非金属である黒鉛が組織中に3次元的に分散している複合材料(鋳鉄)。その一種であるダクタイル鋳鉄は、球状化した黒鉛を含むことで機械的特性に優れ、自動車部品やインフラ設備などに用いられています。この特性を保証するために重要なのが、工業規格に沿った黒鉛球状化率(nodularity)や丸さ係数の測定と評価です。
ここでは、丸さ係数や黒鉛球状化率の求め方、最新の4Kデジタルマイクロスコープを使った定量的かつ効率的な測定事例を紹介します。

黒鉛球状化率の測定・評価の効率化

黒鉛球状化率・丸さ係数での評価

ダクタイル鋳鉄とは

「ダクタイル鋳鉄(FCD材)」とは、黒鉛(グラファイト)を球状化させることによって優れた機械的特性を持つ鋳鉄の1種で、球状黒鉛鋳鉄やノジュラ鋳鉄とも呼ばれます。
代表的な鋳鉄であるねずみ鋳鉄(FC材)とダクタイル鋳鉄の違いとして、ねずみ鋳鉄は、含有する黒鉛が片状であるため応力が集中しやすく、もろさ(靭性の低さ)の原因であることが挙げられます。一方で、ダクタイル鋳鉄はMg(マグネシウム元素)を0.04%、Ce(セリウム)とCa(カルシウム)をそれぞれ0.02%以上含み、晶出された球状の黒鉛によって、耐摩擦性や粘り強さ(靭性)など優れた機械的特性を実現しています。
ダクタイル鋳鉄の主要な用途として、上下水道やガスなどの各種配管材料が挙げられます。そのほかにも自動車部品など、靭性や耐摩擦性が求められる用途で幅広く用いられています。

黒鉛球状化率・丸さ係数と機械的特性

ダクタイル鋳鉄のような球状黒鉛鋳鉄品では、黒鉛が分布する割合(黒鉛球状化率)や黒鉛の球状の程度(丸さ係数)が、その耐摩擦性や靭性、引張強さ、延性といった機械的性質に大きく関係します。
そのため、ダクタイル鋳鉄の評価において、黒鉛球状化率や丸さ係数の定量的な測定と評価は、品質と特性を保証するうえで非常に重要です。

JISとISOでの定義の違い

JISとISOとでは黒鉛球状化率の定義において次のような違いがあります。JIS G 5505「CV 黒鉛鋳鉄品」において、黒鉛球状化率は顕微鏡で観察した組織中のΦ10μm以上の黒鉛の外接円からの変形度合(NIK 法[日本鋳物協会法]に基づく形状係数)で定義されています。一方、ISO 1083「球状黒鉛鋳鉄」では、顕微鏡で観察できる組織を優先し、その中に存在する「ほぼ球形」の黒鉛を球状黒鉛粒子としてその比率を黒鉛球状化率と定義しています。また、丸さ係数の分類や参照番号などを定義しているISO 945では、JISと同様に10μm未満の黒鉛はカウントの対象としません。
このページでは、ISO(国際標準化機構)の定義に基づいた黒鉛球状化率を例に解説していきます。

黒鉛球状化率・丸さ係数の求め方

球状化した黒鉛が、完全な円形になることはありません。そのため、黒鉛球状化率を測定するには、「ほぼ球形」の形状を黒鉛を球状化したものと定義して判別する必要があります。一般に、物体の形状において丸さは円形度(circularity)を用いて評価されますが、黒鉛球状化率では、円形度とは異なる概念である「丸さ係数(roundness-Factor)」で規格に沿って分類し、計算式に当てはめて算出し、評価します。

丸さ係数の求め方

黒鉛の球状化を評価するために用いる「丸さ係数(R)」は、図のように材料中に観察される黒鉛の最大径(長軸)をL、面積をS、最大径を直径とする円をDとし、Sの面積をDの面積で割ることによって求められます。

丸さ係数の求め方

つまり、それぞれの値は、下記のような関係になります。

丸さ係数の求め方
丸さ係数の求め方

これらをまとめると、丸さ係数を求める計算式は下記のようになります。

丸さ係数の求め方

黒鉛球状化率の求め方

黒鉛球状化率を求めるにあたり、工業規格によって標準化された丸さ係数による分類やサイズによる参照番号を用います。ISO 945に基づいた分類や規格、それを用いて球状化率を算出する方法などを紹介します。

下記はISOに準じた基準ですが、適宜規格が改定される場合があります。必ず最新の規格もご確認ください。また、JISに準ずる場合や事業者間で固有の取り決めがある場合はそちらをご確認ください。

丸さ係数による分類
丸さ係数による分類
球状黒鉛(spheroidal graphite)
丸さ係数(R):≧0.80
丸さ係数による分類
V
やや不規則な球状黒鉛(slightly irregular spheroidal graphite)
丸さ係数(R):0.60≦~ <0.80
丸さ係数による分類
IV
不規則な球状黒鉛(irregular spheroidal graphite)
丸さ係数(R):0.45≦~ <0.60
丸さ係数による分類
III
バーミキュラ(コンパクト)黒鉛(vermicular [compacted] graphite)
丸さ係数(R):0.10≦~<0.45
丸さ係数による分類
I
ラメラ(フレーク)黒鉛(lamellar [flake] graphite)
丸さ係数(R):<0.10
サイズによる参照番号(size class)の分類
参照番号 黒鉛のサイズ(mm)
1 ≧1
2 0.5≦~<1
3 0.25≦~<0.5
4 0.12≦~<0.25
5 0.06≦~<0.12
6 0.03≦~<0.06
7 0.015≦~<0.03
8 <0.015

ISOでは、10μm未満の黒鉛はカウントの対象としません。

黒鉛球状化率の計算方法
黒鉛球状化率を算出するには、10μm以上のサイズで、丸さ係数から「V」と「VI」に分類された黒鉛の面積を10μm以上のサイズの黒鉛の総面積で割った値となります。
球状化率を求める計算式と代入する値の解説を以下に示します。
黒鉛球状化率の計算方法
AvI
最小サイズ(10μm)以上で、丸さ係数で「VI」に分類される黒鉛の面積。
Av
最小サイズ以上で、丸さ係数で「V」に分類される黒鉛の面積。
Aall
最小サイズ以上の黒鉛の総面積。

黒鉛球状化率の測定・評価を効率化する方法

通常の顕微鏡を用いて黒鉛球状化率を導くには、丸さ係数の測定と算出による分類や面積の計算、カウントなど煩雑な作業が必要となります。しかし、作業には多くの時間や労力がかかるうえ、人為的なミスが生じやすく、定量的な評価が困難でした。
また、PCのソフトウェアを使った画像解析においても、顕微鏡で拡大した黒鉛を鮮明に撮影して画像化することに手間と時間を要するうえ、多数の画像データと数値データの管理、さらにはそれらを用いたレポート作成など、作業が煩雑となってしまうことも課題でした。

キーエンスの超高精細4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、高分解能HRレンズと4K CMOSを搭載し、高解像度4K画像でさまざまな形状やサイズに球状化した黒鉛を高精細に捉えることができます。また、その高精細画像から黒鉛の面積計測やカウントを自動で行うことが可能です。さらに、クリアな画像と正確な値をExcelのフォーマットに出力することができるため、レポート作成までの一連の作業を飛躍的に効率化することができます。

黒鉛球状化率の自動面積計測・カウント

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、深い被写界深度を実現した独自の観察システムで視野全体にピントが合った画像を簡単に得ることができます。それにより、サンプルに含まれている黒鉛とその形状をクリアな4K画像で捉えます。その高精細画像を用いて黒鉛の高精度な自動面積計測・カウントをシームレスに実施できるため、定量的な解析結果をスピーディに取得することが可能です。

なお、自動面積計測・カウント機能では、指定した条件下で球状化した黒鉛を判別して個数や面積のほか、総面積、総面積率、さらに黒鉛の最大径やその平均、標準偏差、最大値、最小値など、さまざまなデータを自動で素早く取得することができます。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」での球状化した黒鉛の自動面積計測・カウント
4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」での球状化した黒鉛の自動面積計測・カウント
4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」での球状化した黒鉛の自動面積計測・カウント

球状化した黒鉛の鮮明な4K画像(左)とそれを用いた高精度な自動面積計測・カウント(右)

黒鉛球状化率のレポート作成を効率化

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、球状化した黒鉛を高精度に自動計測できるだけでなく、取得した画像データと数値データを使ったレポートを自動作成することも可能です。
「VHXシリーズ」に直接Excelをインストールできるため、PCを使用しなくてもそのままレポートに出力できます。目的に合ったテンプレートに解析データを出力し、規格に沿った値を自動的に算出して表示。さらに、解析対象とした画像も自動でレイアウトできます。

下の画像は、「VHXシリーズ」1台で黒鉛の観察画像・解析データを取得し、Excelテンプレートに出力した例です。このように、ISOに準じた丸さ係数による分類(type)や参照番号(size class)、個数(count)、各種の面積計測結果、そして黒鉛球状化率(nodularity)を示すレポートを自動で作成可能です。
これまで解析や計算、データ管理など、レポート作成にかかっていた手間と時間を大幅に削減することができます。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」での黒鉛球状化率のレポート自動作成
4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」での黒鉛球状化率のレポート自動作成

黒鉛球状化率の評価を1台で完結し、効率化する4Kデジタルマイクロスコープ

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、鮮明な4K高解像度画像とそれを用いた高精度な自動面積計測・カウントで正確なデータを簡単に取得することができます。また、工業規格に沿った項目を示すレポート出力まで、黒鉛球状化率の評価に必要な一連の作業を1台で完結することができます。

従来は、多くの時間と手間のみならず、測定者の熟練度も必要とする黒鉛の目視確認や測定、数値の手動入力では、ヒューマンエラーや測定者による数値のバラつきのリスクが伴うことが課題でした。
しかし「VHXシリーズ」を導入することにより、これまで煩雑だった黒鉛球状化率の定量的な測定・評価を1台で容易に完結し、大幅な工数削減を実現します。

詳細に関しては、以下のボタンよりカタログをダウンロード、または、お気軽にご相談・お問い合わせください。