髪の毛断面コルテックス観察とキューティクル断層評価
パーマネントでウェーブをかけたりヘアカラーによるダメージやヘアケア剤の浸透評価など、髪の毛を観察する目的はさまざまです。なかでも、キューティクルはこれらの影響を最も受けやすいため、特に断面を高精細観察することは評価にとって重要です。ここでは、髪の毛の構造や構成要素から、従来の観察方法の課題とその解決方法までを解説します。
髪の毛の構造
髪の毛は、角質化したたんぱく質であるケラチンでできています。皮膚にたとえるなら、角質層や老化角質に相当します。毛幹部といわれる目に見える髪の毛は、すべて死滅細胞であるため、傷付くと再生することはできません。
髪の毛は外側からキューティクル(毛表皮または毛小皮)、コルテックス(毛皮質)そして中心部であるメデュラ(毛髄質)の3層構造になっています。
キューティクル(毛表皮または毛小皮)
キューティクルは髪の毛表面をうろこ状に重なり合って覆っています。1枚の厚さ0.5~1μmで無色透明で撥水性があります。キューティクルは一定方向に並んでおり、たとえば毛先に向かって指を滑らせるとスムーズに流れますが、逆方向だと軋んだ抵抗感があります。
1枚のキューティクルが覆う範囲は髪の毛外周の1/2~1/3であり、硬い髪の毛ほど枚数が多くなります。キューティクルとキューティクルのすき間には、細胞膜複合体(CMC:Cell Membrane Complex)があります。
この細胞膜複合体は、β層(脂質)がδ層(タンパク質)を挟んだ構造になっています。厚さは0.04~0.06μmで、ヘアカラーなどの髪の毛内部への浸透は、この細胞膜複合体から行われます。
コルテックス(毛皮質)
コルテックスはマクロフィブリルの集まりです。マクロフィブリルはミクロフィブリルが集まってできており、ミクロフィブリルとミクロフィブリルのすき間には、親水性で保湿性があるマトリクス(間充物質)があります。マトリクスの主成分は非結晶性ケラチンです。メラニン色素を多く含み、他にアミノ酸やPPT(ポリペプチド)・核酸・ミネラルなどが混在します。パーマネントによるウェーブやヘアカラーで染色されるのはマトリクスであるため、ヘアケアでは重要な部分です。
メデュラ(毛髄質)
メデュラは髪の毛の中心にあり、たんぱく質と脂質でできた縦長の立方体の細胞の集まりです。細胞の間には空気を含んでおり、このすき間は光を反射するため、すき間が大きくなると髪の毛が白っぽくなります。
メデュラはすべての髪の毛にあるわけではなく、細い髪の毛やうぶ毛にはありません。また、ところどころで途切れている場合もあります。
髪の毛の高解像度観察
髪の毛の高解像度観察には、光学顕微鏡やマイクロスコープ、走査電子顕微鏡(SEM)が使用されます。
光学顕微鏡やマイクロスコープによる観察は、髪の毛を側面から同軸落射照明を用いて正反射光で観察します。正反射光による観察では、平坦な部分は反射光がそのままレンズまたはCCDに入るため明るく見え、段差構造のある部分の斜面などは反射光が逃げるため暗く見えます。この明暗差により、髪の毛表面の微細構造を可視化することができます。しかし、髪の毛そのものが曲面になっているため、髪の毛の外側に行くほど反射光は外側に逃げてしまい観察が困難になります。光学顕微鏡で断面観察を行い評価する手法もありますが、キューティクル層の境界線を観察するために必要な解像感が得られず、1枚のキューティクル層に見えてしまうことがあります。
一方、走査電子顕微鏡(SEM)による観察では、非常に高い解像度でキューティクルの表面構造を観察することができますが、導電性のないサンプルを観察した場合に表面に滞留した電子がモヤのように光るチャージアップが発生しないように前処理をする必要があり、非常に多くの手間がかかります。また、観察時には髪の毛を真空チャンバーに入れて真空環境下で観察することになるため、髪の毛の水分が気化し形態が変わる可能性があります。いずれの方法も、ありのままの状態での観察を困難にする恐れがあります。
オールインワン蛍光顕微鏡 BZ-X800は、高解像度であるためキューティクルのような層構造のサンプルでも鮮明に観察できます。また、側面からでは観察することのできない、コルテックス内に散在するメラニンの様子も鮮明に観察することができ、キューティクルとコルテックスを同時に評価できます。
- オールインワン蛍光顕微鏡 BZ-X800を導入すれば
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- 通常観察するだけで全面キューティクル観察ができるほか、蛍光観察も可能になります。
- 断面評価では、高解像度な観察によりキューティクルの層構造とコルテックス内のメラニンを同時に評価することができます。
- 蛍光標識することで、ヘアケア剤が髪の毛へどのように浸透しているかも観察できます。複数のサンプルを定量解析することで、数値化して評価することも可能です。