食品や医薬品における熱処理

熱処理とは材料や製品に熱を加える操作を指し、広義では材料加工の一種である金属熱処理のほか、食品や医薬品の加熱殺菌・滅菌処理も含まれます。熱処理入門では、鋼を中心とした金属の熱処理を解説していますが、こちらでは金属以外の熱処理として食品・医薬品についてご紹介します。食品・医薬品では、「調理・加工」「殺菌・滅菌」「乾燥」などに熱処理の技術が活用されています。

調理・加工について

調理・加工 茹でる、焼く、蒸す、煮る、揚げる

食品で最も一般的な加熱処理が「茹でる」「焼く」「蒸す」などの調理・加工です。サラダや刺身のような新鮮な食材を生で食べるケースを除けば、食品の多くは熱処理を経て私たちの食卓に並びます。

この熱のかけ方によって味や色、香り、風味などの「美味しさ」が左右されるので品質向上のためには、加える熱の温度や時間の管理が欠かせません。例えば、コーヒーの香ばしさと苦味を引き立たせる「焙煎」も熱処理の一つで、加熱の温度や時間、冷却方法によって風味が大きく変化します。また、食品に含まれる栄養素は、熱によって壊れてしまうものも多く、過度な熱処理を加えないように温度と時間を制御する必要があります。

さらに食品業界ではさまざまな熱処理を行うので、各工程で使用する熱量を最小限に抑えることはコスト削減に直結し、CO2排出量の削減にもつながるので環境対策としても有効です。そこで現代の食品加工の現場では、いかに効率的に加熱をするかという研究が進んでいます。

殺菌・滅菌処理について

殺菌・滅菌処理

夏場になるとO157やサルモネラ菌など、細菌性食中毒のニュースが度々取り上げられます。これらの集団食中毒を引き起こす原因菌の多くは、熱処理によって死滅させることができます。このような熱処理を「殺菌・滅菌」と言います。食品衛生法では、多くの食材・食品に対して加熱処理などの殺菌・滅菌が義務付けられており、各企業は基準を順守して加熱処理を行なっています。

しかし、「調理・加工について」の項目で触れましたが、過度な加熱は味や風味を損なったり、栄養素を壊してしまったりする恐れがあります。そこで商品業界では、食品衛生法の殺菌・滅菌の基準を満たしながら、より美味しい商品を生産するために最低限の加熱温度と時間に留める必要があります。そこで温度センサなどを用いた温度管理が多くの生産現場で取り入れられています。

熱処理による殺菌・滅菌は、食品に限らず医薬品も同様です。高い安全性が求められる医薬品業界では、「医薬品医療機器法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律/旧薬事法)」や「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準(GMP/Good Manufacturing Practice)」等で厳格に殺菌・滅菌処理の基準が定められています。

生産設備のサニタリー性を保つSIP(定置滅菌)

食品プラントをはじめ、化粧品・医薬品製造の安全性を確保するには、製品自体はもちろん生産設備のサニタリー性まで考慮した滅菌処理が大切です。その手法として「COP(分解洗浄)」「CIP(定置洗浄)」「SIP(定置滅菌)」「ASEPTIC(無菌性)」などの技術・手法が用いられ、中でもSIPは熱処理による滅菌が一般的です。そこで「COP(分解洗浄)」「CIP(定置洗浄)」「SIP(定置滅菌)」の意味、SIP(定置滅菌)による熱処理をご紹介します。

COP:Cleaning Out of Place(分解洗浄)

装置を分解して汚れを落とす、最も基本的な洗浄方法です。

CIP:Cleaning In Place(定置洗浄)

装置を分解せずに装置内部を洗浄剤などで自動的に洗浄するシステムを指します。

SIP:Sterilizing In Place(定置滅菌)

設備や配管などを分解せずに滅菌するシステムを指します。「加熱処理」「薬品による科学的処理」「フィルターなどでの濾過」「放射線や紫外線などの照射」などの手法がありますが、最も一般的なのが熱処理による滅菌です。

熱処理を活用したSIP(定置滅菌)

食品・医薬品の生産設備は、CIPによる自動洗浄後、清浄な状態でSIPによる自動滅菌を行うことで衛生を保ちます。こちらでは、熱処理を用いたSIPの手法・条件などを少し詳しくご説明します。

食品機械の衛生的設計の基準や検査方法を策定しているヨーロッパの業界団体「EHEDG:European Hygienic Equipment Design Group」の勧告では、清浄化された設備を120°C飽和蒸気で30分間熱処理することで関連微生物を除去できるとしています。また、芽胞形成細菌(ボツリヌス菌)は、121°C飽和蒸気で10分間処理することで死滅するという実験報告もあります。

これらの条件から食品プラントなどでは、約130°Cで30分間の熱処理をSIPの条件にすることが多くなっています。ただし、あくまで一般的な条件で、設備の隅々まで蒸気が行き渡らない、滞留などにより温度低下が発生する場合などは、加熱水による滅菌が採用されることもよくあります。

高い安全性が求められる食品・医薬品は、製品の殺菌・滅菌はもちろん、製造を行う設備の滅菌も考える必要があります。そこでCIPやSIPといった洗浄・滅菌システムの導入が当たり前になっています。

乾燥処理について

乾燥処理

食品・医薬品の原材料などには、一定量の水分が含まれています。この水分を除去する手段である「乾燥」に熱処理が活用されています。その方法として「熱風乾燥」「遠赤外線乾燥」「マイクロ波乾燥」などがありますが、それらはすべて物質の温度を上昇させて乾燥を促進します。乾燥処理で効率的に水分を除去するためには、温度や時間のほか、熱風乾燥であれば循環風量や排気風量の管理なども重要な要素になります。

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