ベルト・チェーンの基礎知識

ベルトはプーリーとの接触面の摩擦力を利用しているため、プーリーとの間で多少のすべりが発生します。このため、一般にはすべりによるロスが問題にならない場面で使用されます。

一方のチェーンは「スプロケット」という歯車と噛み合うことで確実に伝動するのですべりは発生しません。また、ベルトは途中で長さを調整できませんが、チェーンは適当な長さに調整できます。しかし、騒音や振動が発生したり、スプロケットからチェーンが外れるといったトラブルがあります。

ベルト・チェーンの適用範囲

機械要素としてのベルトやチェーンは、ねじや歯車と同様に規格化されており、使用する場合はその中から選定して用います。 特にベルトは後から長さを調整することが基本的にはできないため、設計段階において使用する軸間距離などは確定しておく必要があります。

巻き掛け伝動に使うベルトやチェーンは、軸間の距離や2軸間の速度比といった運転条件が、ねじや歯車と同様に規格化されています。ベルトやチェーンを使用する場合は、これらの条件を満たす範囲で選択します。

ベルト・チェーンの適用範囲
巻き掛け伝動の
種類
平ベルト Vベルト ローラ
チェーン
サイレント
チェーン
軸間距離
(m)
10以下 5以下 4以下 4以下
速度比 1:1~6
(15以下)
1:1~7
(10以下)
1:1~5
(8以下)
1:1~6
(8以下)
リンクの速度
(m/s)
10~30
(50以下)
10~15
(25以下)
0~7
(7以下)
3~10
(10以下)

このように、機械の運動の基本となる回転運動を伝達するという面では歯車と似ていますが、ベルトやチェーンを場面に応じて使い分けることで機械を効果的に動かすことができます。

ベルトの掛け方

原動軸と従動軸の間にベルトを掛ける方法には「オープンベルト(平行掛け)」と「クロスベルト(十字掛け)」があります。

これらは、原動軸と従動軸の位置や回転方向などにより使い分けます。

ベルトの掛け方
オープンベルト(平行掛け)
オープンベルト(平行掛け)
  1. A: 原動側
  2. B: 従動側
  3. C: 張り側
  4. D: ゆるみ側
クロスベルト(十字掛け)
クロスベルト(十字掛け)
  1. A: 原動側
  2. B: 従動側
  3. C: 張り側
  4. D: ゆるみ側

平ベルト

断面が長方形のベルトです。平ベルトを円筒上の「平プーリー」に巻き掛けて動力を伝達します。プーリーを分解しなくてもベルトを交換できるなど構造が簡単で、古くから農業機器や繊維機器・工作機械などで使われています。

オープンベルト(平行掛け)とクロスベルト(十字掛け)が可能で、ある程度、軸間の距離が長くても使えます。平ベルトの素材には、布や革が使われていましたが、現在では合成ゴムやナイロン帆布・金属(圧延した薄鋼板)が使われています。このうち、特殊なゴムを配合した合成ゴムのベルトは、耐摩耗性・耐油性・耐熱性・耐オゾン性に優れています。また、精密平ベルトといわれる薄くて軽いベルトは、自動改札機や現金自動取引装置(ATM)で切符や紙幣の搬送に使用されています。

平プーリーは、鋳鉄や鋳鋼で作られているものが一般的ですが、高速で回転する場合は軽合金が用いられます。外表面は平らな「F形」と中央が高い(C形)があります。C形は、矩形断面の腰の強いベルトを使うことで、ベルトがプーリーから外れるトラブルを防ぐことができます。

また、平ベルトと平プーリーは、ベルトとプーリーの摩擦力を利用した伝達であるため、接触角(巻き掛け角)が最大になるようにして設置します。

平ベルト
A: 接触角

Vベルト

断面が台形のベルトです。VベルトをV型の溝を持った「Vプーリー」に巻き掛けて動力を伝達します。V溝側面の接触摩擦を利用するため平ベルトと平プーリーの伝達に比べて接触面積が大きいという特徴があります。また、プーリーへのベルトの食い込みもしっかりしており接触圧力も高く、すべりが少ない高い伝達効率が利点です。ただし、巻き掛けはオープンベルト(平行掛け)が基本です。

VベルトとVプーリー
VベルトとVプーリー
  1. A: Vベルト
  2. B: Vプーリー

Vベルトの素材は合成ゴムが一般的で、特殊なゴムを配合することで、耐摩耗性・耐油性・耐熱性・耐屈曲性などを高めることができます。

Vベルトは小さい負荷から大きな負荷まで対応でき、AV機器などの家電製品から工作機器、自動二輪車や自動車まで幅広い分野で利用されています。一般的なVベルトとしては、以下の6種類が挙げられます。

Vベルトの種類
種類(形) bt
(mm)
h
(mm)
αb
(deg.)
引張強さ
(kN)
M 10.0 5.5 40.0 1.2以上
A 12.5 9.0 2.4以上
B 16.5 11.0 3.5以上
C 22.0 14.0 5.9以上
D 31.5 19.0 10.8以上
E 38.0 24.0 14.7以上
  • bt:上辺の幅
  • h:厚み
  • αb:ベルトのV角度

Vプーリーは、炭素鋼や鋳鉄で作られているものが一般的ですが、高速で回転する場合はアルミニウム合金が用いられます。

1本掛け用や複数本のVベルトを掛けるタイプがあり、1本では伝動力が不足である場合は複数V溝を設けたVプーリーを使用します。

歯付きベルト

平ベルトの内側に、「リブ」といわれる歯を付けたベルトです。歯車のような「歯付きプーリー」に巻き掛けて動力を伝達します。ベルトとプーリーの歯が噛み合っているため、長時間安定した正確な伝達が可能です。小型・軽量で低騒音という特長があります。ただし、巻き掛けはオープンベルト(平行掛け)が基本です。

歯付きベルトと歯付きプーリー
歯付きベルトと歯付きプーリー
  1. A: 歯付きベルト
  2. B: 歯付きプーリー

歯付きベルトは、プリンタなどの精密機器の位置決めが必要な部分や、自動車の点火やバルブの開閉などが適切なタイミングで動作するようにクランクシャフトカムシャフトの回転周期を一致させるタイミングベルト(カムベルト)などに利用されています。

歯付きベルトの使用例
歯付きベルトの使用例
  1. A: カムシャフト
  2. B: クランクシャフト
  3. C: タイミングベルト

一般的な歯付きベルトとしては、断面形状によって、以下の5種類が規格化されており、ピッチ(P)が大きくなるほど伝達能力が大きくなります。

歯付きベルトの種類
記号 種類
XL L H XH XXH
P(mm) 5.080 9.525 12.700 22.225 31.750
2β(°) 50.000 40.000 40.000 40.000 40.000
S(mm) 2.570 4.650 6.120 12.570 19.050
ht(mm) 1.270 1.910 2.290 6.350 9.530
hs(mm) 2.300 3.600 4.300 11.200 15.700
γr(mm) 0.380 0.510 1.020 1.570 2.290
γa(mm) 0.380 0.510 1.020 1.190 1.520
  • P:ピッチ
  • 2β:歯の角度
  • S:歯幅
  • ht:歯の高さ
  • hs:ベルトの厚み(歯を含む)
  • γr:歯元のR径
  • γa:歯先のR径

ローラチェーン

「ローラチェーン」は、「外リンク」と「内リンク」という2種類を交互に組み合わせて連結したチェーンです。外リンクは2枚の「外プレート」と2本の「ピン」を圧入して結合します。内リンクは2枚の「内プレート」と2個の「ブッシュ」で「ローラ」を挟んだ構造をしています。

各パーツは、チェーンに荷重がかかったときに発生する複雑な力を受ける部品です。特にローラはスプロケットを噛み込んだ際に発生する衝撃荷重と圧縮荷重・摩擦力を受ける部品です。そのため、耐衝撃性・圧縮性・摩耗性を備えた特殊鋼が使用されています。また、より大きな力を伝えたりチェーンの強度が必要な場合は、ローラチェーンを2列・3列と並べた「多列ローラチェーン」が用いられます。

スプロケットにはJIS規格によるS歯形とU歯形がありますが、多くはS歯形が用いられています。

ローラチェーンの用途は幅広く、自動車や自動二輪車・自転車をはじめ、さまざまな作業機器で利用されています。

ローラチェーン
ローラチェーン
2列のローラチェーン
2列のローラチェーン
  1. A: 内リンク
  2. B: 内プレート
  3. C: プッシュ
  4. D: ピン
  5. E: 外プレート
  6. F: 外リンク(リベット形)

サイレントチェーン

サイレントチェーンは、ローラチェーンの静粛性を高めたチェーンです。

歯車のインボリュート曲線などを研究し、リンクの形状の工夫により、各リンクの両端の斜面が常にスプロケットに密着することを実現。これにより、ローラチェーンに比べて高い静粛性と小型化を実現しました。

主な用途としては、自動車や自動二輪車のカムチェーンで、カムシャフトの駆動をギヤによる駆動(カムギヤトレイン)からチェーン駆動に変更し、エンジンの重量を大幅に軽減した例もあります。

サイレントチェーン

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