による測定イメージ
「WMシリーズ」による測定イメージ
「WMシリーズ」での測定結果
「WMシリーズ」での測定結果
「WMシリーズ」の検査成績書
「WMシリーズ」の検査成績書

ケーシングチューブの反り・面間距離・角度測定

ケーシングチューブの反りはダイヤルゲージで倣い測定をするか水糸で隙間を測定します。面間距離はコンベックス、面の角度は角度計で測定します。しかし、大規模な建築物の基礎に用いるケーシングチューブの長さは数メートルにおよぶため、これらハンドツールによる測定値は測定者によるバラつきが発生します。また、ケーシングチューブの曲面は門型またはアーム式の三次元測定機で測定しますが、門型の三次元測定機で測定するにはケーシングチューブを測定室まで運搬しなければならず、アーム式の三次元測定機では測定範囲が狭く、どちらも効率的ではありません。

「WMシリーズ」は、どこにでも設置することができるポータブル設計ですので、対象物を動かす必要はありません。対象物の近くに測定機を設置し、すぐに測定を開始することができます。
反りは、倣い測定のように対象物を動かすことなく、基準要素と対象要素の測定ポイントにプローブを当てるだけで測定可能。面間距離や角度測定など各部の寸法も、簡単に測定することができます。
また、3D CADファイルから読み込んだ形状と、測定データの比較が可能。測定しているその場でCADの図面との差分を確認することができます。さらに、3D CADデータとの差分をカラーマップ表示することができるため、視覚的な確認も可能です。

「WMシリーズ」による反り・円筒度の測定
「WMシリーズ」による反り・円筒度の測定
「WMシリーズ」によるCAD比較
「WMシリーズ」によるCAD比較
「WMシリーズ」による測定
「WMシリーズ」による測定
写真提供:(株)アッセンブリー・プラント・グローリー 様
「WMシリーズ」による面間距離測定画面イメージ
「WMシリーズ」による面間距離測定画面イメージ

杭打機と鋼管杭の寸法測定の効率化

「WMシリーズ」なら、ワイヤレスプローブを当てるだけの簡単な操作で杭打機や杭などの長尺ワークを1人で測定することができます。さらに、これまでに紹介した以外に、以下のようなメリットがあります。

広範囲を高精度に測定可能
*最大測定範囲
広範囲を高精度に測定可能
最大測定範囲25mの広範囲なエリアを、高精度に測定可能。測定の手順を記憶させ、同じ箇所を測定することができる「ナビ測定」モードも搭載しているため、誰が測定してもデータがバラつきません。
測定結果を3Dモデルで出力できる
測定結果を3Dモデルで出力できる
測定した要素は、STEP/IGESファイルとしてエクスポートできます。図面のない製品でも、現物の測定結果を基に、3D CADデータを作成可能です。
わかりやすいインターフェース
わかりやすいインターフェース
三次元測定機のインターフェースというと、難解で馴染みにくいコマンドが多いイメージがありますが、「WMシリーズ」では、画像やアイコンなどで誰にでも親しみやすい操作性を追求し、直感的な操作を可能にしました。
ポータブルで現場置きが可能
ポータブルで現場置きが可能
本体を台車に入れて、自由に持ち運べるポータブル仕様。現場に持ち込み、その場ですぐに施工状態を測定することが可能です。

「WMシリーズ」は、杭打機や杭の寸法測定はもちろん、3D CADデータとの照合作業などを強力にサポート。杭打機や杭の製造から施工・メンテナンスに欠かせない業務まで、飛躍的な効率化を実現します。