凍結切片を見たり、タイリングをおこなうためにBZ-Xシリーズを導入。今や筋研究を始め、私の多くの研究の基盤として標準装備になっています

青木 吉嗣 様
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 神経研究所遺伝子疾患治療研究部 部長
東京科学大学NCNP脳機能病態学分野 連携教授
東京農工大学工学部 客員教授
信州大学医学部 特任教授
早稲田大学理工学術院 客員教授
奈良県立医科大学 招聘教授
日本希少疾患コンソーシアム 代表
博士(医学)
青木 吉嗣 様

2001年、東北大学の医学部を卒業した青木 吉嗣先生は、平鹿総合病院にて医師としてのキャリアをスタートさせます。その後、旧国立精神・神経センター武蔵病院へ赴任したことを契機に研究への関心を深め、現国立精神・神経医療研究センターで臨床と研究をしながら、連携大学院である東京医科歯科大学の博士課程を修了、2012年からは、オックスフォード大学に留学して研究者としての幅を広げ、2015年に帰国。再びセンターの神経研究所遺伝子疾患治療研究部の室長となりました。2019年には、同部の部長に昇進、2023年には企画戦略局の局長補佐も兼任するなど、研究者としてだけでなく、責任者としてもその手腕を発揮しています。

現在では日本筋学会の理事、尿由来細胞研究会や日本希少疾患コンソーシアムの代表など数々の組織のトップを務め、ご自身の研究と共に、研究者同士や、研究者と外部組織の橋渡し役としても活躍されています。

主な論文

Vaillend C, Aoki Y, Mercuri E, Hendriksen J, Tetorou K, Goyenvalle A, Muntoni F. Duchenne muscular dystrophy: recent insights in brain related comorbidities. Nature Communications. 2025年2月3日

Komaki H, Takeshita E, Kunitake K, Ishizuka T, Shimizu-Motohashi Y, Ishiyama A, Sasaki M, Yonee C, Maruyama S, Hida E, Aoki Y. Phase 1/2 trial of brogidirsen: Dual-targeting antisense oligonucleotides for exon 44 skipping in Duchenne muscular dystrophy. Cell Reports Medicine. 2025年1月21日

Otake M, Imamura M, Enya S, Kangawa A, Shibata M, Ozaki K, Kimura K, Ono E, Aoki Y. Severe cardiac and skeletal manifestations in DMD-edited microminipigs: an advanced surrogate for Duchenne muscular dystrophy. Communication Biology. 2024年5月3日

国立精神・神経医療研究センターにて、筋肉研究を中心とした多様な研究に取り組まれている青木先生は、博士課程時代よりキーエンスのオールインワン蛍光顕微鏡・BZ-Xシリーズを愛用。今も研究部内にて、重要な研究基盤のひとつにされています。そこで青木先生に、現在取り組んでいる研究や活動と共に、BZ-Xシリーズとの出会いやそのご評価について詳しく伺いました。

遺伝子疾患のメカニズム解明、および筋ジストロフィー治療のための研究に邁進

青木 吉嗣 先生

「国立精神・神経医療研究センター」は、精神疾患や神経疾患、筋疾患、発達障害などの克服を目指した研究開発をおこなう、日本トップの国立研究機関。敷地内には、多発性硬化症、亜急性硬化性全脳炎、筋疾患などで国内1位の治療実績を誇る「国立精神・神経医療研究センター病院」を併設しており、研究所と病院とが一体になって診察・研究をおこなっている点が大きな特徴だ。

青木 吉嗣先生は、そんな国立精神・神経医療研究センターにて「遺伝子疾患治療研究部」の部長を務める研究者。その部門名のとおり「遺伝子疾患」……中でも筋肉にまつわる研究に携わられている。「遺伝子疾患の研究の特徴は、発症メカニズムが証明しやすいところです。これがたとえば糖尿病とかになると、遺伝子要因だけでなく、加齢や過食などのさまざまな環境要因が影響するため、実験系に落とし込むことが難しい。その点、一つの遺伝子の異常によって発症する遺伝子疾患の場合は、マウスなどに遺伝子変異を起こさせることで、発症の状態を綺麗に把握できるのです」。

青木先生が目指すゴールのひとつは、遺伝子疾患の根本治療。まだ道半ばながら、実際に先生は、製薬企業と共同でデュシェンヌ型筋ジストロフィーのエクソンスキップ薬「ビルトラルセン」の開発に、国内ではじめて成功するという実績も残されている。「ビルトラルセンは、すでに市販されており、国内では100名以上の患者さんに投与されています。その他、最近だとヒト尿由来細胞の研究を一生懸命やっていて、創薬につなげられるように設計を進めているところです。またアメリカの遺伝子治療の大御所と一緒に、次世代の遺伝子治療薬の開発も進めています」。

世界初となる筋ジストロフィー症状を再現したマイクロミニブタを開発

また青木先生と言えば、あまり他に類を見ない「犬の筋ジストロフィーモデル」を使って治療研究をおこなっていることでも知られている。あえて大型動物を使う理由は、マウスと人間だとスケール感が違いすぎるから。「たとえば遺伝子治療でも細胞移植治療でも、マウス実験を経てから、人に対応させるとなると、投与量を数千倍で考えないといけない。その点、犬だとせいぜい10倍程度で済むのです。私たちは、人に応用することをかなり強く考えているので、実験には大型動物を挟むようにしています。しかし動物実験は大きくなるほど、そのぶん研究費もかかります。たとえば、ウイルスベクターの研究をおこなうとなった際、体重が1キロ重くなるだけで、研究費が数千万プラスされます。マウスだったら数百万円程度の研究費で済むところ、大型動物になると何千万円、何億円レベルになる。だからこそ、頑張って予算を取ってくるしかないんですよね。これは宿命だと思っています」と青木先生は語る。

なお近年、青木先生の研究室では世界に先駆けて「マイクロミニブタの筋ジストロフィーモデル」の開発に成功したとのこと。「九州大学、静岡県畜産技術研究所と一緒に作りました。犬の筋ジスモデル自体も、ここを含めて世界に数施設しかありませんが、マイクロミニブタの筋ジスモデルは、現時点で世界で唯一ここだけになります」との言葉からも、その希少性の高さが伺える。

Labメンバー同士、また外部組織をつなげるハブ役として

遺伝子疾患治療研究部のメンバーは、現在35名。それぞれが複数のチームに所属して部内で研究を進めると同時に、研究分野によっては外部機関、外部組織、外の大学との共同研究もおこなっている。青木先生は、そのハブ役として、研究者同士をつなげたり、アテンドをおこなう役割も担っているとのこと。「いつしか、そういう役割を担うようになりましたね。遺伝子疾患治療研究部の部長というだけでなく、他にもいくつかの研究会や組織運営に携わっていることもあって、いろんなものをつなげられる立場になりましたから」。

そう青木先生が語るように、先生は日本筋学会の理事、尿由来細胞研究会と日本希少疾患コンソーシアムの代表、精神・神経疾患研究開発費の班長など、さまざまな組織を率いる立場として、研究を実現させるためのコーディネーターとしても活躍されている。

またご自身の研究活動においても、製薬会社と組んで創薬の開発を行ったり、未診断疾患イニシアチブ(IRUD)と連携して遺伝子のデータを明らかにしたり、京都大学と組んで創薬プラットフォームの構築を模索したりと、多彩な協業を進められている。これらのプロジェクトが進むことによって、遺伝子にまつわる筋肉の疾患に困っている人たちの大きな助けになることが期待されている。

川井充先生、武田伸一先生との出会いによって医師から研究者へ転身

今や研究者として、また組織を束ねる長として活躍されている青木先生だが、実は元々、医師として働いていたという経歴を持っている。「2001年に東北大学の医学部を卒業した後は、秋田県横手市の平鹿総合病院で3年間臨床をやっていたんですよ。第二内科でひたすら病棟業務とカテーテル治療などをやっていました。しかし働いているうちに、もっと違うことにも挑戦したいと思うようになりました。そんなときに、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者さんと出会い、難病に非常に興味を持ちました。そのとき当時の先輩に、東京に国立精神・神経センター武蔵病院(現:国立精神・神経医療研究センター病院)という専門施設があるから見てきたら?と背中を押してもらったのです」。

青木先生はそこで、筋ジストロフィー医療の大家として知られる川井充先生との出会いを果たすことになる。「川井充先生は、「診断は問診から始まる」を体現する卓越した臨床医でした。もちろん、そこから打腱器などを使って8~9割の精度まで上げて、最後の確認に画像を撮るのですが、初期段階の「あたり」の精度が高いと、いろんな意味で効率的ですし、なにより患者さんの負担を大きく減らせる。まるで神様のような先生だと、当時とても感動したことを覚えています」。

さらにその後、縁あって3か月間ほど国立精神・神経センターの研究所の所属となった青木先生は、またそこでも筋ジストロフィー研究の第一人者・武田伸一先生と出会う。武田先生は、とても情熱的でお話も上手く、気がつけば周囲が一緒に動いているような、強い巻き込み力をお持ちの先生です。「臨床で救えるのは数千人かもしれない。けれども、研究が成功すれば、何万人もの患者さんを救える可能性がある。」という言葉に感化されて、研究者の道に進むことになったのです」と語る青木先生。

ふたりの先生方と出会ったことで、青木先生の人生は「医師」から「研究者」へと、大きな転機を迎えた。「そこから国立精神・神経センターで研究しながら、東京医科歯科大学の博士課程を2011年に修了。2012年からはオックスフォード大学に留学して、マシュー・ウッド先生と次世代アンチセンス核酸医薬の研究、またケビン・タルボット先生とはALSの研究をやりながら、教職員としても働いた後に、再び国立精神・神経医療研究センターに戻ってきました」。

そして、2019年には神経研究所遺伝子疾患治療研究部の部長に就任。先生の主軸にある「筋肉」だけでなく、筋ジストロフィーの脳の症状や、ALSといった神経科学研究にも携わることになる。「筋ジストロフィー以外は、流されるように研究することになった分野ですが、しっかりやって論文も出せていますし、結果として研究の幅が広がって良かったと思っています」。

BZ-Xシリーズは今や研究基盤であり、標準装備のひとつに

BZ-Xシリーズでの解析・確認風景

青木先生が、BZ-Xシリーズにはじめて触れたのは2008年。当時の上司となる武田先生のLabにいた時のこと。「凍結切片を手軽に見たかったのと、タイリングをやる必要があったけど、Labにある共焦点顕微鏡だと、非常に手間と時間がかかるうえ、場合によっては蛍光シグナルが退色するという問題点もあったので、武田先生にご相談してBZ-Xシリーズ(当時:BZ-9000)を導入して頂きました。当時、私はまだ博士課程でしたけど、Labで重要な研究に携わっていたこともあって話が通りやすかったんですよ(笑)」。

しかしオックスフォード大学留学中は、現地にBZ-Xシリーズはなかったこと、また動物実験が法的に厳格化されていることから、主に細胞実験に注力していたとのこと。「イギリスでは、半年かけてマウス実験のための試験を3つ受けたのですが、出てくる問題の中には「伝統的に女王の所用とされる鳥はなにか?」みたいな変な問題もあって、取得はかなり大変でした。ちなみに答えは、野生の白鳥です(笑)。ただライセンスを取得しても、BZ-Xシリーズがなかったこともあり、ほとんど凍結切片を見るような研究はやっていなかったんですよ」と、青木先生。

しかし青木先生の研究にとって、凍結切片の確認は必要不可欠。そこで国立精神・神経医療研究センターに戻られると、すぐに今度はご自身の予算で、当時の最新型・BZ-X800を導入された。「日本に戻ってきて間もなく、AMEDの「ステップ0」は代表として、「革新的バイオ」と「ステップ1」は他の先生と共同で取れたんですよ。あの頃はまだ研究部も小さく、機器設備に投資できる余裕があったので、たくさん機器を更新しました。そのひとつがBZ-Xシリーズでした」。

また「当時の最新型ということもあって、前に使っていたものより、画像は綺麗だし、タイリングは早いし、とても好印象でした。またオプション装備をつければタイムラプスもできるようになるという点も魅力でしたね。今や、私の研究部でBZ-Xシリーズは必須機器。研究基盤であり、標準装備のひとつだと思っています」と、導入したBZ-Xシリーズに対する印象も語っていただけた。

性能、利便性の高さとさまざまな研究に有用な点を評価

2018年に導入されたBZ-Xシリーズ(BZ-X800)は、約10年経過した現在も、研究の最前線に立つ多くのLabメンバーによって便利に活用されている。「たとえば、筋肉の細胞膜にジストロフィンが回復しているかを確認する時に、BZ-Xシリーズはすごく強い。広い範囲をすぐ見られて、綺麗に合成もしてくれる。防振台に載せれば60倍とかでも綺麗に撮れるのは良いですね。解析ソフトも豊富で、たとえばマウスの骨格筋の中心核線維の数を自動的に数えてくれたりするんですよ。かつては、小さい筋肉の線維を拡大コピーして、数千本の筋線維の直径をノギスを使って測っていました。それが一瞬で数値で出してくれるので、平均値などの定量性を出すことも、ヒストグラムを出すことも簡単にできる。研究のスピードが大幅に向上しました」と、青木先生はその利便性の良さを語る。

実際に、青木先生はBZ-Xシリーズを有効活用することで、大きな発見も残している。「大学院生が、患者さんから尿を採ってきて、どんな風に細胞が増えるのか、BZ-Xシリーズのタイムラプス機能を使って何日も観察してみました。すると、何もないと思っていた細胞皿の底にぴょっと細胞が現れて、動きながら増え始めたんですよ。そうした発見もあり、尿由来細胞を疾患筋細胞に変換するという技術を確立できました」。

さらに「BZ-Xシリーズは、細胞も見られるし、凍結切片も見られるとあって、筋研究に限らず、神経系などいろんな研究に役立ってくれています。今、私たちは大脳オルガノイドを作っているのですが、その研究でも非常に有用です。キーエンスで測定したとメソッドに書いている論文は、結構多いと思います」との言葉も。多様な研究に幅広く使える点も高く評価いただけているようだ。

次世代医療につなげる研究と、創薬プラットフォーム作りについて

最後に青木先生に、今後の展望について伺った。「まず研究費の申請という方向性から行くと、新しい治療法を作りたいと思っています。というのも現在、米国食品医薬品局(FDA)が、NAMs(New Approach Methodologies:新規アプローチ法)といって、動物実験を減らして、ヒト細胞、オルガノイド、臓器チップ、AIなどを活用した新しい非臨床評価法へ移行する取り組みを推進しているのですが、その研究には、私の専門分野であるヒト尿由来細胞がキーになると考えているからです。ですので最近の研究構想は、NAMsによる研究をリードしながら、次世代の層別化医療につなげていくことを中心に考えています」とのこと。

また青木先生は研究だけでなく、プラットフォーム作りにも積極的だ。「今は、先ほども少しお話しした、京都大学の先生との創薬プラットフォーム作りの構想を進めています。京都大学は『計算』に強く、私たちは『患者由来細胞』に強い。この二つが組み合わさることで、創薬研究は大きく前進すると考えています。そこで私たちが、細胞のオミックス解析データなどを提供することで、計算を進めていく……というやり方になります。最近だと、AlphaFold(アルファフォールド)という技術を使うことで、2Dではなく3Dでタンパク質を構成してインターラクションも見ることができるようになってきたので、かなり早いスピードで完成形に近い状態に持っていけるようになりました。そうすると、その後には、患者ごとの医薬品を迅速に製造する拠点が必要になってきます。そこには、きっとBZ-Xシリーズを始めキーエンスさんの機器があるはず。その時はぜひ、あらためてご協力を仰ぎたいと思っています」。