抗体薬の開発を進めるための「がんの塊の形態学的な観察」を、BZ-Xシリーズで行っています

- 株式会社凛研究所 代表取締役社長
国立がん研究センター研究所 免疫創薬部門 客員研究員
松村 保広 様 -
1891年に熊本大学の医学部を卒業後、同大学の外科にて医師として3年間働かれていた松村 保広先生は、医師2年目で師匠となる前田浩先生(当時:熊本大学 教授)に出会ったことで研究者の道へ。その後、1988年に熊本大学の大学院で博士課程を取得すると、翌年にはアメリカのマウント サイナイ医科大、1990年にはイギリスのオックスフォード大学に留学し、研鑽を積まれました。1994年に帰国した後は、国立がん研究センターにて一時的に内科医員を務めながら、DDS(ドラッグデリバリーシステム)の研究をスタート。さらに同組織で、がん治療開発部 部長、新薬開発分野 分野長を歴任しながら、画期的ながん治療法「CAST療法」の開発や「トムソン・ロイター引用栄誉賞(現:クラリベイト引用栄誉賞)」を獲得するなど、がん治療の分野において多大な貢献を残してきました。現在は、国立がん研究センター発のベンチャーとなる株式会社凛研究所を起業。新たな抗体薬の開発に向けた挑戦を続けています。
主な論文
Matsumura Y, Maeda H. A new concept for macromolecular therapeutics in cancer chemotherapy: mechanism of tumoritropic accumulation of proteins and the antitumor agent smancs.
Cancer Res. 1986;46(12 Pt 1):6387-6392. (EPR 効果の最初の論文)
Matsumura Y, Maruo K, Kimura M, Yamamoto T, Konno T, Maeda H. Kinin-generating cascade in advanced cancer patients and in vitro study. Jpn J Cancer Res.
1991;82(6):732-741. doi:10.1111/j.1349-7006.1991.tb01910.x(がんと血液凝固の最初の論文)
Matsumura Y, Tarin D. Significance of CD44 gene products for cancer diagnosis and disease evaluation. Lancet (London, England). 1992;340(8827):1053-1058.
doi:10.1016/0140-6736(92)93077-z (がんと CD44)
Matsumura Y. Cancer stromal targeting (CAST) therapy. Adv Drug Deliv Rev.
2012;64(8):710-719. doi:10.1016/j.addr.2011.12.010(CAST 療法の提唱)
Matsumura Y, Tarin D. Cancer Drug Delivery Systems Based on the Tumor Microenvironment. Springer Japan; 2019. doi:10.1007/978-4-431-56880-3
(腫瘍微小環境に基づくがんの DDS 治療のスプリンガーブック)
がん細胞には高分子が集積しやすくなるという「EPR効果」を発見、証明し、世界のがん治療の考え方を大きく躍進させた株式会社凜研究所 代表取締役社長の松村先生は、「EPR効果」を軸に据えた抗体薬の研究・開発に、BZ-Xシリーズを活用。がん周辺の間質や血液の観察に役立てていらっしゃいます。そこで松村先生に、BZ-Xの活用状況と共に、研究内容や注力している取り組みなどについて詳しく伺いました。
- 国立がん研究センター発のベンチャー・凛研究所にて抗体薬を開発
- 血中ではなく間質に抗体薬を届けることで、より効率的な治療を目指す
- 抗体薬の開発はすでにGMP製造直前まで進展
- がん細胞の外にできる血液凝固の状態をBZ-Xシリーズで観察
- キーエンスのサポートとBZ-Xシリーズの機能性アップに期待
国立がん研究センター発のベンチャー・凛研究所にて抗体薬を開発

国立研究開発法人 国立がん研究センターから生まれた創薬ベンチャー・株式会社凜研究所。2026年3月、松村 保広先生はその新代表取締役に就任し、日夜、抗体薬の開発に邁進されている。加えて松村先生は、国立がん研究センターの免疫創薬部門にも、引き続き客員研究員として在籍。先生が研究の第一人者として知られる「DDS(ドラッグデリバリーシステム)」と、その技術を応用した「CAST(がん間質ターゲティング)療法」に関わる研究を牽引し続けている。
「CAST療法の中でも、ここ築地の研究棟では、脳外科と共同で脳腫瘍を中心とした研究を行っています。一方、千葉にある東病院のほうにもLabがあって、そちらではすい臓がんや血清診断の研究を進めています」。
血中ではなく間質に抗体薬を届けることで、より効率的な治療を目指す
松村先生が進める抗体薬開発の礎となっているのが「EPR効果」。「EPR効果」とは、「がん」の組織には、抗体などの高分子蛋白が腫瘍に集まりやすくなるという論理。1986年、この論理を世界で最初に示したのが松村先生と、その師匠にあたる故・前田浩先生だ。
この時に発表された論文「がん治療における高分子薬物の血管透過性・滞留性亢進(EPR)効果の発見」は、がん治療の歴史において革命的な転換点とされており、その証左にさまざまな論文に引用されています。2016年には、ノーベル賞クラスの成果を残している人に与えられる「トムソン・ロイター引用栄誉賞(現:クラリベイト引用栄誉賞)」も受賞するほど、各方面に大きな影響を与えている。
「最近は、核酸の薬が流行っているじゃないですか。でもそれを実際に、がんの元へ遺伝子を運ぼうとした時、インビトロ(試験管内)ではうまくいっても、インビボ(生体内)だとなかなか上手くいかない。それを解決するための研究を進める中で、我々のEPR効果に関する論文をたくさん引用してくれているんですよ」。
ただ現在の抗体薬は、まだEPR効果を最大限に活かすところまでは行っていないと、松村先生は語る。「EPR効果は、ネズミのがんモデルでは世界的に証明されましたが、人体のがんは間質が囲んで防御壁を作っているため、薬がうまく届きません。そのため実は、今流行っているADC(抗体薬物複合体)なんかも、その作用のほとんどが無駄になってしまっているのです。さらには、今のADCはがん細胞だけでなく、正常な分裂細胞も狙ってしまう。つまり毒性が強いという問題もありました。そこで、より効率良くがん細胞だけを叩くために、不溶性フィブリンという抗体を作り、その抗体を使って薬を運ぶことで、血中ではなく、がん周辺の間質に薬を届けようと考えたのです。それが、先ほども名前が出てきた「CAST療法」という治療法です」。「ADCはEPR効果で固形がんに集積し、その後CASTでがんの塊全体に均一に抗がん剤を分布させる」という戦略です。
抗体薬の開発はすでにGMP製造直前まで進展
松村先生が代表を務める株式会社凜研究と、さらにそこから2026年に分社化して生まれたキャストバイオ株式会社では、松村先生を中心に開発を進めている「CAST療法」による新たな抗体薬の開発が、すでにGMP製造直前まで進んでいるという。ただしその実現のためには、さらなる資金調達が必要不可欠と松村先生は語る。
「現状は、抗体のマスターセルバンク、ワーキングセルバンクを作って、それを拡大培養するところまでは進み、その後GMP製造工程確認まで終了してます。今後はGMP製造、GMP毒性試験という工程を経なければいけないのですが、それらを進めるためには、それぞれ数億円規模のお金がかかってしまう。そこでベンチャーキャピタルを活用しての資金調達を試みようとしているのです。今は、国内のベンチャーキャピタル数社が興味を示してくれているのと、台湾の製造メーカーがライセンス契約に名乗りを上げてくれているので、そこと協力しながら治験、製品化へと進めていければと思っています」。
がん細胞の外にできる血液凝固の状態をBZ-Xシリーズで観察

松村先生とBZ-Xシリーズ(BZシリーズ)との出会いは、先生が国立がん研究センター東病院のがん治療開発部部長に就任されたころに遡る。当時(2005年)、発売されたばかりの初号機・BZ-8000を導入されて以来、松村先生の研究室には常にBZ-Xシリーズが存在し、その研究に寄り添ってきた。「私が観察に使っている顕微鏡は、普通の光学顕微鏡と、キーエンスのBZ-Xシリーズのふたつです」と松村先生。
共焦点顕微鏡などを使うことはないのか伺ったところ「共焦点顕微鏡とかを使って、がん細胞の中身とか、細胞分裂の様子を観るのは、世の中の人はたくさんやっています。そういうのは、頭の良い人に任せればいいと思っているんですよ(笑)」とのこと。
「それよりも私は、もっとマクロな視点から、がんの中で起こるダイナミックな現象を知りたくて、そのためのツールとして顕微鏡を活用しています。たとえば、血管とがん細胞の位置がどうなっているのか、そこにはどんな細胞が集まっているのか、また間質では一体なにをやっているのか、周りの環境はどうなのか。そういったものを、まずは光学顕微鏡で観察して、この辺に血液凝固が起きているなと思ったら、今度はBZ-Xシリーズで観る……といった使い方をしています」と、形態学的な観点からがんの塊を観察することが、松村先生の研究には重要だと語る。
その理由として、先生は「血液凝固」こそが「CAST療法」の大きなポイントになると睨んでいらっしゃるとのこと。「私は熊本大学時代から、がんと血液凝固についての研究を行っているのですが、その結果、がん細胞の外で起こっている血液凝固の中こそが、最も悪性の高い細胞がいるという考えに至りました。今は、そのことを論文にまとめるために、がん細胞の外で起こっている血液凝固の状態を、免疫染色などを行ってBZ-Xシリーズで観察しているところです」。
キーエンスのサポートとBZ-Xシリーズの機能性アップに期待
そんな松村先生に、キーエンスの営業担当に対する評価を伺ったところ、非常に高い評価をいただけた。「連絡はマメですし、対応も良いです。この前も、今、流行っている多重染色をやろうと思って、そのやり方を教えてもらうために来てもらいました。気軽に相談しやすくて、しかも無料なのは、我々のようなベンチャーだととてもありがたい。ぜひこのまま続けて欲しいですね」とのこと。
最後に今後の展望と、そのためにキーエンスに期待することはなにか、松村先生に投げかけてみた。「先ほども少しお話した「がん」と「血液凝固」に関する研究を、これからはもっと深めていく予定です。そのためには、多重染色を行ってBZ-Xシリーズで観ていくことが、より必要になってきます。そうすることで、たとえば腫瘍幹細胞と血液凝固の関係とか、そういった現象がもっと見えてくると考えています。ですので、ぜひBZ-Xシリーズで、もっと素早く、簡単に多重染色ができるようなやり方、機能があればいいですね。そうなればより研究は捗ると思うので、期待しています」。


