エクソソームの局在観察

近年、体内の腫瘍細胞や免疫細胞をはじめ、すべての細胞が分泌する細胞外小胞(EV:extracellular vsicles)が注目されています。細胞外小胞は、ほとんどの体液(血液や尿、髄液など)や細胞培養液中に存在し、細胞が分泌する小型(直径約30nm~100nm)の膜小胞です。
細胞外小胞は、生成のメカニズムの違いから「エクソソーム(exosomes)」、「マイクロベシクル(MV:microvesicles)」、「アポトーシス小胞(apoptotic bodies)」に分類されます。このうちエクソソームは、長年にわたり不要な細胞内容物の放出に関与すると考えられていました。しかし近年、エクソソームは悪性疾患・免疫疾患・神経疾患・感染症など、さまざまな疾患の病態解明や治療への可能性を秘めていることが判明し、脚光を浴びています。
ここでは、エクソソームの生成メカニズムや働き、疾患治療の例を基礎知識とし、その観察の事例を紹介します。エクソソームに興味はあるが、観察や解析の方法でお悩みの方の参考になれば幸いです。

エクソソームとは

エクソソームは、細胞外小胞の一種です。細胞は、「エンドサイトーシス(endocytosis)」という機構で細胞外の物質を細胞内に取り込み、「エンドソーム(endosome)」という小胞を生成します。生成された小胞は、クラスリン被覆小胞⇒初期エンドソーム⇒後期エンドソームへと移行します。そして腔内膜小胞(ILV:intraluminal membrane vesicle)を多数含む多胞性エンドソーム(MVB:multivesicular body)が細胞膜と融合すると、エンドソームから膜小胞を細胞外に放出します。この放出される膜小胞がエクソソームです。
エクソソームは、エンドソームや細胞膜由来のたんぱく質、細胞内輸送に関するたんぱく質など、さまざまな分泌細胞に由来するたんぱく質やリボ核酸(RNA:ribonucleic acid)を含んでいます。また、エンドソーム膜由来の脂質や分泌細胞の細胞膜も含んでおり、これらの内包物を「カーゴ(cargo)」といいます。このようなエクソソームは、さらに他の細胞に取り込まれます。そして、取り込んだ細胞にエクソソーム内部のたんぱく質やRNAを伝えます。
この一連の流れから、エクソソームは細胞間コミュニケーションに重要な働きを持つと考えられ、特に医療分野での研究が進められています。

エクソソームの検出と解析

エクソソームの解析方法は大きく2種類あります。1つは体液や細胞培養液からエクソソームを抽出し、エクソソームによって輸送されているたんぱく質や脂質・RNAを解析する方法です。もう1つは直接、体液中からエクソソームを検出・解析する方法です。また、細胞への取り込みや分泌のトレーシングでは、蛍光顕微鏡を用いた観察や解析が行われています。

体液や細胞培養液を用いる方法

一般に、血液や腹水などの体液試料からエクソソームを分離・精製するには、超遠心や限外ろ過などの手法が採られています。ただし、この手法では性状・濃度が類似した他の粒子や、高質量のたんぱく質など混じってしまうため、エクソソームだけを解析することが難しいとされています。
そのため、アフィニティー精製*1と組み合わせて実施されることもあります。また、最終的に分離・精製した試料がエクソソームであることを確認するために動的光散乱法や顕微鏡でのサイズ確認やウエスタンブロット*2が行われます。

*1:アフィニティー精製(affinity purification)
目的とする分子と特異的かつ可逆的に結合する分子(リガンド)の反応を利用して、目的の分子やたんぱく質または、その複合体を分離・精製する手法です。
*2:ウエスタンブロッティング(western blotting:WB)
たんぱく質の特性を知るための基本的な実験手法で、エクソソームに発現しているたんぱく質の計測にも適しています。

体液から直接検出・解析する方法

エクソソームの分離・精製することなく、体液中から検出する手法としては「フローサイトメトリー*3」や「マイクロアレイ」、「表面プラズモン共鳴」などが研究されています。他に、大腸がんの診断を目的とした、ExoScreenと呼ばれる手法もあり、これらの手法は主にがんの治療に用いられます。
従来の内視鏡や針を使って腫瘍組織を採取する生検(バイオプシー)に代わって、血液などの体液をサンプルとして診断や治療効果予測を行う「リキッドバイオプシー(liquid biopsy)」は早期発見の技術として期待されています。

*3:フローサイトメトリー(flow cytometry)
細胞や微粒子のレーザー光を照射した際に得られる散乱光または蛍光を利用して、粒子特性を評価する手法です。同時に単一の細胞(細胞や細菌など)の複数の特徴を高速で測定できます。エクソソームのたんぱく質の発現量や細胞内への取り込み評価に適しています。定量やベシクルの種類の区別などは困難ですが、最も簡単に細胞への取り込み挙動を観察できる方法です。

蛍光顕微鏡による観察・解析

エクソソームは、直径約30nm~100nmなので、光学顕微鏡での観察は困難です。また、電子顕微鏡は、試料調製のわずらわしさや真空と電子ビームによる変質の問題があり、物性計測も一般的ではありません。何より電子顕微鏡は、どの施設でも使用できるわけではありません。
蛍光顕微鏡によるエクソソームの観察では、エクソソームを蛍光標識で可視化し、トレースすることができます。抽出したエクソソームに含まれるRNA(RNAカーゴ)、またはエクソソーム膜を蛍光色素で染色して可視化し、観察します。
これにより、時間依存的なエクソソームの局在変化や、エクソソームによる細胞間コミュニケーションのプロセスである細胞への取り込みをモニタリングすることができます。蛍光顕微鏡による観察は、エクソソームの変化やそのプロセスなど、他の方法ではできない観察を実現し、より精度の高い解析を可能にする新しい技術として注目されています。

疾患治療へのエクソソームの活用

エクソソームの機能が明らかになるにしたがい、がんの早期発見やアルツハイマー型認知症、パーキンソン病・脊髄小脳変性症・ハンチントン病・筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経変性疾患の治療をはじめ、内分泌・循環器などその機能を応用した治療法や診断法の研究が盛んになっています。

がんの早期発見

たとえば、エクソソームはがん細胞の生存や悪性化、転移などに関与していると考えられています。がん患者のがん細胞が放出するエクソソームには、がん細胞に由来するさまざまなたんぱく質が含まれており、がん細胞特有の細胞傷害性T細胞の活性化を引き起こします。これは、がん細胞由来のエクソソームはがん遺伝子を含有しているためです。これは、がん患者の細胞が放出するエクソソームを観察することで、がんを早期検出することができることを意味しています。
この、細胞から細胞へと情報を伝えるエクソソームの性質に着目したがん診断法に、リキッドバイオプシー(liquid biopsy)によるがんの早期発見があります。リキッドバイオプシーによるがん診断では、エクソソームの内包物が放出元の細胞の特徴(がん関連遺伝子に変異を持つctDNA(circulating tumor DNA)などを映し出すことから、異常細胞のエクソソームを調べることで、がんの早期発見が可能になると考えられています。

アルツハイマー型認知症の治療

アルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)は、アミロイドβの毒性により傷ついた神経細胞が死んでいくことで脳が委縮し発生する認知症の一種です。アルツハイマー型認知症の治療でも、エクソソームがその原因物質であるアミロイドβやタウタンパク質*4の増減に大きく影響すると考えられています。
他にも、医薬品を安全かつ特定の疾患組織や細胞に、効率良く送達(デリバリー)する「ドラッグデリバリーシステム(DDS:drug delivery system)」では、エクソソームに薬剤や核酸などを封入する手法が試みられています。

*4:タウタンパク質(tau protein)
タウタンパク質は、中枢神経系や末梢神経系の神経細胞にあるたんぱく質です。さまざまなたんぱく質と結合しており、生後の脳の成熟や成体の神経発生など、脳神経系で起こるさまざまな現象に関わっています。アルツハイマー型認知症などの神経変性疾患は、このタウタンパク質の異常が原因であると考えられています。

リキッドバイオプシーによる診断

リキッドバイオプシー(liquid biopsy)とは、身体への負担が少ない体液(体液や血液、尿など低侵襲性の液性検体)を利用して主にがん診断に役立つ技術です。
リキッドバイオプシーのサンプルには腫瘍やさまざまな組織、細胞由来の情報が含まれており、これを観察することで全身の腫瘍プロファイルを俯瞰できます。
従来の内視鏡や針で生検を採取するバイオプシー技術では、苦痛とリスクを伴うにもかかわらず、腫瘍組織のごく一部しか採取できないため断片的なプロファイル情報しか検出できませんでした。
リキッドバイオプシーでは体液のみで検査できるので、体に負担をかけることなく、がん遺伝子診断や治療効果予測が可能になりました。

ドラッグデリバリーシステム(DDS:drug delivery system)とは

ドラックデリバリーシステムは、エクソソームが、細胞から特定の細胞へ物質(たんぱく質、核酸、脂質)を輸送する性質を利用した治療法です。
これまでに、この治療法により、乳がん細胞への抗がん作用が確認された例や、神経芽腫細胞に取り込ませてアルツハイマー型認知症の原因物質といわれるβアミロイドの量を減少させたという例があります。
エクソソームは生体分子であるため、DDSによる治療は従来のナノパーティクルを用いた薬物輸送と比較して毒性が少ないといわれています。また、これまでの手法では到達困難な組織への透過も確認されていることから、強力な輸送分子としても期待が高まっています。

エクソソーム研究の将来性

このように、「細胞の情報を伝える=病気を転移させる」というエクソソームの負の特性は、医学や観察技術の発達により、予防や早期治療・薬剤の細胞への直接投与といった先進治療を切り拓く切り札として注目されています。
さらに、エクソソームは野菜や果物などの細胞からも分泌されています。たとえば、生姜にはアルコール性肝臓障害を抑制する効果がありますが、これは生姜由来のエクソソームが肝臓にダメージを与えないよう保護していると考えられます。また、ゆで卵のエクソソームは動脈硬化を抑えたり、記憶力を上げる効果があるという研究結果も報告されています。
東洋医学には、食事は医療の根本であり、病気を治す薬と健康を増進する食事は、本来根本が同じであるという考え方があります。こうした観点からも、エクソソームの研究は医療と食品に幅広い可能性を与える、現代版の「医食同源」といえます。

簡単な操作で3次元局在を確認

エクソソームの直径は、およそ30nm~200nmとされています。このため、通常の蛍光顕微鏡では焦点が合い難く局在を観察することが困難です。また、細胞や微粒子のレーザー光を照射した際に得られる散乱光または蛍光を利用して、粒子特性を評価するフローサイトメーターでの解析では、局在の確認や経時的な変化が確認できないといった問題がありました。
オールインワン蛍光顕微鏡BZ-X800は、「電気的投影素子」による構造化照明(Structured Illumination)を用いた独自の光学セクショニング技術で、これまでにないクリアな画像を実現。局在の確認も経時的な変化もクリアに映し出します。
以下の例では、BZ-X800のセクショニング機能を使って、ヒト表皮細胞内のエクソソームの局在を観察しています。
BZ-X800なら、ある細胞から発せられたエクソソームが、他の細胞内に移動する様子を高精細画像で観察することができます。

緑:エクソソーム、赤:細胞膜
XYZスライス撮影
対物レンズ:PlanApo 100x
エクソソーム:緑(PKH67)、細胞膜:赤(CellMaskTM Orange)、細胞核:青(DAPI)

オールインワン蛍光顕微鏡 BZ-X800を導入すれば