「BZ-Xシリーズ」は私のキャリアを支えてくれた存在。導入後は常に私の研究をサポートし、主要論文の作成にも役立ってくれています

- 国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構
量子生命科学研究所 量子生命スピングループ 量子超偏極 MRI チーム
グループリーダー/チームリーダー
(兼任)
量子医科学研究所 分子イメージング診断治療研究部
千葉大学 量子生命構造創薬センター (cQUEST) 連携教授
高草木 洋一 様 -
2006年、東京理科大学薬学部の大学院にて博士課程を修了した高草木 洋一先生は、そのまま東京理科大学の理工学部の助教に就任。医療系ベンチャーである株式会社CANGOの調査員も務めながら、「レブリチン®」の開発に携わります。そして2011年からは、アメリカ国立衛生研究所の国立がん研究所に留学。ここで今の研究へと繋がる「超偏極技術」と触れることとなります。
2014年に帰国してからは、九州大学、東京大学、福島県立医科大学を歴任。さらに2017年からは量子科学技術研究開発機構に所属し、量子生命科学研究所 量子超偏極 MRIチームを率いる立場として、ご自身の研究はもちろん、部下、施設、国家プロジェクトを牽引し続ける存在に。
そんな高草木先生は、現在、若手の研究者を広く募集されているとのこと。「量子生命科学はまだできて6年程度の新しい分野ということもあって、人材の確保が後手に回っています。もし最先端の研究に興味のある「ポスドク」、「大学院生」がいたらぜひ手をあげていただければと思います」とのお言葉もいただけた。
主な論文
Radiotherapy Synergizes with the Hypoxia-Activated Prodrug Evofosfamide: In Vitro and In Vivo Studies
Takakusagi Y. et al. Antioxid Redox Signal 28, 131, 2018
A Multimodal Molecular Imaging Study Evaluates Pharmacological Alteration of the Tumor Microenvironment to Improve Radiation Response
Takakusagi Y. et al. Cancer Res 78, 6828, 2018
Hyperpolarized [1-¹³C]pyruvate NMR spectroscopy reveals transition of tumor energy metabolism in microscale multicellular spheroids
Takakusagi Y. et al. Sci Rep 15, 19303, 2025
量子科学技術を用いて、まったく新しい国産の「超偏極MRI」開発に挑まれている高草木先生。そんな先生の研究キャリアには、常にキーエンスのオールインワン蛍光顕微鏡・BZ-Xシリーズが側にあり、がん微小環境やマイクロスケール・スフェロイドなどさまざまな細胞や信号の観察に役立てられているとのこと。そこで高草木先生に、今取り組んでいる研究内容やご経歴と共に、BZ-Xシリーズがどのように役立っているのか詳しく伺いました。
- 多数の国家プロジェクトにも関わる最先端の「量子科学技術」を研究
- ヘリウムフリー化・小型化させた超偏極MRIの実現に向けて
- 「薬の作用メカニズム」に興味を持ち研究者の道へ
- 高草木先生の人生を支えた「人」と「物」
- BZ-Xシリーズはがん微小環境の謎を解き明かす不可欠なパートナー
- 高草木先生が語るサイエンティストとしての思い・野望とは
多数の国家プロジェクトにも関わる最先端の「量子科学技術」を研究

高草木先生が籍を置く「量子科学技術研究開発機構(以下:QST)」は、2016年に前身である「放射線医学総合研究所」と「日本原子力研究開発機構」の一部が統合して誕生した国立研究開発法人だ。その目的は、量子科学技術による持続可能な未来社会の実現。そのために設備投資、外部機関との連携、人材育成など多彩な角度からサポートを行いながら、「量子ビーム科学研究分野」、「量子エネルギー研究分野」、「量子医学・医療研究分野」、「量子技術イノベーション研究分野」という4つの領域を中心とした研究を推進している。
「量子技術開発を進めると共に、いわゆる従来の放射線、核融合、光科学、ナノテラス、低線量放射線などを駆使して、これまでにできなかった構造解析や生体解析を全国7つの地区から進めている組織です」と、高草木先生。
今でこそ、現代科学のど真ん中、最先端と言われる量子科学技術の分野だが、かつては「量子冬の時代」も経験しているという。高草木先生、曰く「量子コンピューター開発を中心とする量子科学は1990 年代後半からの長い停滞期と、2005 年~2015年頃までの冬の時代を経験しました。当時は研究者も少なく、細々と研究を繋いできた歴史があるのです」とのこと。
しかしGoogleが「量子超越性」を実証した実験機を生み出すなど、社会実装に兆しが見えたことで、量子科学の分野は再び脚光を浴びる。「2020年以降には複数の国家プロジェクトが策定されるなど、国がかなり精力的に研究開発に投資するようになりました。そのお陰もあって、国産の装置開発などを積極的に進められています。また、2025 年は、量子力学生誕 100 周年にあたり、これを記念して国連総会が国際量子科学技術年と指定しました。」と高草木先生が語る通り、ここ数年で量子科学技術をめぐる環境は大きな変化を遂げている。
高草木先生は、そんな量子科学技術にまつわる国家プロジェクトを担う人物のひとり。文部科学省「Q-LEAP」や内閣府「SIP」、「JST創発的研究支援事業」などの大型の研究プロジェクトを推進し、量子センシング技術の医療応用に向けた研究を牽引している。
「現在は、QST内の量子生命科学研究所のグループリーダーとして、複数のチームを率いながら、国内初となる超偏極NMR/MRI研究拠点の整備や研究開発、施設運営、人材育成などに携わっています」。
ヘリウムフリー化・小型化させた超偏極MRIの実現に向けて
高草木先生の研究の中心は、低分子化合物を活用した診断・治療技術の開発。その中でも特に「超偏極MRI」と呼ばれる画像診断技術に力を入れられている。
「超偏極MRI」とは、2003年にデンマークのヤン・ヘンリック・アーデンキア=ラーセン先生が開発された「超偏極技術」を用いて開発された次世代のMRI。
「MRIは通常、ガドリニウム造影剤を静脈に投与して撮影を行いますが、超偏極MRIでは、分子プローブという低分子化合物を用います。分子プローブにもいろいろありますが、一番開発が進んでいるのが「ピルビン酸」という代謝物質です。これを炭素13(¹³C)という同位体で標識すると、信号を1万倍~10万倍に増幅させられます。これががんに到達したときに、大量に乳酸へと代謝・変換される様子を画像として観察するというのが、超偏極MRIの仕組みです」と、高草木先生からもご説明いただけた。
現時点で最新の超偏極装置は、世界に23台存在。すでにカリフォルニア大学では人に分子プローブを投与する研究まで開始されている。QSTにもそのうちの1台が導入され、高草木先生はこの装置を元に基礎研究に打ち込み、「複数の酵素活性の同時可視化」や「オリゴペプチド型超偏極プローブの開発」など、数々の世界的な成果を残されてきた。
そんな高草木先生が、現在進めている研究が、国産技術による超偏極MRIのヘリウムフリー化と小型化だ。
「現状の超偏極装置では、「マイナス271.7度の極低温」と「6.7テスラの強磁場」という極限環境が必須です。そしてその環境を維持するには、ヘリウムを用いるしかありません。しかし昨今の中東情勢やAIブームにより、世界は深刻なヘリウム不足に陥っています。また開発当初の超偏極装置は、3メートル近い大きさがあり、現行の装置もある程度幅をとるため、取り回しが非常に悪いという欠点も抱えています。そこで我々の研究チームでは、低温下でなくても光と特殊な分子を使うことで高感度撮影ができること、そしてそれを持ち運びできるレベルの小さな装置にすることをコンセプトに据えて、開発を進めています」。
そんな次世代の国産 超偏極MRIの実現の先に見据えているのは、「地域の病院への実装」と「セラノスティクス(治療と診断の一体化)」の到来だ。
「日本には今、MRIが約7000台あると言われています。100万人あたりの台数が約55台というのは、世界一の普及率です。そんな現行のMRIに、超偏極装置をアタッチできれば、現状では難しい計測が、地域の病院にも実装できるようになります。また超偏極MRIは、リアルタイムで可視化できるため、分子の信号を観ながら、その場で一番良い治療を提供することもできます。究極的には、診断薬を注射してがんを可視化したら、それと同時に治療も一緒にすることも可能となるのです。超偏極MRIがあれば、そんな言わば「未来の医療」を、日本中、世界中に普及させていけるのではないかと期待しています」と、高草木先生。
実は、すでにヘリウムフリー化させた超偏極MRIは、プロトタイプの完成までこぎつけているとのこと。「まったくヘリウムを使わずに、高感度化させて画像撮影ができるという状況まで進んでいます。現時点ではまだ感度はそこまで高くありませんが、将来的にはヘリウムを使った装置に遜色ない、もしくはそれを凌駕するようなレベルにまで持っていくつもりです」。
「薬の作用メカニズム」に興味を持ち研究者の道へ
高草木先生の研究者人生のスタートは、東京理科大学の大学院 博士課程時代に遡る。薬学部有機合成化学の小林進先生の研究室に所属しながらも「薬の作用メカニズム」に興味を持った先生は、同大学の理工学部に属する「ゲノム創薬研究センター」で坂口謙吾先生と菅原二三男先生に師事し、共同研究を始められる。また同時期に、後にノーベル生理学・医学賞を獲得される大村 智先生が主催する「北里生命科学研究所(現:大村智記念研究所)」にも出入りし、天然物から薬効のある新しい化合物を探す研究にも従事されていたという。
博士課程修了後は、そのまま東京理科大学 理工学部で助教として約5年間勤務。ここで高草木先生は、ご自身の研究者人生の大きなターニングポイントとなる「レブリチン®」の開発に携わることとなる。
ちなみに「レブリチン®」とは……まだ動物用ながら、日本発にて世界ではじめて承認された放射線増感剤。腫瘍内の血流を増やすことで、低酸素状態を改善し、放射線治療の効果を飛躍的に高めることができる医薬品で、坂口先生と菅原先生が「スギノリ」から発見した天然由来成分「SQAG」が元となっている。
ただこの「レブリチン®」、放射線増感作用があることは分かったが、実は作用メカニズムはなかなか解明できない状態が続いていたという。「このメカニズムをなんか解明できないか、もっと効果的に調査や評価ができないかと思ったのが、私が留学しようと思ったきっかけです。特に、私はまだ動物実験をやったことがありませんでしたのでその技術を身に付けるため、また世界にはまだ知らない新しい技術があるかもしれないという思いもあって、アメリカ国立衛生研究所(以下:NIH)の放射線生物学部門の門戸を叩きました」。
高草木先生の人生を支えた「人」と「物」
留学先のNIHでは、ムラリ・クリシュナ・チェルクリ先生のLabに所属。「普通は新人のイチ研究者に、自由に化合物を触らせてはくれないものです。しかしクリシュナ先生はそんな私に研究を託してくれました。そのお陰もあって、新しい技術を学びながら研究に励むことができ、運よく「レブリチン®」の元「SQAP」のメカニズムを解明することができました」と、高草木先生はNIHでの成果を語る。
また高草木先生はこのNIH時代に、今の研究に繋がる「超偏極技術」とも出会う。そしてNIHの任期を終えた際、まだ日本にはなかったこの最先端の「超偏極技術」を研究開発するために、九州大学 先端融合医療創成センターの山東 信介先生のプロジェクトに参画する。
「九州大学時代からは、薬ではなく低分子化合物にフォーカスした研究にシフトしました。超偏極MRIでさまざまな診断ができるような分子プローブを開発することが、その主な研究内容です。ただこの時期からは、プロジェクトや組織改編などに振り回される形で、いろんなLabを転々とする時期が続きました。落ち着いたのは2017年、QSTに着任してからになりますね」と、高草木先生。
ただ所属Labは変わりつつも、「低分子化合物」や「薬」という高草木先生の軸となる部分は変わっていないという。「治療に役立つ「低分子化合物」や「薬」を作るためには、いろんな知識や技術が必要です。でも私は、薬を探すところは東京理科大学や北里生命科学研究所で学び、「SQAP」の試験や実用化は坂口先生と共に研究を進め、そのメカニズム解明や超偏極技術に関われたのはクリシュナ先生のLabがあったから……と、順序よくやりたいと思っていることにすべて関わってこれました。その甲斐もあって、今ではQSTに建屋と装置を構え、プロジェクトとして社会実装できるところまで経験を積むことができているという実感があります」。
高草木先生には、人生を支えてくれた「人」が2人、そして「物」が3つあると言う。
曰く、「まず人は、「坂口先生」と「クリシュナ先生」ですね。この2人との出会いは、間違いなく私のキャリアに大きな影響を与えています。そして物は、「レブリチン®」と「超偏極MRI」、そしてキーエンスの「BZ-Xシリーズ」です。「レブリチン®」であげた成果は、私の経歴を引っ張ってくれましたし、「超偏極MRI」にまつわる知識や技術は、私のキャリアの後半を形作ってくれていますから。そして、それらの研究を滞りなく進めてくれたのが、「BZ-Xシリーズ」の存在でした」とのこと。
BZ-Xシリーズはがん微小環境の謎を解き明かす不可欠なパートナー

高草木先生が、BZ-Xシリーズの存在を知ったのはNIH時代。マウスの切片の画像をタイリングしたり、その画像を解析する作業に追われていた頃とのこと。「BZ-Xシリーズがなかった頃は、従来の蛍光顕微鏡を使っていました。しかし、時間と手間を掛けても、高い品質は得られませんでした。接眼レンズをのぞき込み、ダイヤルを回して、フレームを動かして……という手動での作業を100枚、200枚行い、1週間かけて撮り終わった画像をいざ繋げてみると、とても発表に使える品質にならなかったのです。そんなある日、キーエンスの営業担当の方が研究所を訪れ、BZ-Xシリーズを紹介していただきました。その圧倒的な性能を知って、すぐに上司であるクリシュナ先生に相談。必死にアピールすることで、導入することができたのです」。
かくして2012年、高草木先生は新たに導入されたBZ-Xシリーズを活用することで、以前は困難だった広域かつ高精細な組織解析を実現。無事に成果をまとめることができたという。さらにその後も、高草木先生の研究には常にBZ-Xシリーズが寄り添い、次に挙げるような先生の主要論文に活用されるなど、さまざまな成果を残すこととなる。

「BZ-9000とBZ-II Analyzerを活用し、腫瘍全切片の連結画像を作成することで、低酸素領域(ピモニダゾール陽性)や血管(CD31)、ペリサイト(αSMA)の空間分布を正確に把握できるようになりました。これにより、薬剤SQAPによる血管正常化の定量解析や、放射線治療とプロドラッグの併用によるDNA損傷(γ-H2AX)の空間的なマッピングが実現できました」

「国内に拠点を移した後もBZ-Xシリーズは常に傍らにありました。最新の研究では、BZ-9000およびBZ-X700を用いて、直径約150μmのマイクロスケール・スフェロイドの形態観察と直径計測を実施しました。この精密な画像データがあったからこそ、形態学的な変化と、¹³C NMRで捉えた代謝シフト(ワールブルク効果)を、確信を持って結びつけることができました」
「BZ-Xシリーズは、今や研究の強力な武器です。がん微小環境の謎を解き明かす不可欠なパートナーとして、私の研究活動を支え続けてくれています」と、高草木先生は語る。さらに「来年度は、最新型のBZ-X1000の導入を、共焦点ユニットも含めて検討しています。今使っているBZ-X710は別の棟に置いていることもあって、撮影には多少の手間と時間が掛かってしまっています。新型を導入して、今いる「量子生命科学研究所」に置けば、さらに生産性が上がるのではないでしょうか」と、最新型導入にも前向きだ。
高草木先生が語るサイエンティストとしての思い・野望とは
研究の最前線に立ちながら、チームやグループを率い、同時に国家プロジェクトにおける省庁とのパイプ役や、千葉大学に通う学生たちの指導役も担われている高草木先生。ひとり何役もこなしながら、多大な功績も残し続けられている先生に、「どのような思い」を持って日々の業務に励まれているか伺ったところ、次のような言葉をいただけた。
「私にとってサイエンスとは、単に未知の事柄を解き明かすことではなく、「誰も見たことのない未来を自らの手で創ること」だと考えています。国内にまだ基盤がなかった「量子超偏極MRI」の分野に飛び込み、自ら研究拠点を立ち上げて新しい分子プローブや診断技術の開発に挑んでこられたのも、すべてはこの信念があったからです。そしてその挑戦で分かったことは、「模倣からは決して革命は生まれない」ということです。そんな私が目標に掲げていることは、「新しい学問」を創ること、「医療の未来」を書き換えること、そして先達を追いかけるのではなく「世界中から追いかけられるような技術」を生み出すことです。その実現のため今挑んでいる「量子超偏極MRIを核とした新しい診断・治療技術の創出」が、もし社会実装にまで繋がれば、きっと多くの人々の人生が良い方向へ変わっていけるのではないでしょうか」。
また、そうした革命的な技術を「日本発」で生み出すことにも、高草木先生はこだわられているという。「日本には、優れた研究者がいますし、ハイレベルな技術も備えています。しかし多くの分野で、海外の後塵を拝しているというのが現実です。そんな状況を覆すために、私は今取り組んでいる「量子超偏極技術」を国産技術として大きく発展させて、世界標準の技術に育てていきたいと思っています。そして、かつて世界に先駆けて新しい価値を生み出し、常識そのものを変えてきた「日本」の存在感を取り戻したいと思っています」。
常に研究の最先端に立ち「ここにしかないオリジナル」を追い求める高草木先生。その妥協なき挑戦の先には、誰も見たことのない未来の科学と医療が待ち構えていることは間違いなさそうだ。


