Appノックインマウスの切片や培養細胞をBZ-Xシリーズで観察。さまざまな解析や定量化に活用しています

国立大学法人 滋賀医科大学
創発的研究センター 挑戦的研究部門
特任准教授
医学博士
橋本 翔子 様

2012年に関西学院大学 大学院の博士課程を修了した橋本 翔子先生は、同年、理化学研究所に就職。同研究所の脳神経科学研究センター 神経老化制御研究チームにて、チームリーダーである西道 隆臣先生と共に、約10年に亘ってアルツハイマー病における神経変性疾患のメカニズム解明に従事されます。そしてそこで、「CAPON」と呼ばれるタウ結合タンパク質が、アルツハイマー病を悪化させる要因であることを世界で初めて突き止めるなど、神経科学において数々の功績を残されてきました。
2023年には、滋賀医科大学の創発的研究センターが全国公募した「テニュアトラック」に選出されたことで、同センターの「挑戦的研究部門」の特任准教授に着任。現在は、アルツハイマー病に至る神経変性症の病理解明と、そこから根本治療に繋がる創薬までを見据えた研究に没頭されています。

主な論文

Rod-shaped microglia represent a morphologically distinct subpopulation of disease-associated microglia.
Yukio Matsuba, Kenichi Nagata, Yosuke Kadota, Naruhiko Sahara, Takaomi C Saido, Shoko Hashimoto
Journal of neuroinflammation 22(1) 184-184 2025年7月16日

Neuronal glutathione loss leads to neurodegeneration involving gasdermin activation
Shoko Hashimoto, Yukio Matsuba, Mika Takahashi, Naoko Kamano, Naoto Watamura, Hiroki Sasaguri, Yuhei Takado, Yoshihiro Yoshihara, Takashi Saito, Takaomi C. Saido
Scientific Reports 13(1) 2023年 1月20日

Tau binding protein CAPON induces tau aggregation and neurodegeneration
Shoko Hashimoto, Yukio Matsuba, Naoko Kamano, Naomi Mihira, Naruhiko Sahara, Jiro Takano, Shin ichi Muramatsu, Takaomi C. Saido, Takashi Saito
Nature Communications 10(1) 2019年 6月3日

アルツハイマー病が発症するメカニズムの解明から、いずれは創薬にまで繋げるべく日夜研究に励まれている橋本先生は、脳の細胞や神経の観察にキーエンスのオールインワン蛍光顕微鏡・BZ-Xシリーズを活用。日々の研究や論文に役立てられています。そこで橋本先生に、BZ-Xシリーズの導入経緯や評価、また先生が取り組まれている研究内容やご経歴などについて詳しく伺いました。

メディカル・イノベーションを目指して設立された創発的研究センター

橋本翔子先生が在籍する滋賀医科大学の「創発的研究センター」は、2022年に設立された研究組織。年齢や性別、国籍、分野などの枠組みを超えた多様な人材を登用すると共に、その人材が抱える研究テーマを全学的に支援することで、メディカル・イノベーションを起こすことを目指しているという。そんな「創発的研究センター」が現在支援している研究部門は次の3つ。

挑戦的研究部門

若手の研究者に独立した環境を提供することで、次世代の重点研究の推進や、若手の育成を行う。

国際共同研究部門

海外の協定校と連携。優秀な外国人研究者を招聘して、老化に関する国際共同研究を進める。

先端医療研究開発部門

医療現場のニーズをくみ取り、それを解決するための医療機器やソフトウェアの開発、および社会実装を産学連携で目指す。

橋本先生は、その中の「挑戦的研究部門」の初代部門長でありPI。「部門名としてはかなり抽象的な名前ですけど、研究内容としては主に神経変性疾患、脳の老化……中でもアルツハイマー病のメカニズム解明や治療に特化した研究を行っています」。
Labメンバーは現在4名。「私と、特任助手の松葉先生、マレーシアから留学してきた大学院生、そして派遣職員の4名が在籍しています。人手は常に不足しているので、もし興味のある大学院生の方がいたら、ぜひ来てもらいたいと思っています」と、インタビューの中では意欲ある若手研究者に向けた呼びかけも行われた。

アミロイド病理やタウ病理からアルツハイマー病発症のメカニズム解明を目指す

橋本先生の研究領域は「アルツハイマー病」。中でも、アミロイドβの蓄積(アミロイド病理)をきっかけに、神経原線維変化(タウ病理)が進み、認知症へと発展していく現象に着目。その悪化に至るメカニズムを、タウ結合タンパク質である「CAPON(ケーポン:C-terminal PDZ ligand of nNOS)」や、活性化ミクログリア「Rod-shaped microglia」、脳内が活性酸素で傷む「酸化ストレス」など、様々なアプローチから解明しようと試みられている。

「アミロイド病理に関しては、現在、いろんな抗体薬が出てきており、創薬研究が大きく進んでいます。しかし、そこからタウの蓄積が進んでいくと、それらの抗体薬は効かなくなっていきます。そこで、タウ病理や神経変性がなぜ進んでいくのか……そのメカニズムを解明すると共に、そこを対象とした創薬にまで繋げられればと考えています」。

そうした目的の実現を目指して橋本先生が今、注力している研究は、先にも挙げた「CAPON」の生体内における働き。「私は2019年に発表した論文で、CAPONを人工的に過剰発現させることで、脳内の神経変性に繋がっていくことを見つけました。しかしまだ、このCAPONが生体内で生理的にどのような役割を果たしているかは、不明な点が多いのです。そこで現在はマウスや培養細胞を用いて、細胞内のシグナルの動きを観察することによる、CAPONの詳細な機能解析を進めています」。

恩師から得た知識や技術、研究機器と共に…滋賀医科大学の特任准教授に就任

そんな橋本先生が、研究者の道を志したのは学部生時代。関西学院大学の理工学部に在籍していた橋本先生は、今岡 進 先生のLabで卒業研究の実験を始めたことで、その面白さに傾倒していったと言う。
「仮説を立てて、それを実証していく行為を、当時とても魅力的だと感じたことを覚えています。ちなみに今岡先生のLabでは、タンパク質のフォールディングの研究を行っていました。その研究を進めるうちに、フォールディング異常が起きた時にどういう神経変性などの現象が生じるのか、またそこから創薬に繋げられないか……といった領域に興味を持つようになり、博士課程修了後の進路に「理化学研究所」にいらっしゃった西道 隆臣先生の元でお世話になることとなりました」。

橋本先生が、2012年から約10年間勤められた理化学研究所時代の恩師である西道 隆臣先生は、アルツハイマー病研究の世界的権威。認知症の原因物質のメカニズムを解明したり、アルツハイマー病の病態を再現した「Appノックインマウス」や「MAPTノックインマウス」を開発したことで知られている。その研究成果は、その後のアルツハイマー病研究に携わる科学者たちに大きな影響を与えている。
もちろんそこで得た学びは、橋本先生の現在の研究内容にも繋がっているという。
橋本先生、曰く「アルツハイマー病を研究しているLabでしたら、かなりの確率で西道先生が作った「Appノックインマウス」や「MAPTノックインマウス」を導入しているのではないでしょうか。もちろん私のLabでも導入、飼育しています。また私の研究内容自体も、理化学研究所の頃の研究がベースになっています」とのこと。

そして2023年、橋本先生は現職である滋賀医科大学に着任される。そのきっかけは「創発的研究センター」によるテニュアトラックの全国公募だった。
「当時、「創発的研究センター」のセンター長は、現在は学長になられている遠山 育夫先生でした。遠山先生は認知症のトップランナーのひとりです。直接の知り合いではありませんでしたが、学会で先生ご自身をお見かけしたことや、Labメンバーの方が発表されている様子を見ていたこともあって、テニュアトラックへの応募を決めました」。

かくして「挑戦的研究部門」の部門長となった橋本先生。ただし新たに創設された部門だったことで、着任時にはLabをイチから立ち上げるご苦労があったとのこと。
「限られた予算でいろんな機器を揃えなければならず、大変でした。しかし理化学研究所の西道先生がLabをクローズされる時期と重なっていたこともあり、親切にもたくさんの機器を無償で提供してくださったのです。共焦点顕微鏡、遠心分離機、サーマルサイクラー、冷蔵庫など、いろいろいただけたお陰で、結果的にかなり出費を抑えることができました」と橋本先生。
知識や技術だけでなく、研究室の土台をも西道先生から引き継がれた橋本先生。そのエピソードからは、橋本先生がいかに真摯に研究と向き合っていたかが伝わってくる。

広い範囲を素早く綺麗に撮影できて、連結や定量化にも役立つ点を評価

橋本先生が、BZ-Xシリーズを導入したのは、滋賀医科大学でLab持ちとなってから2年後の2025年。最新機種にあたるBZ-X1000が、橋本先生のデスクの真横に設置された。

実は過去の橋本先生のキャリアの中で、BZ-Xシリーズが導入されたLabはなかったという。しかし理化学研究所に在籍中、何度もキーエンスの営業担当と接する機会があったり、時にはデモ機を借りたこともあったことから、良い印象を持っていたとのこと。
「理化学研究所にいた頃は、共焦点顕微鏡や普通の蛍光顕微鏡、バーチャルスライドスキャナなどを使って脳組織や細胞の観察を行っていました。初めてBZ-Xシリーズに深く関わったのは、ある論文のリバイスの時です。「CAPON」が脳のどの細胞に発現しているのかを共染色で解析しなければならなくなったのですが、限られた期間でたくさんの切片を撮影する必要があったことから、キーエンスの営業担当の方に相談させていただきました。そうしたところ快くデモ機を貸していただいて、無事にリバイスを終えることができました」と、橋本先生は当時を振り返る。
この時、実際にBZ-Xシリーズに触れたことで、橋本先生の中では「欲しい機器」のひとつにリストアップされることとなったようだ。

そして「脳組織切片や培養細胞を用いた蛍光イメージングを多く行っていたので、BZ-X1000があれば、このような解析を効率的に進められると思いました」とのお言葉のとおり、無事に橋本先生のLabに導入される運びとなったとのことだ。
BZ-Xシリーズで観察しているものは、Appノックインマウスがメイン。「マウスの切片や培養細胞を観て、組織切片を使った解析、生化学的な解析、タンパクの解析、遺伝子発現の解析などを行うと共に、そこで見つかったメカニズムをさらに深く調査しています」と橋本先生は語る。

実際にBZ-Xシリーズのメインユーザーであり、橋本先生と共にその研究を支えてこられた特任助手の松葉 由紀夫先生に、BZ-Xシリーズの魅力について伺ったところ、次のようなお言葉をいただけた。
「広い範囲が撮れる点、取り込みのスピードが速い点、そして撮った画像が綺麗な点が、BZ-Xシリーズの良いところです。また複数の視野で撮影した画像を綺麗にタイリングしたり、さまざまな形の細胞を分類、定量化するといった複雑な操作も、ボタン1個で自動的にやってくれる機能性の高さも魅力だと感じました」。
他の顕微鏡との使い分けについても伺ったところ、「最高画質の写真が必要な時は、共通機器室にある共焦点顕微鏡を活用していますが、それ以外はBZ-Xシリーズで撮っています。広い範囲で組織を撮りたい時、撮影しないまでも「どんなものかな」とサッと確認する時などは、特に便利だと感じています」とのこと。

いずれは「創薬」という目標に向かって

最後に、橋本先生に今後の展望についてお尋ねした。そうしたところ橋本先生からは、「アミロイド病理から神経変性に至るメカニズムの全体像を、すべて解明することはおそらく難しいと考えています。しかしいずれは、その中の主要な動きをひとつでも見つけて、そこから創薬に繋がるところまで研究を進められればと考えています。そして最終的には、例えば製薬メーカーと協業したり、創薬ベンチャーを立ち上げることも視野に入れられると良いですね」とのお言葉をいただけた。
最初に研究者を志した時から思い描いていた「創薬への道」。その目標に向かって、橋本先生は着実に、歩みを続けられているようだ。