静電気の測定

静電気対策を講じるためにはまず、静電気の有無を見極める必要があります。静電気を「見つける」ことがスタートになるわけです。しかしやっかいなことに、静電気自体は目に見えません。
シートが貼り付いているとかほこりが付いているとか、目に見えるトラブルが起きている場所があれば、そこに静電気があると考えることができます。また、専用の測定器を用いれば、目に見えるトラブルが起きていない場所の静電気も見つけることができます。測定器を使うと調べたい場所の静電気の量がわかります。
まずは測定器について紹介します。

静電気測定器とは

静電気を調べるには静電気測定器という専用の測定器を使います。静電気測定器は測定したいものに向けるだけで、静電気の量を簡単に測定することができます。

センサ部を対象物に向けるだけで測定します

測定器の種類

静電気を測定する機器は正式に、「表面電位計」、または「静電電位測定器」と呼びます。
下の図はその一例です。左の例は基板の静電気を測定しています。基板に測定器を向けるだけで静電気の量を測定することができます。
製造現場での静電気測定では、製造ラインの複数の場所を測定したい場合や、特定の場所を継続的に測定・記録したい場合など、さまざまなニーズがあります。静電気測定器にも、それぞれの用途に応じた多様なタイプがあるため、目的や条件に応じた測定器の選定が重要です。

ハンディ型静電気測定器
手で持ってどこでも測定できる
手で持ってどこでも測定できる
ライン設置型静電気測定器
ライン据え置きで測定
ライン据え置きで測定

静電気の大きさ・単位

静電気の大きさを測る”ものさし”は何でしょう。それは「電圧」です。静電気の大小は、電圧の大小で表されます。
静電気測定器を使ってあるものを測ったとします。製品Aは100 Vでした。製品Bは500 Vでした。この場合、電圧が高い製品Bの方が静電気の量が多く、たくさん帯電しているということになります。電圧が大きければ帯電は大きい、電圧が小さければ帯電は小さいと判断できます。

測定器には、このように電圧が表示され、静電気の大きさがわかります。
  1. A:測定器には、このように電圧が表示され、静電気の大きさがわかります。

表面電位計を使う場合の注意点

使用する上でのコツと測定環境に関する注意点の2つがあります。

測定上の注意点
初期調整時と測定時で、測定距離や被測定対象の大きさが異なる場合、正しい測定値を得ることができません。
  • 距離依存性
    被測定対象までの距離で測定器に届く電気力線の本数が変わります。したがって、距離が調整時の基準距離よりも離れると測定値は小さく、近いと大きくなります。
  • 被測定対象の大きさ依存性
    被測定対象が無限に大きいものとして換算している測定器が多いです。測定センサーの検出範囲よりも十分に被測定対象物が大きければ正しい測定値を示しますが、小さいと測定値は小さい値を示します。(図5)
図5 被測定対象物の大きさ依存性
図5 被測定対象物の大きさ依存性
図5 被測定対象物の大きさ依存性
測定環境に関する注意点
表面電位の測定で注意しなければならないのは、金属板に貼り付いたフィルムや、フィルムを間に挟んだ金属板を測定する場合です。この場合は帯電していても電位は0Vに近い値を示します。図6に樹脂フィルムを挟んだ金属板の例を示します。金属板は帯電していますが、接地した金属側に誘導電荷が現れ、外からはそれに相殺されて帯電していないように見えます。そのため、被測定対象が接地された金属に張り付いている場合は、注意が必要です。
図6 樹脂フィルムを挟んだ金属板の例
図6 樹脂フィルムを挟んだ金属板の例

距離依存性の小さい計測方法

電圧フィードバック型表面電位計

表面電位計は電位ではなく電界強度を検出しているため、距離依存性があります。電圧フィードバック型表面電位計では、表面電位計と同様の表面電位センサーに電位を与え、センサーの出力がゼロ、すなわち表面電位センサーが検出する電界強度がゼロとなるように高電圧電源の出力電圧を調節します。表面電位センサーが検出する電界強度がゼロとなるときは、被測定対象の電圧とセンサーの電圧が一致しているときです。つまり高電圧電源の出力電圧が被測定対象の電圧となります。図8に電圧フィードバック型表面電位計の構成例を示します。

図8 電圧フィードバック型表面電位計の構成例
図8 電圧フィードバック型表面電位計の構成例

電圧フィードバック型表面電位計は距離依存性が小さいというメリットがありますが、測定できる電圧範囲は高電圧電源が出力できる電圧範囲で制限されます。
しかし、高電圧電源の出力電圧を制御し、その出力電圧と表面電位計の出力値から被測定対象の表面電位を測定するものもあります。このタイプで測定できる電圧範囲は高電圧電源の出力電圧範囲に制限されず、より広い電圧範囲を測定できます。

その他の測定方法

静電気の測定方法は、先に紹介した表面電位測定器を使った方法以外にも、以下の3つの方法があります。

  1. 箔検電器
  2. クーロンメータ(電流積分法)
  3. ファラデーケージ法

1. 箔検電器

帯電物に近づけて帯電しているかどうかを調べることができます。
図1に箔検電器の概要を示します。上部に金属電極があり、それにつながった金属棒がガラス瓶の内部に入っています。そして金属棒の先端には金属の箔が付いています。
金属電極に帯電物を近づけると、静電誘導によって電極には帯電物と逆極性の電荷が誘導されます。金属箔側には帯電物と同じ極性の電荷が現れます。箔同士の電荷は同じ極性なので、電荷同士に働く力(クーロン力)で反発して箔が広がります。帯電物の帯電が強いほど、箔は大きく広がります。帯電物を遠ざけると電荷の誘導は無くなるので箔は閉じます。電源が不要なので手軽に使用できます。しかし、重力の向きの影響を受ける、帯電の極性が検電器単体では分からない、帯電の強さが数値化できない、といった理由で生産現場ではあまり使われません。

図1 箔検電器の原理図とイメージ
図1 箔検電器の原理図とイメージ
図1 箔検電器の原理図とイメージ

2. クーロンメータ(電流積分法)

クーロンメータは、プローブを帯電物に接触し電荷量を測定します。テスターに似ています。但し、普通のテスターでは測定できない、非常に微小な電流(電荷)を測定できます。図2にクーロンメータの概要を示します。クーロンメータで電荷量を測定する場合は、帯電物が導体のように電荷が移動できる物質でなければ測定できません。また帯電物は測定によって電荷を失うので、一つのサンプルに対して一度限りの測定です。これらの理由からあまり使われません。表面電位計では測定が困難な、小さなデバイスの帯電量を測定するときに使用します。

図2 クーロンメータの測定原理

帯電物の電荷を測定用コンデンサCmに
移動させてVmを測定する。

図2 クーロンメータの測定原理

3. ファラデーケージ法

クーロンメータと同じように帯電した電荷量を測定します。測定の際に電荷を失うことなく電荷量を測定できます。
ファラデーケージ法はその名の通り、ファラデーケージと呼ばれる容器を使って電荷量を測定する方法です。
図3にファラデーケージ法の原理図を示します。完全に絶縁された内側電極と接地された外側電極があります。内側電極の内部に帯電物を入れると、帯電物の帯電の大きさに応じて内側電極に電荷が誘導されます。外側電極は接地されています。内側電極と外側電極の電位差Vmを測定することで帯電物の電荷量が求まります。
ファラデーケージ法は帯電した電荷を正確に測定できますが、ケージの中に入るものしか測定できません。したがって製造現場では、簡便に測定することができる表面電位計を用いることが多いです。

図3 ファラデーケージの測定原理
図3 ファラデーケージの測定原理

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