産業用ロボットの正しい選び方
産業用ロボットの導入を検討する場合、選択の方法が難しいことがあります。たとえば、大手自動車メーカーで使用されている大型の産業用ロボットと、他の企業の工場で使用されている産業用ロボットとでは、大きく異なることがあります。
大型の産業用ロボットが必要なのか、近年開発が盛んな協働ロボットとは何なのか。外観以外にどのような違いがあるのか。さらに、導入からランニングまで含めたコストなど、企業の経営陣や購入担当者にはわからないことがあります。
ここでは、産業用ロボットと協働ロボットの違いや、協働ロボットを選択するときのポイントをわかりやすく説明します。
産業用ロボットと協働ロボットの違い
2013年の労働安全衛生規則の改定により、安全柵なしでの人とロボットの共同作業が可能になりました。これに加え、ロボット技術の進歩により、本体に安全センサーを備えるなど人との共同作業を前提とした新たなロボットが誕生してきました。これが「協働ロボット」です。
ここでは、産業用ロボットと協働ロボットの主な違いについて説明します。両者には安全性やティーチング、作業への柔軟性・コストなどの面で大きな違いがあり、工場の自動化を目指すにあたって十分に理解しておくべき重要な点といえます。
産業用ロボットと協働ロボットの違い-1:安全性
従来の産業用ロボットが人間の作業員の代わりに働くように設計されているのに対し、協働ロボットは人と一緒に働くように設計されています。人の動きは機械に比べて不規則であるため、協働ロボットにはどのような場合でも人を傷付けない安全性が必要です。このため、協働ロボットは人の接近や、人が当たったことなどを感知するセンサーを備えています。これにより、狭い空間でも事故を回避しつつ人との共同作業を実現します。
産業用ロボットと協働ロボットの違い-2:ティーチング
従来の産業用ロボットのティーチングは難易度が高く、習得には時間を要しました。協働ロボットは、ダイレクトティーチング(直接教示法)や自動でキャリブレーションを行う機能など、ティーチング作業を簡単にできる機能を搭載しています。協働ロボットのティーチングの機能はプログラミングを容易にするばかりではなく、多品種生産への柔軟な対応を可能にします。これら協働ロボットの利点は、導入と運用開始に要するコストを下げ、段取り替えの工数を大幅に削減します。
産業用ロボットと協働ロボットの違い-3:柔軟性
工程に設置し作業するロボットである限り、ワークを運んでくるコンベアやパレットなど各種搬送装置との制御の同期といった柔軟性は重要です。特に搬送されてくるワークは向きや色が揃っていない場合、ロボットビジョンなどによる判別が必要になります。これらロボット本体周辺の機器への柔軟な対応力は、導入や運用のコスト、適用業務の広さに大きく影響します。そして、この柔軟性は従来の産業用ロボットでは実現が難しい点であり、協働ロボットが作業者に優しいロボットであるゆえんといえます。
協働ロボットの導入にかかるコスト
協働ロボットの導入には、以下の費用が必要といわれています。
- ロボット本体の価格
- 周辺機器の価格
- 人材育成費
- メンテナンス費
このように、産業用ロボットに比べて導入しやすい協働ロボットでも、必要なコストは低くはありません。しかし、協働ロボットに求める機能を整理することで、これらのコストを抑えることは可能です。ここでは協働ロボットの導入をコストという視点から捉え、注目すべきポイントについて説明します。また、協働ロボットが生産性に与える影響と費用対効果についても解説します。
協働ロボット本体の価格
数十万円から百万円以上まで、協働ロボット本体の価格はさまざまです。その差は軸数や精度・動作速度・荷重などの違いです。もちろん軸数が少なく、精度や動作速度が低く、荷重も軽いほど低価格になる傾向があります。一方、軸数が多く精度・動作速度が高く、荷重が重いロボットは高価格になります。
また、ロボット本体の安全装置の機能も価格に影響します。これらは、品質やタクトタイムといった協働ロボット導入のメリットに直結するため、高いか安いかは費用対効果を基に慎重に検討する必要があります。
周辺機器の価格
協働ロボットを導入することで、搬送装置やPLCなどロボットと他の装置を同期するための機器が必要になります。また協働ロボットにワークの判別など、高度な作業を求める場合は、ロボットビジョンが必要になります。基本的に協働ロボットの安全機能は安全柵などの設備を必要としませんが、ロボットが溶接や切削など人にとって危険な作業を行う場合は、人との間にセーフティーライトカーテンなどの安全機器も必要です。
人材育成費・メンテナンス費
労働安全衛生法第59条第3項では、産業用ロボットのティーチングや検査などの作業に就く労働者に、特別な教育を受けることを義務付けています。
産業用ロボットに比べ、ティーチングやプログラムが簡単な協働ロボットですが、やはり専門的な知識は必要です。また、定期的な調整やメンテナンスは必要です。協働ロボットを導入しても、これらをすべて専門の会社に依頼していては、順調な運用は見込めません。ロボット導入のメリットを求めるなら、運用上の問題に対応できる人材を社内で育成するコストが必要です。
協働ロボット導入のポイント
協働ロボットはコスト効率が良く作業への柔軟性が高いため、工場の規模の大小や生産数の過多にかかわらず、さまざまな製造現場において容易に自動化を実現します。一方、協働ロボットの適用業務は多岐に亘るため、導入にあたって重要とするポイントを絞りかねているケースが多くみられます。特に、これから自動化を試みようとする場合は、なおさらです。そこで、ここでは協働ロボットの導入にあたって、ポイントとすべき以下の機能についてそれぞれ詳しく紹介していきます。
協働ロボット導入のポイント
✔ 周辺機器との親和性 | ✔ 精度と剛性 |
✔ エンドエフェクタ(ハンド) | ✔ 処理量 |
✔ 安全性 | ✔ 製造メーカー |
周辺機器との親和性
ワークの大きさや向き・形状が一貫していると、協働ロボットの動作は簡単な動作で作業を行うことができます。また、協働ロボットを制御するプログラミングも簡単です。ワークをトレイや容器内に整列して入れれば、ロボットに最初の位置、終了位置、およびそれぞれの行と列のワーク数を指示するだけで済みます。
しかし、前工程では位置決め装置や整列器が必要で、協働ロボットはこれらの機器にうまく対応できることが条件になります。特に多品種混流ラインでは、位置決め・整列システムが複雑になり、各装置は高度な制御が求められます。
このような製造ラインでは、ロボットがワークを判別する機能がポイントになります。たとえば、ロボットアームの先端にカメラを取り付け、ワークの状態を判断します。カメラが読み取ったワークの状態からエンドエフェクタをコントロールすることで、ワークのさまざまな状態に対応することができます。
このように、協働ロボットは、位置決め装置・整列器、カメラなど多くの周辺機器の中で動作します。また、ここで触れた以外にもパーツの供給装置やコンベア・パレタイザといった装置などとの親和性も考慮する必要があります。そして、協働ロボットを取り巻く装置は多品種少量生産なのか少品種大量生産なのかといった、生産計画に基づいた生産装置です。したがって、協働ロボットの選定にあたってポイントになるのは、これらの装置との親和性ということになります。
精度と剛性
協働ロボットが正確に動作するには、「軌跡精度」「絶対精度」「剛性」が重要です。そして、これらの性能は、ロボットメーカーによって、大きな違いがあります。「軌跡精度」「絶対精度」「剛性」は加工の際に大きな差となって現れます。
たとえば、これらの性能が高いロボットと低いロボットでレーザー切断を行うと、仕上がり面に明らかな差が出ます。これはロボットの特性であり、後付けのオプション装置では解決できません。
ロボットが行う作業が搬送などの場合、精度や剛性が低くても問題にならないかも知れません。しかし、たとえばレーザー溶接やレーザー切断、バリ取りのように高い精度が求められる作業や、さまざまな作業を行う場合は問題になります。
一般に精度や剛性の差はロボットのアームを動かすサーボモーターの差であり、選択の大きなポイントになります。サーボモーターが高性能であると、「軌跡精度」「絶対精度」「剛性」が優れたロボットになります。
ただし、ロボットのサーボモーターの性能はカタログなど一般的な資料から把握することは難しく、ロボットインテグレーターなどから情報を入手し、慎重に調査する必要があります。
エンドエフェクタ(ハンド)
エンドエフェクタは、ワークを掴んだり加工するためにロボットアームの先端に取り付ける機器で、「ハンド」ともいわれます。掴む・吸着するはもちろん、溶接トーチや切削装置・塗装スプレーを取り付けることもできます。エンドエフェクタには市販品がありますが、特定の作業用途では3Dプリンターなどで、専用のエンドエフェクタを作成することもできます。
エンドエフェクタの選定は、複数の工程に対応できるエンドエフェクタが使用できるか、または、それぞれの作業ごとに個別のエンドエフェクタが必要であるかがポイントになります。また、市販のエンドエフェクタは、構造が簡単でコスト効率優れます。一方、専用設計のエンドエフェクタは、高速かつ高精度な作業が可能になる場合があります。さらに協働ロボットのエンドエフェクタは、部品などを人と受け渡しする部分なので、人への安全性も重要なポイントです。
処理量
通常、協働ロボットは人間の作業者と同じか、少し遅いペースで作業します。しかし、協働ロボットはその作業をノンストップで(24時間体制も可能)継続でき、連続操業による処理量の向上が可能です。
協働ロボットの導入による処理量の向上は、稼働時間によって達成することができるので、長時間稼働に耐える構造になっているかがポイントになります。さらに、人が行うよりも速いタクトタイムを目指す場合は、作業者の安全を十分に確保できる機能を備えているかもポイントになります。
安全性
協働ロボットは、人の近くで安全に作業できるように設計されています。しかし、導入にはリスクアセスメントが必要です。また、リスクアセスメントを通じて得た情報は、人と協働ロボットの役割り分担の検討に役立ちます。反復作業や危険な作業をロボットに任せ、人は作業の管理や監督を行うことが理想的です。しかし、協働ロボットと人が部品などの受け渡しを行う工程では、万一の場合にロボットのアームやエンドエフェクタは停止できなければなりません。
特に多軸式の協働ロボットは複雑な動作をするので、人との接触や挟み込まれの危険が高く、緊急時には即座に動作を停止する機能を備えているかが重要なポイントになります。また、協働ロボットを高速稼働させる場合や作業に他の安全上の懸念がある場合は、人が作業スペースに入ったときにロボットの動作を減速または停止させるための、セーフティーライトカーテンやセーフティースキャナの導入が可能かも検討すべきポイントです。
- A
- セーフティレーザスキャナ(SZ-Vシリーズ)
製造メーカー
協働ロボットも機械装置である限り、故障や不調といったトラブルへの対策は万全でなければなりません。たとえば、「軌跡精度」「絶対精度」「剛性」が優れていても、サポート体制が十分でない場合、そのメーカーのロボット技術者がすぐに駆けつけてくれません。部品の破損などの場合、補修部品がないと部品が届くまでロボットを停止せざるを得ません。また、メーカーがロボットメーカー以外の場合も注意が必要です。たとえば、切削機メーカーが作った切削ロボットや溶接機メーカーが作った溶接ロボットが、それぞれの作業において優秀であるとは限りません。
協働ロボットは、一度導入すると工程に不可欠な装置になります。価格や性能、メーカーの知名度だけでなく、サポートや部品の供給体制を重視すべきです。また、ワークが変わってティーチングが必要になったときのサポートの有無も、大切なポイントです。
ロボットビジョンで広がる協働ロボットの仕事
ロボットビジョンは、位置検出や検査のために産業用ロボットに取り付ける画像処理システムの総称です。CCDやCMOSといった、人間の目のように状況を捉える「センサー(カメラ)」、撮像した対象物を認識して判断する画像処理システムなどで構成され、最終的に画像処理の結果に合わせてロボットに動作を指示します。
たとえば、ワークの色や形状、向きをカメラで正確に読み取って、そのデータを協働ロボットに送ります。協働ロボットは、そのデータを基に本体やアーム・エンドエフェクタを動作させます。そして、向きも品種も不揃いなワークの中から、目的のワークを選び出すことができます。それは、人間が目で見て判断し手で行うような動作です。
このように、ロボットビジョンを備えた協働ロボットは、優秀な作業者のような判断能力と安全性で、高い品質と生産性を実現することができます。
ロボットビジョンでどこまで自動化できるのか?