顕微鏡の歴史

顕微鏡の誕生から光学顕微鏡の発展まで顕微鏡の歴史についてご説明します。

顕微鏡の誕生

レンズで物を拡大して見ることができるということは、2世紀頃から知られていたと言われています。その後、13世紀のヨーロッパにおいて、拡大鏡として凸レンズが使用されだしましたが、当時はレンズ自体が高価なもので、15~16世紀になってから一般に用いられ始めるようになりました。

顕微鏡の原型は16世紀後半に発明されました。オランダの眼鏡職人だったヤンセン親子が2枚のレンズを組み合わせて、物が大きく見えることを発見したと言われています。

*)レンズの語源:レンズという名前は、レンズ豆という植物に由来しています。
  凸レンズの形とレンズ豆の形が似ていたために、レンズと名付けられました。

光学顕微鏡の発展

17世紀後半にオランダのアントニー・レーウェンフックが単式顕微鏡(レンズ1枚の顕微鏡)を作成。これはレンズ1枚という現在の虫眼鏡に近いものでしたが倍率は200倍以上にも達して、当時としては画期的な発明でした。レーウェンフックはこの顕微鏡を用いて、微生物や精子を発見しました。

同じ頃、イギリスのロバート・フックが対物レンズと接眼レンズの2枚のレンズを組み合わせた複式顕微鏡を作成します。フックはコルクの組織を観察し、それが蜂の巣の房室のごとく小さな部屋の集まりに見えたことから、小部屋(cell)と命名しました。生物学の「cell(細胞)」という言葉はこれをきっかけに使われるようになりました。

当時はレンズの収差などの問題から、2枚のレンズを組み合わせることで逆に精度が落ちて、解像度は単式顕微鏡よりも低かったようです。

19世紀になると、レンズそのものやレンズの組み合わせによる収差の補正などにより、ドイツのツァイス社やライツ社を中心に顕微鏡の解像度は飛躍的に向上していきます。特にドイツのエルンスト・アッベは顕微鏡の理論的・技術的な改良を行い、現代の光学顕微鏡の基本型を確立したといっても過言ではありません。

20世紀になると、様々な観察方法が発明されます。暗視野顕微鏡は直接照明光が対物レンズに入らないように照射し、試料で散乱された光を観察します。位相差顕微鏡が1930年代に、1950年代には微分干渉顕微鏡が発明され、生物細胞など透明な試料を高倍率で観察するのに大きく貢献することとなりました。同じく1950年代には共焦点レーザー顕微鏡が開発され、よりクリアな画像で観察する道が拓かれたのです。蛍光顕微鏡は20世紀初頭から蛍光色素の開発と共に発展していきました。

分解能や様々な観察手法が飛躍的に発展していた光学顕微鏡ですが、19世紀にはジョージ・エアリーの研究によって、光の性質から分解能には限界があることが分かってきました。その後、アッベが開口数(N.A.)という概念によって、可視光のもとではレンズの性能をいくら高めても200nm程度までしか微細な物体を観察することができないことを証明。それが拡大観察の新たな挑戦をもたらすことになります。

電子顕微鏡の開発

19世紀末にX線や電子が続けて発見され、1920年代後半には電子レンズの理論がまとめられたことで、可視光よりも波長の短いこれらを光源としたより分解能の高い顕微鏡の開発が20世紀初頭から行われるようになりました。電子線を用いた顕微鏡、透過型電子顕微鏡(TEM)は1930年代前半にドイツのエルンスト・ルスカによって発明され、1939年にシーメンス社により商用開発されました。電子線を走査する走査型電子顕微鏡(SEM)はTEMと同じ頃に開発が始まり、1930年代後半に走査透過型電子顕微鏡(STEM)がマンフレート・アルデンヌによって、1940年代前半に現在のSEMの原型がウラジミール・ツヴォルキンによって開発されました。しかし、このツヴォルキンのSEMは解像度が低く、SEMの発展は1950年代のケンブリッジ大学のチャールズ・オートレー研究室での研究を経て進み、1965年にケンブリッジインスツルメント社が商品化しました。

電子顕微鏡の開発により、光学顕微鏡の限界を超えて分解能が格段に向上したことで、原子などを観察することが可能になったのです。

電子顕微鏡はその後も分解能の向上だけでなく、試料室を低真空状態にして水分を含んだ試料を観察できるような環境制御型(低真空)電子顕微鏡などの改良開発が行われています。

走査型プローブ顕微鏡

電子顕微鏡は分解能を格段に高めたことで、物体の原子レベルの観察を可能にしました。しかし、それは水平方向に限られ、垂直方向の分解能が弱点でした。これを克服するため、1980年代に走査型プローブ顕微鏡(SPM)が開発されました。SPMは光学顕微鏡や電子顕微鏡と異なり、光源とレンズという構成ではなく、鋭利な探針で試料表面をなぞり、探針と試料の間で発生する相互作用を用いて表面状態を観察する顕微鏡です。探針と試料間に流れるトンネル電流を検出する走査型トンネル顕微鏡(STM)はIBMチューリッヒ研究所のゲルト・ビーニッヒらによって開発されました。その数年後には探針と試料間に働く力を検出する原子間力顕微鏡(AFM)が同じくIBMチューリッヒ研究所にて開発されました。これらSPMの開発により、垂直方向の分解能はnmレベルに達し、原子レベルの凹凸を観察できるようになったのです。

その後もSPMは、磁気力を測定する磁気力顕微鏡(MFM)、局所的光学特性を測定する走査型近接場光学顕微鏡(SNOM)など、様々な物性を評価する顕微鏡として発展しています。

顕微鏡入門ガイド トップへ戻る