摩擦・摩耗・摺動試験と観察・解析・測定
運動する部品と部品の間には摩擦が発生します。たとえば、自動車や電車の動力を伝達するパワートレーンには、クラッチ・トランスミッション・ドライブシャフトなど、多くの部品が使われており、これらを「摺動部品」といいます。
摺動部品には、摩擦による発熱や摩耗が発生します。摩擦による発熱や摩耗は、機械システムの故障原因の大半を占め、その経済的損失は小さくありません。そして、この損失を低減するために行う摩擦試験や摩耗試験、摺動試験による部品やその素材の特性の評価を「トライボロジー試験」といいます。
ここでは、摩擦・摩耗試験や摺動試験、さらに摩擦全般を科学するトライボロジーの観点から、試験や測定の方法と、4Kデジタルマイクロスコープを用いた最新の課題解決事例を紹介します。
摩耗・摩擦・摺動試験
試験片と相手材を摩擦し、その際の摩擦係数*や摩耗量を測定する試験です。
摺動部品が使われている各種業界では、新製品の研究開発・製品の品質評価や受託分析として、摩擦・摩耗試験や摺動試験による素材の変化を評価する事例が多く見られます。このような事例は潤滑油・グリースメーカー、ベアリングやプーリーなどの部品のサプライヤー・モーターメーカーなど、摺動部品に関連するさまざまな業界において品質保証上必要な試験として行われています。
摩擦係数:接触面が摩擦力におよぼす影響を数値化したもの。単位はなく、「μ(ミュー)」で表される。「動摩擦係数」と「静止摩擦係数」があり、数値は物体や表面加工によって変わる。
摩擦・摺動・摩耗試験の方法
摩擦試験は、摺動試験と共に摩擦の大きさを測る試験で、一般に結果は摩擦係数で求められます。一方、摩耗試験は摩擦によって変化した状態を測る試験で、摺動面の変形や傷・打痕から結果を求めます。
摩擦係数の測定方式には、計測器で摩擦力を測定する方法や駆動モーターの負荷電力を測定し変換して求める方法、摩擦による振動減衰*の挙動から求める方法、また、斜面上に置いた物体が滑り始める角度を基に最大静止摩擦力*を求める方法などがあります。これらの試験では、摩擦や摩耗だけでなく、潤滑剤の効果や劣化なども試験の対象になります。
振動減衰:振動が、時間の経過と共に小さくなる現象。「減衰振動」ともいう。
最大静止摩擦力:静止している物体を移動しようとしたときに発生する摩擦力。対して、移動中に発生する摩擦力は「動摩擦力」、ベアリング内のボールやニードルなどに発生する摩擦は「転がり摩擦力」という。
トライボロジー試験
ベアリング(軸受)に代表される摺動部品にとって、摩擦抵抗は大きな負荷であり損失です。この抵抗を低減するには、部品の機械的特性である材料力学はもちろん、潤滑油の流体力学、熱による表面現象を測る熱力学など、多面的観点から包括的に取り組む必要があります。
このように、摩擦が与える影響を幅広く考察し評価する取り組みを「トライボロジー」といい、その特性を評価する試験を「トライボロジー試験」といいます。
トライボロジー試験の必要性
機械装置で発生する摩擦による熱の発生と摩耗による材料の損失は、機械的抵抗を引き起こし、機械装置が故障する最大の原因といわれています。この摩擦と摩耗を低減しコントロールすることは、単なるトラブル対策の技術ではなく、機械装置の信頼性や性能向上、さらに経済的損失を低減するためのコア技術といえます。
トライボロジー試験の特徴
摩擦・摩耗試験は、同じ材料でも試験片の形状や試験方式・雰囲気条件が変わるとまったく異なった特性値になることが多いといわれています。したがって、摩擦・摩耗試験では対象とする実際の現象がどのような条件にあるのかを把握し、それに近い条件で試験を行うことが必要です。また、潤滑剤の性能は、潤滑材の物性と界面化学的性質が大きく影響します。特に固体潤滑剤*は油やグリースに比べて耐荷重性能が高く、油やグリースへの添加剤としても利用されています。
トライボロジー試験は、使用条件に近い条件で行われ、摩擦に関する実際の環境を再現。摺動部品に使用される素材はもちろん、潤滑剤や部品の形状による特性なども評価の対象になります。
固体潤滑剤:摩擦から材料表面を保護したり、摩擦や摩耗を低減する固体物質。二硫化モリブテンやグラファイト、PTFE(Poly Tetra Fluoro Ethylene)などがある。
摩擦試験・摩耗試験・摺動試験観察の最新事例
摩擦・摩耗試験の試験片や摺動部品は一般に立体的であり、また強い反射面であることも少なくありません。この場合、一般的な顕微鏡の測定・解析では、ピント合わせや反射光対策など、検査員にとって難易度が高い操作が必要です。また、定量化による検討ができないなどの問題もあります。
近年ではテクノロジーの進歩により、デジタルマイクロスコープが従来の顕微鏡の諸課題を解決し、摩擦・摩耗試験の効率を大幅に改善しました。
奥行きのあるベアリングの打痕観察の効率化
ベアリングに何らかの打撃が加わってできる打痕の観察。観察面が平面でない場合、顕微鏡による高倍率観察ではわずかな高さの違いでピントが合わず、繊細なピント調整に時間を要しました。
4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、高解像度HRレンズと電動レボルバにより、レンズを取り替えることなく20~6000倍の「シームレスズーム」が可能なため、素早く目的の倍率にズームできます。
また、「ナビライブ合成」で自動的に深度合成し、対象物全体をフルフォーカスします。この機能なら、近くから遠くまでピントが合った超高精細4K画像で、正確かつ効率的な拡大観察・外観検査・評価を簡単に行うことができます。
そして、接続されているレンズを自動認識し、撮影画像とともに倍率データも管理することもできます。
デジタルマイクロスコープは、全体画像から部分の拡大画像までシームレスに高精細のままズームアップできる観察機能と、優れたデータ管理機能で検査効率の向上に貢献します。
摩擦面の損傷の観察と測定を1台で
観察と測定を行う場合、これまではそれぞれ機器の変更が必要で、多くの時間を要していました。
4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、鮮明な拡大・観察だけでなく、従来の顕微鏡では不可能だったさまざまな計測・測定、そして数値の取得が可能です。マウスによる簡単な操作で、摩耗試験後の摺動面のフレーキング*やピッチング*といった損傷の観察から粗さの検査に役立つ平面計測・粗さ測定まで、これ1台で手軽に実現します。
フレーキング:材料の転がり疲れによって、軌道面や転動体の表面が剥がれ、凹凸ができる現象。
ピッチング:軌道面にできる深さ約0.1mmの斑点状の穴。
光沢面の反射光を抑えて摩耗・摩擦を観察
摺動面が摩擦によって光沢化している試験片や試験球は反射光が強く、顕微鏡ではハレーションが障害になって観察できない場合がありました。
4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」であれば、「ハレーション除去」・「リング除去」機能で反射光をカット。摩擦で光沢を増した摺動面のハレーションを抑えてクリアに撮影できます。微細なヘアライン傷や摩擦痕と付着物の違いも判別できるので、摩擦・摩耗の状態をより正確に把握することができます。
1台で観察から2D測定・3D測定が可能
立体的な対象物の場合、これまでの外観観察では部分ごとにピント合わせが必要であるうえ、傷の見落としや人による評価の違いが問題になっていました。また、立体的な対象物であっても、2次元寸法測定のみで評価するほかありませんでした。
4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、鮮明な4K画像による拡大観察や2次元寸法測定に加え、3D形状の取得や3次元寸法測定、任意の断面のプロファイル測定が可能です。検査員の習熟度を問わず、簡単な操作で3D形状の解析・測定が可能なため、摩擦部表面評価の高度化と定量化、作業の効率化が同時に実現します。
市場の要求に素早く応えるための最新ツール
今後は、摩擦・摩耗試験の需要拡大のみならず、トライボロジーといった評価に応えるには、スピーディかつ正確な検査データに基づいた研究開発や品質改善、製造工程の確立が要求されます。
高精細4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」を導入することで、従来の顕微鏡に比べ飛躍的な作業効率化や、これまで不可能だった高精細な観察・解析・測定・評価が1台で完結します。他にも最先端の機能を数多く搭載した
「VHXシリーズ」は、品質とスピードの両方が求められるこれからの業界において、有効なツールとなります。
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