蛍光観察
蛍光観察に必要な装置やカメラ選びのポイント、使用環境やメンテナンス方法についてご説明します。
蛍光観察に必要な装置
生命科学の研究が進む中で、生きた状態の細胞やたんぱく質を観察する技術が進化してきました。蛍光観察はその重要な役割を果たしています。
蛍光観察は、標識となる蛍光色素や蛍光たんぱく質を用いて、観察したい部分を強調して写し出す技術です。物質の分子に特定の光(励起光)を当てると光エネルギーを吸収して、その中の電子が励起状態となります。その後、元の基底状態に戻る過程で蛍光と呼ばれる光を放つ現象を応用しています。
蛍光観察を行うためには、光源をはじめ、特定の光を透過させる蛍光フィルター、そして蛍光観察に適した対物レンズなどが必要です。
特により良い蛍光画像を得るためには、適切な蛍光フィルターを選ぶことが欠かせません。蛍光フィルターには光源から特定の波長域の光を通す「励起フィルター」と、試料から発せられた蛍光の中から観察に必要なものを透過させる「吸収フィルター」があります。(ほかに、特定の波長の光を反射し、それ以外を透過させることで励起光と蛍光を分離するダイクロイックミラーが必要です。)
最近では、蛍光試薬の特性に応じた蛍光フィルターのセット(蛍光フィルターキューブ)がメーカーから発売されているため、観察対象から組み合わせを選ぶことができます。
蛍光フィルターの選択のポイント
蛍光フィルターのセット(蛍光フィルターキューブ)を選ぶ際、蛍光色素の特性とセットの励起フィルター、蛍光フィルターの波長帯をできるだけ一致させる必要があります。それぞれのフィルターの特性は次の通りです。
励起フィルターの場合
光の波長域の幅の広さへの対応に応じて、広帯域、狭帯域のフィルターがあります。原則として、帯域の広い方が明るい画像が得られますが、生体試料へのダメージを抑えるため、狭帯域のフィルターを用いる場合が一般的です。
蛍光フィルターの場合
主にロングパスフィルター(LP)とショートパスフィルター(SP)、バンドパスフィルター(BP)に分かれます。LPは一定の波長よりも長い波長のみを通します。逆に、SPは一定の波長よりも短い波長のみを通します。また、BPは一定の波長域のみの光を通します。
用いる蛍光試薬が一つの場合は、LPを用いることでより明るい像を得ることができます。一方、複数の蛍光色素を用いる場合はBPを使い分けることでそれぞれの蛍光画像を得ることができます。
カメラ選びのポイント
顕微鏡用のカメラは日進月歩で開発が進み、現在ではさまざまな機種がそろっています。観察対象や観察法に応じたものを選ぶ必要があります。
カラーCMOS
CMOSセンサを搭載して、主に明視野観察での画像の撮影に向いています。比較的安価で簡便に使えるのが特徴です。かつてはCMOSセンサはCCDセンサに劣るといわれてきましたが、近年は性能が大幅に向上しています。高感度なsCMOSセンサを利用したカメラも登場しています。
カラーCCD
明視野観察に加えて、高画質で蛍光画像の取り込みに向いています。多くの場合、自然な色で撮影するために赤外線カットフィルターが備えられており、近赤外波長の蛍光観察には不向きです。
モノクロCCD
カラーCCDと異なりカラーフィルターがないために受光量の損失が生じず、微弱な蛍光の高感度撮影に対応しています。また、赤外線カットフィルターがないため、近赤外波長の撮影も可能で、ライブセルイメージングにも適しています。
冷却CCD
CCD内部には、光の入力がない状態でも「暗電流」と呼ばれる信号が発生しており、ノイズの原因となっています。この暗電流は素子の温度が高いほど大きくなりますが、冷却することで低く抑えることができます。冷却CCDはCCDを冷却することで暗電流を抑え、ノイズの少ない高感度撮影を可能としています。暗視野観察や蛍光観察など、微弱な光の観察に適しています。
使用環境・メンテナンス・保管
使用環境について
精密機械である顕微鏡は、決められた条件の下で正しく使用することが必要です。使用環境としては、一般的に下記の点に気をつける必要があります。
清潔な環境
顕微鏡の保管および観察の場所は、ごみやほこりが少ないところを選びます。ほこり等は顕微鏡の可動部に支障を来したり、カビの発生原因となります。
直射日光の当たらない場所
直射日光が当たる場所で顕微鏡を保管、使用した場合、機構に異常をもたらす恐れがあります。また、万一、直射日光が反射鏡を通して、顕微鏡内に取り込んだ場合、観察者の目を痛める恐れがあります。
振動および傾きのない場所
顕微鏡が安定して設置できる平面の机などを選びます。特に振動は顕微鏡の機構に異常をもたらすので禁物です。また、傾斜がある場所では、正常な観察、画像記録ができない恐れがあります。
温度、湿度が安定した場所
顕微鏡からサビやカビが発生するのを防ぐため、温度や湿度への配慮が欠かせません。特にレンズはカビが生じやすいため、保管には結露が生じやすい環境は避けるべきです。また、保管時は乾燥剤を同封しておきます。
使用時の注意点
据え付け
顕微鏡およびレンズセットをケースから取り出す際は、アームを握るとともに底部を支えるように持ちます。
反射鏡の付いている顕微鏡の場合、反射鏡が直射日光を取り込まない場所に置きます。
レンズのセット
接眼レンズと対物レンズをセットする際、指がレンズに触れないように注意します。また、対物レンズにほこりなどが落ちるのを防ぐため、接眼レンズから先に取り付けます。(接眼レンズをつけたまま、保管する場合もあります。)
観察対象のセット
観察対象をのせたプレパラートをセットする際、対物レンズに当たらないように気をつけます。
反射鏡の調整
反射鏡を傾けて調整する際、直射日光を取り込まないように十分注意します。
ピントの調整
あらかじめ対物レンズをプレパラートに近づけておき、観察する際、焦点ハンドルを回して、対物レンズをプレパラートから離していく過程でピントを合わせます。
保管時の注意点
観察時に生じた顕微鏡の汚れは、必ず拭き取っておくようにしましょう。使用後は収納ケースに入れるか、カバーをかけることで、ほこりがつかないようにします。
特にレンズは汚れやすいため、気をつける必要があります。付いたほこりはブロアーブラシなどで飛ばします。レンズに指紋が付いた場合、専用のクリーナーを用いてていねいに拭き取ります。
長期間にわたって収納する際、レンズにカビが生じる恐れがあるため、デシケーター(防湿庫)に収納するか、レンズケースに乾燥剤や防カビ剤を入れるなどの配慮が必要です。