近年、地球温暖化防止など環境保護を目的に、化石燃料の消費抑制と太陽光発電の活用が広がっています。太陽電池を用いる主なメリットとして、太陽光があたる場所であればクリーンかつ無尽蔵にエネルギーを得られることが挙げられます。また、発電効率が設備規模に左右されず、太陽光さえ得られれば、設置場所をほとんど選ばずにエネルギーが得られることから、需要が拡大しています。
ここでは、太陽電池の動作原理・構造などの基礎知識から、高精細観察や高精度な測定・解析と定量評価、それらを高い作業効率で実現した事例までを紹介します。

太陽電池の評価における観察と解析

太陽電池の動作原理・構造・変換効率

現在、流通している太陽電池の主流は、「シリコン系太陽電池」と「化合物半導体系太陽電池」です。現在使用されている太陽電池は、従来から主流であるシリコン系太陽電池が大半を占めますが、製造コストの面で有利な化合物半導体系太陽電池もシェアを伸ばしています。ここでは、太陽電池の基本的な動作原理や構造、シリコン系/化合物半導体系太陽電池それぞれの代表的な材質や変換効率について解説します。

太陽電池の動作原理

広く採用されているシリコン系太陽電池は、内部に電気的性質の異なる2種類(P型・N型)の半導体を重ね合わせた構造を持っています。
太陽光パネルに太陽光が当たると、電子(-)と正孔(+)が発生します。正孔はP型半導体に、電子はN型半導体側に引き寄せられます。たとえば、下図のように、表面と裏面の電極に電球などの負荷を接続すると、そこに電流が流れます。

A:反射防止膜 B:N型シリコン C:P型シリコン D:電極 E:電流
  • A:反射防止膜
  • B:N型シリコン
  • C:P型シリコン
  • D:電極
  • E:電流

太陽電池の構造

太陽電池の構造と各所の名称を下図に示し、部位や形態による名称について解説します。

A:セル B:モジュール C:アレイ
  • A:セル
  • B:モジュール
  • C:アレイ
セル
太陽電池の最小単位です。
セルストリング・セルアレイ
セル1枚の出力電圧は低く、必要な電圧が得られるようセルを直列に数枚接続したものをセルストリングと呼びます。
必要な出力を得るために数本のセルストリングを直列または並列に接続したものをセルアレイと呼びます。
モジュール
セルアレイを屋外で使用できるようにパッケージ化したもので、太陽電池パネルとも呼びます。樹脂や強化ガラスで内部のセルなどを保護し、強度をもたせるために外枠にはめるなどした状態です。
アレイ
モジュールを複数並べて接続したもののことです。

太陽電池の変換効率と材質について

太陽電池の性能を示すスペックとして重要なのが「変換効率」です。変換効率とは、入射した太陽光エネルギーのうち、電気エネルギーに変換される割合を示す数値です。太陽電池の変換効率の指標としては、「モジュール変換効率」と「セル変換効率」の2つが代表的です。それぞれについて説明します。

モジュール変換効率

太陽電池モジュール(太陽電池パネル)の発電能力を表す指標として一般的に使われるのが、モジュール変換効率です。モジュール変換効率とは、太陽電池モジュール1㎡当たり、約1kWの光エネルギーを何%電気エネルギーに変換できるかを示す数値で、次の計算式で求めることができます。

モジュール変換効率(%) = モジュールの最大出力(W)×100 ÷ モジュールの面積(㎡)×1000(W/㎡)
セル変換効率

太陽電池モジュールを構成する最小単位の構成部品がセルです。セル変換効率は、太陽電池セル1枚あたりの変換効率を表す指標になります。セル変換効率は、次の計算式で求めます。

セル変換効率(%) = 出力電気エネルギー ÷ 入射した光エネルギー ×100

研究開発を重ねることによりモジュールやセルの変換効率は年々向上しています。ただし、現代の技術では、太陽光パネルの光の反射や、セル自体の電気抵抗などにより、入射した光エネルギーを100%吸収して、そのすべてを電力に変換することは不可能です。

太陽電池の材質と特徴
多種多様な用途やそれらに求められる機能、コスト実現のために太陽電池にはさまざまな材質が用いられており、変換効率も異なります。そのため、各社が変換効率の向上と低コスト化に向け、素材や製法の研究開発に取り組んでいます。
ここでは、シリコン系・化合物半導体系の分類からそれぞれ代表的な材料と特徴について解説します。
【シリコン系】
単結晶
単結晶シリコンを使用するため高価であると同時に、高い変換効率や信頼性を持ちます。
多結晶
多結晶シリコンは単結晶シリコンに比べて低コストであるため、最も普及しています。
アモルファス
シリコンを結晶化させないため、多結晶シリコンに比べて低コストですが、変換効率は低くなります。
多接合型
アモルファスシリコンや薄膜多結晶シリコンなど、異なる太陽電池を積層し、タンデム構造にしたもので、高い変換効率を持ちます。
【化合物半導体系】
CIS
銅・インジウム・セレンを原料とし、低コストでありながらも比較的高い変換効率を持ちます。
CIGS
CIS太陽電池にガリウムを加え、4元素にしたものです。CIS太陽電池に比べやや高い変換効率を持ちます。
CdTe
カドミウムとテルルを原料としており、欧米で普及しています。
GaAs
ガリウムとヒ素を原料とし、優れた変換効率を持ちますが高価です。用途としては、人工衛星などが挙げられます。

太陽電池の観察・測定・解析・評価における課題

太陽電池業界では、環境保護の必要性と再生可能エネルギーの需要拡大を背景に、より高い変換効率と低コスト化の実現に向けた研究開発が各社で進められ、新たな市場獲得に向けて競い合っています。また、安定した太陽光発電・蓄電する製品を提供し、アフターマーケットでも信頼性を維持するには、高いレベルの品質保証や品質管理が求められます。

その一方で、太陽電池は構造上、表面積を増やすために表面に凹凸を形成します。また、各部には異なる色や光沢を持つ材質が混在するため、不良品や試作品の微細な電極などを正確に観察・測定・解析することは、時間がかかるうえ難易度の高い作業でした。
このように、従来の顕微鏡での観察や測定、解析などの作業は、多くの手間と時間、そして習熟度を要します。さらに、スケールを使った目視測定では、測定者によって測定値にバラつきが生じることがあることも課題でした。
また、走査電子顕微鏡(SEM)を使った断面観察では、前準備に多くの手間と時間を要するうえ、カラー観察が不可能であるため、不良箇所の材質や異物の同定が困難であることも悩みでした。

太陽電池の観察・測定・解析の効率化と定量評価を実現するマイクロスコープの最新事例

近年は、デジタルマイクロスコープの技術進歩により、従来の顕微鏡の諸課題を解決し、観察・測定・解析など作業を飛躍的に効率化することが可能です。最新のデジタルマイクロスコープであれば、太陽電池細部のSEMに迫る高精細画像での観察から、高精度な2次元・3次元寸法測定、粒子カウントまで、自動的にアシストする機能により、簡単に実現します。
簡単・高機能を実現した、キーエンスの超高精細4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、最先端の高解像度HRレンズ・4K CMOS・照明・画像処理技術による鮮明な画像と正確な寸法測定により、太陽電池の観察・測定・解析からレポート作成までの作業を1台で圧倒的な効率化とスピードアップを実現します。
ここでは、「VHXシリーズ」を用いた太陽電池の観察・測定・解析事例を紹介します。

電極の3D形状測定

太陽電池の変換効率を高めるには、電極の幅を極力狭くする一方、高さを低く抑える必要があります。また、電極部に金などの高価な材料を使用する場合、体積を極力抑えることでコストダウンにつながります。

従来の顕微鏡では、微小な電極の形状を正確に測定することは難易度が高く、3D形状を瞬時に測定することは不可能でした。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」であれば、高精細な拡大画像からそのままミクロンオーダーの3D形状測定が可能です。カラーマップで高さデータを可視化できると同時に、複数の指定箇所のプロファイル測定も可能であるため、部位による細かな形状の比較も簡単に行うことができます。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」での電極の3D形状測定
電極の3D形状測定・プロファイル測定:同軸落射照明(×1000)
電極の3D形状測定・プロファイル測定:同軸落射照明(×1000)

不具合箇所の断面試料の観察

従来の顕微鏡では、樹脂埋めして観察面を研磨した断面試料を大きな倍率で拡大する際、試料表面にわずかでも凹凸が残っていると全体にピントが合わず、鮮明に観察することができませんでした。また、走査電子顕微鏡(SEM)の場合、試料室を真空または低真空状態にする真空引きなどの前準備に時間と手間を要するうえ、カラー画像での観察ができないため、断面内に混在する材質変化や異物の同定が困難でした。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、4K CMOSや新開発の光学系による深い被写界深度を実現。試料表面の凹凸に影響されることなく、視野全体をフルフォーカスした鮮明な4Kカラー画像で観察することができます。
また、レンズ交換なしで20~6000倍まで自動で切り換えて観察できる「シームレスズーム」で、倍率の切り換えも手元のマウスやコンソールでスピーディに操作でき、断面サンプルの高精細観察が素早く簡単に実現します。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」での不具合箇所の断面試料の観察
断面サンプルでの不具合観察:同軸落射照明(×1000)
断面サンプルでの不具合観察:同軸落射照明(×1000)

太陽電池モジュール(パネル)観察

太陽電池のモジュール(パネル)は、色や光沢が異なる材質が混在しているうえ、細かな凹凸や傷はコントラストが低いため、従来の顕微鏡で観察するには難易度の高いものでした。
4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、シャッタースピードを変えた画像を複数取得し、高階調の画像を取得する「HDR(High Dynamic Range) 機能」を搭載し、テクスチャーを強調したコントラストの高い画像での観察が可能です。試料の角度はそのまま、自由な角度から観察可能な「フリーアングル観察システム」を活用した傾斜観察においても、深度合成機能によって奥から手前まで全体にピントが合った画像で観察が可能です。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」での太陽電池モジュール(パネル)観察
HDR画像・同軸落射照明(×50)
HDR画像・同軸落射照明(×50)
傾斜観察(深度合成)・リング照明(×100)
傾斜観察(深度合成)・リング照明(×100)

ウェハ表面の粒子カウント

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、全方向の照明を自動制御した複数の画像から観察に適した画像を選ぶだけの「マルチライティング」など自動化のアシストにより観察における照明の条件出しを簡略化・時間短縮します。もちろん、他の試料に対して過去の設定を簡単に完全再現することも可能です。
さらに、簡単な操作で指定した範囲の自動面積計測や粒子カウントを実行することができ、不要な対象物の除外や重なり合う対象物の分離なども可能です。
それにより、測定者の経験や習熟度を問わず、また、測定者によって数値がバラつくことなく、精度の高い解析結果を素早く得ることができます。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」でのウェハ表面の粒子カウント
カウント前・同軸落射照明(×300)
カウント前・同軸落射照明(×300)
カウント後・同軸落射照明(×300)
カウント後・同軸落射照明(×300)

太陽電池の観察・測定・解析・評価の常識を変える4Kマイクロスコープ

高精細4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、簡単操作で4K高解像度画像でしか得られない鮮明な画質での確かな観察を可能とします。観察画像からそのまま高精度な2次元・3次元寸法(3D形状)測定、自動面積計測・カウントによる数値データをスピーディに取得し、人によるバラつきのない定量的な評価を実現します。

「VHXシリーズ」は、従来の顕微鏡やSEMなどにおける課題を1台で解決し、作業効率を飛躍的に高める強力なツールです。加えて、パソコンと同様に表計算ソフトをインストールでき、あらかじめ用意したテンプレートに画像や測定値を流し込んでレポート作成までも自動化することが可能です。それにより、競合よりも優れた製品の素早い研究開発や迅速な品質保証対応、品質管理の時間短縮に欠かせない、正確でスピーディなワークフローを提供します。

「VHXシリーズ」に関する詳細は、以下のボタンよりカタログをダウンロード、または、お気軽にご相談・お問い合わせください。