品質管理

鉄鋼に熱処理を加える目的は、強度の確保や加工性の向上などが挙げられ、現代のものづくりにおいて欠かせない工程となっています。一方で熱処理は形状変化を伴わないので検査が難しく、品質管理には経験と知識はもちろん設備の運用管理の徹底が欠かせません。

しかし、熱処理後の部品を破壊したり、実際の使用状況で長時間観察したり、切削などの加工を加えることは実質不可能です。そこで、ものづくりの現場では、熱処理の評価をするために代用特性として硬さや組織を調べます。こちらでは、熱処理工程における品質管理を考慮した工程改善や検査方法、温度管理の重要性などをご説明します。

熱処理工程の品質管理

主熱電対[1250°Cまで]

熱処理工程では、加熱炉や計測器、冷却装置、各種検査機器など多くの設備が稼働しています。品質管理の観点から見ると、これらすべての設備が正常に稼働していることを大前提に話を進める必要があります。

例えば熱電対などの計測器にトラブルが発生すれば、加熱炉の温度を一定に保つことができず目標の強度や加工性は得られません。浸炭炉や窒化炉であれば、雰囲気の変化によって酸化や炭化が発生してしまうこともあります。このようなトラブルを未然に防ぐために、熱処理工程で定期的なメンテナンスと部品交換が必要です。特に熱処理工程は、高温にさらされるので設備の劣化も早く、他の工程以上に注視するべきでしょう。以下に一般的なチェック項目をまとめてみました。

一般的なチェック項目
チェック項目 内容
温度計測 熱電対や測定器など、温度計測器の定期的な点検と交換。特に熱電対は劣化しやすいので、定期交換のサイクルを決めて置くことが重要です。また、温度計測は二重測定が理想です。加熱炉はもちろん冷却炉の温度管理も含めてモニタリングし、警告するシステムを組み込むことでトラブルを未然に防ぐことができます。
ファン ファンは加熱炉内にあるため見過ごしがちですが、加熱炉内の温度を一定にする重要な部品です。
加熱炉の密閉性 加熱炉の扉が確実に閉まっているか、密閉性の確保も温度管理では重要です。浸炭炉や窒化炉では、密閉性が雰囲気を左右するので特に注意が必要です。
ガス漏洩 浸炭炉や窒化炉の場合は、ガスの漏洩にも注意しましょう。ガス漏れは製品品質を左右するばかりか、作業者を危険に晒すことになります。日常の作業で炉蓋や配管の継手などに石鹸水を塗布するだけでも異常を察知することができます。
測定器・試験片 硬さ測定器は、標準試験片で基準を確保。定期的な校正はもちろん同形式の硬さ測定器を複数準備し、運用することで点検や修理などに備えることが大切です。

このほかにも断熱壁の定期的な交換、粉塵収集の排煙の方法など挙げ出せばキリがありませんが、作業設備や環境を整備し、保守点検を実施することが品質向上の大原則となります。

熱処理の記録項目例

熱処理の記録項目例

熱処理工程では、以下のような記録を残すようにしましょう。あくまで一般例なので、実際の導入では熱処理加工における社内標準化を検討する必要があります。代表的な社内標準化の内容としては、加工品規格、加工材料規格、技術標準、作業標準、検査規格、品質管理規定、設備管理規定などがあります。これらはJISの規定を満たすことを前提に企業ごとに策定します。

炉内温度

リアルタイムでの炉内温度測定と監視、製造番号と関連付けた記録の保管。

焼入油温

炉内温度と同様、リアルタイムでの測定と監視、製造番号と関連付けた記録の保管。

ガス分析

ガス浸炭やガス窒化などの場合は、ガスの分析を記録・保管。

テストピース(T.P)

ガス浸炭やガス窒化などの場合は、同一チャージのT.Pチェックと記録・保管。

硬さ

製造番号や工程番号、個数や材質などと関連付けて、硬さ測定の記録を保管。

割れ検査

検査結果の方法を明示した上で検査結果を記録・保管。

温度が品質を左右する

温度分布が不均一 温度分布が均一

熱処理のトラブルで詳しくご説明しますが、軟化不足や靭性不足、焼割れ、焼曲がりなどの不良の多くは温度管理が原因です。熱処理でよく発生する仕損じとして硬さ不足がありますが、確実に焼なましを行った後に焼入れを行うことで抑えることができます。そのほか重大な欠陥である焼割れも焼入れ温度が高すぎたり、急冷したり、加熱が不均一だったり、焼き戻しを行わないと生じやすくなります。

熱処理の欠陥は、後から修正することが基本的にはできないので、仕損じが増えれば大きな損失につながります。焼割れは焼入れの翌日などに発生するケースも多く、後工程で発覚することもあるので注意が必要です。

これらの欠陥を防ぐには、温度センサを複数利用して確実な温度計測を行ったり、熱処理の記録を保管しておいたり、温度の急激な低下・上昇時に警告を行うことで未然に防げます。さらに温度変化のデータを管理すればトレーサビリティにもつながり、もし不良品が流出しても工程やロットを速やかに特定できます。

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